穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました

よーこ

文字の大きさ
3 / 8

3

しおりを挟む
 家格の問題と領地の政治的な関係性により、ヴィルバルト様の方からわたくしへ婚約解消を願い出ることは難しい。わたくしを蔑ろにするような態度を少しでも取れば、お父様が怒り狂うからだ。悪くすれば、今後二度とベッケル子爵家との取引を行わないなどという暴挙にでかねない。

 それはだめだ。
 なぜなら、わたくしはヴィルバルト様に幸せになって欲しくて婚約を解消しようとしているのだから。

 あの人は本当なら、わたくしとの婚約など今すぐ白紙に戻し、愛するキャリリン嬢と結ばれたいに違いない。けれども、領地のこと考えると、そんな我儘は決して言えない立場にある。
 彼の行動一つで、わたくしの父の怒りを買い、家を没落させることになりかねないからだ。

 となると、悪いのはわたくしでなければならない。わたくしが原因で婚約を解消するに至った、という形にしなければならない。

 ではどうすればいいのかというと、なかなかいい案が浮かばない。それで結局、サロンで一緒にお茶をするいつもの仲間たちに相談することにしたのだった。

 わたくしの考えを聞いた三人は、三人三様に納得できない顔をしている。

「なぜ好きな男を、しかも、婚約者であるそなたの方が諦めねばならんのだ?!」
「 エレオノーラ、あなたは我慢をしすぎだわ。もっと我儘になっていいのよ」
「あいつ、自分が方が浮気しているくせに、エレオノーラに悲しい想いだけさせて、自分は浮気相手と幸せになるつもりか。男の屑だな! あーっ、くそ、腹が立つ!!!」

 順番にハインツ殿下、アリア様、ラファリック殿下のお言葉。
 皆わたくしを責めているようではあるけれど、内容はとても優しいモノばかり。おかげでわたくしの心がほっこりと温まった。
 本当に、わたくしには勿体ないほどの、素晴らしい幼馴染ばかりだと思う。

 さておき、どうすれば上手く婚約を解消できるかを、改めて三人に問いかけた。
 アリア様が大きなため気をつくと、美しい白魚のような手をわたくしの手の上に重ねてくれた。

「本気なのね?」
「はい」
「だったら話は簡単よ。エレオノーラ、あなたラファリック殿下のこと嫌いじゃないわね?」
「勿論です」
「だったら、殿下と婚約なさいな」
「???」

 意味が分からず首を傾げたわたくしに、アリア様が説明して下さったことによると。
 
 こういうあらすじにするのだそうだ。

 婚約者がいる身でありながら、わたくしがラファリック殿下に恋をしてしまう。思い余って告白してみたら、殿下も昔からずっとわたくしを想って下さっていたとのこと。だから申し訳ないと思いつつ、ヴィルバルト様に婚約の解消を申し込む。
 とはいえ全てわたくしの我儘だから、ヴィルバルト様には断る権利がある。しかし、ヴィルバルト様は快く婚約解消を受けてくれることになる。なぜなら、わたくしが今回のことを言い出すまでは生涯胸に秘めているつもりだったが、実はヴィルバルト様にも愛する方がいたからだ。
 お互いが望んだ上での円満解消ということで、違約金や慰謝料が発生しなくてもおかしくない。
 めでたしめでたし。

「こういう流れを取れば、今後もアクス侯爵家とベッケル子爵家の仲が拗れることはないわ。だから安心していいと説明すれば、ベッケル子爵令息殿も大喜びで婚約解消の話にのってくるでしょう?」
「確かにそうですわね!」

 アリア様のたてた計画が完璧すぎて、わたくしは感嘆するしかない。
 ヴィルバルト様にキャリリン嬢とのことを知っていると伝え、この計画を話せば、きっと涙ながらに喜ぶことだろう。後は二人でもっと綿密に話を示し合わせて、両家の親を説得すればいいだけだ。

 わたくしは失恋してしまうけれど、それでもかまわない。だって、大好きなヴィルバルト様が幸せになれるのだから。辛いけれど我慢できる。

 とそこで、ハッとなった。首をブンと動かしてラファリック殿下を見た。そして、次にアリア様を見る。

「ダ、ダメですわ、アリア様。この計画ではラファリック殿下がわたくしと婚約しなければならなくなります。そんな申し訳ないことできません。先ほどの計画は実行不可能ですわ!」

 ションボリと項垂れるわたくしに声をかけてくれたのは、少し楽し気な様子のハインツ殿下だ。

「大丈夫だ、エレオノーラ。その件については気にする必要はない」
「え、でも、そんな申し訳ないこと、ラファリック殿下にお願いできません」
「ならば、本人に直接尋ねてみるがよかろう。ラファリックが嫌だというのなら、計画は練り直しだ」

 ハインツ殿下の言葉に、わたくしはラファリック殿下に視線を向けた。勝手にわたくしと婚約だなんて話をされて、きっと気分を害しているに違いない。
 そう思い、伺うように殿下を見たわたくしは、そこで意外なものを目にして驚いてしまった。

 いつも男らしく堂々を胸を張っているラファリック殿下が、なぜか顔を真っ赤に染めて、額に手を当てて俯いていたからだ。

「まあ、殿下! 大丈夫ですか?! お顔が真っ赤でしてよ? ……ああ、やはりそうですわよね。わたくしとの婚約が嫌でご気分が――」
「え、あっ、いや、違う!」
「いいんですよ、本当にことをおっしゃっても。当然のことなのですから」
「本当に違うのだ! それより、婚約の件は問題ない。了承する」
「え?! そそそ、そんな、ダメですわ! そんな短絡的にお決めになってはいけません。殿下がお優しいことは存じておりますけれど、でも、今回ばかりはいけません。よくお考えになって下さいませ。だって、このままだと、わたくしと夫婦になってしまうんですのよ?!」
「だから、問題ないと言っている。ついでだから言ってしまうが、俺は昔からエレオノーラが好きなんだ。だから、どんな理由であれ、エレオノーラと婚約できるのならば、俺にとっては喜びでしかない」

 そう言い切ると、さっきまで以上に赤くなったラファリック殿下は、テーブルに肘をついて顔を隠すように伏せてしまった。
 それを見て、ハインツ殿下とアリア様が楽しそうに教えてくれたことによると。

 ラファリック殿下は幼い頃からわたくしに好意を持っていて、結婚するならわたくし以外は絶対に嫌だと、陛下にそう言い張っているらしい。少なくとも、わたくしが結婚するまでは諦めるつもりはないらしく、だからいまだに婚約者がいないのだそうだ。

 わたくしはなにも知らなった。

 ラファリック殿下はわたくしより一才年下。確かに幼い頃から懐いてくれているな、とは思っていた。けれど、まさか恋されてるなんて、考えてみたこともなかった。

 しかし、そうなってくると、やはり殿下と婚約するわけにはいかない。好意を盾に取ってお願い事をするなど、決して許されることではない。しかも、婚約だなんて。

 だからそう伝えると、ラファリック殿下はこう言ってくれた。

「さっきも言ったが、エレオノーラとの婚約は俺にとっては喜びでしかない。今はまだベッケルに好意を持っていることは分かっている。でも、必ず俺を好きにならせてみせる。そうなるよう渾身の努力する。エレオノーラはきっと俺を好きになる。だから、なにも心配しなくていいんだ」
「……で、殿下……」

 ラファリック殿下の器の大きさ、その内にある強くて温かくて優しい愛を知り、わたくしの胸がドキンと大きく波打った。自然と涙が込み上げてしまう。

「ありがとうございます。では殿下、ヴィルバルト様との婚約が解消したあかつきには、ぜひともよろしくお願い致します」
「ああ、任せておけ」

 殿下はとても嬉しそうに朗らかに笑った。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約者を寝取った妹に……

tartan321
恋愛
タイトル通りです。復讐劇です。明日完結します。

「真実の愛と出会ったから」と王子に婚約を解消されましたが、私も今の夫と出会えたので幸せです!

kieiku
恋愛
「メルディこそが我が真実の相手。私とメルディは運命で結ばれた、決して離れられない二人なのだ」 「は、はあ」 これは処置なしです。私は婚約解消を受け入れて、気持ちを切り替え愛しい今の夫と結婚しました。

わたしに冗談なんて通じません。だから二度と婚約者面なんてしないでくださいね

うさこ
恋愛
特殊な騎士の家で育った私には婚約者がいた。 今思えば、彼は私に好きになれと強要していた。 そんな私は婚約破棄を言い渡されーー ※ざまぁです

処理中です...