11 / 82
第6話(1)
しおりを挟む
武器が必要だ、とアレクサンドラは開き直るように考えた。
反対を受けているからといって常に引き下がるのでは何も成し遂げられない、それは相手の顔色を見て行動を決めているのと同じであって、老夫婦から学んだことにも反すると彼女は解釈した。
約束を撤回するという選択を取るわけにはいかない、それは公証長というよりは、アレクサンドラ自身の敗北であった。
やらなければならないことは、やらなければならない。
そして、そのためには公証長の地位だけでは足りず、新たな武器が必要だ。
武器と言っても、巻き戻る前のような苛烈さをもはや使うつもりはない。
激しい気性が彼女の中から全く失われたわけではなかったが、それが兆すと必ず恐怖の思い出がその上に覆い被さり、表に出て来ることはなかったし、命を持って代償を払った身としては、もう二度と頭ごなしに叱責するようなことはしたくなかった。
しかし相手の主張を聞き、それに対応するというのを漫然と繰り返すだけでは、何一つ物事が進まない場合もあるということを、窓口設置の検討の中で痛感させられた。
最初に手続の見直しを言い出した際には、父伯爵の力添えを受けたが、公証長となった今、再度それに頼るのは責任放棄である気がした。
独力で進めるには武器がいる、彼女はそれを毅然とした意思表示に置くことにした。
打ち合わせは引き続き行うものの、もはや皆で検討するのではなく、意見を聞くだけの場にしてもいいかもしれない、とアレクサンドラは思案する。
出席者にどうすれば実現可能かという視点が欠けている、ならば検討させるだけ時間の浪費ではないかと、彼女の武装は厚くなっていく。
「何を言うかではなく誰が言うか」という老夫婦の教えはどうなのか、という自問は、どんな定理でも時には修正されるべきこともある、臨機応変の実現だ、そのように自身を納得させた。
直後に開いた打ち合わせには、これならば隙はないだろうというところまで、理論と実際とを掛け合わせた制度の案を一気に提出した。
窓口には、認証の申請の受付、申請書の形式的な審査、手数料の徴収、帝都にある本所への送付、結果証の交付までを任せる。
紙上の記載漏れや添えるべき書類の不足だけを確認するならば大分負担が軽減される。
設置場所は、領地であるオルトと、帝都に次ぐ第2の都市メルジューンの2か所。
オルトに設置するのに、メルジューンに置かないのは利用見込み数を考えると不合理なため、メルジューンを加えた。
ただし他貴族領であるため、交渉は公証長が行う。
最大の懸念である職員については、不足分は採用する、給料などの条件は在職者を含めて引き上げる。
最初は、経験豊かな職員を窓口に配属するが、軌道に乗ったところで新しく、最終的には現地で採用した者を宛てる。
「大枠はこのように。細部は速やかに設計しますが、この段階で意見はあるかしら」
公証長の涼やかな、しかし有無を言わせないと響く口調に、構成員は密かに目配せをし合ったが、手を挙げる者はいなかった。
反対を受けているからといって常に引き下がるのでは何も成し遂げられない、それは相手の顔色を見て行動を決めているのと同じであって、老夫婦から学んだことにも反すると彼女は解釈した。
約束を撤回するという選択を取るわけにはいかない、それは公証長というよりは、アレクサンドラ自身の敗北であった。
やらなければならないことは、やらなければならない。
そして、そのためには公証長の地位だけでは足りず、新たな武器が必要だ。
武器と言っても、巻き戻る前のような苛烈さをもはや使うつもりはない。
激しい気性が彼女の中から全く失われたわけではなかったが、それが兆すと必ず恐怖の思い出がその上に覆い被さり、表に出て来ることはなかったし、命を持って代償を払った身としては、もう二度と頭ごなしに叱責するようなことはしたくなかった。
しかし相手の主張を聞き、それに対応するというのを漫然と繰り返すだけでは、何一つ物事が進まない場合もあるということを、窓口設置の検討の中で痛感させられた。
最初に手続の見直しを言い出した際には、父伯爵の力添えを受けたが、公証長となった今、再度それに頼るのは責任放棄である気がした。
独力で進めるには武器がいる、彼女はそれを毅然とした意思表示に置くことにした。
打ち合わせは引き続き行うものの、もはや皆で検討するのではなく、意見を聞くだけの場にしてもいいかもしれない、とアレクサンドラは思案する。
出席者にどうすれば実現可能かという視点が欠けている、ならば検討させるだけ時間の浪費ではないかと、彼女の武装は厚くなっていく。
「何を言うかではなく誰が言うか」という老夫婦の教えはどうなのか、という自問は、どんな定理でも時には修正されるべきこともある、臨機応変の実現だ、そのように自身を納得させた。
直後に開いた打ち合わせには、これならば隙はないだろうというところまで、理論と実際とを掛け合わせた制度の案を一気に提出した。
窓口には、認証の申請の受付、申請書の形式的な審査、手数料の徴収、帝都にある本所への送付、結果証の交付までを任せる。
紙上の記載漏れや添えるべき書類の不足だけを確認するならば大分負担が軽減される。
設置場所は、領地であるオルトと、帝都に次ぐ第2の都市メルジューンの2か所。
オルトに設置するのに、メルジューンに置かないのは利用見込み数を考えると不合理なため、メルジューンを加えた。
ただし他貴族領であるため、交渉は公証長が行う。
最大の懸念である職員については、不足分は採用する、給料などの条件は在職者を含めて引き上げる。
最初は、経験豊かな職員を窓口に配属するが、軌道に乗ったところで新しく、最終的には現地で採用した者を宛てる。
「大枠はこのように。細部は速やかに設計しますが、この段階で意見はあるかしら」
公証長の涼やかな、しかし有無を言わせないと響く口調に、構成員は密かに目配せをし合ったが、手を挙げる者はいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです
春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。
ここは通過点のはずだった。
誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。
触れない客。
身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。
「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」
突然の身請け話。
値札のついた自分と向き合う三日間。
選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、
通過点は終わりになる。
これは救いではなく対等な恋の話。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
【魔女と蔑まれた私。実は神託の聖女でした?-命を弄ぶ回復魔法使いと蔑まれた私の物語-】
はくら(仮名)
恋愛
・本作は別名義で『小説家になろう』にも掲載しています。
・早めに終わります。
【 レアフ伯爵家の令嬢ユキアは回復魔法が得意だったが、義父家族からは命を弄ぶ魔女として蔑まれてしまう。
しかし実はユキアは女神の神託を受けた『運命の聖女』であり、そのことを知った王太子が彼女の元を訪れる――】
君は恋人、でもまだ家族じゃない
山田森湖
恋愛
あらすじ
同棲して3年。
毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、
一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。
彼女は彼を愛している。
彼も自分を愛してくれていると信じている。
それでも、胸の奥には消えない不安がある。
「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」
結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。
最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。
周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。
幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には
“言えない言葉”だけが増えていく。
愛している。
でも、それだけでは前に進めない。
同棲という甘い日常の裏で、
少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。
このまま時間に流されるだけの恋なのか、
それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。
彼の寝息を聞きながら、
彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
幼馴染の許嫁は、男勝りな彼女にご執心らしい
和泉鷹央
恋愛
王国でも指折りの名家の跡取り息子にして、高名な剣士がコンスタンスの幼馴染であり許嫁。
そんな彼は数代前に没落した実家にはなかなか戻らず、地元では遊び人として名高くてコンスタンスを困らせていた。
「クレイ様はまたお戻りにならないのですか……」
「ごめんなさいね、コンスタンス。クレイが結婚の時期を遅くさせてしまって」
「いいえおば様。でも、クレイ様……他に好きな方がおられるようですが?」
「えっ……!?」
「どうやら、色町で有名な踊り子と恋をしているようなんです」
しかし、彼はそんな噂はあり得ないと叫び、相手の男勝りな踊り子も否定する。
でも、コンスタンスは見てしまった。
朝方、二人が仲睦まじくホテルから出てくる姿を……
他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる