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第8話(3)
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ニコライが王宮から戻ると、アレクサンドラはもう帰宅したという報告を受けた。
Q伯爵夫人のサロンは、真夜中を過ぎても終わりが見えないことも多いという評判であったため意外に思いながら衣装を変えていると、それを手伝っている執事が、「非常にお疲れのご様子でした」、と控えめに呟いた。
知らない者達の中に混ざって、さすがに気疲れしたのかと心配になり、「既に休んでいらっしゃるか」と尋ねると、部屋の明かりはまだ消えていないようだと言う。
まさか、公証の考え事に耽っているのではないだろうかとニコライは疑問を持った。
最近の妻は、振る舞いに張りがなくなって来たとは感じていたところだった。
ニコライが結婚を申し込む段階で、既に彼女は若い身にも関わらず、補佐として事実上重い責任を負っていた。
公証の権能をオルロフに残すという大事を無事に乗り越えられても、それは変わらないどころか、公証長に就任してさらに重量を増した。
信頼回復を図るため、また以前はにかみながら言っていた
(帝都以外にも公証の窓口を作りたい)
という希望を叶えるために、その溢れんばかりの知力を巧みに扱い、卒なく事を進めているのだろうと思い、我が妻ならばじきに目標を達成できるに違いないと頼もしさを感じた。
家庭で仕事の話を一切しない妻が、夫としては少しばかり寂しく、せめて愚痴でもあるならば話して心を和らげて欲しいと思うが、他方でそのような軟弱が生まれないほどに完璧な采配を振るえているのならば喜ばしいことだった。
ニコライとしては、仕事完成についての心配ではなく、単に妻の身に起こっていることは何でも知りたいというだけなのだが、貴族の令嬢として実に淑やかに躾けられたアレクサンドラは、少なくともニコライに対しては、考えや感情をあからさまにするようなことはなかった。
諸国でよくありがちな、結婚すると突如として配偶者が別な者に見えるというようなことはなく、妻はザハーリン公爵夫人となっても変わったとは思われず、ニコライとしては自分の目に狂いはなかったと満足を覚えるものの、まだ本当の意味での夫婦になれていないのではないかという懸念も僅かに感じられた。
まあ考えても仕方ない、とニコライは妻の私室へと足を運んだ。
アレクサンドラがいくら能力がある者だとしても、今夜はさぞ疲れたに違いない。
根を詰めていないで、早く休んだ方が良い、そう伝えるためにドアをノックしたが返答がない。
メイドも誰も控えていないのか、とノブを回して開けると、机にうつ伏した背中を包むように、結わずに流したプラチナブロンドが降りていた。
室内の灯りは机上の燭台のみであり、そこから降りた光が髪に得も言われぬ輝きを静かにもたらしている。
寝支度はしているので、ニコライが帰るまで待つという妻の作法を守り、時間潰しに公証の仕事でもしようと思ったところが眠ってしまったというところだろう、とニコライは微笑みを禁じ得なかった。
Q伯爵夫人のサロンは、真夜中を過ぎても終わりが見えないことも多いという評判であったため意外に思いながら衣装を変えていると、それを手伝っている執事が、「非常にお疲れのご様子でした」、と控えめに呟いた。
知らない者達の中に混ざって、さすがに気疲れしたのかと心配になり、「既に休んでいらっしゃるか」と尋ねると、部屋の明かりはまだ消えていないようだと言う。
まさか、公証の考え事に耽っているのではないだろうかとニコライは疑問を持った。
最近の妻は、振る舞いに張りがなくなって来たとは感じていたところだった。
ニコライが結婚を申し込む段階で、既に彼女は若い身にも関わらず、補佐として事実上重い責任を負っていた。
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