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第24話(1)
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いつまでも手を拱いているわけにもいかないニコライは、とうとうM公爵のもとを訪れた。
遅いと責める言葉は一切発せず、M公爵は「で、どうだった?」と淡々と問いを発した。
「立場上、反対はできないそうだ」
ニコライも事務的に伝えると、彼は「何だ、説得できなかったのか。友達甲斐のない奴だな」と憤慨を表したが、すぐにそれを引っ込めて、
「まあ、当てにはしていなかったが。君が失敗するのは想定の範囲内だったからね。失敗したことが分かればそれで十分だ」
といつもの皮肉に戻った。
「どうするんだ、この後」
「君はもう良いよ。後は私が独力で行動すべきことだから」
「どう行動するんだ」
「君には関係ない」
「関係ないということはないだろう、もう関わったんだぞ!それに他ならぬ君のことだ、それからタチアナの!」
堪え性のないニコライがかっとなると、M公爵が「静かに!」と唇に指を立てた。
それでも、注意に素直に従うのは酷く癪に触り、ニコライは「ここまで来てお払い箱とは、あんまりな扱いじゃないか!」と絞った声量でなお怒鳴った。
M公爵は「もうあまり頼めること自体がないんだがね」と親友を眉を顰めて眺めていたが、やがて根負けしたように立ち上がり、書き物机に近寄っていった。
引き出しの鍵穴に、懐中時計に付けた鍵を宛(あて)がい、厚めの封筒を取り出した。
彼はそれをニコライに手渡しながら、「では、これ1通だけ頼んでおこう」と言った。
厳重に糊付けがされていたが封蝋はなく、裏返しても、差出人も宛先も見つからない。
「何だこれは」
「王女殿下に渡して欲しいんだ、大至急」
ニコライが勢い良く顔を上げると、M公爵はその向かい側に腰をかけた。
「Q伯爵夫人のサロンになかなかお見えにならなくてね。次にいつお目に掛かれるか分からないから、保険としてね」
「保険」
「ああ。王女殿下への通信ルートは持っているんだが、ちょっと厄介な場合があるのでね。君に渡せば確実に殿下のお手元に届くだろう」
タチアナへのルートは間違いなく侍女経由であろうが、そこに辿り着くまでに忍ぶ人目が多いのであろう。
中継の者達も絶対に信用できるとは言い難い。
中身を盗み見られたり、握り潰されたりしないためには、兄が妹に手渡すのが最も確実である。
しかし、そうすると今まではニコライには知らされず、ニコライの頭を飛び越して、手紙が送られていたということになる。
M公爵からはもちろん、タチアナからも、彼から手紙が来ているという話は聞かされたことがなかった。
もしかすると、自分が抱いている2人の姿が、実は見当違いなのではという思い始めたニコライは、封書を見つめながら呟いた。
「何が書いてあるんだ」
「それは信書の秘密というものだろう。王族が率先して破ろうとするなよ」
「君が自発的に喋れば破ったことにはならない」
「喋るか。詭弁(きべん)を振り回すんじゃない」
M公爵は冷たく言い放った後、「大至急だ、一両日中に頼む」と念を押した。
皇太子アレクセイよりは幾分もましだが、タチアナも登城してすぐに顔を見られるというわけにもいかない。
王女教育や変な茶席が立て込んでいると、ニコライといえどもそれを押し退けることはできないし、そんな無茶をしては目立って周囲の者に怪しまれる。
人払いも必要なため、とりあえず城に赴いてから、好機を探さなければ、そこまで思考を巡らしてからニコライはふと呟いた。
「君は……本気なんだな」
ニコライは「何を今更」と鼻で笑った。
遅いと責める言葉は一切発せず、M公爵は「で、どうだった?」と淡々と問いを発した。
「立場上、反対はできないそうだ」
ニコライも事務的に伝えると、彼は「何だ、説得できなかったのか。友達甲斐のない奴だな」と憤慨を表したが、すぐにそれを引っ込めて、
「まあ、当てにはしていなかったが。君が失敗するのは想定の範囲内だったからね。失敗したことが分かればそれで十分だ」
といつもの皮肉に戻った。
「どうするんだ、この後」
「君はもう良いよ。後は私が独力で行動すべきことだから」
「どう行動するんだ」
「君には関係ない」
「関係ないということはないだろう、もう関わったんだぞ!それに他ならぬ君のことだ、それからタチアナの!」
堪え性のないニコライがかっとなると、M公爵が「静かに!」と唇に指を立てた。
それでも、注意に素直に従うのは酷く癪に触り、ニコライは「ここまで来てお払い箱とは、あんまりな扱いじゃないか!」と絞った声量でなお怒鳴った。
M公爵は「もうあまり頼めること自体がないんだがね」と親友を眉を顰めて眺めていたが、やがて根負けしたように立ち上がり、書き物机に近寄っていった。
引き出しの鍵穴に、懐中時計に付けた鍵を宛(あて)がい、厚めの封筒を取り出した。
彼はそれをニコライに手渡しながら、「では、これ1通だけ頼んでおこう」と言った。
厳重に糊付けがされていたが封蝋はなく、裏返しても、差出人も宛先も見つからない。
「何だこれは」
「王女殿下に渡して欲しいんだ、大至急」
ニコライが勢い良く顔を上げると、M公爵はその向かい側に腰をかけた。
「Q伯爵夫人のサロンになかなかお見えにならなくてね。次にいつお目に掛かれるか分からないから、保険としてね」
「保険」
「ああ。王女殿下への通信ルートは持っているんだが、ちょっと厄介な場合があるのでね。君に渡せば確実に殿下のお手元に届くだろう」
タチアナへのルートは間違いなく侍女経由であろうが、そこに辿り着くまでに忍ぶ人目が多いのであろう。
中継の者達も絶対に信用できるとは言い難い。
中身を盗み見られたり、握り潰されたりしないためには、兄が妹に手渡すのが最も確実である。
しかし、そうすると今まではニコライには知らされず、ニコライの頭を飛び越して、手紙が送られていたということになる。
M公爵からはもちろん、タチアナからも、彼から手紙が来ているという話は聞かされたことがなかった。
もしかすると、自分が抱いている2人の姿が、実は見当違いなのではという思い始めたニコライは、封書を見つめながら呟いた。
「何が書いてあるんだ」
「それは信書の秘密というものだろう。王族が率先して破ろうとするなよ」
「君が自発的に喋れば破ったことにはならない」
「喋るか。詭弁(きべん)を振り回すんじゃない」
M公爵は冷たく言い放った後、「大至急だ、一両日中に頼む」と念を押した。
皇太子アレクセイよりは幾分もましだが、タチアナも登城してすぐに顔を見られるというわけにもいかない。
王女教育や変な茶席が立て込んでいると、ニコライといえどもそれを押し退けることはできないし、そんな無茶をしては目立って周囲の者に怪しまれる。
人払いも必要なため、とりあえず城に赴いてから、好機を探さなければ、そこまで思考を巡らしてからニコライはふと呟いた。
「君は……本気なんだな」
ニコライは「何を今更」と鼻で笑った。
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