立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

eggman

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脅威との邂逅編

第28章 西の拳闘士

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場面は変わり、薄暗い研究室の中、ドグマハートとゲンジの姿があった。

「最近はモンスターフォースの連中もなかなかに手強いようじゃが・・・?特に王都は守りが堅い。モンスターどももなかなか辿り着けんハズじゃが。」

ドグマハートはゲンジに問いかけた。人1人収まりそうな大きさの箱に、無数の配線が繋がれた機材を熱のこもった目つきで眺めている。
箱から伸びた配線の先には、目玉のような紋様をあしらった漆黒の十字架が繋がれている。

「心配するな。王都にはすでに同胞を潜入させてある。幸い我々エクトプラズマーは、人間どもの社会にたやすく潜入できる。さらに、現地で我々の波長に共鳴する人間が見つかれば、コイツを渡して力を分け与えることもできる。」

ゲンジの掌の上では、人魂のような炎ともガスの塊とも取れない光体が怪しく佇んでいた。時折ゆらめいてはその姿を変え、時折成すその形は躯の頭部を彷彿とさせた。これこそが彼らの力の源、エクトプラズムであった。

「すでに王都に忍ばせたエクトプラズマーが活動を開始している。軍の戦力を削ぎつつ、オーバーテクノロジーを回収できそうな機会があれば、優先的に動いているはずだ。
・・・まぁ、憎しみの強さと相まって私怨に走っているかもしれないが。」

ゲンジが、ややうんざりとした様子で、ため息をついた。

「ふむ、エクトプラズムに適合するような者たちは、まともな神経を持ち合わせてはおらんじゃろうからのう。」

ドグマハートは、狂気にも似た笑みを貼り付けて機材と戯れる自身を棚に上げて毒づいた。
機材を配線を確かめる指先の動き1つ1つから、執着が見てとれた。
ゲンジから舌打ちが漏れる。

そのとき、響くような足音と共に床が大きく揺れてたわんだ。

「ひでえ言われようだな。これだけ身を粉にして、協力してやってるのいうのにな。」

ジグロが、全身を筋肉で『武装』した巨体を揺らしながら姿を現した。返り血で真っ赤に染まり、焦げ臭い戦場の匂いを纏わせている。肩には戦利品のたっぷり入った袋をぶら下げていた。

「大漁だったぜ、ドクター・ドグマハート。『銀の歯車』が3つほどに、今回は『天使の瞳』も見つかった。魂を封じ込める力をがあるとか言ってたが、一体何に使うんだ?」

袋の中には神秘的な輝きを放つ、透き通った宝玉が入っていた。

「クク、素晴らしい戦果じゃな。これだけの『銀の歯車』があれば、『方舟(ノア)』の出力をさらに上げることができる。さらに『天使の瞳』まであるとは、申し分ない。こいつと、肉体から魂を引き剥がす力を持つ『黒き十字架』を組み合わせると、何ができると思う?」

「もったいぶらずに言え。」

ゲンジは試すようなドグマハートの物言いに、苛立ちを隠さない。

「魂の転送じゃよ。」

ジグロが目を丸くし、ひゅうと口を鳴らす。

「・・・そいつは大それた話だな。実現できるのか?誰の魂を誰に移すつもりだ?」

「決まっておろう。このワシ自身じゃ。肉体は滅びても、魂は輪廻を巡り続ける。ワシにはその摂理を曲げてでも、やらねばならぬことがある。」

「・・・時の流れに干渉するとかいう『銀の歯車』をしきりに集めていたから、若返りでも企んでいるのかと思っていたぜ。まぁ、オレに言わせりゃ人生は太く生き潰してなんぼだ。長生きには興味がねぇな。」

ジグロはまるで自分とってはどうでもいいとばかりに、笑い飛ばした。

「若返りか・・・それもまた興味深いが、クク、もっと素晴らしいことじゃよ。」

ドグマハートの興奮は満潮に近づき、両手をワナワナと、震わせながら機械仕掛けの人形のように大きく開けた口から笑いをこぼす。

「気味の悪いやつめ。まぁいい。エクトプラズムをもらった礼に仕事はしてやる。お前の目的が、人類に鉄槌を下すことにつながるなら、我々にとっても好都合だからな。」

これ以上の昂りは目にしたくないとばかりに、ゲンジが話の向きを変えた。

「そうだな。さて、王都にいるあいつは、ちゃんと働いてるかな?」

ジグロは、首を鳴らしながら歯を剥き出しにして笑みを浮かべた。

・・・

訓練後に繁華街に足を運んだ日から数日後、メタルたちに出撃命令が降った。

招集をかけたバルトスが伝える事件のあらましを、メタル、ティル、レイチェル、ジェノの4人は緊迫した面持ちで聞いていた。

「あろうことか、王都で軍の隊員が襲撃された。被害者はすでに3人。状態から見て、人間の仕業ではないが、今の所モンスターの目撃情報はない。エクトプラズマーの仕業と見て間違いないだろう。お前たち4人で調査に当たってくれ。」

「人間技じゃないって・・・被害者はどんな状態だったの?」

メタルが疑問を口にした。

「・・・全身を鋭利な刃物で斬り裂かれていた。それだけじゃ人間の仕業である可能性も捨て切れんが、さらに・・・傷跡の組織には魔力で侵された痕跡も見られた。」

「そんな、ひどい・・・!」

バルトスから手渡された被害者の写真を見た
ティルは、口元に手を当てて眉をひそめた。

「手分けして捜査にあたり、怪しい動きがあれば至急知らせて欲しい。サポート役も手配してある。」

「サポート役だと?どんな奴だ?」

訝しむジェノを制すると、バルトスは会議室の扉の外に視線を向け、そのサポート役と思しき人物に中に入るよう促した。

扉を開けて室内に入って来た人物に一同の視線が集中する。長髪をオールバックにしてまとめ、腰ほどまでの長さで三つ編みにした男性。拳法着の下だけを履き、上半身はシンプルなタンクトップ姿で、スラリとした長身に格闘家然としたしなやかな筋肉を纏っている。歳の頃は10代の後半といったところか。

男の姿を見たメタルが、驚きの声を上げた。

「レッジ!レッジじゃねえか!」

男は右手を顔の前に軽くかざすと、切長の目を細めて快活な笑みを浮かべた。太めだが整えられた眉が柔和に下がる。

「おう、メタ公やないか!久しいな。バルトスのおっさんから精鋭隊に入ったって聞いとったけど、ホンマやったんやな!」

ガンダラ西部訛りの独特の口調で、親しげにメタルに返している。

「(メタ公?メタルのことかな?なんか古き良き時代のマンガのキャラクターみたいな呼び方だな。それにバルトスさんのことも、メタルと同じように『バルトスのおっさん』って・・・⁉︎」

ティルは出会い頭から親しげな2人のやり取りを、まじまじと観察していた。

「お2人は・・・知り合いなんですか?」

レイチェルが、恐る恐るといった口調ながらも、まっすぐに挙手して尋ねた。

「レッジは、まぁ・・・オレの兄弟子かな?バルトスのおっさんのとこで修行してたころのさ。」

『バルトスのおっさん』という呼び方は、元々レッジが厚かましくも親しみを込めて使っていた呼び方だったのだが、後から弟子入りしたメタルもそれを真似するうちに、染み付いて今でも抜けなくなってしまったのだった。

「懐かしいな、メタ公。オレとバルトスのおっさんが、お前の住んでた村の近くで魔獣を退治したとき、それを見たお前が、『絶対自分も弟子にして欲しい。』って言って聞かんかったもんな。半べそでテコでも動かんって、感じで・・・」

「い、いいじゃん、今はそんな話はさ。」

仲間の前で昔話を赤裸々に語られそうになり、メタルが頬を赤くしながら慌てて止めた。
メタルの脳裏に、2人に出会ったときのことが蘇った。

・・・

メタルがバルトスとレッジに出会ったのは、父親を亡くしてから2年後、10歳のときだった。
気持ちの整理もつき、戦士としての責務を全うした父親のことを誇らしいと思えるようになり始めたころのことであった。

故郷の村の近くに魔獣が出現した際に、派遣されてきたモンスターフォース隊員が、バルトスとレッジだったのである。
突如として村を蹂躙したウェアウルフの群れに、村人たちはなす術がなかった。メタルもまた、父親から少しだけ手ほどきを受けていた剣技を頼りに、自ら鍛えた剣を手に立ち向かったが、まだ幼く、魂気を使うこともできない少年には、どうすることもできなかった。
そんなとき、颯爽と現れて魔獣を蹴散らし村を救った豪傑と、共に戦う自分よりも少し年上の少年の姿に、メタルはただ見入っていた。
平和に暮らしたい。でも、残された家族を守るためには、戦うための力がいる。
この日、メタルは戦士の道を志したのだった。

・・・

「今回の任務に参加するということは、彼も精鋭隊のメンバーなんですか?」

レイチェルの声で、メタルは追憶から引き戻された。

「そのとおりだ。グレードはお前たちと同じA級だが、精鋭隊としての経験はお前たちより長い。」

「というわけで、よろしく頼むで!」

「これが事件現場をマッピングしたものだ。これらの点は、繁華街を中心とする円の中に収まっている。つまり、賊は繁華街を根城にしている可能性がある。」

「繁華街⁉︎」

レッジの顔色が変わった。

「繁華街って言ってもけっこう広いし、他の場所にいることだってあるんじゃ?他に何か、手がかりになるようなものはないの?」

ティルの質問に対して、バルトスはまた1枚の写真を取り出した。

「現場に残されていたものだ。全ての被害者の傍に、わざわざな。」

「これは⁉︎」

写真を覗き込んだティルの目に入ったのは、まるで被害者の血を吸い上げたかのように不気味な赤で彩られた、花束だった。

「・・・サルビア、ですね。なんでこんなものが?」

「赤い花・・・『お前たちを血で染めてやる。』ってことか?」

レイチェルとメタルも首を傾げる。

「・・・いや、まさかな。いくら何でも・・・。」

ふと見ると、レッジが深刻な面持ちで考え込みながら、ぶつぶつと独りごちている。
メタルはその様子を怪訝に見つめていたが、不意にジェノが口を開いた。

「・・・『家族愛』」

一同の視線がジェノに集まる。

「え、何だそれ?」

「知らんのかメタル、サルビアの花言葉のひとつだ。」

「お前こそ何でそんなこと知ってるんだよ?っていうか花言葉が何だっていうんだ?」

深く一息つくと、ジェノはメタルの問いに答えた。

「この前入った繁華街の店で、やたら息子の話を執着するようにしていた店主がいただろう。
まぁ、流石に事件に直結してるとは思えんが、繁華街と家族の絆という言葉が、少しだけ引っかかってな。」

メタルは、いやいやまさかと鼻で笑うが、
ティルは目を丸くしながら、小さく拍手していた。

「あの後、2人で食してたんでしたね。お店の名前は、何て言いましたか?」

「確か、『割烹レイド』とかだったかな。」

メタルは、確かに食事はうまかったが、それ以上に空気がイマイチだった店の名前を口にした。
そう言えば、店の中に赤い花が飾ってあるのが、目に入ったような気がする。

そのとき、レイチェルとメタルのやり取りを聞いたレッジが、信じたくないとばかりに大きく頭を振った。波打った三つ編みがぶつかりそうになったティルが、少しのけぞった。

「ど、どうしたんだよ、レッジ?」

心配して声をかけるメタルに、レッジは青ざめた顔つきで答えた。

「その店やってるの・・・オレの親父やわ。」

不快なものが入ってくるのを拒むかのように、口を元を押さえながら、声を押し出した。
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