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脅威との邂逅編
第29章 狂気の料理人
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レッジの突然の告白に、一同は静まり返った。
自身を努めて落ち着かせるように深呼吸すると、レッジは彼の父親について語り始めた。
「親父は、若いころから料理人一筋やった。料理の腕は確かなんやが・・・それ以外は、控え目に言って・・・身勝手の極みやな。」
・・・
レイド・マクレガー。レッジの父親にして、かつては5つ星として世界に名を馳せた、超一流の料理人だった。彼の飽くなき探究心が生み出す数々のメニューの味は、派手さこそないものの、確かな調理技術に加え、異様なまでの食材見識眼に裏打ちされていた。
もっと高い技術を・・・もっとうまい食材を・・・!
彼には何の悪気もなかった。ただ、最善だと確信し、闇業者から仕入れた『希少食材』に全霊を注いだ品々を、大事な客に振舞っただけだった。
『魔獣のフルコース』。ろくに品書きに目も通さぬまま舌鼓を打ったレイドの『渾身のオモテナシ』を口にした財閥の重役は、その詳細を自慢げにつらつらと語る無頼漢(ぶらいかん)に激怒し、あらゆる情報操作を駆使して彼の店の評判を地に落とした。以降、レイドの名は、料理人界隈で鳴りを潜めることになる。
「(オレの『オモテナシ』を理解しなかった奴らを絶対に許さねえ・・・。そして、オレの技術と味を何としても後世に継がなければ、死んでも死にきれねぇ!)」
妻とも離別し、細々と1人で店を営むレイドの心は、いつしか、自分の料理を全否定した人間たちへの独善的な憎悪と、1人息子を何としても店の跡取りにすることへの執着で黒く塗りつぶされるようになった。
しかし、何が何でも息子に自分の跡を継がせたいレイドと意向と、持ち前の戦闘センスを活かし、若くしてモンスターフォースを目指したレッジの意思は真っ向から対立。行方をくらませ独学で武術を修めたレッジは、軍の養護施設に駆け込み、バルトスと出会ったのであった。
・・・
「風の噂で、今は王都の繁華街で店を出してることは聞いとったが、かれこれ5年以上も顔を合わせてないのに、オレのことを諦めてなかった上に、まさかここまでの凶行に走るとは・・・。」
「まだお前の親父さんの仕業って、決まったわけじゃないだろ?」
メタルが諌めるが、レッジは頭を振る。
「この赤い花はな、オレがいたころにも店の中に飾っとったんや。犯行現場に花を残したのは、オレへのメッセージやろう。あいつには、犯行を隠す気なんてさらさらない。・・・落ちる所まで落ちたということや。」
レッジは手にしていた真紅のサルビアの写真を、握りつぶした。
「他に当てもないことだ。まずはこの店を確かめてもらおうか。」
バルトスが促し、かくしてメタルたちは『割烹レイド』に出向くこととなった。
・・・
灯りを落とした昼の繁華街は、まるで袖裏で舞台衣装を纏う前の役者のように、華やかな活気が抑えられていた。しかし、夜ほどではないまでもなお行き交いする雑踏が、ここが人々の営みの場であるということを改めて知らしめてくる。
今、メタルの目に映る『割烹レイド』の店構えは、白昼であるにもかかわらず不穏な影を纏っているように感じられた。耐え難いほどの飢えを内に秘めながらも安息の場を装い、獲物が迷い込んで来るのをじっと待つ、狡猾で獰猛な食虫植物の姿が思い浮かぶ。
しばしうつむいた後、覚悟を決めたように店の入り口を見据えたレッジの姿を見て、メタルが静かに切り出す。
「飛び込んでみなきゃ何もわからない。小細工は無しで行こう。店主と面識があるオレとジェノと・・・レッジの3人で、相手の咄嗟の反応を探ろう。」
ジェノがメタルに視線を返して首肯する。
「即時戦闘に突入することもあるかも知れん。ティルとレイチェルは、周辺で待機、万一のときには、応援の要請と一般人の誘導を頼むで。」
レッジが抜かりなく付け加えた。
「了解です。街中でカオスフレアを見舞うわけにもいかないですし、私はいざというときの応援要請と、敵が逃亡を図ったときの追撃に備えます。」
「私は上から見張っておくね。もし必要になったら一般人の誘導も任せて。」
レイチェルは緊急用の無線機を片手に、大通りを挟んで店の向かいの路地裏へと身を潜め、ティルは羽音を立てぬようそっと身を宙かせ、雑居ビルの屋上から一帯を見下ろした。
「・・・準備はいいな?行くぞ!」
メタルが『割烹レイド』の引き戸を勢いよく滑らせた。
--果たしてそこに待ち受けていたのは、目を疑うばかりの光景だった。
店内の壁一面を所狭しと埋め尽くす写真の数々。それらは1枚ずつ、包丁を突き立てて壁に固定されていた。
「な、何だよこれ⁉︎前に来たときはこんなんじゃなかったぞ⁉︎」
あまりの異様さにメタルは理解が追いつかず、開いた口が塞がらず、これが本当に現実なのか確かめるように店内の随所に視線を走らせた。改めて見回すと、カウンターの上に生けてある真紅の花が目に入る。前回ここに来たときには気にも止めなかったが、今となってはその意味するところに背筋が凍る。
ジェノとレッジも言葉が出ずに立ち尽くしていた。さらに、一同を慄然とされたのは・・・
「この写真ってもしかして全部・・・!」
メタルは息を飲んだ。
壁に磔にされた写真の数々は、いずれも幼き日のレッジと父親のレイドが並んで映ったものだった。
「ここまでオレを連れ戻すことに執着しとったというのか⁉︎」
レッジは、今まで目を背け続けてきたレイドの狂気を突き付けられ、眉間に深い皺を刻み、拳を固く握りしめた。
「いや、それよりも・・・!」
腹の奥底から湧き起こるどろどろとした不快感をムリやり押し込むと、レッジはカウンターの向こうの厨房に視線を向けた。
厨房のさらに奥の扉の向こうからこちらまで伝わってくる、魔力の気配。こちらに存在を隠すつもりもないようだ。
ジェノの目付きも鋭くなり、いつでも魂気を手先に集中できるよう、臨戦体制をとる。
「・・・いるな。十分に警戒しろよ。」
そのとき、厨房の奥にある扉がガチャリと音を立てて開いた。
姿を現したのは・・・
真紅の花束を片手に、どす黒い邪気を纏ったレイドであった。割烹着の上から腰や肩に巻いたベルト、さらには頭のねじり鉢巻にまで何本もの包丁を差し込んでおり、その出で立ちは料理人というよりは、もはや怨念に駆られた復讐者そのものであった。
「よぉーー!!帰って来たか、息子よぉ!待ち焦がれたぜ。オレの残したメッセージ、伝わったみてえだな?お前がいつ来てもいいように、こうして店の中を整えて首を長ぁぁくして待ってたんだぜ。」
メッセージとは、襲撃現場に残した花のことを言っているのだろう。思わず本当に首が伸びたのではないかと感じるぐらいにカウンターから身を乗り出しながら、レイドは手にした花束をこちらに出し出そうとした。
「さぁ、この先親子で末永ぁぁく、店を盛り立てて行こうぜ!」
「ふざけるな、オレはお前を止めるために来たんや。」
レッジはこちらに向けられた邪悪なものを払うかのかのように腕を振り上げると、半身で腰を落として構えをとった。長年の鍛錬によって培われたことがうかがえる、隙のない構えだった。
「一連の襲撃はお前の仕業か。隠す気もないようだな。確保させてもらうぞ。」
ジェノもいつでも攻撃に移れるよう、両手の指先に気を集めた。
メタルもまた目の前で邪気を放つレイドに警戒の目を向ける。
そんな2人を見たレイドが、狐のような目を不意にギョロリと開き、歓喜の笑みを浮かべた。
「お前さんたち2人は、ついこの間ここに立ち寄ってくれたよなぁ⁉︎また来てくれたのか!久しぶりだなぁ、オレんとこに同じ客がまた来るなんてよ。なぁ、そんなにオレの料理がうまかったか?お前たちはわかってくれるのか??」
先ほどから話が噛み合っていない。元々身勝手な性分の男なのだろうが、邪悪な気に当てられたことでそれに拍車がかかっているようだ。明らかに自らの凶行を止めに来た相手に自分への理解を求め出した。レイドが常軌を逸していることは重々わかりながらも、メタルは言葉を返した。
「・・・ああ。あんたの飯は、うまかったよ。」
これは本心だった。歪んだ心の持ち主とはいえ、レイド心の底から料理に情熱を注いでいたのは、料理の味が雄弁に物語っていた。
「何を悠長なことを言っているんだ?」
ジェノが苛立ったように口を挟むが、レイドは気に留めていない様子だ。
「そうか!そうか!!やっぱ、そうだよなぁ!!!お前は話のわかるヤツだ、今からすぐにオレのフルコースを食わせてやるよ!
そうだ!レッジ、お前も支度を手伝え。オレの味と技を、じっっくり教えてやるよ!」
途端に舞い上がり、勝手にレッジまで巻き込もうとしながら厨房で支度を始めるレイドに、メタルが続けた。
「でも、あんたのやったことは見逃せない。今すぐ、仲間と手を切って投降するんだ。
・・・それに、レッジは鋼魂精鋭隊の、オレたちの仲間だ。わかってやってくれないか。」
旧友の父であり、また、1人の一流の職人でもある目の前の男に、メタルは一縷の望みをかけて語りかけた。
「そういうことや。お前のことは見過ごせん。それに、オレはとうの昔に、お前とは違う道を選んどる。」
レッジもまた、1人の戦士として使命を遂行する意思をレイドに示した。
レイドは厨房で鼻歌混じりに料理の支度を始めかけていたが、2人の言葉を聞くと、不意に手の動きを止めた。
「・・・今、何て言った?レッジが『お前の仲間』だと⁉︎『オレとは違う道を歩む』だと⁉︎⁉︎」
レイドは全身をわなわなと震わせると、包丁を思い切りまな板に突き刺した。
「レッジ、お前はオレの息子だ!オレの魂を継ぐために生まれてきたんだ、わかるか?お前はオレになるんだよ!」
「な、何てことを・・・⁉︎」
あまりの自己中心的な発言に、メタルはそれ以上言葉が出なかった。
「料理はな、オレの全てだ、魂だ!それを否定する人間は絶対に許さねぇ・・・。わかるか?己の作品を!試行錯誤の結晶を!魂そのものを拒絶される気持ちが!!痛みが!!」
明らかにレイドの身に纏う空気が変わった。
一同はいよいよ警戒を高める。レイドは己を否定した人間に対する怨嗟の念を、まるでたまりにたまった汚物を撒き散らすように吐き続けた。
「レッジよ、もう一度言うぞ。料理人となって、オレの味と技を継ぐのがお前の使命だ。それを見届けて、オレの人生という名の一皿は完成するんだ。・・・お前は、オレの究極の一皿のために必要な食材だ!」
レイドの体から地獄の劫火のような勢いで、紫苑の輝きを帯びた魔力が立ち上り、揺れ動いた調理台や棚からこぼれ落ちた食器がけたたましい音を立てて次々と砕け散った。
「来るぞ!」
ジェノ掛け声が響くと同時に、メタルとレッジも魂気を体に纏い、襲い来る狂気の料理人の刃を迎え撃つべく覚悟を決めていた。
自身を努めて落ち着かせるように深呼吸すると、レッジは彼の父親について語り始めた。
「親父は、若いころから料理人一筋やった。料理の腕は確かなんやが・・・それ以外は、控え目に言って・・・身勝手の極みやな。」
・・・
レイド・マクレガー。レッジの父親にして、かつては5つ星として世界に名を馳せた、超一流の料理人だった。彼の飽くなき探究心が生み出す数々のメニューの味は、派手さこそないものの、確かな調理技術に加え、異様なまでの食材見識眼に裏打ちされていた。
もっと高い技術を・・・もっとうまい食材を・・・!
彼には何の悪気もなかった。ただ、最善だと確信し、闇業者から仕入れた『希少食材』に全霊を注いだ品々を、大事な客に振舞っただけだった。
『魔獣のフルコース』。ろくに品書きに目も通さぬまま舌鼓を打ったレイドの『渾身のオモテナシ』を口にした財閥の重役は、その詳細を自慢げにつらつらと語る無頼漢(ぶらいかん)に激怒し、あらゆる情報操作を駆使して彼の店の評判を地に落とした。以降、レイドの名は、料理人界隈で鳴りを潜めることになる。
「(オレの『オモテナシ』を理解しなかった奴らを絶対に許さねえ・・・。そして、オレの技術と味を何としても後世に継がなければ、死んでも死にきれねぇ!)」
妻とも離別し、細々と1人で店を営むレイドの心は、いつしか、自分の料理を全否定した人間たちへの独善的な憎悪と、1人息子を何としても店の跡取りにすることへの執着で黒く塗りつぶされるようになった。
しかし、何が何でも息子に自分の跡を継がせたいレイドと意向と、持ち前の戦闘センスを活かし、若くしてモンスターフォースを目指したレッジの意思は真っ向から対立。行方をくらませ独学で武術を修めたレッジは、軍の養護施設に駆け込み、バルトスと出会ったのであった。
・・・
「風の噂で、今は王都の繁華街で店を出してることは聞いとったが、かれこれ5年以上も顔を合わせてないのに、オレのことを諦めてなかった上に、まさかここまでの凶行に走るとは・・・。」
「まだお前の親父さんの仕業って、決まったわけじゃないだろ?」
メタルが諌めるが、レッジは頭を振る。
「この赤い花はな、オレがいたころにも店の中に飾っとったんや。犯行現場に花を残したのは、オレへのメッセージやろう。あいつには、犯行を隠す気なんてさらさらない。・・・落ちる所まで落ちたということや。」
レッジは手にしていた真紅のサルビアの写真を、握りつぶした。
「他に当てもないことだ。まずはこの店を確かめてもらおうか。」
バルトスが促し、かくしてメタルたちは『割烹レイド』に出向くこととなった。
・・・
灯りを落とした昼の繁華街は、まるで袖裏で舞台衣装を纏う前の役者のように、華やかな活気が抑えられていた。しかし、夜ほどではないまでもなお行き交いする雑踏が、ここが人々の営みの場であるということを改めて知らしめてくる。
今、メタルの目に映る『割烹レイド』の店構えは、白昼であるにもかかわらず不穏な影を纏っているように感じられた。耐え難いほどの飢えを内に秘めながらも安息の場を装い、獲物が迷い込んで来るのをじっと待つ、狡猾で獰猛な食虫植物の姿が思い浮かぶ。
しばしうつむいた後、覚悟を決めたように店の入り口を見据えたレッジの姿を見て、メタルが静かに切り出す。
「飛び込んでみなきゃ何もわからない。小細工は無しで行こう。店主と面識があるオレとジェノと・・・レッジの3人で、相手の咄嗟の反応を探ろう。」
ジェノがメタルに視線を返して首肯する。
「即時戦闘に突入することもあるかも知れん。ティルとレイチェルは、周辺で待機、万一のときには、応援の要請と一般人の誘導を頼むで。」
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「了解です。街中でカオスフレアを見舞うわけにもいかないですし、私はいざというときの応援要請と、敵が逃亡を図ったときの追撃に備えます。」
「私は上から見張っておくね。もし必要になったら一般人の誘導も任せて。」
レイチェルは緊急用の無線機を片手に、大通りを挟んで店の向かいの路地裏へと身を潜め、ティルは羽音を立てぬようそっと身を宙かせ、雑居ビルの屋上から一帯を見下ろした。
「・・・準備はいいな?行くぞ!」
メタルが『割烹レイド』の引き戸を勢いよく滑らせた。
--果たしてそこに待ち受けていたのは、目を疑うばかりの光景だった。
店内の壁一面を所狭しと埋め尽くす写真の数々。それらは1枚ずつ、包丁を突き立てて壁に固定されていた。
「な、何だよこれ⁉︎前に来たときはこんなんじゃなかったぞ⁉︎」
あまりの異様さにメタルは理解が追いつかず、開いた口が塞がらず、これが本当に現実なのか確かめるように店内の随所に視線を走らせた。改めて見回すと、カウンターの上に生けてある真紅の花が目に入る。前回ここに来たときには気にも止めなかったが、今となってはその意味するところに背筋が凍る。
ジェノとレッジも言葉が出ずに立ち尽くしていた。さらに、一同を慄然とされたのは・・・
「この写真ってもしかして全部・・・!」
メタルは息を飲んだ。
壁に磔にされた写真の数々は、いずれも幼き日のレッジと父親のレイドが並んで映ったものだった。
「ここまでオレを連れ戻すことに執着しとったというのか⁉︎」
レッジは、今まで目を背け続けてきたレイドの狂気を突き付けられ、眉間に深い皺を刻み、拳を固く握りしめた。
「いや、それよりも・・・!」
腹の奥底から湧き起こるどろどろとした不快感をムリやり押し込むと、レッジはカウンターの向こうの厨房に視線を向けた。
厨房のさらに奥の扉の向こうからこちらまで伝わってくる、魔力の気配。こちらに存在を隠すつもりもないようだ。
ジェノの目付きも鋭くなり、いつでも魂気を手先に集中できるよう、臨戦体制をとる。
「・・・いるな。十分に警戒しろよ。」
そのとき、厨房の奥にある扉がガチャリと音を立てて開いた。
姿を現したのは・・・
真紅の花束を片手に、どす黒い邪気を纏ったレイドであった。割烹着の上から腰や肩に巻いたベルト、さらには頭のねじり鉢巻にまで何本もの包丁を差し込んでおり、その出で立ちは料理人というよりは、もはや怨念に駆られた復讐者そのものであった。
「よぉーー!!帰って来たか、息子よぉ!待ち焦がれたぜ。オレの残したメッセージ、伝わったみてえだな?お前がいつ来てもいいように、こうして店の中を整えて首を長ぁぁくして待ってたんだぜ。」
メッセージとは、襲撃現場に残した花のことを言っているのだろう。思わず本当に首が伸びたのではないかと感じるぐらいにカウンターから身を乗り出しながら、レイドは手にした花束をこちらに出し出そうとした。
「さぁ、この先親子で末永ぁぁく、店を盛り立てて行こうぜ!」
「ふざけるな、オレはお前を止めるために来たんや。」
レッジはこちらに向けられた邪悪なものを払うかのかのように腕を振り上げると、半身で腰を落として構えをとった。長年の鍛錬によって培われたことがうかがえる、隙のない構えだった。
「一連の襲撃はお前の仕業か。隠す気もないようだな。確保させてもらうぞ。」
ジェノもいつでも攻撃に移れるよう、両手の指先に気を集めた。
メタルもまた目の前で邪気を放つレイドに警戒の目を向ける。
そんな2人を見たレイドが、狐のような目を不意にギョロリと開き、歓喜の笑みを浮かべた。
「お前さんたち2人は、ついこの間ここに立ち寄ってくれたよなぁ⁉︎また来てくれたのか!久しぶりだなぁ、オレんとこに同じ客がまた来るなんてよ。なぁ、そんなにオレの料理がうまかったか?お前たちはわかってくれるのか??」
先ほどから話が噛み合っていない。元々身勝手な性分の男なのだろうが、邪悪な気に当てられたことでそれに拍車がかかっているようだ。明らかに自らの凶行を止めに来た相手に自分への理解を求め出した。レイドが常軌を逸していることは重々わかりながらも、メタルは言葉を返した。
「・・・ああ。あんたの飯は、うまかったよ。」
これは本心だった。歪んだ心の持ち主とはいえ、レイド心の底から料理に情熱を注いでいたのは、料理の味が雄弁に物語っていた。
「何を悠長なことを言っているんだ?」
ジェノが苛立ったように口を挟むが、レイドは気に留めていない様子だ。
「そうか!そうか!!やっぱ、そうだよなぁ!!!お前は話のわかるヤツだ、今からすぐにオレのフルコースを食わせてやるよ!
そうだ!レッジ、お前も支度を手伝え。オレの味と技を、じっっくり教えてやるよ!」
途端に舞い上がり、勝手にレッジまで巻き込もうとしながら厨房で支度を始めるレイドに、メタルが続けた。
「でも、あんたのやったことは見逃せない。今すぐ、仲間と手を切って投降するんだ。
・・・それに、レッジは鋼魂精鋭隊の、オレたちの仲間だ。わかってやってくれないか。」
旧友の父であり、また、1人の一流の職人でもある目の前の男に、メタルは一縷の望みをかけて語りかけた。
「そういうことや。お前のことは見過ごせん。それに、オレはとうの昔に、お前とは違う道を選んどる。」
レッジもまた、1人の戦士として使命を遂行する意思をレイドに示した。
レイドは厨房で鼻歌混じりに料理の支度を始めかけていたが、2人の言葉を聞くと、不意に手の動きを止めた。
「・・・今、何て言った?レッジが『お前の仲間』だと⁉︎『オレとは違う道を歩む』だと⁉︎⁉︎」
レイドは全身をわなわなと震わせると、包丁を思い切りまな板に突き刺した。
「レッジ、お前はオレの息子だ!オレの魂を継ぐために生まれてきたんだ、わかるか?お前はオレになるんだよ!」
「な、何てことを・・・⁉︎」
あまりの自己中心的な発言に、メタルはそれ以上言葉が出なかった。
「料理はな、オレの全てだ、魂だ!それを否定する人間は絶対に許さねぇ・・・。わかるか?己の作品を!試行錯誤の結晶を!魂そのものを拒絶される気持ちが!!痛みが!!」
明らかにレイドの身に纏う空気が変わった。
一同はいよいよ警戒を高める。レイドは己を否定した人間に対する怨嗟の念を、まるでたまりにたまった汚物を撒き散らすように吐き続けた。
「レッジよ、もう一度言うぞ。料理人となって、オレの味と技を継ぐのがお前の使命だ。それを見届けて、オレの人生という名の一皿は完成するんだ。・・・お前は、オレの究極の一皿のために必要な食材だ!」
レイドの体から地獄の劫火のような勢いで、紫苑の輝きを帯びた魔力が立ち上り、揺れ動いた調理台や棚からこぼれ落ちた食器がけたたましい音を立てて次々と砕け散った。
「来るぞ!」
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