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脅威との邂逅編
第32章 フィナーレ
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繁華街からは、レイドの炎を目にして逃げ出す人々が我先にと駆け出していた。そんな流れとは反対に、混乱の中心へと向かう人影があった。
「なかなか熱いことになってるみたいだけど、ここ壊されちゃ困るんだよね。」
影の主の1人は独りごちながら、束ねた髪をたなびかせ、しなやかな足取りで歩みを進めていた。
「秩序が乱れているな。可及的速やかに対応するとしようか。」
もう1人は、不敵な笑みを携えながら、ネイビーのスーツをはためかせる。背中からは、律動的で硬い靴音が響く。
・・・
繁華街の上空では、ティルが風を切りながら縦横無尽に飛び回り、飛竜ワイバーンを翻弄していた。戦いながら徐々に高度を上げ、いつしか眼下に広がる街並みはパノラマ模型のように小さくなっていた。
ワイバーンは口から魔力の塊を次々と吐いてティルを狙うが、まるで命を宿した流星のように、空に模様を描くティルをとらえることができず、苛立ったかのように咆哮を上げる。
「そんな怖い声出したってダメだよ!」
ワイバーンの鼻先をかすめるように横切りながら、魂気のクナイを眼球に投げつけた。一際大きな苦痛の声を轟かせて、ワイバーンは大きく口を開けた。
「ここだ!」
その瞬間を狙い澄まし、ティルは魂気のムチをワイバーンの口に滑り込ませ、先端を喉の奥に突き刺す。急所をとらえた。
「『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』!」
ムチを通じて魂気を一気に流し込む。体内で暴れ回る魂気の濁流に身を焼かれ、ワイバーンは全身から火花と黒煙を上げながらもだえ苦しんだ。断末魔のような咆哮を響かせるが、やがてその巨体から力が抜けると、ゆっくりと地上へと落下していった。
「やった!」
勝利を確信したティルは、力強く拳を握った。
しかし、渾身の一撃を放った反動で、思いがけないほどに息が上がっている。さらに、魂気を大量に使ったため、翼の輝きは弱まり、輪郭が薄れていた。
「ふぅ、今回の『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』、すごい威力が出たけど、あんまり高いところで使うと危ないな。」
心許ない浮力の翼で姿勢を整えながら、ティルは地上の小さな街並みを見下ろし、息を吐いた。
そのとき、地上から天を突くような閃光が伸び、少し遅れて爆発音が耳に飛び込んで来る。
「あれは魂気・・・!誰のだろう?すごい一撃だわ。」
ティルが目にしたのは、レッジが止めの一撃としてレイドに叩き込んだ、『爆裂光』であった。
同時に、先ほど仕留めたワイバーンが落下して行く先が目に入る。
「あそこって街中だよね?これ、ヤバくない⁉︎」
待ち受けるであろう惨状が目に浮かび、血の気が引く。
弱った翼をムリヤリ羽ばたかせて、慌てて急降し、ワイバーンを追いかけた。
一方、地上では、レッジの放った光弾により打ち上げられたレイドの姿を、メタルとレッジが見上げていた。
レイドは糸の切れた操り人形のように、バラバラに手足を曲げて宙を舞い、やがて重力のなすがままに落下した。力なく地上に叩きつけられると、異形の姿のまま意識を失い、虚ろな複眼でただ天を仰いでいた。
そんなレイドの姿を、メタルとレッジは何か口にすることもせず、ただ悲しげに見下ろした。
壁に貼り付けられていたものが、戦いの余波ではがれ落ちたのだろうか、レッジとレイドが親子で並んだ写真が1枚、風に吹かれて空へと消えて行った。
刹那、レイドの体の奥から再び魔力が膨れ上がる。体表が赤く明滅し、周囲の空気が熱を帯びて歪み始めた。
メタルとレッジに再び緊張が走る。
「まずい!本体は倒したけど、体に溜め込んでいた炎のエネルギーがまだ残っているんだ。このままじゃ・・・」
「大爆発や!・・・しかも、こんな街中で!」
2人は周囲を見渡した。
先刻レイドが炎を吐いたときに大部分の民衆は逃げ出していたが、それでも逃げ遅れた者たちが残っている。
さらに、少し離れたところではジェノとレイチェルがまだ魔獣と交戦している。
「なかなかのパワーとスピードだったが、ここまでだ!」
ジェノは魂気の傀儡カゲロウを3体繰り出し、サイクロプスを取り囲んで追い詰めていた。
「やっかいな粘液でしたけど、弱点の属性が分かりやすくて良かったです。」
レイチェルは、結界を解除した瞬間に氷属性の技を放ち、毒液もろとも人型スライムを凍結させていた。
2人ともあと一歩のところまで魔獣を追い詰めているがまだ決着は着いておらず、目の前の敵に集中し、こちらの様子には気がついていない。
「(ダメだ、このままじゃみんなも巻き込まれる。氷属性の剣が使えたら爆発を止められるか⁉︎・・・ダメだ、レイチェルの手がいるし、距離もある。今からじゃ間に合わない・・・!)」
メタルが打つべき一手を逡巡していると、巨大な影が逃げ惑う人だかりに向かって、空から落ちて来るのが目に入った。
「ウソやろ⁉︎」
レッジも血相を変える。
空から降る影の正体は、ティルが仕留めたワイバーンだった。
「ダメだ!浮力が・・・足りない!」
ティルがワイバーンに取り付いて、どうにか引っ張り上げようとしているが、落下が止まりそうな気配はない。
このままでは・・・!
そのとき、逃げ惑う人混みを飛び越え、1つの人影がメタルとレッジの前に現れた。
「遅くなったね。なかなか熱い戦いだったみたいだけど、後は任せときな!」
軽装のスポーツウェア姿に後ろで束ねた髪をなびかせ舞い降りたのは、レイチェルから無線で応援要請を受けていた、シェリー・ハイボールだった。
シェリーは、赤熱しながら鳴動するレイドの姿を一瞥する。
「シェリーさん!こいつは危険だ!爆発する!」
メタルが叫び、緊迫した状況を伝える。しかし、シェリーは動じる様子はなく、余裕の笑みすら浮かべていた。
「大丈夫、慌てないで。」
口角を上げると、今にもはち切れそうなほどの熱をはらんでいるレイドにゆっくりと近づき、両手をかざした。
「『無限零度(インフィニティ・ゼロ)』」
シェリーの体を覆う青白い輝きが伝播し、レイドを包み込んだ。すると、みるみるうちに赤い明滅が弱まり、歪んでいた空気が静寂を取り戻した。
「なんだ、思ってたより、全然涼しかったね。」
暴発しかけたレイドのエネルギーをすべて吸熱してなお、シェリーは表情を崩すこともなく、余力たっぷりといった雰囲気であった。
そのとき、人々の悲鳴が聞こえた。
「うわー!潰される!」
落下するワイバーンがいよいよ人混みを飲み込もうとしていた。
「ううー・・・!もう・・・ムリ!」
ワイバーンの翼をつかみ、どうにか引っ張り上げようとしているティルも、とうとう力及ばず、落下を止めることは出来なかった。
「(人々に・・・衝突する・・・!)」
メタルの脳裏に凄惨な光景がよぎった次の瞬間、ワイバーンの体はまるで見えない何かに受け止められたかのように、ピタリと宙に止まった。しがみついていたティルが、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
「『神の見えざる手(サイコキネシス)』」
鮮やかなネイビーのスーツを翻しながら、宙を舞い姿を現したのは、メイカ・バレンタインであった。
「民草は国の礎、大切な資産だ。この僕が来たからには、目減りはさせない。」
群衆を見下ろすメイカが手先を操ると、それに呼応してワイバーンの体が軽々と動き、ゆっくりと地面に降ろされた。
「詰めはまだ甘いけれど、なかなかよく頑張ったね。・・・さて、君たちの力もそんなもんじゃないだろう?いつまでそいつらと戯れているつもりかな?」
メイカはジェノとレイチェルに順に、焚き付けるような視線を送った。
現着したS級戦士の仕事ぶりに目を奪われかけていたジェノとレイチェルの顔に、負けん気が浮かび出る。
「当然だ。『インデックスバルカン』!」
ジェノはカゲロウで包囲して動きを封じたサイクロプスに、指先から魂気弾を斉射した。
弾幕を浴びたサイクロプスの断末魔が、爆音に飲み込まれた。
「今終わらせようとしてたんです。黙って見ててください。『フロスティエッジ』!」
レイチェルは口を尖らせて、杖の先から、氷の刃を放つ。人型スライムの胸の奥に見える、核と思しき肉塊を貫いた。スライムの全身に凍結が広がると、まるでガラス細工のように粉々に砕け、風の中へと散って行った。
「やるじゃん!」
「それでいい。」
シェリーとメイカが短く賛辞を送る。
昼の繁華街は再び、落ち着きを取り戻そうとしていた。
「なかなか熱いことになってるみたいだけど、ここ壊されちゃ困るんだよね。」
影の主の1人は独りごちながら、束ねた髪をたなびかせ、しなやかな足取りで歩みを進めていた。
「秩序が乱れているな。可及的速やかに対応するとしようか。」
もう1人は、不敵な笑みを携えながら、ネイビーのスーツをはためかせる。背中からは、律動的で硬い靴音が響く。
・・・
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ワイバーンは口から魔力の塊を次々と吐いてティルを狙うが、まるで命を宿した流星のように、空に模様を描くティルをとらえることができず、苛立ったかのように咆哮を上げる。
「そんな怖い声出したってダメだよ!」
ワイバーンの鼻先をかすめるように横切りながら、魂気のクナイを眼球に投げつけた。一際大きな苦痛の声を轟かせて、ワイバーンは大きく口を開けた。
「ここだ!」
その瞬間を狙い澄まし、ティルは魂気のムチをワイバーンの口に滑り込ませ、先端を喉の奥に突き刺す。急所をとらえた。
「『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』!」
ムチを通じて魂気を一気に流し込む。体内で暴れ回る魂気の濁流に身を焼かれ、ワイバーンは全身から火花と黒煙を上げながらもだえ苦しんだ。断末魔のような咆哮を響かせるが、やがてその巨体から力が抜けると、ゆっくりと地上へと落下していった。
「やった!」
勝利を確信したティルは、力強く拳を握った。
しかし、渾身の一撃を放った反動で、思いがけないほどに息が上がっている。さらに、魂気を大量に使ったため、翼の輝きは弱まり、輪郭が薄れていた。
「ふぅ、今回の『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』、すごい威力が出たけど、あんまり高いところで使うと危ないな。」
心許ない浮力の翼で姿勢を整えながら、ティルは地上の小さな街並みを見下ろし、息を吐いた。
そのとき、地上から天を突くような閃光が伸び、少し遅れて爆発音が耳に飛び込んで来る。
「あれは魂気・・・!誰のだろう?すごい一撃だわ。」
ティルが目にしたのは、レッジが止めの一撃としてレイドに叩き込んだ、『爆裂光』であった。
同時に、先ほど仕留めたワイバーンが落下して行く先が目に入る。
「あそこって街中だよね?これ、ヤバくない⁉︎」
待ち受けるであろう惨状が目に浮かび、血の気が引く。
弱った翼をムリヤリ羽ばたかせて、慌てて急降し、ワイバーンを追いかけた。
一方、地上では、レッジの放った光弾により打ち上げられたレイドの姿を、メタルとレッジが見上げていた。
レイドは糸の切れた操り人形のように、バラバラに手足を曲げて宙を舞い、やがて重力のなすがままに落下した。力なく地上に叩きつけられると、異形の姿のまま意識を失い、虚ろな複眼でただ天を仰いでいた。
そんなレイドの姿を、メタルとレッジは何か口にすることもせず、ただ悲しげに見下ろした。
壁に貼り付けられていたものが、戦いの余波ではがれ落ちたのだろうか、レッジとレイドが親子で並んだ写真が1枚、風に吹かれて空へと消えて行った。
刹那、レイドの体の奥から再び魔力が膨れ上がる。体表が赤く明滅し、周囲の空気が熱を帯びて歪み始めた。
メタルとレッジに再び緊張が走る。
「まずい!本体は倒したけど、体に溜め込んでいた炎のエネルギーがまだ残っているんだ。このままじゃ・・・」
「大爆発や!・・・しかも、こんな街中で!」
2人は周囲を見渡した。
先刻レイドが炎を吐いたときに大部分の民衆は逃げ出していたが、それでも逃げ遅れた者たちが残っている。
さらに、少し離れたところではジェノとレイチェルがまだ魔獣と交戦している。
「なかなかのパワーとスピードだったが、ここまでだ!」
ジェノは魂気の傀儡カゲロウを3体繰り出し、サイクロプスを取り囲んで追い詰めていた。
「やっかいな粘液でしたけど、弱点の属性が分かりやすくて良かったです。」
レイチェルは、結界を解除した瞬間に氷属性の技を放ち、毒液もろとも人型スライムを凍結させていた。
2人ともあと一歩のところまで魔獣を追い詰めているがまだ決着は着いておらず、目の前の敵に集中し、こちらの様子には気がついていない。
「(ダメだ、このままじゃみんなも巻き込まれる。氷属性の剣が使えたら爆発を止められるか⁉︎・・・ダメだ、レイチェルの手がいるし、距離もある。今からじゃ間に合わない・・・!)」
メタルが打つべき一手を逡巡していると、巨大な影が逃げ惑う人だかりに向かって、空から落ちて来るのが目に入った。
「ウソやろ⁉︎」
レッジも血相を変える。
空から降る影の正体は、ティルが仕留めたワイバーンだった。
「ダメだ!浮力が・・・足りない!」
ティルがワイバーンに取り付いて、どうにか引っ張り上げようとしているが、落下が止まりそうな気配はない。
このままでは・・・!
そのとき、逃げ惑う人混みを飛び越え、1つの人影がメタルとレッジの前に現れた。
「遅くなったね。なかなか熱い戦いだったみたいだけど、後は任せときな!」
軽装のスポーツウェア姿に後ろで束ねた髪をなびかせ舞い降りたのは、レイチェルから無線で応援要請を受けていた、シェリー・ハイボールだった。
シェリーは、赤熱しながら鳴動するレイドの姿を一瞥する。
「シェリーさん!こいつは危険だ!爆発する!」
メタルが叫び、緊迫した状況を伝える。しかし、シェリーは動じる様子はなく、余裕の笑みすら浮かべていた。
「大丈夫、慌てないで。」
口角を上げると、今にもはち切れそうなほどの熱をはらんでいるレイドにゆっくりと近づき、両手をかざした。
「『無限零度(インフィニティ・ゼロ)』」
シェリーの体を覆う青白い輝きが伝播し、レイドを包み込んだ。すると、みるみるうちに赤い明滅が弱まり、歪んでいた空気が静寂を取り戻した。
「なんだ、思ってたより、全然涼しかったね。」
暴発しかけたレイドのエネルギーをすべて吸熱してなお、シェリーは表情を崩すこともなく、余力たっぷりといった雰囲気であった。
そのとき、人々の悲鳴が聞こえた。
「うわー!潰される!」
落下するワイバーンがいよいよ人混みを飲み込もうとしていた。
「ううー・・・!もう・・・ムリ!」
ワイバーンの翼をつかみ、どうにか引っ張り上げようとしているティルも、とうとう力及ばず、落下を止めることは出来なかった。
「(人々に・・・衝突する・・・!)」
メタルの脳裏に凄惨な光景がよぎった次の瞬間、ワイバーンの体はまるで見えない何かに受け止められたかのように、ピタリと宙に止まった。しがみついていたティルが、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。
「『神の見えざる手(サイコキネシス)』」
鮮やかなネイビーのスーツを翻しながら、宙を舞い姿を現したのは、メイカ・バレンタインであった。
「民草は国の礎、大切な資産だ。この僕が来たからには、目減りはさせない。」
群衆を見下ろすメイカが手先を操ると、それに呼応してワイバーンの体が軽々と動き、ゆっくりと地面に降ろされた。
「詰めはまだ甘いけれど、なかなかよく頑張ったね。・・・さて、君たちの力もそんなもんじゃないだろう?いつまでそいつらと戯れているつもりかな?」
メイカはジェノとレイチェルに順に、焚き付けるような視線を送った。
現着したS級戦士の仕事ぶりに目を奪われかけていたジェノとレイチェルの顔に、負けん気が浮かび出る。
「当然だ。『インデックスバルカン』!」
ジェノはカゲロウで包囲して動きを封じたサイクロプスに、指先から魂気弾を斉射した。
弾幕を浴びたサイクロプスの断末魔が、爆音に飲み込まれた。
「今終わらせようとしてたんです。黙って見ててください。『フロスティエッジ』!」
レイチェルは口を尖らせて、杖の先から、氷の刃を放つ。人型スライムの胸の奥に見える、核と思しき肉塊を貫いた。スライムの全身に凍結が広がると、まるでガラス細工のように粉々に砕け、風の中へと散って行った。
「やるじゃん!」
「それでいい。」
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昼の繁華街は再び、落ち着きを取り戻そうとしていた。
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