立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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空輸任務編

第49章 国王

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国王の呼びかけにより、王宮謁見の間には、鋼魂精鋭隊S級戦士の面々が、集まっていた。

玉座には、軍服の上に真紅のマントを羽織り、精悍な顔つきの人物が、どっしりと腰を下ろしていた。鋭利に整えられた口髭は、あたかも刃物を彷彿とさせる。

現ガンダラ国王、レバン・ドルキーム・ガンダラⅢ世。

軍事大国、ガンダラ王国の最高権力者にして軍事顧問、そして、彼自身もまごうことなきS級戦士である。否、正確には、少なくともある一定の条件下において、国王はS級戦士からさらに一線を画した実力の持ち主であった。S級というカテゴリーに属しているのは、元来、それ以上のグレードを設定する意味がほとんど無いからに他ならない。

S級戦士の実力は、実質的に人類が到達出来る領域の極値、それ以上の高みを定義するには、あまりにも該当する事例が少なすぎたのである。

この日、謁見の間に集まったのは、バルトス、スカーフェイス、シェリー、そしてメイカの4人であった。

「ガルドは欠席か。国王直々の招集命令だというのに、規律を重んじる彼らしくもないね。」

集まった顔ぶれを見て、メイカがやれやれといった顔つきで口にした。

「ガルドはオレと交代して、今は出撃中だ。ヤツ直属の実行部隊を率いて、北方の最前線で防衛に当たっている。」

山脈を隔てて魔獣の支配領域と面している、王国北部の国境は、最も魔獣の攻勢が激しい防衛線で、『防衛ラインゼロ』と呼ばれていた。

「そうだったな。確かに、あそこから攻めてくる強靭な魔獣たちを、簡単に王国内に入れるわけには行かない。そういうことなら、ガルドに前線で汗を流してもらっている間に、今回の議題を進めるしかないね。」

腐すようなメイカの物言いを、バルトスが厳しい声で制止したが、メイカはどこ吹く風だ。むしろ、分母が少ない方が持論を通すのに好都合と言わんばかりの笑みさえ浮かべている。

そんな2人のやり取りを静かに見守っていた国王が、ゆっくりと、しかし、確かな威厳のこもった声で話し始めた。

「今日、そなたたちを呼んだのは他でもない。先日、新たに生成できたオルハニウム合金のおかげで、いよいよ『ブラックファルコン』の完成が見えて来た。次に打つ手を皆と一緒に考えたい。」

バルトスたち一同に、緊張が走った。
『ブラックファルコン』は、最強の魔獣レオスとの戦いを想定して開発が進められてきたガンダラ軍の切り札。その完成を見据えて伝えられる次の手は、自ずと知れていた。

「仕掛ける時が近づいているということですな?魔獣王レオスに、今一度。」

バルトスが、確かめるように低く声を発すると、国王は静かに首肯した。

「左様だ。この数年の魔獣との戦いの激化は、やはりレオスの存在に背中を押されてのものだろう。脅威から目を背け続けたまま、国家の、ひいては人類の安寧は、真の意味では訪れないというのが、今の余の見解だ。」

国王の言葉を聞き、呼応するようにバルトスが頷く。
かつての同志、シルバの残した魔獣王打倒の可能性を、現実のものにしてやりたいという思いを、相槌に込めながら、見解を述べる。

「私も国王と同じ意見です。ドグマハートと名乗る人物の配下として動いている戦力は、魔獣、魔力を宿した人間エクトプラズマー、そして、先日空輸船を襲撃した機械の戦闘兵、機兵。いずれも王国、ひいては人類にとっての脅威ですが、特に魔獣が勢い付いているのは、強大な後ろ盾があってこそでしょう。レオスの存在は、看過できませんな。」

バルトスは今までに分かった敵勢力の構成を、端的に述べ、機が熟しつつあるとの立場をとった。それを聞いた国王は、この場にいる者が同意しているかどうかを確かめるかのように、謁見の間全体を見渡した。

バルトスに続いて口火を切ったのは、スカーフェイスだった。彼は、別の視点からの見解を述べた。

「確かに、レオスの存在は脅威ですが、当面は、ドグマハートの確保を優先するべきではないでしょうか?レオスが眠れる獅子を決め込んでいるうちは、必ずしも急な動きを起こす必要はないかと。仮にレオスの討伐に失敗し、我々の戦力が損なわれ、ドグマハートに遅れをとることになれば、その痛手は計り知れません。」

無論、スカーフェイスとて、レオスを倒す必要がないと考えているわけではなかった。魔獣に家族を奪われ、人生の歯車を狂わされた彼にとって、全ての魔獣はすべからく憎しみの対象でしかなく、それは、魔獣の王でさえも例外ではなかった。

だが、彼はそれ以上に、判断を早まることで、本来は守れたはずの命がこぼれ落ちることを恐れていた。元来の優しさが、誰よりも強い魔獣への憎しみを抱きながら、スカーフェイスの立ち位置を、S級戦士の中でも穏健派たらしめていた。

「私もスカーフェイス先生に賛成だよ。レオスの打倒が軍の究極の目的なのは分かってるけど、切り札を大事に温めながら、今はドグマハートの確保を優先するのが、堅実なんじゃないかな。」

シェリーもスカーフェイスに追随したが、それに舌鋒鋭く反論したのは、メイカだった。

「緩いぞシェリー。理由は定かじゃないが、あのレオスが肩入れしているんだ。ドグマハートを追い詰めた時にも静観しているとは限らないぞ。切り札を早めに切って、最大の脅威を一気に叩くべきだ。機会損失は最大のリスクだと、僕は考えるがね。力は、使える時に使った方が後悔はないんじゃないか?」

「・・・そんなことは分かってる!その上で、今は外堀が先だって言いたいんだ。」

シェリーも負けじと鋭い視線を返した。両者の視線がぶつかり、場の空気がヒリヒリとした熱を帯び始めた。
すると、2人を調停するかのように、国王が口を挟んだ。

「確かにスカーフェイスとシェリーの懸念も最もだ。ドグマハートなる者は、そもそも何者なのか?何故レオスほどの者が、肩入れをするのか?どう考える?」

いち早く返したのは、スカーフェイスだった。

「確かに、本気で人間に攻勢をかけるだけなら、レオス自身が動けば済む話です。
ドグマハートが何者なのか、どこから現れ、最終的に何を企んでいるのかは、未だに掴めていません。
ですが、接敵した者たちからの報告から、ドグマハートは、各所でオーバーテクノロジーを回収しようとしているということは分かっています。もしかすると、それがレオスにとって、何かしらの利害をもたらしてあるという可能性も、考えられるのではないでしょうか。」

「魔獣王の利害か。想像もつかんな。絶大な力を以ってしても叶えられない目的が・・・何かあるということか?」

バルトスは、元来、急進派であったが、ドグマハートとレオスの関係性に考えを巡らせるうちに、深く息をつき、文字通り一呼吸を置き始めていた。

それを感じ取ったシェリーが、ここぞとばかりに言葉を足した。

「私達も、今からでもオーバーテクノロジーの確保と保護に動くのはどうかな?
ブラックファルコンの完成までには、まだ少し時間があるしね。それまでの間だけでも。」

国王が静かに頷く。
潮目が変わる音が空気を揺らす。

「(・・・クソ、今日の会議は、分が悪そうだな。)」

メイカは、表面上は神妙な面持ちをしながら、内心では苦虫を噛み潰していた。

胸の中で湧き起こる陰性感情を飼い慣らすべく、密かに腹の力を込める。
彼が押さえ込んだのは、至ろうとする結論そのものに対するというよりは、議論の中で主導権を握れなかったことに対する憤りであった。

「ちょうど今、メタルたちが、キサラギの里へ向かおうとしています。里が所有しているオーバーテクノロジーの力を借りて、仲間を救うことを模索するためです。彼らを支援して、よろしいでしょうか?」

スカーフェイスが続けた言葉を聞いた国王は、短く一呼吸置くと、静かに命じた。

「まずは彼らに任せ、動向を注視せよ。場合によっては、S級戦士自ら出向き、キサラギの里の所有するオーバーテクノロジーを、軍の管轄に置くきっかけにせよ。
打倒レオスの時期については、継続して検討を行うものとする。」

シェリーとスカーフェイスの瞳に光が差し、メイカは口元を歪めた。
バルトスは、ただ、静かに目を閉じていた。

ティルが里を飛び出してから3ヶ月余り、彼女の故郷で、各々の意思と思惑がぶつかる時が、すぐそこまで近づいていた。


























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