立ちはだかるは魔獣の王から毒親まで⁉︎ 少年剣士と翼の少女と仲間たちの、絆と成長の物語 ー鋼魂戦記(こうごんせんき)ー

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キサラギの里編

第51章 キサラギの里へ

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メタル、レイチェル、ジェノの3人は、ティルの故郷であるキサラギの里を目指して、王都を出発した。

眠り続けるティルを助けるための手がかりになるかも知れない、オーバーテクノロジーについての情報を求めて。

キサラギの里を拠点とする『キサラギ一族』は、隠密一族としてはガンダラ王国内でも最大の勢力を誇り、その能力の高さは裏社会では誰もが知る所であり、時には軍からの依頼を請け負って諜報、工作、暗殺任務を実行する協力関係を築いていた。
軍にとって、ハンターが表の協力者なら、キサラギ一族は裏の協力者と言えた。

王都から南東へ進んだ所に位置する、王国東部の山麓に広がる森林地帯、通称『神隠しの森』、キサラギの里はその深い森の中のどこかにあると言われていたが、正確な位置は、高度な隠蔽の術により隠されていた。そのため、キサラギ一族と取引先の関係にある軍の諜報部でさえ、時折やってくるキサラギ一族の使者を通じて連絡をとっているのだった。

王都と森林地帯の間に広がる平原地帯を移動する間には、野生の魔獣と遭遇することも何度かあったが、いずれも危険度はB級以下の種族であり、A級戦士に昇格後も、着実に訓練と実戦を重ねて来たメタルたちは、取り立てて苦戦を強いられることもなかった。

軍の輸送車を走らせること半日ほどで、メタルたちは『神隠しの森』の前にたどりついた。
目の前に広がる鬱蒼とした茂みは、一見何の変哲もない森林のように見えるが、意識を集中して魂気を探知すると、森の中が異様な気配で満たされているのが肌で感じられた。

「これは、やはり隠蔽の術が森中にかけられていますね。森の外からは、里の位置は見えないでしょうし、森の中では方向感覚が狂ってしまうはずです。」

不穏な風を浴び、黒いローブをはためかせながらレイチェルは眉をひそめた。

「迂闊に足を踏み入れたら、里にたどり着くどころか、2度と森から出られないかも知れないってことか。『神隠しの森』なんて呼ばれるわけだ。術をかけてるのは、やっぱりキサラギの里の人間なのかな?」

車両のドアを閉めながら、メタルが浮かんだ疑問を口にした。
ジェノもまた、立てた指先で森から漂う空気を確かめると、その異質さを感じ取り、逆立てた髪が自ずと鋭さを増す。

「この森を覆う魂気は、異質だ。それに、生きた人間が常時発動するには術の範囲と効果が大きすぎる。恐らくは、『呪縛』によるものだろう。」

魂気使いが強い思い入れや未練を抱きながら死んだ場合、その魂だけが執着の対象に縛られ続け、魂気術の影響が永続的に『呪縛』として残り続けることがあるのだった。そのような事例は、時に土地の守り神として敬われ、時に死者の怨念として恐れられ、この世に確かな影を刻んでいた。

「さしずめ、『森の守り神』ですね。私の故郷、魔導士の里にかかっていた隠蔽術も、『呪縛』だったはずですけど、この森にかかっている術の力は、未知数です。」

レイチェルが固唾を飲む。喉が鳴る音がいつもよりはっきりとした輪郭で、耳の奥に響いた。

「メタルさーん、例のもの、準備出来ましたよ。」

車両を運転して来てくれたマリオが、輸送車の荷台に載せたスカイバイクの最終点検を終えたことを、額の汗を拭いながら伝える。

「ありがとう、助かるよ。」

メタル、ジェノ、レイチェルの3人は、輸送車の荷台に乗せて来たスカイバイクに乗り、上空から眼下に広がる森の様子を確かめた。

「人里らしきものは、見えんな。」

「ああ。本当にこの森の中に『キサラギの里』があるのか?」

「私にも、少なくともこの距離からは見えません。ですが、森の中央に微かに、周囲とは異なる気配を感じます。」

どうやら、レイチェルの故郷、魔導士の里を守っていた隠蔽の術師は、キサラギの里を守る術と原理が通じているらしい。レイチェルはメタルとジェノほど、術の影響を受けておらず、キサラギの里の存在を感じ取ることは出来るようだった。

「大まかな位置が分かるなら十分だ。上空からスカイバイクで行くか?」

「それは『森の守り神』に失礼です。(作者も困っています)。それに、万が一魂気をエネルギー源にする乗り物を狂わせられて墜落したら、洒落になりません。地上から行きましょう。」

ジェノの提案をレイチェルが(小声でボソッと何か呟きながら)一蹴した。

キサラギの里からの使者が軍を訪れるのを待ち、交渉するという手もあったが、それもいつになるか分からない。一刻も早く、ティルを助ける可能性を探るためには、飛び込むしかない。

「メタルさん、ジェノさん、レイチェルさん・・・気をつけて。」

3人を見送る今日のマリオは、普段の調子のいい笑顔は控えめだ。
空輸任務でメタルとティルが、命を落としかけたことが、まだ頭から離れていなかった。
心配してくれているのが、声色からも伝わってくる。

そんなマリオの様子を見て、メタルは務めて溌剌とした声で答えた。

「ああ、もしもの時は、王都に戻ってスカーフェイス先生やシェリーさんに、知らせてくれよ?頼んだぜ!」

まる1日経っても戻らなかった場合は、王都に戻って報告してほしい旨を言い残すと、3人は『神隠しの森』へと足を進めた。

「行こう!」

メタルの掛け声とともに一際強く大地を蹴り、森を覆う不穏な空気の中へと踏み込んだ。

足を踏み入れた直後は、取り立てて異変を感じることはなかった。

進む道を見失わないよう、十数メートル先に見える一際大きな樹木を目印にして、3人で足並みを揃えて進む。今のところ特に異常は感じられない。

「皆、大丈夫か?」

「体に変化は、ありません。でも、これを見て下さい。」

レイチェルが掌の上に置いて示した方位磁針が彷徨うようにぐるぐると回転している。森に足を踏み入れる前は、いつも通りに『北』を指していたはずだった。これでは、まともに方角を確かめることはできない。さらに・・・。

「やはりこの森は、オレたちを帰すつもりはないようだ。」

ジェノが後ろを振り返って進んできた方角を示す。メタルも振り返って見ると、視界にはどこまでも広がるかのように、鬱蒼と茂る木々が立ち並んでいた。まだ森に入って何メートルも進んでいないはずなのに、進んできた道はすでに見覚えのない風景に変わっていた。

「これは・・・!進んできた景色と全然違う!マリオや、乗って来た車両も見当たらない。一体どこへ⁉︎」

「森が姿を変えたか?いや、そんな気配はなかった。歩いている間、進む先の景色は変わらなかった。」

「3人ともはぐれてはいないし、空間転移させられたとかでもなさそうだ。」

メタルとジェノが事態を把握しようと、思考を走らせていると、レイチェルが2人を落ち着かせるように静かに切り出した。

「2人とも、大丈夫です。間違いなく、まだ森に入ってすぐの所にいますし、車もあそこにあります。」

レイチェルの目には、進んできた轍がありのままの形に映っていた。

「森に入った者の視覚を惑わせる効果がある術みたいですね。幸い、魔導士の里にかかっていたのと、タイプが近いみたいです。その術に守られる側だったことがある私は、2人ほど強く影響を受けていないです。」

「そうなのか⁉︎オレには全然分からないけど、いきなり遭難したわけじゃなくて、良かった。」

メタルは額の汗を拭った。

「多分2人には、たどり着くまで里を目で見ることも出来ないと思います。今日は、私が道を開きますね。」

レイチェルを先頭に、3人は先を進むことにした。

レイチェルは『氷魔法』の刃で藪を薙ぎ払い、木々の枝葉を押し除けながら、一歩一歩慎重に足を踏み出した。

メタルとジェノは、視線の向きを変える度に森が姿を変えてしまい、レイチェルについて行くしかないため、魔獣の気配に警戒することに神経を注ぐことにした。

森の中には、昆虫系や植物系のモンスター、さらに、森の小鬼フォレストゴブリンが生息しており、時折襲いかかって来たが、これらには、メタルとジェノが対処した。いずれも今の2人の実力であれば、苦戦を強いられることはなかったが、異様な空気の中で、刻一刻と姿を変えているように見える森に囲まれながらの戦いには、少し神経を削られた。

「先程、上空から周囲と違う空気を感じたのは、こっちです。よーく見ると、枝葉がかき分けられた痕跡や、地面を誰かが踏んで歩いた形跡もあります。これはきっと、里が近いですよ!」

「お、おう!」

レイチェルが指摘する痕跡は、隠蔽術の影響を強く受けたメタルには分からなかったが、レイチェルは高揚した様子で足取りを早めていた。普段は控えめな彼女の中で、スイッチが入っているのが分かる。

「これは近いですよー。来てます、来てます!」

レイチェルは、珍しく仲間を先導したことで、自己肯定感をくすぐられて舞い上がり、微かに頬を赤らめて爛々とした目つきで、氷の刃で獣道を薙ぎ払いながら突き進んでいる。

「(このテンションになった時のレイチェルは、止められないよなー。)」

メタルが頭の中でつぶやいた次の瞬間、景色が一変する。

鬱蒼とした木々は突如として視界から消え去り、目の前には木製の門がそびえ立つ。
その傍らを、忍び装束を纏い槍を手にした番人と思しき2人が固めている。

「何用だ?ここにどうやって辿り着いた?」

門番の2人が槍を交差させ、行手を遮った。

メタルたちは、『キサラギの里』の目の前に辿り着いていた。










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