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赤い月夜の出会い
第2章 少年ハンターと光の剣
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風の吹き荒ぶ人気のない荒野。
1人の少年が、自身の身の丈の倍ほどはある影の主と向き合っている。
両者は睨み合ったまま互いに動かないが、やがて、大きな影の主が痺れを切らしたかのように鼻息を荒げ、ドスドスと重い地響きを立てながら、目の前の相手めがけて突進する。一見、人のような姿をしているが、牛のように鼻先の前に伸びた頭の両側には、湾曲した角があり、その顔面には握り拳ほどの大きさの目玉が一つだけぎょろりと覗いている。
少年が対峙しているのは、魔獣(モンスター)であった。
少年の体からは、燃え上がる炎のようなエネルギーが立ち上り、金色の輝きを放っていた。
その手には剣が握られている。いや、ただの剣ではない。金色のエネルギーが、握り込まれた手先から鋭い影を伸ばし、あたかも刀身のような形を形成している。
「くらいやがれ!『アースクラッシュ』!」
轟音と共に地面が割れ、裂け目から少年の身の丈を優に超えるほどの爆炎が噴き出し、大地と空を震わせた。
爆炎に飲み込まれたモンスターは、大きくのけぞり、焦げついた体から黒い煙を立ち上らせながら、力なく地面に崩れ落ちた。
少年は、手にした光の剣を振るい、そこから発せられる衝撃波でモンスターを仕留めたのだった。
「手配モンスター『モノクロアイ』。種族はミノタウロスかな?もっとパワーがすごいかと思ってたけど、思ってたより大したことなかったな。」
顔面から地面に突っ伏したモンスターをまじまじと見ながら、ひょうひょうと独りごつ。
「まぁ、いっか。さっそくモンスターフォースに報告報告っと。ギャラも入るし、今夜は久しぶりに、寿司と天ぷら行っちゃおうかな。」
戦いの疲れを微塵も滲ませず、頭の中は早くも報酬と今夜の夕飯のことに切り替わっているようだ。
少年は退治屋(ハンター)を生業としていた。
ハンターはモンスターに対抗できるだけの実力を持った個人が、モンスター絡みの事案を専門に対応する、国軍直轄組織、モンスターフォースから仕事を請け負う形で活動を行っている。仕事の依頼があれば、人間の生活圏を侵食し、危険視されている手配モンスターの退治に出向き、報酬を得る、つまりはフリーランスの戦士である。
少年は、ハンターに支給されるモンスターフォース直通の通信機で、獲物を無力化したことを手慣れた様子で報告する。
「今回も助かったよ、メタルさん。ここ数年でモンスターの活動もますます活発化して、我々も忙しくてね。」
現着して、仕留められたモンスターを搬送しているモンスターフォース隊員の1人が、親しげに声をかけてきた。マリオという気の良い青年で、メタルのことを頼りにして、手配モンスター退治の依頼を頻繁に出してくれる、いわばお得意様だった。
「いいってことよ!実家に仕送りもしなきゃいけないし、今夜は久しぶりにちょっといいものも食べたい気分だったんだ。またいつでも依頼情報よこしてね。」
メタルは受け取った報酬を確認する。
「よし、金額は手配書のとおり。」
仕事が一息つき、ふと、今も故郷であるリックスの村にいる、母親のミネラと、妹のジュエル、弟のロックのことが頭をよぎった。
父親のシルバは、5年前にすでに他界している。凄腕の鍛冶屋であると同時に、モンスターフォースの中でも、魂気を扱うことができ、さらに戦闘力を認められた一部の者だけが所属することを許される特殊実行部隊『鋼魂精鋭隊』の隊員でもあった。
メタルは、工房でただ真摯に納得の行くまで赤熱した鉄と向き合い、自身が最高と思える剣を鍛え上げるシルバの姿勢を、子供ながらに素直に尊敬していた。シルバは時々工房にメタルを招き入れては、鉄の鍛え方や、刃の研ぎ方について、親切に、しかし、少年のような瞳の輝きをもって熱く、手ほどきをしてくれた。いつしかメタルもシルバの真似をして、自身の手で剣を作り出せるまでの腕を身につけていた。
「メタル、お前はオレより見どころあるかもな。ハハハハッ!」
工房で共に過ごした時間、そして、初めて鍛え上げた剣を見せた時の、豪快な笑顔とともによどみなく出たシルバの言葉。これらはメタルの心の中で、今も静かに輝く、宝物だった。
シルバが強豪モンスターの討伐任務で殉職したときには、悲しみに暮れる日々が続いたが、やがて心の整理がつくにつれ、世界の平和のために最後の時まで身を尽くした父のことを、今では誇らしく思えるようになっていた。
「オレ、強くなるよ。父さんの分まで、母さんたちを守るから。」
メタルは戦士としての道を志した。
縁あって師にも恵まれ、魂気を扱えるようにまでなった際には、かつて工房で刃と向き合ったころの記憶に導かれるように、オーラの剣がその手に形作られていたのだった。
「ところでメタルさんは、『鋼魂精鋭隊』には入らないんですか?魂気の扱いもバッチリだし、ハンターとしての実力も文句なし。モンスターフォースの精鋭部隊でも絶対大丈夫ですよ。」
つい物思いにふけってしまったが、マリオの声で、メタルはふと我に返った。
「え、ああ。そうだね。実は考えてるんだけど、今の仕事もやりがいあってさ。まだ腕も磨きたいし、それに、転職したらお得意様を困らせちゃうだろ⁉︎」
冗談めかして軽やかに笑う。
本当は、シルバも所属していた『鋼魂精鋭隊』は、メタルにとって憧れの存在であり、入隊を夢想しなかった日はないと言っても過言ではない。
「(きっと今よりも、国家の戦略に関わるような仕事にも関わることができて、人類の平和のために役立てるんだろうな。でも・・・。)」
憧れの強さは同時に、畏怖の大きさでもあった。父ですら命を落とすことがあるような、きっと今よりももっと危険の大きな世界。
今のまま、自分の手が届く範囲の人たちのことを助けて、母さんたちを支えることができたら、十分じゃないか。もし、自分までいなくなるようなことになったら。
シルバのことは、誇りに思っているが、自分も全く同じ道を歩む必要はあるのか。
胸の中に熱いものがあるのは、自分でもわかっていたが、思い切って飛び込んでみるための踏ん切りをつけることができない日々が続いていた。
「(母さんは、思い切ってやってみなさいって、言ってくれるだろうな。)」
分かっている。自分にブレーキをかけてしまっているのは、他でもない自分自身だ。
もう夜も近い。太陽が空と山肌の境目に、ゆっくりと沈み、空を薄赤く染めていた。
ふとマリオの様子をうかがうと、何やら忙しなく無線でやり取りをしている。
「え、今からライラの町近辺の荒野に急行できる、B級以上の戦闘員、もしくはハンターですか?正体不明のモンスターと一般人が交戦中⁉︎ 旅の商人から通報があったと。はい、はい、わかりました。確かに自分の担当エリアが一番近いですね。はい、すぐ確認します。」
こういうことは今までも何度かあった。
この後の流れは決まっている。
マリオは通信を終えると、申し訳なさそうに眉を下げながらも、にこやかに切り出した。
「メタルさん、急で悪いんですけど、今からもうひと仕事、行けますか?今夜はおごるんで!」
ハンターには時間外労働という概念は無いし、当然だが、モンスターが人間の生活に合わせて暴れてくれる訳もない。依頼があれば、夜討ち朝駆け上等で出撃あるのみだ。
「しゃーねーな!」
ぐるりと肩を回すと、メタルは力強く頷き、マリオと共に、モンスターフォース専用の車両に乗り込んだ。
1人の少年が、自身の身の丈の倍ほどはある影の主と向き合っている。
両者は睨み合ったまま互いに動かないが、やがて、大きな影の主が痺れを切らしたかのように鼻息を荒げ、ドスドスと重い地響きを立てながら、目の前の相手めがけて突進する。一見、人のような姿をしているが、牛のように鼻先の前に伸びた頭の両側には、湾曲した角があり、その顔面には握り拳ほどの大きさの目玉が一つだけぎょろりと覗いている。
少年が対峙しているのは、魔獣(モンスター)であった。
少年の体からは、燃え上がる炎のようなエネルギーが立ち上り、金色の輝きを放っていた。
その手には剣が握られている。いや、ただの剣ではない。金色のエネルギーが、握り込まれた手先から鋭い影を伸ばし、あたかも刀身のような形を形成している。
「くらいやがれ!『アースクラッシュ』!」
轟音と共に地面が割れ、裂け目から少年の身の丈を優に超えるほどの爆炎が噴き出し、大地と空を震わせた。
爆炎に飲み込まれたモンスターは、大きくのけぞり、焦げついた体から黒い煙を立ち上らせながら、力なく地面に崩れ落ちた。
少年は、手にした光の剣を振るい、そこから発せられる衝撃波でモンスターを仕留めたのだった。
「手配モンスター『モノクロアイ』。種族はミノタウロスかな?もっとパワーがすごいかと思ってたけど、思ってたより大したことなかったな。」
顔面から地面に突っ伏したモンスターをまじまじと見ながら、ひょうひょうと独りごつ。
「まぁ、いっか。さっそくモンスターフォースに報告報告っと。ギャラも入るし、今夜は久しぶりに、寿司と天ぷら行っちゃおうかな。」
戦いの疲れを微塵も滲ませず、頭の中は早くも報酬と今夜の夕飯のことに切り替わっているようだ。
少年は退治屋(ハンター)を生業としていた。
ハンターはモンスターに対抗できるだけの実力を持った個人が、モンスター絡みの事案を専門に対応する、国軍直轄組織、モンスターフォースから仕事を請け負う形で活動を行っている。仕事の依頼があれば、人間の生活圏を侵食し、危険視されている手配モンスターの退治に出向き、報酬を得る、つまりはフリーランスの戦士である。
少年は、ハンターに支給されるモンスターフォース直通の通信機で、獲物を無力化したことを手慣れた様子で報告する。
「今回も助かったよ、メタルさん。ここ数年でモンスターの活動もますます活発化して、我々も忙しくてね。」
現着して、仕留められたモンスターを搬送しているモンスターフォース隊員の1人が、親しげに声をかけてきた。マリオという気の良い青年で、メタルのことを頼りにして、手配モンスター退治の依頼を頻繁に出してくれる、いわばお得意様だった。
「いいってことよ!実家に仕送りもしなきゃいけないし、今夜は久しぶりにちょっといいものも食べたい気分だったんだ。またいつでも依頼情報よこしてね。」
メタルは受け取った報酬を確認する。
「よし、金額は手配書のとおり。」
仕事が一息つき、ふと、今も故郷であるリックスの村にいる、母親のミネラと、妹のジュエル、弟のロックのことが頭をよぎった。
父親のシルバは、5年前にすでに他界している。凄腕の鍛冶屋であると同時に、モンスターフォースの中でも、魂気を扱うことができ、さらに戦闘力を認められた一部の者だけが所属することを許される特殊実行部隊『鋼魂精鋭隊』の隊員でもあった。
メタルは、工房でただ真摯に納得の行くまで赤熱した鉄と向き合い、自身が最高と思える剣を鍛え上げるシルバの姿勢を、子供ながらに素直に尊敬していた。シルバは時々工房にメタルを招き入れては、鉄の鍛え方や、刃の研ぎ方について、親切に、しかし、少年のような瞳の輝きをもって熱く、手ほどきをしてくれた。いつしかメタルもシルバの真似をして、自身の手で剣を作り出せるまでの腕を身につけていた。
「メタル、お前はオレより見どころあるかもな。ハハハハッ!」
工房で共に過ごした時間、そして、初めて鍛え上げた剣を見せた時の、豪快な笑顔とともによどみなく出たシルバの言葉。これらはメタルの心の中で、今も静かに輝く、宝物だった。
シルバが強豪モンスターの討伐任務で殉職したときには、悲しみに暮れる日々が続いたが、やがて心の整理がつくにつれ、世界の平和のために最後の時まで身を尽くした父のことを、今では誇らしく思えるようになっていた。
「オレ、強くなるよ。父さんの分まで、母さんたちを守るから。」
メタルは戦士としての道を志した。
縁あって師にも恵まれ、魂気を扱えるようにまでなった際には、かつて工房で刃と向き合ったころの記憶に導かれるように、オーラの剣がその手に形作られていたのだった。
「ところでメタルさんは、『鋼魂精鋭隊』には入らないんですか?魂気の扱いもバッチリだし、ハンターとしての実力も文句なし。モンスターフォースの精鋭部隊でも絶対大丈夫ですよ。」
つい物思いにふけってしまったが、マリオの声で、メタルはふと我に返った。
「え、ああ。そうだね。実は考えてるんだけど、今の仕事もやりがいあってさ。まだ腕も磨きたいし、それに、転職したらお得意様を困らせちゃうだろ⁉︎」
冗談めかして軽やかに笑う。
本当は、シルバも所属していた『鋼魂精鋭隊』は、メタルにとって憧れの存在であり、入隊を夢想しなかった日はないと言っても過言ではない。
「(きっと今よりも、国家の戦略に関わるような仕事にも関わることができて、人類の平和のために役立てるんだろうな。でも・・・。)」
憧れの強さは同時に、畏怖の大きさでもあった。父ですら命を落とすことがあるような、きっと今よりももっと危険の大きな世界。
今のまま、自分の手が届く範囲の人たちのことを助けて、母さんたちを支えることができたら、十分じゃないか。もし、自分までいなくなるようなことになったら。
シルバのことは、誇りに思っているが、自分も全く同じ道を歩む必要はあるのか。
胸の中に熱いものがあるのは、自分でもわかっていたが、思い切って飛び込んでみるための踏ん切りをつけることができない日々が続いていた。
「(母さんは、思い切ってやってみなさいって、言ってくれるだろうな。)」
分かっている。自分にブレーキをかけてしまっているのは、他でもない自分自身だ。
もう夜も近い。太陽が空と山肌の境目に、ゆっくりと沈み、空を薄赤く染めていた。
ふとマリオの様子をうかがうと、何やら忙しなく無線でやり取りをしている。
「え、今からライラの町近辺の荒野に急行できる、B級以上の戦闘員、もしくはハンターですか?正体不明のモンスターと一般人が交戦中⁉︎ 旅の商人から通報があったと。はい、はい、わかりました。確かに自分の担当エリアが一番近いですね。はい、すぐ確認します。」
こういうことは今までも何度かあった。
この後の流れは決まっている。
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「メタルさん、急で悪いんですけど、今からもうひと仕事、行けますか?今夜はおごるんで!」
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