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赤い月夜の出会い
第3章 2人分の光
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夕刻、あたりはすでに薄暗くなりつつある。ライラの町付近の平原では、2つの影が互いの距離を測りながら小刻みに揺れては、時折、機を狙ったかのように交錯していた。影の距離が詰まる度に、火花の瞬きがあたりを照らす。
影の主の1人は、キサラギの里を飛び出した少女、ティルであった。そろえて伸ばした左手の中指と人差し指の先端からは、魂気の光が帯状に伸び、ティルが腕をしならせる動きに合わせてまるで鞭のように風を切り、相手の接近を阻んでいた。もう片方の手には、クナイのような形と大きさに整えた魂気の刃を、指の間に1本ずつ握り込み、隙あらばいつでも投げ放たんとばかりに、半身に構えて奥に引いた体の脇に添えていた。
「ちょっと何なのよ、こいつ。モンスター⁉︎」
ティルと対峙する影の主は、身の丈2メートルほどで、一見すると人間とさほど変わらない容姿をしている。しかし、左右の前腕から骨が隆起して形成された、巨大な三日月のような形の刃が、異形の存在であることを物語っていた。
顔中に包帯を巻きつけたような覆面の隙間からは、夜行性の肉食獣を思わせる赤黒い眼光が覗いており、額には、これまた三日月の形をしたエンブレムが、トレードマークであるかのように取り付けられている。
「このロンカ様の邪魔をするな小娘!まずはお前から食らってやろうか!」
荒々しい声を張り上げて、両腕の刃を振り回し、執拗にティルとの距離を詰めようとする。
「しつこいヤツは、モテないよ!」
ティルも光のムチで牽制し、接近を許さない。
比較的人間に近い姿で、中には言葉を交わすこともできる個体も存在しながら、魔獣が決して人間と相容れない理由。それは、本能に由来する人間への敵意に加え、彼らが好んで人間を食する習性を持っているためであった。特に、一部の種族は人間を食することで自らの力や知性を高めることができる性質を備えており、同胞と競ってまで人間を襲うことは、彼らにとっては互いを高め合う行為そのものなのである。
「(さっき逃げた人たちは、無事かな?)」
ティルはロンカへの警戒を緩めないように気をつけながらも、時々、背後の様子を気にかけた。
戦いに巻き込まれないほどに離れた位置に、取り残された1人の男性がうずくまっている。彼はロンカに襲われて足を怪我し、動けなくなっており、不安そうに成り行きを見守っている。
ティルは実家を出てから、気の赴くままに一日中飛び続け、夜も近づいてきたため町明かりの見える方に向かっていたところ、旅の商人一行がロンカに襲われているのを発見したのだった。
「お前さえ現れなければ、他の奴らに逃げられず、もっとたくさんの人間が食えたものを。
落とし前はつけてもらうぞ!」
怒りがぶり返したのか、憎々しげに赤黒い目を大きく見開くと、刃を高々と振り上げ、無造作に、力任せに突っ込んできた。
「雑になってるよ。」
ティルは、迫り来るロンカの姿全体を見据えると、上体を大きくしならせ、勢いをつけて旋回させる。右手に握った光のクナイを放ち、カウンター気味にロンカの体に突き立てた。
「ぬおお⁉︎」
ロンカがたじろいだところで、光のムチをその体に巻きつけ、動きを封じると、ムチとつながる指先に意識を集中。捉えた相手の体に自身の魂気を一気に叩き込んだ。
「『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』!」
「ぐあああぁ!」
ロンカの全身から火花が上がり、夕闇を照らすと、糸が切れた人形のように、ドサリと崩れ落ちた。明かりが落ちるように、その目は光を失っていた。
「やった!訓練より全然楽勝。そうだ、怪我人の手当てをしなきゃ。」
勝利の余韻に浸ることもなく、ティルは、パタパタと取り残された男性の方に駆け寄った。
そこへ、先に逃げた商人からの通報を経て、モンスターフォースからの依頼を受けて現場に急行していたメタルとマリオが到着する。
自分と同い年くらいと思われる少女が、すでにモンスターを打ち倒しているのを目の当たりにして、メタルはすぐに状況を飲み込めずにいた。
「どうなってんだ、これ?あの子は一体?」
「うーん、この場合は遂行業務は、身柄の確保だけになるのかな?」
マリオもどうしたらいいのか、困っている様子だ。
いつの間にか太陽は山の向こうにすっかり姿を隠し、闇夜が訪れた。
突如として、倒れ込んだロンカの体から、蝋燭の炎のような、怪しい光の揺らめきが上がった。魔獣のみが発することができるオーラ、魔力である。
「この気配は、魔力⁉︎」
メタルはロンカを凝視した。
少女によりつけられた傷がみるみるうちに塞がっていき、一度は枯れた草花が再び生命力を取り戻したかのように、ゆっくりと身を起こすではないか。
刹那、ロンカは腕の刃に魔力を纏わせて構えると、獲物を見つけた猟犬の如く駆け出し、怪我人の手当てを続けているティルに、背後から襲いかかった。
「(まずい、気がついていない!)」
メタルも飛び出す。
一足遅れて殺気を感じたティルが振り返ると、目を血走らせ飢えた獣のような形相のロンカが目の前に迫っていた。
「(うそ、やだ、何で⁉︎ダメだ、間に合わない、ヤバ・・・)」
防御の姿勢をとることも、怪我人を置いて避けることもできない。
思わず目を閉じそうになるが、次の瞬間、空を掻き切るような鋭いが耳を突き抜けた。
「『ソニックスラッシャー』!」
メタルが振るった剣が空を裂くと、太刀筋がオーラで形成された光り輝く刃となり、狙いを定めた標的へと撃ち放たれた。
命中。
青黒い魔獣の鮮血と共に、斬り落とされたロンカの腕が宙を舞っている。
ロンカは苦悶の声を漏らしながら、肩口をおさえ、その足を止めている。
その隙に駆けつけたメタルが、ティルとロンカの間に割って入った。
「大丈夫か⁉︎立てるな?」
ティルのことを気にかけながらも、目の前の敵から目を切らさずに剣を構えている。
「(さっきのはこの人がやったの?私、助かった⁉︎)」
ティルは月明かりに照らし出された少年の姿を、思わずまじまじと眺めた。背格好からして自分とさほど変わらない年頃、つんと無造作に跳ねた黒髪、体の線はまだ年相応と言った感じだが、ゆったりとしなやかでありながらも、腰を低く落として力強く構える姿は、さしずめヤマネコやヒョウを彷彿とさせた。
胸が静かに高鳴る。
「メタルさん、気をつけて!そいつは手配モンスターロンカ、『月影族』です。」
マリオが緊迫した面持ちで声を上げた。
「え、マジか!」
「月影族⁉︎」
ティルは事態がまだ飲み込めていない。
月影族は、モンスターの中でも、危険度Aに分類される警戒対象種族として知られていた。
夜になると、体中の細胞が活性化して戦闘力が飛躍的に向上するだけでなく、強力な再生力までもが備わる。そのため、別名、夜の支配者とも呼ばれているのだった。
「その通りだ、人間ども。この俺のプライドを傷つけた罪は重い。死んでもらうぞ!」
ロンカが声を荒げる。メタルが切り飛ばした右腕の切断面は、すでにうごめく肉片で覆われており、早くも再生が始まっていることがわかる。
その異様な光景を見た一同は、固唾を飲むが、メタルは気持ちを切り替えたかのように勢いよく飛び出し、ロンカに斬りかかった。
ロンカが残った左腕の刃で受け止め、互いににらみ合いながらのつば競り合いが始まる。
「勝手に傷ついてろよ、月影族か何か知らないけど、セリフはいかにも下っ端だぜ。」
軽口を叩いてみせるが、額には汗がにじむ。
腕の再生が終わる前にケリをつけようと、接近戦を仕掛けたものの、力押しでは分が悪そうだ。
「ほざけ。」
覆面からのぞくロンカの目が強く明滅する。
「(何か来る!)」
一筋の熱を帯びた光がメタルの肩をかすめた。
ロンカの目から怪光線が放たれたのだった。
咄嗟に反応して直撃を避けることができたが、たまらず距離をとる。
「逃がさん!」
ロンカは、間髪を入れずに次々と光線を打ち込む。
メタルは軽やかな身のこなしで、それを避け続けるが、このままでは防戦一方だった。
さらに、ロンカの纏った包帯のような覆面の一部がシルルと音を立てて解けると、まるで何かに操られたかのように宙をうごめき出した。うっすらと赤い光を帯びている。ロンカの魔力が通っているのだろう。
何本ものうごめく生地が、メタルの周囲をまるで獲物を睨め回す毒蛇のように取り囲み、隙あらば噛みつかんとばかりに、時折襲いかかる。
払いのけるのに気を取られそうになると、ここぞとばかりに怪光線が撃ち込まれる。
メタルも、掌に魂気を集め、それをまるで光の弾丸のように撃ち出して、反撃を試みている。光弾が時折ロンカに命中して炸裂するが、ほとんど怯む様子がない。
「(あんまり効いてないな、さっきよりヤツの力が増している。夜になって時間が経ったからか?全力の一撃を、何とかして叩き込まないと。)」
斬り落としたはずの腕もすでに生え変わりつつある。
息を切らしながらロンカの猛攻をしのぎ続ける少年の姿を、ティルは手に汗を握り見守っていた。
「(このままじゃ危ない。私も何かしなきゃ。)」
ここからクナイを飛ばしても、恐らく有効打にならない。怪光線が飛び交っているため、ムチの射程まで近づくこともできない。
どうすれば。
必死で考えるうちに、不意にまた背中が熱くなった。
「(そうだ、今の私には、コレがあるんだ。)」
意識を集中して、魂気を練り上げると、その輝きが背中に集まり、再び光輝く翼を形作ることができた。
「やった!」
思わず小さくガッツポーズ。
そのとき、ロンカの勝ち誇ったような、野太い笑い声が響き渡った。
「グハハハ!ついに捕まえたぞ、コレで終わりだ!」
魔力を帯びた生地が、ついにメタルの右手首をとらえて巻きとった。
「(まずい!怪光線が来る!)」
剣を持っている方の手を封じられ、メタルの顔にも焦りが浮かぶ。
ロンカの覆面の奥の瞳が、赤く明滅する。
それを見たティルは刹那、意を決したように翼を思い切り羽ばたかせ、ロンカの方へ向かってハヤブサのごとく飛び出した。
こうなったらもう止まれない。この後どうしよう。もう、やぶれかぶれ。
「こんなヤツ、こうだ!」
勢いそのままに飛び込むと、不気味に光を放つロンカの頬に、なんとグーパンチをお見舞いした。
顔をはね上げられて狙いがそれた怪光線が、虚空を切った。
手首を封じていた布が緩んだ隙に、メタルはロンカから距離をとると、体勢を立て倒して再び剣を構えた。
ティルは勢い余って地面を転がり、少し頭を打ったが、すぐに起き上がり、フッと一息、呼吸を整えた。
「助かった、ありがとう。オレはメタル。君も戦えるか?」
メタルが手短に確認する。
「ティル。こっちこそ、さっきはありがとう。
一緒にあいつやっつけよう!」
ティルの瞳が力強く輝く。
視線を交わし、すぐにロンカの方に向き直ると、呼応するかのように、今一度、魂気を体から解き放った。
2人分の光が、夜空をかすかに明るくした。
影の主の1人は、キサラギの里を飛び出した少女、ティルであった。そろえて伸ばした左手の中指と人差し指の先端からは、魂気の光が帯状に伸び、ティルが腕をしならせる動きに合わせてまるで鞭のように風を切り、相手の接近を阻んでいた。もう片方の手には、クナイのような形と大きさに整えた魂気の刃を、指の間に1本ずつ握り込み、隙あらばいつでも投げ放たんとばかりに、半身に構えて奥に引いた体の脇に添えていた。
「ちょっと何なのよ、こいつ。モンスター⁉︎」
ティルと対峙する影の主は、身の丈2メートルほどで、一見すると人間とさほど変わらない容姿をしている。しかし、左右の前腕から骨が隆起して形成された、巨大な三日月のような形の刃が、異形の存在であることを物語っていた。
顔中に包帯を巻きつけたような覆面の隙間からは、夜行性の肉食獣を思わせる赤黒い眼光が覗いており、額には、これまた三日月の形をしたエンブレムが、トレードマークであるかのように取り付けられている。
「このロンカ様の邪魔をするな小娘!まずはお前から食らってやろうか!」
荒々しい声を張り上げて、両腕の刃を振り回し、執拗にティルとの距離を詰めようとする。
「しつこいヤツは、モテないよ!」
ティルも光のムチで牽制し、接近を許さない。
比較的人間に近い姿で、中には言葉を交わすこともできる個体も存在しながら、魔獣が決して人間と相容れない理由。それは、本能に由来する人間への敵意に加え、彼らが好んで人間を食する習性を持っているためであった。特に、一部の種族は人間を食することで自らの力や知性を高めることができる性質を備えており、同胞と競ってまで人間を襲うことは、彼らにとっては互いを高め合う行為そのものなのである。
「(さっき逃げた人たちは、無事かな?)」
ティルはロンカへの警戒を緩めないように気をつけながらも、時々、背後の様子を気にかけた。
戦いに巻き込まれないほどに離れた位置に、取り残された1人の男性がうずくまっている。彼はロンカに襲われて足を怪我し、動けなくなっており、不安そうに成り行きを見守っている。
ティルは実家を出てから、気の赴くままに一日中飛び続け、夜も近づいてきたため町明かりの見える方に向かっていたところ、旅の商人一行がロンカに襲われているのを発見したのだった。
「お前さえ現れなければ、他の奴らに逃げられず、もっとたくさんの人間が食えたものを。
落とし前はつけてもらうぞ!」
怒りがぶり返したのか、憎々しげに赤黒い目を大きく見開くと、刃を高々と振り上げ、無造作に、力任せに突っ込んできた。
「雑になってるよ。」
ティルは、迫り来るロンカの姿全体を見据えると、上体を大きくしならせ、勢いをつけて旋回させる。右手に握った光のクナイを放ち、カウンター気味にロンカの体に突き立てた。
「ぬおお⁉︎」
ロンカがたじろいだところで、光のムチをその体に巻きつけ、動きを封じると、ムチとつながる指先に意識を集中。捉えた相手の体に自身の魂気を一気に叩き込んだ。
「『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』!」
「ぐあああぁ!」
ロンカの全身から火花が上がり、夕闇を照らすと、糸が切れた人形のように、ドサリと崩れ落ちた。明かりが落ちるように、その目は光を失っていた。
「やった!訓練より全然楽勝。そうだ、怪我人の手当てをしなきゃ。」
勝利の余韻に浸ることもなく、ティルは、パタパタと取り残された男性の方に駆け寄った。
そこへ、先に逃げた商人からの通報を経て、モンスターフォースからの依頼を受けて現場に急行していたメタルとマリオが到着する。
自分と同い年くらいと思われる少女が、すでにモンスターを打ち倒しているのを目の当たりにして、メタルはすぐに状況を飲み込めずにいた。
「どうなってんだ、これ?あの子は一体?」
「うーん、この場合は遂行業務は、身柄の確保だけになるのかな?」
マリオもどうしたらいいのか、困っている様子だ。
いつの間にか太陽は山の向こうにすっかり姿を隠し、闇夜が訪れた。
突如として、倒れ込んだロンカの体から、蝋燭の炎のような、怪しい光の揺らめきが上がった。魔獣のみが発することができるオーラ、魔力である。
「この気配は、魔力⁉︎」
メタルはロンカを凝視した。
少女によりつけられた傷がみるみるうちに塞がっていき、一度は枯れた草花が再び生命力を取り戻したかのように、ゆっくりと身を起こすではないか。
刹那、ロンカは腕の刃に魔力を纏わせて構えると、獲物を見つけた猟犬の如く駆け出し、怪我人の手当てを続けているティルに、背後から襲いかかった。
「(まずい、気がついていない!)」
メタルも飛び出す。
一足遅れて殺気を感じたティルが振り返ると、目を血走らせ飢えた獣のような形相のロンカが目の前に迫っていた。
「(うそ、やだ、何で⁉︎ダメだ、間に合わない、ヤバ・・・)」
防御の姿勢をとることも、怪我人を置いて避けることもできない。
思わず目を閉じそうになるが、次の瞬間、空を掻き切るような鋭いが耳を突き抜けた。
「『ソニックスラッシャー』!」
メタルが振るった剣が空を裂くと、太刀筋がオーラで形成された光り輝く刃となり、狙いを定めた標的へと撃ち放たれた。
命中。
青黒い魔獣の鮮血と共に、斬り落とされたロンカの腕が宙を舞っている。
ロンカは苦悶の声を漏らしながら、肩口をおさえ、その足を止めている。
その隙に駆けつけたメタルが、ティルとロンカの間に割って入った。
「大丈夫か⁉︎立てるな?」
ティルのことを気にかけながらも、目の前の敵から目を切らさずに剣を構えている。
「(さっきのはこの人がやったの?私、助かった⁉︎)」
ティルは月明かりに照らし出された少年の姿を、思わずまじまじと眺めた。背格好からして自分とさほど変わらない年頃、つんと無造作に跳ねた黒髪、体の線はまだ年相応と言った感じだが、ゆったりとしなやかでありながらも、腰を低く落として力強く構える姿は、さしずめヤマネコやヒョウを彷彿とさせた。
胸が静かに高鳴る。
「メタルさん、気をつけて!そいつは手配モンスターロンカ、『月影族』です。」
マリオが緊迫した面持ちで声を上げた。
「え、マジか!」
「月影族⁉︎」
ティルは事態がまだ飲み込めていない。
月影族は、モンスターの中でも、危険度Aに分類される警戒対象種族として知られていた。
夜になると、体中の細胞が活性化して戦闘力が飛躍的に向上するだけでなく、強力な再生力までもが備わる。そのため、別名、夜の支配者とも呼ばれているのだった。
「その通りだ、人間ども。この俺のプライドを傷つけた罪は重い。死んでもらうぞ!」
ロンカが声を荒げる。メタルが切り飛ばした右腕の切断面は、すでにうごめく肉片で覆われており、早くも再生が始まっていることがわかる。
その異様な光景を見た一同は、固唾を飲むが、メタルは気持ちを切り替えたかのように勢いよく飛び出し、ロンカに斬りかかった。
ロンカが残った左腕の刃で受け止め、互いににらみ合いながらのつば競り合いが始まる。
「勝手に傷ついてろよ、月影族か何か知らないけど、セリフはいかにも下っ端だぜ。」
軽口を叩いてみせるが、額には汗がにじむ。
腕の再生が終わる前にケリをつけようと、接近戦を仕掛けたものの、力押しでは分が悪そうだ。
「ほざけ。」
覆面からのぞくロンカの目が強く明滅する。
「(何か来る!)」
一筋の熱を帯びた光がメタルの肩をかすめた。
ロンカの目から怪光線が放たれたのだった。
咄嗟に反応して直撃を避けることができたが、たまらず距離をとる。
「逃がさん!」
ロンカは、間髪を入れずに次々と光線を打ち込む。
メタルは軽やかな身のこなしで、それを避け続けるが、このままでは防戦一方だった。
さらに、ロンカの纏った包帯のような覆面の一部がシルルと音を立てて解けると、まるで何かに操られたかのように宙をうごめき出した。うっすらと赤い光を帯びている。ロンカの魔力が通っているのだろう。
何本ものうごめく生地が、メタルの周囲をまるで獲物を睨め回す毒蛇のように取り囲み、隙あらば噛みつかんとばかりに、時折襲いかかる。
払いのけるのに気を取られそうになると、ここぞとばかりに怪光線が撃ち込まれる。
メタルも、掌に魂気を集め、それをまるで光の弾丸のように撃ち出して、反撃を試みている。光弾が時折ロンカに命中して炸裂するが、ほとんど怯む様子がない。
「(あんまり効いてないな、さっきよりヤツの力が増している。夜になって時間が経ったからか?全力の一撃を、何とかして叩き込まないと。)」
斬り落としたはずの腕もすでに生え変わりつつある。
息を切らしながらロンカの猛攻をしのぎ続ける少年の姿を、ティルは手に汗を握り見守っていた。
「(このままじゃ危ない。私も何かしなきゃ。)」
ここからクナイを飛ばしても、恐らく有効打にならない。怪光線が飛び交っているため、ムチの射程まで近づくこともできない。
どうすれば。
必死で考えるうちに、不意にまた背中が熱くなった。
「(そうだ、今の私には、コレがあるんだ。)」
意識を集中して、魂気を練り上げると、その輝きが背中に集まり、再び光輝く翼を形作ることができた。
「やった!」
思わず小さくガッツポーズ。
そのとき、ロンカの勝ち誇ったような、野太い笑い声が響き渡った。
「グハハハ!ついに捕まえたぞ、コレで終わりだ!」
魔力を帯びた生地が、ついにメタルの右手首をとらえて巻きとった。
「(まずい!怪光線が来る!)」
剣を持っている方の手を封じられ、メタルの顔にも焦りが浮かぶ。
ロンカの覆面の奥の瞳が、赤く明滅する。
それを見たティルは刹那、意を決したように翼を思い切り羽ばたかせ、ロンカの方へ向かってハヤブサのごとく飛び出した。
こうなったらもう止まれない。この後どうしよう。もう、やぶれかぶれ。
「こんなヤツ、こうだ!」
勢いそのままに飛び込むと、不気味に光を放つロンカの頬に、なんとグーパンチをお見舞いした。
顔をはね上げられて狙いがそれた怪光線が、虚空を切った。
手首を封じていた布が緩んだ隙に、メタルはロンカから距離をとると、体勢を立て倒して再び剣を構えた。
ティルは勢い余って地面を転がり、少し頭を打ったが、すぐに起き上がり、フッと一息、呼吸を整えた。
「助かった、ありがとう。オレはメタル。君も戦えるか?」
メタルが手短に確認する。
「ティル。こっちこそ、さっきはありがとう。
一緒にあいつやっつけよう!」
ティルの瞳が力強く輝く。
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