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赤い月夜の出会い
第4章 赤い月夜を裂く
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「(こんなはずじゃなかった。人間を襲って、もしも例のものが手に入ることがあれば、報酬を渡すというだけの話だったはずだ。あの人間のジジイ、ドグマハートとか言いやがったか。)」
ロンカは、自分を焚き付けた人物のことを思い出していた。
「(わざわざ縄張りを離れて、骨董品やレアアイテムを持ってそうな奴らに狙いをつけて襲い続けて、ようやくコレを見つけたってのに。
ついでに腹ごしらえもできるところだったのに、とんだ邪魔が入りやがった、忌々しい。)」
目の前で構えている少年と少女を憎々しげに睨みつけながら、先ほど殴られた頬に自ら爪を突き立て、掻きむしった。
「(まぁいい、こいつらの方が生きがよくて食いごたえがありそうだ。コケにしてくれた礼をたっぷりした後、食い散らかしてくれる!)」
「『ブラッディクロス』!」
メタルとティルの方へと、魔力を通わせた覆面の布を伸ばしてきた。
「させるか、『ソニックスラッシャー』!」
メタルは剣を振るい魂気の斬撃波を飛ばして、今度は布が届くよりも早く、バラバラに切り裂いた。
同時にティルが上空へと飛翔、光の翼が尾を引き、夜空を彩る。
ティルはロンカの頭上を飛び回りながら、魂気のクナイを次々と投げつけて撹乱した。
「鬱陶しい蛾め!」
ロンカは怒り狂って、怪光線を乱射する。
交錯する赤い光に筋が夜空をバラバラ切り裂いたが、ティルはその間隙を縫うように縦横無尽に飛び回り、見事にかわし続けた。
「失礼ね、せめて蝶って言いなさいよ。」
ロンカの横をすり抜けながら、クナイだけでなく、軽口までたたき込む。
「この程度の刃で、オレを倒せるものか。夜の支配者、月影族の力を甘く見るな!」
「わかってるよ。脇がガラ空きだぜ。」
完全に上空に意識が向いていたロンカの横に回ったメタルが、大上段に構えていた剣を思い切り地面に振り下ろした。
「『アースクラッシュ』!」
地面が割れ、吹き出した爆炎がロンカの体を包んだ。
「ごああっ!」
苦悶の声を上げてのけぞった。
「(効いている。いくら力が増して、再生力まで上がっているといっても、痛みは感じているみたいだし、大技は通る。不死身じゃない。
・・・でも!)」
ロンカは倒れない。
態勢を立て直しざま、地面をズシリと踏み抜き、空気を揺らした。
「(やっぱり、さらに力が増している。これ以上夜が深くなったら、手がつけられなくなるかもしれない。)最大の一撃を、直接に急所にたたき込まないと。」
「任せて!」
メタルの言葉を聞いたティルが、何かを思いついたようだ。
怪光線をかいくぐり、ロンカの背後をとると、急降下。ムチの届く距離まで一気に間合いを詰めようとした。今一度、『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』を決めるために。
『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』はキサラギ忍軍当主にのみ代々伝えられる必殺技の型の1つで、敵の弱点となる部分を正確にとらえるほどに、爆発的に威力を増すという特性を備えていた。
「(さっきのムチを胴体に巻き付けた状態での『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』じゃ、こいつを倒しきれなかった。今度は心臓を狙う!)」
ティルはムチの先端に魂気を集中し、針のような鋭さを持たせた。
「(ロンカの左胸にムチの先を突き立てて、『雀蜂の一撃(ホーネットスパーク)』を決めれば、さっきとは比較にならない威力が出せるはず。」
ロンカの背後から近づいたところで急旋回、正面に回り込むと、ムチの鋭い先端を、左胸目掛けて打ち込んだ。
「危ないティル!下がるんだ!」
メタルの叫び声。
ロンカの全身が、赤く明滅し始めていた。
寸手のところでティルも異変に気がつき、咄嗟に後退して距離をとった。
次の瞬間、ロンカの背中から人の頭ほどの大きさの、真っ赤な光の玉が、上空に向けて撃ち出された。高密度な魔力の塊である。
赤い魔力の玉は、ロンカの頭上で宙に浮かんだまま静止すると、静かに明滅し、怪しい輝きを放ち始めた。まるで赤い月が夜空にもう一つ現れたかのようである。
「逃げ場はないぜ、ガキども、『ブラッディムーン』!」
赤い光球から、怪光線がまるで嵐のように、四方八方へと撃ち出された。
「うそ⁉︎」
「まずい!」
あた一面の景色が赤く染まり、土煙が立ち込めた。
「見たかぁ!コレが夜の支配者、月影族の真骨頂だ!かなりの魔力を使っちまったが、無事では済むまい!」
ロンカの高笑いがあたりに響きわたった。
「・・・ぐ!」
「うう・・・」
やがて、土煙が晴れると、そこには傷ついたメタルとティルの姿があった。
各々、急所への直撃こそ免れていたものの、光線の雨を避け切ることはできず、おびただしい出血が見られる。
光線がかすめて皮膚を焼き切られた傷の数は、数え切れないほどで、体中をうずくような痛みが襲ってきた。膝が震え、意識が遠くなりそうなのをどうにかこらえ、肩で息をしながら立ち上がろうとしている。
2人とも、実戦でここまでのダメージを負い、追い詰められるは初めてのことであった。
「これが、A級モンスター・・・!
世界にはまだ、他にもこんなヤツがいるのか⁉︎」
メタルの頭を、故郷に暮らす母親と、弟、妹の姿がよぎった。本格的にハンターの仕事を始めてからは、なかなかゆっくり故郷で過ごせる機会も限られているが、片時も忘れたことはない。
「(絶対に守りたい。オレ1人の力だけじゃダメかもしれない。でも・・・!)」
次いで、横で立ち上がりつつあるティルに視線を移した。
「(なんだか乗り切れそうな気がする、この子となら。仲間と一緒に戦うって、こういう感じなのかな。)」
1人じゃないと思うだけで、不思議と体中に力が湧いて来た。
ティルは、立ち上がりながら自らの怪我の具合を確かめていた。
「(いたた・・・!家を飛び出して、最初の日にこんなことになるなんて、私今日、誕生日だよね⁉︎世間の荒波つらすぎるよぉ。)」
次いで、頭に浮かんだのは、それ見たことか、とばかりに説教を垂れ、訓練の追加メニューを高らかに伝えるジルの姿だった。
もしも音を上げて家に戻ったら、きっとこんな感じだろうな。
「(絶対、後悔なんかしてやんない。訓練より痛いけど、怖くなんか!ない!)」
隣で呼吸を整えながら、剣を構え直すメタルの姿に目を向けた。
心臓が強く脈を打つのが感じられる。何だか前を向いて戦えるような気がしてきた。
2人の視線が交錯した。
メタルは、ロンカが『ブラッディムーン』を放つ直前に、ティルが急降下しながら何かを仕掛けようとしていたことを思い返した。
「ねえ、さっき何かやろうとしてたよね。勝算は?」
「(!ちゃんと見ててくれた。)えっと、五分五分ってところだけど、ううん!(多分)大丈夫!」
こんな時なのに、何故か胸が躍りさえする。そんな自分に対する違和感が、何だか楽しくなってきた。あれ、血が出過ぎたのかな?
「五分五分か、十分だ!もう1回頼める?次は、オレも合わせるから。」
言うが早いか、メタルは剣を構えながらロンカに向かって走り出した。もう一度接近戦を挑むつもりだ。
「(頼まれちゃった!簡単に言ってくれるなぁ。)
任せて!」
ティルも今一度、翼をはためかせて夜空を駆ける一筋の流星となった。
先陣を切ったメタルを、ロンカが正面から迎え撃った。
「何をするつもりかは知らないが、上空のハエは無視だ!まずは確実にお前から血祭りに上げてやる!」
怪光線や魔力を帯びた生地で牽制することもなく、両腕の刃をいつでも振り出せるように構えている。
「(力押しなら絶対に遅れをとることはないと、タカをくくってるな。好都合だ。長くはもたないけど、こいつで押し切る!)
『エナジーセイバー』出力全開!」
メタルの光の剣の輝きが強くなり、刀身の周囲にはあふれ出る魂気が爆ぜるように火花を散らしていた。
通常は、防御力や体力の維持に回しているオーラを、剣に上乗せすることで出力を高める、短期決戦用の切り札であった。
「はああぁーー!」
メタルが刃を渾身の力をこめて振り下ろす。
「無駄だコゾウ!この距離はお前にとって、死の間合いだと言うことが、まだ分からないか!」
ロンカが右腕を振り上げてメタルを迎撃。
両者の刃が衝突した。
バキッと乾いた音が響く。
「バカな!」
出力を最大にまで上げたメタルの剣が、ロンカの刃をへし折った。
「(行ける!いや、それでもヤツの再生力は侮れない。出力全開の剣でも倒しきれなかったら、後がない。オレ1人じゃ、賭けに出ることができなかった。けど!ティルがいるなら話は別だ!)」
息を切らしながらも立て続けに剣を全力で振り抜く。切先が体をかすめるたびに、ロンカは後退するが、それでも再生力とタフネスに物を言わせて、踏みとどまっていた。
しかし、メタルの突撃の威力はロンカにとって予想以上で、防戦に立たされたことへの憤りを露わにした。
「おのれ!ならば、体に風穴をあけてやるわ!」
覆面の奥が明滅し始める。怪光線でのカウンターを狙っていた。
そのとき、まるで打ち上げ花火のクライマックスのように空が明滅し、炸裂音とともに無数の光弾が嵐のようにロンカの体に降り注ぎ、火花を散らした。上空にいるティルが、光の翼から魂気の羽根を弾丸のように掃射し、ロンカを狙い撃ちにしたのだ。
「『ジャッジメントレイン』!
私のこと、忘れてたでしょ⁉︎
(ぶっつけだけど、出来た!)」
「ぬおおっ!」
その威力は飛びクナイによる牽制とは比較にならず、ロンカを一瞬怯ませ、怪光線の発射を中断させた。
「クソがぁ!調子に乗るな!そんなに死にたければ、もう一度こいつをくれてやる!」
ロンカの全身が赤く明滅し始める。もう一度、『ブラッディムーン』を発動するつもりだ。
「(今度アレを繰り出されたら、確実に終わりだ!)」
大上段に剣を構えて振り上げ、メタルはロンカの頭上から飛び込んだ。
ロンカの体の明滅が激しくなる。
「(メタルが勝負に出た!私もここで決める!)」
ティルも彗星の如く上空から急降下し、オーラを集中させたムチの先端をロンカの左胸目掛けて撃ち込んだ。
「『アースクラッシュ』!」
「『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』!」
魔力の塊を上空に打ち出すよりも一歩早く、メタルの渾身の振り下ろしがロンカの脳天に撃ち込まれ、同時に、ティルの全霊のオーラが、心臓へと注ぎ込まれた。
眩いばかりの閃光が闇夜を照らし上げ、辺りには轟音と土煙に包まれた。
やがて視界が晴れ、静寂が訪れる。
マリオは、密かに怪我をして取り残された商人を連れ、離れた岩場の陰から、戦いを見守っていた。
「うわあ、すごい衝突だったけど、一体どうなったんだ⁉︎メタルさんは⁉︎」
恐る恐る、顔をのぞかせる。
そこにあった光景は・・・
頭と心臓を同時に叩き潰され、さしもの夜の月影族の再生能力を持ってしても立ち上がれなくなり、屍のように地面に突っ伏したまま動かなくなったロンカ。
そして、全ての力を使い切り、傷だらけになりながらも、互いの握り拳を突き合わせ、笑顔を交わす、メタルとティルの姿であった。
その様子は、力を合わせて難敵を撃ち破った喜びを言葉にするよりも早く、心が通い合ったことを確かめ合っているかのようだった。
このとき、忍び寄る影の存在を、2人はまだ知る由もなかった。
ロンカは、自分を焚き付けた人物のことを思い出していた。
「(わざわざ縄張りを離れて、骨董品やレアアイテムを持ってそうな奴らに狙いをつけて襲い続けて、ようやくコレを見つけたってのに。
ついでに腹ごしらえもできるところだったのに、とんだ邪魔が入りやがった、忌々しい。)」
目の前で構えている少年と少女を憎々しげに睨みつけながら、先ほど殴られた頬に自ら爪を突き立て、掻きむしった。
「(まぁいい、こいつらの方が生きがよくて食いごたえがありそうだ。コケにしてくれた礼をたっぷりした後、食い散らかしてくれる!)」
「『ブラッディクロス』!」
メタルとティルの方へと、魔力を通わせた覆面の布を伸ばしてきた。
「させるか、『ソニックスラッシャー』!」
メタルは剣を振るい魂気の斬撃波を飛ばして、今度は布が届くよりも早く、バラバラに切り裂いた。
同時にティルが上空へと飛翔、光の翼が尾を引き、夜空を彩る。
ティルはロンカの頭上を飛び回りながら、魂気のクナイを次々と投げつけて撹乱した。
「鬱陶しい蛾め!」
ロンカは怒り狂って、怪光線を乱射する。
交錯する赤い光に筋が夜空をバラバラ切り裂いたが、ティルはその間隙を縫うように縦横無尽に飛び回り、見事にかわし続けた。
「失礼ね、せめて蝶って言いなさいよ。」
ロンカの横をすり抜けながら、クナイだけでなく、軽口までたたき込む。
「この程度の刃で、オレを倒せるものか。夜の支配者、月影族の力を甘く見るな!」
「わかってるよ。脇がガラ空きだぜ。」
完全に上空に意識が向いていたロンカの横に回ったメタルが、大上段に構えていた剣を思い切り地面に振り下ろした。
「『アースクラッシュ』!」
地面が割れ、吹き出した爆炎がロンカの体を包んだ。
「ごああっ!」
苦悶の声を上げてのけぞった。
「(効いている。いくら力が増して、再生力まで上がっているといっても、痛みは感じているみたいだし、大技は通る。不死身じゃない。
・・・でも!)」
ロンカは倒れない。
態勢を立て直しざま、地面をズシリと踏み抜き、空気を揺らした。
「(やっぱり、さらに力が増している。これ以上夜が深くなったら、手がつけられなくなるかもしれない。)最大の一撃を、直接に急所にたたき込まないと。」
「任せて!」
メタルの言葉を聞いたティルが、何かを思いついたようだ。
怪光線をかいくぐり、ロンカの背後をとると、急降下。ムチの届く距離まで一気に間合いを詰めようとした。今一度、『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』を決めるために。
『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』はキサラギ忍軍当主にのみ代々伝えられる必殺技の型の1つで、敵の弱点となる部分を正確にとらえるほどに、爆発的に威力を増すという特性を備えていた。
「(さっきのムチを胴体に巻き付けた状態での『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』じゃ、こいつを倒しきれなかった。今度は心臓を狙う!)」
ティルはムチの先端に魂気を集中し、針のような鋭さを持たせた。
「(ロンカの左胸にムチの先を突き立てて、『雀蜂の一撃(ホーネットスパーク)』を決めれば、さっきとは比較にならない威力が出せるはず。」
ロンカの背後から近づいたところで急旋回、正面に回り込むと、ムチの鋭い先端を、左胸目掛けて打ち込んだ。
「危ないティル!下がるんだ!」
メタルの叫び声。
ロンカの全身が、赤く明滅し始めていた。
寸手のところでティルも異変に気がつき、咄嗟に後退して距離をとった。
次の瞬間、ロンカの背中から人の頭ほどの大きさの、真っ赤な光の玉が、上空に向けて撃ち出された。高密度な魔力の塊である。
赤い魔力の玉は、ロンカの頭上で宙に浮かんだまま静止すると、静かに明滅し、怪しい輝きを放ち始めた。まるで赤い月が夜空にもう一つ現れたかのようである。
「逃げ場はないぜ、ガキども、『ブラッディムーン』!」
赤い光球から、怪光線がまるで嵐のように、四方八方へと撃ち出された。
「うそ⁉︎」
「まずい!」
あた一面の景色が赤く染まり、土煙が立ち込めた。
「見たかぁ!コレが夜の支配者、月影族の真骨頂だ!かなりの魔力を使っちまったが、無事では済むまい!」
ロンカの高笑いがあたりに響きわたった。
「・・・ぐ!」
「うう・・・」
やがて、土煙が晴れると、そこには傷ついたメタルとティルの姿があった。
各々、急所への直撃こそ免れていたものの、光線の雨を避け切ることはできず、おびただしい出血が見られる。
光線がかすめて皮膚を焼き切られた傷の数は、数え切れないほどで、体中をうずくような痛みが襲ってきた。膝が震え、意識が遠くなりそうなのをどうにかこらえ、肩で息をしながら立ち上がろうとしている。
2人とも、実戦でここまでのダメージを負い、追い詰められるは初めてのことであった。
「これが、A級モンスター・・・!
世界にはまだ、他にもこんなヤツがいるのか⁉︎」
メタルの頭を、故郷に暮らす母親と、弟、妹の姿がよぎった。本格的にハンターの仕事を始めてからは、なかなかゆっくり故郷で過ごせる機会も限られているが、片時も忘れたことはない。
「(絶対に守りたい。オレ1人の力だけじゃダメかもしれない。でも・・・!)」
次いで、横で立ち上がりつつあるティルに視線を移した。
「(なんだか乗り切れそうな気がする、この子となら。仲間と一緒に戦うって、こういう感じなのかな。)」
1人じゃないと思うだけで、不思議と体中に力が湧いて来た。
ティルは、立ち上がりながら自らの怪我の具合を確かめていた。
「(いたた・・・!家を飛び出して、最初の日にこんなことになるなんて、私今日、誕生日だよね⁉︎世間の荒波つらすぎるよぉ。)」
次いで、頭に浮かんだのは、それ見たことか、とばかりに説教を垂れ、訓練の追加メニューを高らかに伝えるジルの姿だった。
もしも音を上げて家に戻ったら、きっとこんな感じだろうな。
「(絶対、後悔なんかしてやんない。訓練より痛いけど、怖くなんか!ない!)」
隣で呼吸を整えながら、剣を構え直すメタルの姿に目を向けた。
心臓が強く脈を打つのが感じられる。何だか前を向いて戦えるような気がしてきた。
2人の視線が交錯した。
メタルは、ロンカが『ブラッディムーン』を放つ直前に、ティルが急降下しながら何かを仕掛けようとしていたことを思い返した。
「ねえ、さっき何かやろうとしてたよね。勝算は?」
「(!ちゃんと見ててくれた。)えっと、五分五分ってところだけど、ううん!(多分)大丈夫!」
こんな時なのに、何故か胸が躍りさえする。そんな自分に対する違和感が、何だか楽しくなってきた。あれ、血が出過ぎたのかな?
「五分五分か、十分だ!もう1回頼める?次は、オレも合わせるから。」
言うが早いか、メタルは剣を構えながらロンカに向かって走り出した。もう一度接近戦を挑むつもりだ。
「(頼まれちゃった!簡単に言ってくれるなぁ。)
任せて!」
ティルも今一度、翼をはためかせて夜空を駆ける一筋の流星となった。
先陣を切ったメタルを、ロンカが正面から迎え撃った。
「何をするつもりかは知らないが、上空のハエは無視だ!まずは確実にお前から血祭りに上げてやる!」
怪光線や魔力を帯びた生地で牽制することもなく、両腕の刃をいつでも振り出せるように構えている。
「(力押しなら絶対に遅れをとることはないと、タカをくくってるな。好都合だ。長くはもたないけど、こいつで押し切る!)
『エナジーセイバー』出力全開!」
メタルの光の剣の輝きが強くなり、刀身の周囲にはあふれ出る魂気が爆ぜるように火花を散らしていた。
通常は、防御力や体力の維持に回しているオーラを、剣に上乗せすることで出力を高める、短期決戦用の切り札であった。
「はああぁーー!」
メタルが刃を渾身の力をこめて振り下ろす。
「無駄だコゾウ!この距離はお前にとって、死の間合いだと言うことが、まだ分からないか!」
ロンカが右腕を振り上げてメタルを迎撃。
両者の刃が衝突した。
バキッと乾いた音が響く。
「バカな!」
出力を最大にまで上げたメタルの剣が、ロンカの刃をへし折った。
「(行ける!いや、それでもヤツの再生力は侮れない。出力全開の剣でも倒しきれなかったら、後がない。オレ1人じゃ、賭けに出ることができなかった。けど!ティルがいるなら話は別だ!)」
息を切らしながらも立て続けに剣を全力で振り抜く。切先が体をかすめるたびに、ロンカは後退するが、それでも再生力とタフネスに物を言わせて、踏みとどまっていた。
しかし、メタルの突撃の威力はロンカにとって予想以上で、防戦に立たされたことへの憤りを露わにした。
「おのれ!ならば、体に風穴をあけてやるわ!」
覆面の奥が明滅し始める。怪光線でのカウンターを狙っていた。
そのとき、まるで打ち上げ花火のクライマックスのように空が明滅し、炸裂音とともに無数の光弾が嵐のようにロンカの体に降り注ぎ、火花を散らした。上空にいるティルが、光の翼から魂気の羽根を弾丸のように掃射し、ロンカを狙い撃ちにしたのだ。
「『ジャッジメントレイン』!
私のこと、忘れてたでしょ⁉︎
(ぶっつけだけど、出来た!)」
「ぬおおっ!」
その威力は飛びクナイによる牽制とは比較にならず、ロンカを一瞬怯ませ、怪光線の発射を中断させた。
「クソがぁ!調子に乗るな!そんなに死にたければ、もう一度こいつをくれてやる!」
ロンカの全身が赤く明滅し始める。もう一度、『ブラッディムーン』を発動するつもりだ。
「(今度アレを繰り出されたら、確実に終わりだ!)」
大上段に剣を構えて振り上げ、メタルはロンカの頭上から飛び込んだ。
ロンカの体の明滅が激しくなる。
「(メタルが勝負に出た!私もここで決める!)」
ティルも彗星の如く上空から急降下し、オーラを集中させたムチの先端をロンカの左胸目掛けて撃ち込んだ。
「『アースクラッシュ』!」
「『雀蜂の一刺し(ホーネットスパーク)』!」
魔力の塊を上空に打ち出すよりも一歩早く、メタルの渾身の振り下ろしがロンカの脳天に撃ち込まれ、同時に、ティルの全霊のオーラが、心臓へと注ぎ込まれた。
眩いばかりの閃光が闇夜を照らし上げ、辺りには轟音と土煙に包まれた。
やがて視界が晴れ、静寂が訪れる。
マリオは、密かに怪我をして取り残された商人を連れ、離れた岩場の陰から、戦いを見守っていた。
「うわあ、すごい衝突だったけど、一体どうなったんだ⁉︎メタルさんは⁉︎」
恐る恐る、顔をのぞかせる。
そこにあった光景は・・・
頭と心臓を同時に叩き潰され、さしもの夜の月影族の再生能力を持ってしても立ち上がれなくなり、屍のように地面に突っ伏したまま動かなくなったロンカ。
そして、全ての力を使い切り、傷だらけになりながらも、互いの握り拳を突き合わせ、笑顔を交わす、メタルとティルの姿であった。
その様子は、力を合わせて難敵を撃ち破った喜びを言葉にするよりも早く、心が通い合ったことを確かめ合っているかのようだった。
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これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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