​『無限供給チートで異世界の魔力源になった俺、出力過多で世界の常識を破壊する 〜聖女たちが空のポリタンクを持って行列を作っています〜』

まさき

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第3話:優雅な支配者と、裏側の渇望

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​営業エースの聖女が、十リットルのポリタンクという、彼女のプライドを形にしたような「物欲の塊」を抱えて俺の前に膝をついてから、数日。
『絶望の森』の静寂を破る、新たな客の気配があった。
​だが、今度の足音は前回のなりふり構わぬものとは違う。
カツ、カツ、と一定のリズムを刻む、硬く、計算されたヒールの音。
それは魔物の住処に足を踏み入れる者のそれではなく、まるで高級ホテルの廊下でも歩いているかのような、場違いなほど優雅な響きだった。
​「……失礼いたします。ここが、あの『光の源泉』の方の居室で間違いないかしら?」
​古びた小屋のドアが、迷いのない所作で開け放たれる。
差し込んできた月光を背に立っていたのは、テレビのニュース番組で「次代を担う若手リーダー」と持て囃されている、あの地方議員の聖女だった。
​乱れのない夜会巻きの髪。
シワ一つない上質なタイトスーツは、彼女の鍛えられた肢体の曲線を、あえて強調するように仕立てられている。
そして、顔には大衆を惹きつけるための、慈愛に満ちた完璧な「政治家スマイル」を貼り付けていた。
​「初めまして。私はこの地区の行政を預かっている者です。……貴方のような尊い力を持つ方が、このような不衛生な場所で過ごされていると聞き、保護に参りました」
​彼女はそう言うと、傍らに従えた私兵に、重厚な装飾が施された木箱を持たせた。
一見すれば、高価なヴィンテージワインを贈るような、極めて「公的」で「誠実」な挨拶の形。
​だが、彼女がその手に握っている『贈答用ボトル』が、実は内部に巨大な歪みを隠し持った**「裏魔力運搬用」**の特注品であることを、俺の『世界辞書』は見逃さなかった。
​《解析完了:対象は地方議員の聖女。表向きは慈愛を説いていますが、その本性は強欲。彼女の持つボトルは、外見からは想像できないほどの『中身』を飲み込むための異常な拡張魔法が施されています。……彼女は今、その空虚な器を、貴方の濃密なエネルギーで満たすことしか考えていません》
​俺は椅子に深くふんぞり返り、完璧な仮面を被った「政治家」の、スーツの下で激しく脈打つ鼓動を透かし見た。
​「保護、か。……その重厚なボトルの口を、俺の魔力で真っ白に汚してほしいという要望の、ずいぶんと遠回しな言い換えだな?」
​俺の言葉に、彼女の完璧なスマイルが、ほんの一瞬だけ艶っぽく歪んだ。


彼女は優雅な仕草で、私兵に持たせていた木箱を俺の前の机に置かせた。
「これはこの地の名産で作られた最高級のヴィンテージワインです。貴方のような素晴らしい方への、私からのささやかな敬意だと思って受け取ってくださいな」
​慈愛に満ちた微笑み。だが、その瞳の奥には、俺を「自分の政治的駒」として利用しようとする計算高い光が透けて見える。
俺は椅子に深くふんぞり返ったまま、その木箱に手を触れることもせず、脳内で『世界辞書』を起動した。
​【鑑定対象:特注式・偽装隠蔽ボトル(贈答ケース仕様)】
【詳細:外見は四合瓶程度のワインボトルだが、内部空間を魔導縮小術式で極限まで拡張。実際にはドラム缶数本分のエネルギーを圧縮貯蔵可能。政治家が、公にできない「裏の魔力」を運搬・贈収賄するために、地下組織に特注させた禁制品。】
【現在の内容量:〇・〇一パーセント(空虚寸前)】
​「……名産ワイン、ね。随分と重厚な『器』じゃないか。議員さん」
​俺がニヤリと笑うと、彼女の眉が微かに動いた。その完璧な表情に、僅かな亀裂が入る。
​「ええ、特別な日のためのものですから。……それより、貴方のその魔力、適切に管理しなければ世界にとっての脅威となり得ます。私なら、それを正しく『社会貢献』のために活用する道を用意できますわ。例えば、次回の予算で――」
​「予算? 間に合うのかよ。……明日の朝、監査が入るんだろ? 議員聖女」
​俺が短くそう告げた瞬間。
彼女の顔から、血の気が一気に引いていくのが見えた。完璧だった政治家スマイルが、ピキピキと音を立てて崩れ落ちる。
​「……な、何を……仰っているのか、理解できかねますが」
​彼女は、聖女としての矜持をかろうじて保とうと、ひきつった笑みを貼り付けた。だが、その声は微かに震えている。
​「とぼけんなよ。お前、政敵を蹴落とすための裏金……いや、『裏の魔力』をバラ撒きすぎて、公的な備蓄分まで使い込んだな? このボトルに魔力をパンパンに詰めて、明日の朝までに金庫に戻さなきゃ、お前の政治生命は終わりだ。……違うか?」
​俺の言葉が、彼女の核心を抉る。
完璧だったはずの政治家スマイルは完全に消え失せ、冷や汗が額に滲み始めた。
彼女の震える指先が、その『ワインボトル』の首を、まるで溺れる者が藁をも掴むように強く握りしめた。その空っぽの器が、彼女自身の空虚な内面を映し出しているかのように。 

「……っ!」
​彼女の喉が、ひきつったような音を立てた。
だが、そこは百戦錬磨の政治家。瞬時に呼吸を整え、剥がれかけた「余裕の仮面」を無理やり貼り直すと、射抜くような視線で俺を見据える。
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