昼は愛人、夜は妻の秘密

まさき

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灰色の回廊

第一話:雨の礼拝堂

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​第一話:雨の礼拝堂

​PM 2:00 微かな冒涜
​郊外の、今は使われていない古い礼拝堂。
埃の舞う光の中で、男と女は、祭壇の陰に身を隠すように重なり合っていた。
ステンドグラスを通った歪な七色の光が、二人の肌を毒々しく彩る。
​「……っ、……こんな場所で、なんてバチ当たりな……」
​女は乱れた衣服の隙間から、天井の十字架を仰ぎ見た。
男は女の言葉を嘲笑うように、その首筋に深く牙を立てた。
​「……神なんて、昼間の世界に置いてきた。……今は、俺だけを拝め」
​男の手は、女の意思を無視して、その身体を蹂ンプする。
ここでの男は、慈悲深い保護者ではない。
女を服従させ、その魂を汚すことに快感を覚える、冷酷な支配者だ。
女もまた、その「汚される」という事実に、背徳的な充足を感じていた。
​「……ああ、……いいわ。……私を、もっと汚して。……真っ黒に塗りつぶして……」
​礼拝堂に響くのは、祈りの言葉ではなく、獣のような喘ぎと、理性が崩壊していく音。
二人は、この神聖な場所を汚すことで、自分たちの「正しさ」を焼き尽くしていた。
​PM 7:00 純白の食卓
​家に戻れば、そこは清潔な「白」の世界だった。
女は、汚れ一つないエプロンを締め、温かいスープをボウルに注ぐ。
男はリビングで、クラシック音楽を聴きながら、穏やかに本をめくっていた。
​「……ご飯できたわよ。今日はお疲れ様」
​女の声は、鈴を転がすように清らかだ。
男は本を閉じ、女の腰を優しく、本当に優しく抱き寄せた。
​「……ありがとう。……君の顔を見ると、外の汚れがすべて洗い流されるようだ」
​男は、女の額に清らかな口づけをした。
昼間、あの礼拝堂で、彼女を組み伏せ、あんなに酷い言葉を投げかけた男とは、同一人物だとは到底思えない。
​「……ふふ。……私も、あなたに抱きしめられると、心が洗われるわ」
​二人は、白いテーブルクロスの上で、完璧な「夫婦」を演じる。
昼間に交わしたあの「汚れたセックス」など、この清廉な空間には一欠片も存在しないかのように。
​AM 1:00 鏡の深淵
​深夜、女は洗面所の鏡の前に立っていた。
男が贈ってくれた高級なクリームで、肌を丁寧に手入れする。
パジャマを脱げば、そこにはまだ、昼間の「男」が残した紅い跡が、火傷のように熱を持っている。
​(……ねえ、旦那様。……あなたは、どちらの私を愛しているの?)
​鏡の中の「妻」が、悲しげに問いかける。
同時に、心の奥底にいる「愛人」が、不敵に笑う。
​(……どちらも私よ。……汚されなければ、この清らかさを維持できない私。……壊されなければ、あなたを愛せない私)
​二人は、この「灰色の回廊」を歩き続ける。
昼と夜。
汚濁と清廉。
そのどちらが欠けても、彼らの「正気」は保てない。
​男が寝室から、女を呼ぶ優しい声が聞こえる。
女は、鏡の中の愛人を消し去り、また微笑む妻に戻って、闇の中へと歩き出した。
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