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第1話「運命の出会い——推しが、現実にいた」
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第1話「運命の出会い——推しが、現実にいた」
その子を見た瞬間、前世の記憶が全部蘇った。
黒髪。
黒目。
小柄で華奢な体に、不釣り合いなほど豊かな胸。
おしとやかに俯いて、それでも——芯の通った背筋。
「……嘘だろ」
私は思わず声に出していた。
魔王女エルヴィナともあろう者が、廃城の薄暗い一室で——完全に固まっていた。
「エルヴィナ様? どうかしましたか」
隣でアレンが呑気な声を出した。
うるさい。今それどころじゃない。
「……お前、名前は」
私は努めて冷静に、その子に向かって言った。
その子はゆっくりと顔を上げた。
黒目が、まっすぐに私を見た。
「……リナ、と申します」
声まで、良かった。
「エルヴィナ様、こいつが俺の妹です! リナ、こちらが——」
「黙れアレン」
「はい」
私はリナから目が離せなかった。
——前世の記憶の中に、この子がいた。
画面の中でしか会えなかった、あの子が。
「……神様」
私は心の中で呟いた。
「転生させてくれた理由が、ようやくわかった」
―――――――――――――――
少し、説明をしなければならない。
私の名前はエルヴィナ。
魔界を統べる魔王女だ。
金色の髪に青い瞳、魔界随一の美貌と権力を持つ——らしい。
らしい、というのは——私自身はそんなことより、別のことが気になっているからだ。
前世の私は、どこにでもいる普通の男だった。
仕事をして、飯を食って、家に帰ってアニメを見る。
それだけの人生だった。
唯一の生きがいは——深夜アニメだった。
特に、とあるアニメの黒髪ヒロイン。
小柄で清楚で芯が強くて——画面越しに何度「守りたい」と思ったかわからない。
そんな私がある日トラックに撥ねられて——気づいたら魔王女に転生していた。
体は女になった。
でも気持ちは完全に男のままだ。
「魔王女様を愛しています」とか言ってくる銀髪の騎士が捕まってきた時も——
(男やから無理やって……)
と内心で叫びながら、表面上は冷酷に「道具として使う」と言い放った。
それがおよそ一ヶ月前の話だ。
そして今日——魔界に攫われていたアレンの妹を救出しに来て。
私は、運命に出会った。
―――――――――――――――
「リナ、怪我はないか」
アレンが妹に駆け寄る。
「お兄ちゃん……来てくれたんだね」
リナの声が、少し震えた。
三ヶ月間、一人で閉じ込められていたのだ。
怖かっただろう。
辛かっただろう。
それでも——泣かなかった。
俯いて、唇を噛んで、それでも背筋を伸ばしていた。
(……強い子や)
私は胸の中で呟いた。
前世の推しと、顔だけじゃなくて——中身まで似ている。
「エルヴィナ様も、ありがとうございます」
リナが私に向かって、深々と頭を下げた。
「お兄ちゃんと一緒に来てくださって——そして私まで助けていただいて」
「……顔を上げろ」
私は努めて冷静に言った。
内心では——心臓が壊れそうになっていたが。
リナがゆっくりと顔を上げた。
黒目が、また私を見た。
「……礼には及ばない」
「でも——」
「及ばないと言った」
リナは少し驚いた顔をして——それから、小さく微笑んだ。
その笑顔が、致命傷だった。
(終わった)
私は静かに悟った。
完全に、終わった。
―――――――――――――――
帰り道、アレンが隣で話しかけてきた。
「エルヴィナ様、今日は本当にありがとうございました! やっぱりエルヴィナ様は最高です! 俺、改めてエルヴィナ様のことが——」
「うるさい」
「はい」
「お前の妹は——城に連れて帰る」
「え?」
「ハーフだろう。人間界に返しても危険だ。しばらく城で預かる」
アレンは少し考えてから——ぱっと顔を輝かせた。
「それじゃあ俺も——」
「お前は捕虜だ。城から出るな」
「はい」
私はリナの方をちらりと見た。
リナは静かに歩いている。
魔界の赤黒い景色の中で——その黒髪が、ひどく映えていた。
(前世の推しより、百倍可愛いやないか)
私は静かに、しかし確実に——堕ちていた。
「エルヴィナ様?」
アレンがまた話しかけてきた。
「なんだ」
「顔、赤くないですか」
「魔界の熱気だ」
「でも魔界はいつも——」
「うるさい」
「はい」
私は足を速めた。
後ろでリナが「エルヴィナ様、待ってください」と小さく言った。
その声だけで——また心臓が跳ねた。
(前世が男で本当によかった)
私は心の底からそう思った。
(この気持ちの意味が、ちゃんとわかるから)
―――――――――――――――
次話「回想——魔王女に転生した日から、騎士に口説かれ続けている件」
その子を見た瞬間、前世の記憶が全部蘇った。
黒髪。
黒目。
小柄で華奢な体に、不釣り合いなほど豊かな胸。
おしとやかに俯いて、それでも——芯の通った背筋。
「……嘘だろ」
私は思わず声に出していた。
魔王女エルヴィナともあろう者が、廃城の薄暗い一室で——完全に固まっていた。
「エルヴィナ様? どうかしましたか」
隣でアレンが呑気な声を出した。
うるさい。今それどころじゃない。
「……お前、名前は」
私は努めて冷静に、その子に向かって言った。
その子はゆっくりと顔を上げた。
黒目が、まっすぐに私を見た。
「……リナ、と申します」
声まで、良かった。
「エルヴィナ様、こいつが俺の妹です! リナ、こちらが——」
「黙れアレン」
「はい」
私はリナから目が離せなかった。
——前世の記憶の中に、この子がいた。
画面の中でしか会えなかった、あの子が。
「……神様」
私は心の中で呟いた。
「転生させてくれた理由が、ようやくわかった」
―――――――――――――――
少し、説明をしなければならない。
私の名前はエルヴィナ。
魔界を統べる魔王女だ。
金色の髪に青い瞳、魔界随一の美貌と権力を持つ——らしい。
らしい、というのは——私自身はそんなことより、別のことが気になっているからだ。
前世の私は、どこにでもいる普通の男だった。
仕事をして、飯を食って、家に帰ってアニメを見る。
それだけの人生だった。
唯一の生きがいは——深夜アニメだった。
特に、とあるアニメの黒髪ヒロイン。
小柄で清楚で芯が強くて——画面越しに何度「守りたい」と思ったかわからない。
そんな私がある日トラックに撥ねられて——気づいたら魔王女に転生していた。
体は女になった。
でも気持ちは完全に男のままだ。
「魔王女様を愛しています」とか言ってくる銀髪の騎士が捕まってきた時も——
(男やから無理やって……)
と内心で叫びながら、表面上は冷酷に「道具として使う」と言い放った。
それがおよそ一ヶ月前の話だ。
そして今日——魔界に攫われていたアレンの妹を救出しに来て。
私は、運命に出会った。
―――――――――――――――
「リナ、怪我はないか」
アレンが妹に駆け寄る。
「お兄ちゃん……来てくれたんだね」
リナの声が、少し震えた。
三ヶ月間、一人で閉じ込められていたのだ。
怖かっただろう。
辛かっただろう。
それでも——泣かなかった。
俯いて、唇を噛んで、それでも背筋を伸ばしていた。
(……強い子や)
私は胸の中で呟いた。
前世の推しと、顔だけじゃなくて——中身まで似ている。
「エルヴィナ様も、ありがとうございます」
リナが私に向かって、深々と頭を下げた。
「お兄ちゃんと一緒に来てくださって——そして私まで助けていただいて」
「……顔を上げろ」
私は努めて冷静に言った。
内心では——心臓が壊れそうになっていたが。
リナがゆっくりと顔を上げた。
黒目が、また私を見た。
「……礼には及ばない」
「でも——」
「及ばないと言った」
リナは少し驚いた顔をして——それから、小さく微笑んだ。
その笑顔が、致命傷だった。
(終わった)
私は静かに悟った。
完全に、終わった。
―――――――――――――――
帰り道、アレンが隣で話しかけてきた。
「エルヴィナ様、今日は本当にありがとうございました! やっぱりエルヴィナ様は最高です! 俺、改めてエルヴィナ様のことが——」
「うるさい」
「はい」
「お前の妹は——城に連れて帰る」
「え?」
「ハーフだろう。人間界に返しても危険だ。しばらく城で預かる」
アレンは少し考えてから——ぱっと顔を輝かせた。
「それじゃあ俺も——」
「お前は捕虜だ。城から出るな」
「はい」
私はリナの方をちらりと見た。
リナは静かに歩いている。
魔界の赤黒い景色の中で——その黒髪が、ひどく映えていた。
(前世の推しより、百倍可愛いやないか)
私は静かに、しかし確実に——堕ちていた。
「エルヴィナ様?」
アレンがまた話しかけてきた。
「なんだ」
「顔、赤くないですか」
「魔界の熱気だ」
「でも魔界はいつも——」
「うるさい」
「はい」
私は足を速めた。
後ろでリナが「エルヴィナ様、待ってください」と小さく言った。
その声だけで——また心臓が跳ねた。
(前世が男で本当によかった)
私は心の底からそう思った。
(この気持ちの意味が、ちゃんとわかるから)
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次話「回想——魔王女に転生した日から、騎士に口説かれ続けている件」
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