「前世男の魔王女に転生したら騎士に毎日口説かれているが、前世が男なので無理です。それより妹を紹介しろ」

まさき

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第2話「回想——魔王女に転生した日から、騎士に口説かれ続けている件」

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第2話「回想——魔王女に転生した日から、騎士に口説かれ続けている件」
 
 
時は一ヶ月前に遡る。
 
 
その日、私は玉座の間で退屈そうに頬杖をついていた。
 
 
「また人間が国境を越えたか」
 
 
部下の報告を聞きながら、細い指先で肘掛けを叩く。
 
 
この体になってもう18年経つが——未だに鏡を見るたびに違和感がある。
 
 
金色の髪。青い瞳。どこからどう見ても女だ。
 
 
(前世の俺が見たら卒倒するやろな)
 
 
心の中でそう呟きながら、私はため息をついた。
 
 
「今回は騎士が一人でございます。しかも単独で深部まで」
 
 
「単独で?」
 
 
私の指が、ぴたりと止まった。
 
 
一人で魔界に乗り込んでくる人間など、今まで見たことがなかった。
 
 
(なんやそいつ、アホなんか。それとも——よほどの理由があるか)
 
 
「連れてこい」
 
 
―――――――――――――――
 
 
連れてこられたのは、全身傷だらけの青年だった。
 
 
銀色の短い髪。緑の瞳。
 
 
死にかけているくせに——膝をついていなかった。
 
 
ぼろぼろの体で、それでも背筋を伸ばして立っている。
 
 
(ほう)
 
 
私は少し興味を持った。
 
 
前世の男目線で言えば——まあ、顔はいい方だ。
 
 
でもそれだけだ。
 
 
「……貴様が一人で国境を越えた騎士か」
 
 
「……魔王女、エルヴィナ様か」
 
 
かすれた声だった。それでもはっきりとした声だった。
 
 
目的を聞いても答えない。
 
 
殺そうとしたら——なぜか止まった。
 
 
「情報を引き出す道具として、生かしておけ」
 
 
我ながら苦しい言い訳だと思った。
 
 
ただ——何かが、気になった。それだけだ。
 
 
―――――――――――――――
 
 
翌日から、おかしなことが始まった。
 
 
牢に様子を見に行くと——青年は開口一番こう言った。
 
 
「魔王女様。俺、魔王女様のことが好きです」
 
 
私は三秒固まった。
 
 
「……は?」
 
 
「一目見た時から——ずっとそう思っていました」
 
 
青年は真剣な顔で言った。
 
 
天然なのか本気なのか——どちらにしても、空気が読めないにもほどがある。
 
 
(死にかけやのに何を言うてるんやこいつ)
 
 
「……名前は」
 
 
「アレンです」
 
 
「アレン。お前は今、牢の中にいる。わかっているか」
 
 
「わかっています」
 
 
「状況を理解した上で、今の言葉を言ったのか」
 
 
「はい」
 
 
(なんやこいつ……)
 
 
私は頭を抱えたくなった。
 
 
「……道具が主人に馴れ馴れしくするな」
 
 
「俺は道具じゃないと思っています」
 
 
「捕虜だろうが」
 
 
「捕虜でも——好きなものは好きです」
 
 
(なんでこいつこんな真っ直ぐなんや……)
 
 
私は踵を返した。
 
 
顔が熱かった。
 
 
断じて照れたわけではない。
 
 
ただ——前世が男なので、男に好きと言われる経験が——まあ、ないわけで。
 
 
(慣れてないだけや。慣れてないだけ)
 
 
―――――――――――――――
 
 
それから一ヶ月。
 
 
アレンは毎日言い続けた。
 
 
「魔王女様が好きです」
 
 
「エルヴィナ様は今日も綺麗ですね」
 
 
「俺、絶対エルヴィナ様を幸せにしてみせます」
 
 
そのたびに私は——
 
 
(男やって!!気持ちは完全に男やって!!)
 
 
と内心で叫びながら、表面上は冷たく「うるさい」と言い放ってきた。
 
 
牢から出してからも変わらなかった。
 
 
城の廊下で会えば「好きです」。
 
 
食事の時間に顔を出せば「綺麗ですね」。
 
 
政務の合間に現れては「幸せにします」。
 
 
(一ヶ月で何回言うねん……)
 
 
しかも本人は至って真剣だ。
 
 
嘘をついている様子もない。
 
 
ただ——致命的に、空気が読めない。
 
 
「アレン。お前には魔界に大切な人がいると言ったな」
 
 
ある日、私はそれとなく聞いた。
 
 
「はい。妹がいます」
 
 
「妹か」
 
 
「はい。リナといいます。俺にとって一番大切な——」
 
 
「どんな子だ」
 
 
思わず聞いていた。
 
 
アレンは少し驚いた顔をして——それからぱっと顔を輝かせた。
 
 
「黒髪で、黒目で、小柄で——すごく清楚な子です! 性格も優しくて芯が強くて——俺の自慢の妹です!」
 
 
(……待て)
 
 
私の頭の中で、何かが引っかかった。
 
 
黒髪。黒目。小柄。清楚。芯が強い。
 
 
(それって……)
 
 
「写し絵はあるか」
 
 
「え? あ、はい!」
 
 
アレンが懐から小さな写し絵を取り出した。
 
 
私はそれを受け取って——固まった。
 
 
(……推しやん)
 
 
完全に、推しだった。
 
 
前世で何百時間見続けた、あの黒髪ヒロインが——そこにいた。
 
 
「エルヴィナ様? どうかしましたか」
 
 
「……何でもない」
 
 
私は努めて冷静に写し絵を返した。
 
 
(落ち着け。まだ会ってない。絵と本人は違う)
 
 
(でも……)
 
 
「アレン」
 
 
「はい!」
 
 
「……お前の妹を、私が助けてやろう」
 
 
アレンが目を見開いた。
 
 
「え……本当ですか?!」
 
 
「魔界のことは私が一番よく知っている。私が動いた方が早い」
 
 
「エルヴィナ様……!」
 
 
アレンの目に、涙が浮かんだ。
 
 
「ありがとうございます! やっぱりエルヴィナ様は最高です! 俺、ますます——」
 
 
「うるさい」
 
 
「はい」
 
 
私は踵を返した。
 
 
(会いたいだけや。ただ会いたいだけや)
 
 
そう言い聞かせながら——胸が高鳴っていた。
 
 
前世がオタクで本当によかったと、この時ほど思ったことはなかった。
 
 
(推しに会えるかもしれん……)
 
私は踵を返した。
 
 
(会いたいだけや。ただ会いたいだけや)
 
 
そう言い聞かせながら——胸が高鳴っていた。
 
 
前世がオタクで本当によかったと、この時ほど思ったことはなかった。
 
 
(推しに会えるかもしれん……)
 
 
そして——廃城で出会ったリナは。
 
 
写し絵より、何倍も。
 
 
可愛かった。
 
 
―――――――――――――――
 
 
次話「捕虜のくせに毎日口説いてくる騎士と、城に来た推しの話」
 
 
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