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第3話「捕虜のくせに毎日口説いてくる騎士と、城に来た推しの話」
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第3話「捕虜のくせに毎日口説いてくる騎士と、城に来た推しの話」
リナが城に来た。
それだけで——城の空気が変わった気がした。
少なくとも私の中では、完全に変わった。
「エルヴィナ様、おはようございます」
朝、廊下で会ったリナが深々と頭を下げた。
黒髪がさらりと揺れる。
(おはようございますやない……可愛すぎるやろ……)
「……ああ」
私は努めて平静を装った。
魔王女エルヴィナは冷酷だ。
感情を表に出さない。
それが18年間積み上げてきた私の姿だ。
(頼む。前世のオタク魂よ、今だけ大人しくしてくれ)
「今日は城の中を案内してもらえますか。まだよくわからなくて」
リナが小さく首を傾けた。
その仕草が——致命的に可愛かった。
「……部下に言えば案内させる」
「エルヴィナ様に案内していただけたら——嬉しいのですが」
(終わった)
「……わかった」
気づいたら答えていた。
―――――――――――――――
城内を二人で歩いた。
リナは静かについてくる。
騒がしくない。
でも——無口でもない。
「ここが図書室ですか。魔界の本があるんですね」
「……読みたければ読んでいい」
「ありがとうございます。エルヴィナ様はよく読まれるんですか」
「……たまにな」
(なんでこんなに自然に話せるんや……)
前世でも今世でも——誰かとこんなに自然に話したことがなかった気がした。
アレンはうるさい。
部下は畏まっている。
リナは——ちょうどいい距離感だった。
「エルヴィナ様」
「なんだ」
「魔界って——怖いところだと思っていました」
「……そうだろう」
「でも——エルヴィナ様がいると、怖くないです」
私は思わず足を止めた。
リナが私を見上げている。
黒目が、まっすぐに私を見ている。
(……なんやこの子……)
「……魔界は危険だ。油断するな」
「はい」
リナは素直に頷いた。
その素直さが——また胸に刺さった。
(推しを超えてる。完全に推しを超えてる)
―――――――――――――――
城内案内が終わった頃、廊下の向こうからアレンが現れた。
「エルヴィナ様——! あ、リナもいる!」
(うるさい奴が来た)
「お兄ちゃん」
リナが少し顔を綻ばせた。
(あ、兄妹や。仲いいんや)
「エルヴィナ様! 今日も綺麗ですね! 俺、今日もエルヴィナ様のことが——」
「うるさい」
「はい」
アレンは懲りない。
牢の中でも城の廊下でも言われ続けて——私はまだ一度も慣れていなかった。
(男やから無理やって……何回言わせるんや……)
「お兄ちゃん、エルヴィナ様に失礼だよ」
リナが小さく窘めた。
「え? 俺、失礼なことしてる?」
「……してる」
「そうか? でも本当のことだし——」
「お兄ちゃん」
「はい」
リナに言われると、アレンは素直に黙った。
(なるほど。リナには頭が上がらんのか)
私はその様子を見ながら——静かに、しかし確実に、リナへの好感度が上がっていくのを感じた。
「エルヴィナ様、お兄ちゃんがご迷惑をおかけしてすみません」
リナが私に向かって頭を下げた。
「……気にするな」
「でも——」
「お前が謝ることじゃない」
リナは少し驚いた顔をして——それから、小さく微笑んだ。
(また笑った……)
(この笑顔、反則やろ……)
―――――――――――――――
その夜、私は一人で窓の外を見つめていた。
魔界の炎が揺れている。
いつもと同じ景色。
でも——今日は何かが違った。
(リナ、か)
声に出さずに、その名前を呼んだ。
前世の推しに似ている。
でも——もはやそれだけじゃなかった。
推しに似た別の誰かじゃなくて——リナという人間そのものが、気になっていた。
(前世が男でよかった。この気持ちの名前を、ちゃんと知っているから)
でも同時に——少し怖かった。
前世も今世も——誰かをこんなふうに思ったことがなかった。
画面の中の推しとは、違う。
リナは——目の前にいる、本物だ。
「……困ったな」
私は小さく呟いた。
魔王女が、騎士の妹に——本気で堕ちそうになっている。
廊下の向こうから、アレンの声が聞こえた気がした。
「エルヴィナ様——!!」
(うるさい)
私は窓を閉めた。
―――――――――――――――
次話「騎士は今日も口説いてくる——お前が来なければリナともっと話せたのに」
リナが城に来た。
それだけで——城の空気が変わった気がした。
少なくとも私の中では、完全に変わった。
「エルヴィナ様、おはようございます」
朝、廊下で会ったリナが深々と頭を下げた。
黒髪がさらりと揺れる。
(おはようございますやない……可愛すぎるやろ……)
「……ああ」
私は努めて平静を装った。
魔王女エルヴィナは冷酷だ。
感情を表に出さない。
それが18年間積み上げてきた私の姿だ。
(頼む。前世のオタク魂よ、今だけ大人しくしてくれ)
「今日は城の中を案内してもらえますか。まだよくわからなくて」
リナが小さく首を傾けた。
その仕草が——致命的に可愛かった。
「……部下に言えば案内させる」
「エルヴィナ様に案内していただけたら——嬉しいのですが」
(終わった)
「……わかった」
気づいたら答えていた。
―――――――――――――――
城内を二人で歩いた。
リナは静かについてくる。
騒がしくない。
でも——無口でもない。
「ここが図書室ですか。魔界の本があるんですね」
「……読みたければ読んでいい」
「ありがとうございます。エルヴィナ様はよく読まれるんですか」
「……たまにな」
(なんでこんなに自然に話せるんや……)
前世でも今世でも——誰かとこんなに自然に話したことがなかった気がした。
アレンはうるさい。
部下は畏まっている。
リナは——ちょうどいい距離感だった。
「エルヴィナ様」
「なんだ」
「魔界って——怖いところだと思っていました」
「……そうだろう」
「でも——エルヴィナ様がいると、怖くないです」
私は思わず足を止めた。
リナが私を見上げている。
黒目が、まっすぐに私を見ている。
(……なんやこの子……)
「……魔界は危険だ。油断するな」
「はい」
リナは素直に頷いた。
その素直さが——また胸に刺さった。
(推しを超えてる。完全に推しを超えてる)
―――――――――――――――
城内案内が終わった頃、廊下の向こうからアレンが現れた。
「エルヴィナ様——! あ、リナもいる!」
(うるさい奴が来た)
「お兄ちゃん」
リナが少し顔を綻ばせた。
(あ、兄妹や。仲いいんや)
「エルヴィナ様! 今日も綺麗ですね! 俺、今日もエルヴィナ様のことが——」
「うるさい」
「はい」
アレンは懲りない。
牢の中でも城の廊下でも言われ続けて——私はまだ一度も慣れていなかった。
(男やから無理やって……何回言わせるんや……)
「お兄ちゃん、エルヴィナ様に失礼だよ」
リナが小さく窘めた。
「え? 俺、失礼なことしてる?」
「……してる」
「そうか? でも本当のことだし——」
「お兄ちゃん」
「はい」
リナに言われると、アレンは素直に黙った。
(なるほど。リナには頭が上がらんのか)
私はその様子を見ながら——静かに、しかし確実に、リナへの好感度が上がっていくのを感じた。
「エルヴィナ様、お兄ちゃんがご迷惑をおかけしてすみません」
リナが私に向かって頭を下げた。
「……気にするな」
「でも——」
「お前が謝ることじゃない」
リナは少し驚いた顔をして——それから、小さく微笑んだ。
(また笑った……)
(この笑顔、反則やろ……)
―――――――――――――――
その夜、私は一人で窓の外を見つめていた。
魔界の炎が揺れている。
いつもと同じ景色。
でも——今日は何かが違った。
(リナ、か)
声に出さずに、その名前を呼んだ。
前世の推しに似ている。
でも——もはやそれだけじゃなかった。
推しに似た別の誰かじゃなくて——リナという人間そのものが、気になっていた。
(前世が男でよかった。この気持ちの名前を、ちゃんと知っているから)
でも同時に——少し怖かった。
前世も今世も——誰かをこんなふうに思ったことがなかった。
画面の中の推しとは、違う。
リナは——目の前にいる、本物だ。
「……困ったな」
私は小さく呟いた。
魔王女が、騎士の妹に——本気で堕ちそうになっている。
廊下の向こうから、アレンの声が聞こえた気がした。
「エルヴィナ様——!!」
(うるさい)
私は窓を閉めた。
―――――――――――――――
次話「騎士は今日も口説いてくる——お前が来なければリナともっと話せたのに」
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