『不倫夫を更生させるのは諦めて、不倫相手に全財産をプレゼントして消えてあげました。――あ、その財産、すべて「借金」なんですけどね』

まさき

文字の大きさ
3 / 7

第3話:どん底の元夫と、美しき救世主(?)

​第3話:どん底の元夫と、美しき救世主(?)

​「待ってくれ! 嘘だと言ってくれ、ミラ!」
​差し押さえが始まってから、わずか数時間。
かつての愛の巣は、無機質な執行官たちによって徹底的に「清算」されていた。
ライアンは、下着同然の格好で庭先に放り出され、隣で同じように震えているミラにすがった。
​「うるさいわね! あんたが『エレーナはバカだから全財産を置いていった』なんて言うから信じたんじゃない!」
「き、君だって喜んでサインしただろう!?」
「私は騙されたのよ! こんな借金まみれの男と知ってたら、不倫なんてしなかったわ!」
​昨夜まで「真実の愛」を誓い合っていた二人は、今や見る影もなく罵り合っている。
そこへ、追い打ちをかけるように執行官が冷淡な声をかけた。
​「ちなみにライアン様。ミラ様に譲渡された資産だけでは、負債の一割も返済できておりません。残りの九千万ゴールドについては、あなたのご実家……ベルモンド男爵家へ請求が行くことになります」
​「なっ……実家に!? やめてくれ、父上に知られたら勘当どころか殺される!」
​「残念ながら、魔法契約はすでに実家の血統魔法ともリンクしております。逃げられませんよ」
​ライアンはその場に崩れ落ち、泥だらけの地面を叩いて号泣した。
そんな彼らを冷ややかに見つめる野次馬たちの中に、かつて彼らが馬鹿にしていた近所の住人たちが混じっていることに、今の二人は気づく余裕もなかった。
​一方その頃、エレーナは兄たちに連れられ、公爵家の本邸へと向かっていた。
道中、美しい湖のほとりで馬車を止め、休息をとることになった。
​「エレーナ、少し風にあたってくるといい。ここは我が家の私有地だから、変な虫(男)も寄ってこないよ」
​長兄カイルの言葉に甘え、エレーナは一人で湖畔を歩く。
澄んだ空気と静寂。不倫夫の罵声に怯えていた日々が、遠い昔のことのように感じられた。
​(……ようやく、自由になれたんだわ)
​そう実感して小さくため息をついた時、背後から低い、けれど耳に心地よい声が響いた。
​「――そんなに悲しい溜め息をついては、湖の妖精が逃げてしまいますよ」
​驚いて振り返ると、そこには見上げるほど背の高い、豪奢な毛皮を羽織った男が立っていた。
銀色の髪に、吸い込まれそうなほど深い蒼の瞳。
その立ち振る舞いだけで、彼がただの貴族ではないことがわかる。
​「失礼いたしました。……どなた様でしょうか。ここは我が家の私有地のはずですが」
​エレーナが警戒して一歩下がると、男は優雅に、かつ完璧な所作で頭を下げた。
​「これは失礼。私はこの先の国境警備を任されている者です。……といっても、今はただの迷子のようなものですがね。あまりに美しい女性の後ろ姿が見えたもので、つい声をかけてしまいました」
​男はエレーナの顔をじっと見つめると、その瞳に微かな驚きと、それ以上の熱を帯びさせた。
​「……なるほど。噂に聞く『幸運の女神』、エレーナ・公爵令嬢ですね」
「私のことをご存じなのですか?」
「ええ。ある馬鹿な男が、国宝級の宝物をドブに捨てたと話題になっていましたから。……捨てた主は今頃地獄でしょうが、拾う側にとっては、これ以上の幸運はありません」
​男はエレーナの細い手を取り、指先に軽く唇を寄せた。
​「私はアルベルト。……エレーナ様、もしよろしければ、その『借金』よりも重い私の『愛』を、受け取っていただけませんか?」
​「なっ……!? いきなり何を……!」
​エレーナが顔を赤くして手を引こうとした瞬間、背後から殺気立った兄たちの声が響いた。
​「おい、そこをどけ! うちの妹に触れていいのは公爵家の人間だけだ!」
​カイルとセドリックが、剣を抜きん出んばかりの勢いで駆け寄ってくる。
しかし、アルベルトと呼ばれた男は余裕の笑みを浮かべたまま、エレーナにウィンクをして見せた。
​「またお会いしましょう、私の女神」
​男は影に溶けるようにその場を去っていった。
残されたエレーナは、高鳴る鼓動を抑えながら、呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。 けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。 会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……

〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。

藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。 ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。 目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。 気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。 それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。 ……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。 絶対に同じ間違いはしない。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全四話で完結になります。

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら

つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。 すきま時間でお読みいただける長さです!

裏切り者

詩織
恋愛
付き合って3年の目の彼に裏切り者扱い。全く理由がわからない。 それでも話はどんどんと進み、私はここから逃げるしかなかった。

好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った

しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。 彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。 両親は彼の婚約者を選定中であった。 伯爵家を継ぐのだ。 伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。 平民は諦めろ。 貴族らしく政略結婚を受け入れろ。 好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。 「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」 待ってるだけでは何も手に入らないのだから。

完結 彼女の正体を知った時

音爽(ネソウ)
恋愛
久しぶりに会った友人同士、だが互いの恰好を見て彼女は……

愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息、皇帝宮の夜会で本音を喋る魔道具を使ったらすべて暴露されました

あきくん☆ひろくん
恋愛
愛人と暮らすために私と結婚した伯爵子息。その本性を知ったのは、結婚した後でした。 私は子供を産むためだけの妻。生まれた子は愛人が育て、私は屋敷に閉じ込められる運命だという。 絶望する私が思い出したのは、大魔導士から渡された魔道具。「心に思ったことを言葉にしてしまう」もの。 そして皇帝宮の夜会で――伯爵子息は皇太子の前で、自分の本音をすべて喋ってしまいました。 この作品は、「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です」シリーズの外伝です。 リリアーナは、第1作目の第3部のおまけ、のお話にでてくる子爵令嬢です。