助けたJKが押しかけ同居してきて、私を溺愛しながら独占しようとします

まさき

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第一話 「一晩だけの、保護」

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第一話 「一晩だけの、保護」

 それは、ただの気まぐれだったのだと思う。
 残業帰りの夜。終電間際の駅前は、酔客とタクシー待ちの列でざわついていた。
 私は小さく息を吐き、改札へ向かおうとして――足を止めた。
「……やめてください」
 か細い声だった。
 コンビニの裏手。街灯の影の中で、制服姿の少女が男に腕を掴まれている。
 考えるより先に、体が動いた。
「何してるんですか」
 男が振り向く。酒臭い息が夜風に混じる。
「関係ねぇだろ」
「あります。警察、呼びますよ」
 スマートフォンを構えた瞬間、男は舌打ちをした。
「チッ、めんどくせぇ」
 手が離れ、足音が遠ざかる。
 私はようやく息を吐いた。
 ……やってしまった。
 面倒ごとは避ける主義なのに。
 
「大丈夫?」
 少女は小さく頷いた。
 夜風に揺れる黒髪。抜けるような白い肌。まだ震えの残る指先。
 こんな時間に、こんな場所に、ひとりでいるには――あまりにも目立ちすぎる。
「帰れる?」
 問いかけると、彼女は少し迷ってから、首を横に振った。
「……帰りたく、なくて」
 その一言に、胸の奥がざわつく。
 事情は聞いていない。聞くべきでもない。
 関わらない方がいい。
 わかっているのに。
 
「……うち、来る?」
 自分の口から出た言葉に、私自身が驚いた。
「一晩だけ。朝になったら、ちゃんと帰るって約束できるなら」
 少女は目を見開き、それからゆっくりと頷いた。
「はい……ありがとうございます」
 
 私の狭い1K。
 格安で買ったローテーブルを挟み、向かい合う。
「自己紹介、しておこうか。高瀬沙耶。二十六歳、会社員」
「……水瀬依織です。今日、十八歳になりました」
 十八。
 法律上は成人。
 けれど制服姿の彼女は、どう見ても守られる側にしか見えない。
「一応、証明できるものある?」
「はい」
 差し出された学生証。生年月日は、確かに今日で十八になっている。
 ほっとしたような、落ち着かないような気持ちになる。
「明日はちゃんと連絡しなさい。家族に」
「……はい」
 小さな返事。
 けれど、その瞳にはまだ不安が残っている。
 
「お風呂、先に入る?」
 そう言うと、依織は私を見上げた。
「……沙耶さん」
「なに?」
「少しだけ、そばにいてもらえませんか」
 心臓が、ひとつ跳ねる。
「怖いんです。目を閉じると、さっきの人の顔が浮かんで」
 震える声。
 甘えではない。本気の恐怖。
 
 仕方ない。
 これは保護だ。
 ただの責任。
「……いいよ。ここにいる」
 そう答えると、依織はほっとしたように微笑んだ。
 
 その笑顔は、あまりにも無垢で。
 助けられた少女そのものだった。
 だから私は、疑いもしなかった。
 この夜が――
 一晩だけでは終わらないことを。
 
 そして。
 
 私が目を離した一瞬。
 依織の唇が、ほんのわずかに弧を描いたことにも。
 
 ――やっと、見つけた。
 
 その小さな呟きを、私は聞いていない。
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