助けたJKが押しかけ同居してきて、私を溺愛しながら独占しようとします

まさき

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第二話 「朝になっても」

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第二話 「朝になっても」

 目が覚めたとき、一瞬だけ状況がわからなかった。
 見慣れた天井。
 いつものワンルーム。
 ――そして、隣から聞こえる規則正しい寝息。
 私はゆっくりと視線を横へ向ける。
 布団の端。きちんと距離を取って眠る、制服姿の少女。
 水瀬依織。
 昨夜、勢いで連れて帰った“保護対象”。
 ちゃんと床に予備の布団を敷いた。
 触れてもいない。
 なのに、どうしてこんなにも落ち着かないのだろう。
 
 依織の睫毛が、わずかに震えた。
 目が開く。
「……おはようございます」
 寝起きとは思えない、柔らかな声。
「おはよう。よく眠れた?」
「はい。……隣に、誰かがいるの、久しぶりで」
 その言い方に、私は一瞬だけ言葉を失う。
 踏み込むな。
 事情を聞くな。
 これは一晩だけ。
「顔、洗ってきなさい。朝ごはん、簡単なものでいいなら作るけど」
「え……いいんですか?」
 ぱっと明るくなる表情。
 ああ、こういう顔をするから。
 放っておけなくなる。
 
 キッチンは一歩で届く距離だ。
 食パンを焼き、目玉焼きを落とす。
 後ろから、視線を感じる。
「……見てないで、座ってて」
「はい」
 素直な返事。
 けれど、振り向いた瞬間、目が合った。
 まっすぐすぎる視線。
 逃げたくなるのは、なぜだろう。
 
 テーブルに並べると、依織は小さく「いただきます」と手を合わせた。
「美味しいです」
 それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
 単純だ。
 
「今日はどうするの」
 私はなるべく事務的に聞く。
「……学校、休みます」
「だめ。行きなさい」
 即答だった。
 依織は少し驚いたように目を瞬く。
「ちゃんと日常に戻る。それが条件」
 保護はする。
 でも、甘やかしはしない。
 その線引きは必要だ。
「……はい」
 小さく頷く依織。
 その横顔が、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
 
 支度を終え、玄関に立つ。
 ドアノブに手をかけた依織が、振り返る。
「沙耶さん」
「なに?」
「……今日、帰ってきてもいいですか」
 胸の奥が、ひとつ跳ねる。
 当然だろう。
 昨夜の延長だ。
 朝までって言ったけど、事情があるなら今日くらい。
 そう、理屈はいくらでも並べられる。
「……連絡はすること。家族に」
「はい」
「それから、今日は早く帰る。夕飯、いるなら連絡して」
 言ってから、気づく。
 まるで。
 最初からここに住んでいるみたいな言い方だ。
 
 依織は、ふわりと笑った。
「はい。……ただいま、って言ってもいいですか」
 その言葉に、なぜか返事が遅れた。
「……好きにしなさい」
 ぶっきらぼうに言うと、依織は満足そうにうなずいた。
 
 ドアが閉まる。
 部屋に、静寂が戻る。
 
 そのはずなのに。
 やけに、静かすぎる。
 
 ――もう、いない。
 
 たった一晩なのに。
 私は無意識に、さっきまで依織が座っていた場所を見つめていた。
 
 その頃。
 マンションを出た依織は、スマートフォンを取り出す。
 未送信のメッセージ画面。
 そこに打ちかけた文字を、そっと消す。
 
「……もう少しだけ」
 
 小さく呟いて、空を見上げる。
 計算通り。
 でも。
 
 思ったより、ずっと優しかった。
 
 それが、少しだけ――困る。
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