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第十二章 笑顔の練習
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第十二章 笑顔の練習
十二月に入った。
街はクリスマスの飾りで賑やかになっていた。ショーウィンドウにはイルミネーションが灯り、カップルや家族連れが楽しそうに歩いていた。私はその中を一人で歩きながら、どこか遠い場所の景色を見ているような気分だった。
誠との結婚記念日が、十二月十五日だった。
三年前のその日、誠は小さなレストランを予約していた。緊張した顔でプロポーズして、指輪を出す手が震えていた。私は泣きながら頷いた。あの夜の誠の顔を、今でも鮮明に覚えている。
今年は、誠から何も言ってこなかった。
私も何も言わなかった。言えなかった、というより、言う気力がなかった。記念日を口にして、誠に「ああ、そうだったな」と気のない返事をされたら、それで何かが終わってしまう気がした。
記念日の夜、誠は残業だった。
私は一人で夕食を食べた。特別なものは作らなかった。いつもと同じ、簡単な炒め物と味噌汁。食べながら、三年前のレストランのことを思い出した。あの夜頼んだパスタの味は覚えていないけれど、誠がずっと笑っていたことは覚えていた。
食後、洗面所の鏡の前に立った。
自分の顔を見た。
笑ってみた。
口の端を上げて、目を少し細めて、作り笑いをした。鏡の中の自分は、きれいに笑っていた。完璧だった。誰が見ても、幸せそうな女の顔だった。
でも目が笑っていなかった。
いつからこんなに上手くなったんだろう、と思った。感情を隠す練習なんてした覚えはないのに、気づけば誰にも悟られない笑顔が身についていた。職場でも、お義母さんの前でも、麗奈の前でも。ずっとこの顔をしていた。
スマートフォンが鳴った。誠からだった。
「今日も遅くなる。先に寝てて」
メッセージだった。電話ではなかった。
私は画面を見つめた。
今日が何の日か、誠は覚えていないのだろうか。それとも覚えていて、それでも何も言わないのだろうか。どちらの方が悲しいか、考えて、やめた。
「わかった」と返した。
ベッドに入って、電気を消した。暗闇の中で、天井を見上げた。
三年前の記念日、誠は私の手を握ったまま眠った。今夜、その手はどこにあるのだろう。
泣かなかった。
泣くための涙が、もう残っていない気がした。
ただ、鏡の中の笑顔だけが、頭の中でずっと揺れていた。完璧な、誰にも届かない、私だけの笑顔が。
十二月に入った。
街はクリスマスの飾りで賑やかになっていた。ショーウィンドウにはイルミネーションが灯り、カップルや家族連れが楽しそうに歩いていた。私はその中を一人で歩きながら、どこか遠い場所の景色を見ているような気分だった。
誠との結婚記念日が、十二月十五日だった。
三年前のその日、誠は小さなレストランを予約していた。緊張した顔でプロポーズして、指輪を出す手が震えていた。私は泣きながら頷いた。あの夜の誠の顔を、今でも鮮明に覚えている。
今年は、誠から何も言ってこなかった。
私も何も言わなかった。言えなかった、というより、言う気力がなかった。記念日を口にして、誠に「ああ、そうだったな」と気のない返事をされたら、それで何かが終わってしまう気がした。
記念日の夜、誠は残業だった。
私は一人で夕食を食べた。特別なものは作らなかった。いつもと同じ、簡単な炒め物と味噌汁。食べながら、三年前のレストランのことを思い出した。あの夜頼んだパスタの味は覚えていないけれど、誠がずっと笑っていたことは覚えていた。
食後、洗面所の鏡の前に立った。
自分の顔を見た。
笑ってみた。
口の端を上げて、目を少し細めて、作り笑いをした。鏡の中の自分は、きれいに笑っていた。完璧だった。誰が見ても、幸せそうな女の顔だった。
でも目が笑っていなかった。
いつからこんなに上手くなったんだろう、と思った。感情を隠す練習なんてした覚えはないのに、気づけば誰にも悟られない笑顔が身についていた。職場でも、お義母さんの前でも、麗奈の前でも。ずっとこの顔をしていた。
スマートフォンが鳴った。誠からだった。
「今日も遅くなる。先に寝てて」
メッセージだった。電話ではなかった。
私は画面を見つめた。
今日が何の日か、誠は覚えていないのだろうか。それとも覚えていて、それでも何も言わないのだろうか。どちらの方が悲しいか、考えて、やめた。
「わかった」と返した。
ベッドに入って、電気を消した。暗闇の中で、天井を見上げた。
三年前の記念日、誠は私の手を握ったまま眠った。今夜、その手はどこにあるのだろう。
泣かなかった。
泣くための涙が、もう残っていない気がした。
ただ、鏡の中の笑顔だけが、頭の中でずっと揺れていた。完璧な、誰にも届かない、私だけの笑顔が。
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