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第四章

4‐7王都帰還

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4-7王都帰還



 「それでは行ってまいりますわ」

 そう言って俺たちはハミルトン家を後に王都ガルザイルへと向かうのであった。


 ハミルトン家で十分に疲れをいやした俺たちはいよいよ王都へ向かって出発した。
 王都へはパパンや爺様も同行する。
 それはティアナの誕生会を祝う目的と例の黒ずくめ集団の問題、そしてゴーレム兵開発についてだ。

 もともとママンにも声が掛かっていたが、意外な話でママンはゴーレムとかそう言った系統の魔術が苦手だった。
 なので、話に聞いていたマシンドールを作り上げた俺たちに期待を寄せているらしい。

 もっとも、アイミに関しては偶然の産物と俺が死にそうになったという経緯は知らされていないようで、「エルハイミの助力でアイミが誕生した」と言う所だけ誇張されているっぽい。

 まあ、ゴーレムの作成に関しては俺もできるが、今回一番の立役者はアンナさんだ。
 アンナさんのあの素体が無ければアイミは誕生しなかった。

 
 「うー、とうとうここまで来たかぁ。はぁ、お城ではまたおすまししなきゃね」

 ティアナは苦笑しながら窓の外を見る。
 まだユーベルトの街を出たばかりだが、明日には王都につく。
 肩のこる猫かぶりを久々にするのだ、ティアナもご苦労様だな。


 「ところでエルハイミよ、そのマシンドールについてもう少し詳しく教えてもらえるかな?」
 
 パパンがアイミを指さして聞いてくる。

 ぴこぴこ?

 いや、君じゃなくこちらへの質問だよ、ピコピコじゃ普通の人分からないって。

 「ええと、アイミの場合七割はアンナさんが作ったようなものですわ。ただ、ミスリル合金や精神生命体のイフリート、たまたま核となる魔晶石がふんだんに使われていたのと、大容量の魔力投入で体内循環が始まって偶然出来上がったようなものですわ」

 「なに? イフリートじゃと!?」

 驚く爺様。
 上位精霊のイフリートなんか普通目にしないからそりゃ驚くよな。

 「イフリートの召喚とゴーレムマスターにはティアナが、ゴーレム強化用素体の作成と融合魔法はアンナさんが、私はそれらへの魔力注入と各融合の手助けをしただけですわ」

 「もっとも、エルハイミがいなきゃ出来ないことよね。あれだけの複雑な状況を大量の魔力を使ってまとめ上げちゃうんだもの。でも、おかげであの後大変だったんだから」

 「ううっ、ティアナそれは言わない約束じゃありませんの?」

 「でも、本当に心配したんだから。叔父様たちにちゃんと言ったの?」
 
 「それは‥‥‥」

 言えるわけないじゃん!
 危うく死にそうになったなんて!
 しかも髪の毛の変色したなんてママンに知れたら‥‥‥

 「エルハイミ、どういうことか説明してもらえるな?」

 珍しく強い口調のパパン。
 表情が厳しいってば。
 ティアナを見ると ふふんっ という感じで暴露しなさいと目で言ってくる。
 ‥‥‥仕方ない、本当のことを言うか。

 「実は‥‥‥」

* * *

 すべてを話し終わった後、パパンはこめかみを抑えている。
 爺様も深いため息をついてもう一度アイミを見る。

 「ふう、過ぎた事だから何も言わないが、エルハイミ、父親としてこれだけは言わせておくれ。いいかい、親より先にだけは絶対死ぬな。それは一番の親不孝なんだからね」

 「全くじゃ、エルハイミよ。命を粗末にするのではないぞ。危うくこの機械人形がお前さんの形見になってしまうところじゃったわい」

 二人に散々お小言を言われ、最後にやっと解放される。
 ちょっと涙目で恨みがましくティアナを見ると、ニヤついている。
 くそう、ティアナめ、後で覚えてろよ。


 ‥‥‥まあ、ティアナも心配してくれているのはわかる。


 もう一度アイミ作れったってそりゃぁ無理だ。
 そもそもティアナもあの後、他のイフリート召喚ができなくなっている。
 アイミがいればその必要もないし大きな魔力消費しなくてもいいけどこの間のような襲撃時には同調しながら結構魔力消費しなきゃならない。

 ここ二年でティアナの魔力総量もかなり増えたが、まだまだ俺には及ばない。
 それでも普通の人よりはかなり多いんだけどな。

 
 「しかし、そうなるとこの機械人形と同等のモノを作るのは至難の業と言う事か。ゴーレム兵開発には課題がまだまだ残るな」

 「それも承知の上での話じゃろ。結局生産に関しては、わしらのユーベルトで行うほかあるまいて」

 ん?
 ユーベルトでゴーレム兵の生産をするのか?

 「お爺様、お父様、ユーベルトの街でゴーレム兵を生産するのですの?」

 「ああ、多分そうなるだろうな。勿論他でも多少は生産するが主だった生産はわがユーベルトで行うほかないだろう」

 ユーベルトはどちらかというと商業主体の街のはずだったがこういった工業も盛んだったっけ?
 不思議がっていると爺様が説明をしてくれた。

 「もともとは産業と言えば衛星都市ドーバス、ボズンが盛んじゃったが如何せん王都から遠すぎる。出来上がったゴーレムのマスター登録や修練度をあげるのに魔術師や魔法騎士が行うにも手間がかかるからのぉ、そう言った問題でこのゴーレム生産に関しては近いユーベルトで執り行うこととなったのじゃよ」

 そう言う事か、言われてみればマスター登録だってそうそう簡単にはいかない。
 魔法騎士自体が少ないから魔術師がマスター登録するとなると近場でないと大変だもんな。
 そうすると、ユーベルトも新しい産業が立ち上がるのか。
 流通はもともと盛んな場所だからすぐに立ち上がりそうだし、今回やけに爺様やパパンが積極的なのもうなづける。

 「忙しくなりますわね」

 素直に感想を述べる。
 
 「そうじゃな、しかし課題もまだまだあるからのぉ。今回はその辺も含めて王宮会議は長引きそうじゃの」

 爺様はそう言って携帯用の酒瓶をあおった。
 ブランデーのように香りが良い酒はあまっとろい香りを馬車内に漂わせる。


 そして馬車は揺られ揺られ宿場町に着く。 
 ここで一泊してから明日には王都ガルザイルに入る。


 ◇ 


 翌日、俺たちは朝早くから出発する。
 今の時間から動けば午後一番には王城へはいれるだろう。
 
 「ふう、いよいよお城かぁ。めんどくさいなぁ」

 「まあまあ、そういわず。ティアナにこれをプレゼントしますわ」

 そう言って俺は包みをティアナに渡す。

 「なにこれ?」

 「ささやかながら私からのティアナへの誕生日プレゼントですわ」

 「えっ、ほんと? ありがとう! 開けてもいいかな??」

 「もちろんですわ」

 ティアナはさっそく包みを開ける。
 するとオセロのセットが出てくる。
 しかしそれは今まで使っていたものとは格段に違い隅々まで作りが良く出来ていて豪華になっている。
 オセロの駒をいれる入れ物もちゃんとした箱を用意して、見た目も豪華。
 まさしくセレブ用の一品となっている。

 「エルハイミ! これどうしたの!?」
 
 「ティアナのためにユーベルトに戻ってから上質の部材を集めて作り上げたのですわ。特に今回は水牛の角や黒晶石があったので駒自体がかなり上質に作り上げられましたわ」

 おおーと言ってティアナは駒を出してみる。
 重し石とは違い最初から光沢や質感が違う。

 ティアナはそれを見て目を輝かせ喜んでいる。

 「ありがとうエルハイミ! これで王城でも楽しみが増えたわ!」

 「いえいえ、最初に作ったものはバティックとカルロスにあげてしまいましたから今度はティアナ専用のも必要かと思いましてね」

 大喜びしていると横からパパンと爺様が覗き込んでくる。
 
 「エルハイミよ、それは何なのじゃ? 将棋か?」
 
 「いえ、これはオセロと言ってティアナがお気に入りのゲームですわ」

 爺様はふむと言ってその盤面や駒を見る。

 「して、どうやって遊ぶのじゃ?」

 「こうするのですわ、大叔父様!」

 そう言ってティアナは一緒に一局やろうと俺に言って駒を並べ始める。
 俺は苦笑して相手を始めるが、なかなか強敵になったなティアナよ!
 かなり頑張ってかろうじて俺の方が勝利するが、あの時ティアナがミスしなければ俺が負けていた。
 うーん、マジ強くなったな。

 「ほほう、これはまたシンプルじゃが面白いものじゃな」

 「ええ、将棋と違い手軽ではあれどなかなか面白いですな。特に打ち方ひとつで大逆転できる所など最後まで気が抜けませぬな」


 「面白いでしょう? 大叔父様一緒にやってみます?」

 「うむ、では是非お願いしましょうかの」

 そう言って三度目のデジャブ―が始まる。
 まあ、予想はしていたが。


 この世界は本当にこういった娯楽が少ない。
 もっとも、生活に余裕がある人じゃなきゃこんな遊びやっていられないんだろうけど。

 それでも俺はこう思う、ユーベルトの街でせっかく産業が立ち上がるんだからついでにこういったものを広めるのも悪くないんじゃないかって。

 ゴーレムの件が落ち着いたらパパンにでも話してみるか。


 そんなことを「もう一局!」とこだまする車内から思いながらふと外を見ると‥‥‥

 「ティ、ティアナ! もう王城の門ですわよ!!」

 「ええっ! もう?」

 慌ててお姫様モードになって姿勢を正すティアナ。 
 やっぱ広めるのは慎重にした方が良いかな?


 そんなことを思いながらティアナお城への帰還が済んだのであった。

 
    
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