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第七章

7-26ダークエルフ

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 7-26ダークエルフ


 雪がまた降る。


 ティナの町はただいま冬真っ盛り。
 深々と降る雪がすべてのモノを白く包み込む。


 包み込み過ぎてとうとう積雪が五メートル!!


 今日もゴーレム使って除雪作業に勤しんでます。


 「あー! キリがない!! このままじゃ城壁だって意味がなくなっちゃうじゃない!?」

 「主よ、それを想定しての二十メートル級の城壁だ。まだ十五メートルの余裕が有るぞ?」


 それはそうだけどそうじゃない!
 あたしもティアナも流石にうんざりし始めていた。
 最近は雪が降るだけで次の日は雪かきだと身構えてしまう。


 「ねえ、もう雪を積んで置く場所がいっぱいよ? そろそろ溶かさないといけないわよ?」

 シェルが山になっている除雪の雪を見ている。

 あたしはシコちゃんにお願いして高熱の範囲魔法を発動させる。
 ティアナはアイミに魔力を送り込み、やはり炎の精霊を駆使して雪を溶かす。

 大量の水は水路を通って川に流れ込む。
 湯気が立っているのでその辺の雪も一緒に溶かしながら流れていく。


 「流石に主とエルハイミ殿だな、除雪の雪も無くなった。これでまた降っても積み上げられるな」

 ゾナーのそんな言葉に後何十回こんな事を続けなきゃならないのかうんざりする。


 「ホリゾンって毎年こんなことやってるの?」


 「いや、寒さはここよりひどいが雪がここまで降らない。ここは異常だよ」

 しれっとそう言うゾナー。
 あたしとティアナはげんなりとする。

 と、そんなところへゾナーの配下が来る。
 
 「ゾナー様、ご報告が有ります」

 「どうしたボナパルド?」

 「はい、これを」

 そう言ってゾナーの右腕の一人、参謀のボナパルドさんは一本の矢を持ち出した。
 ゾナーはその矢を見てはっとする。

 「これは何処で見付けた?」

 「はい、偵察が森の近くで見つけました。どうやらウサギか何かを狩っていたようです」

 ゾナーはそれを聞いてますます厳しい顔になる。
 
 「町の守りは?」

 「現在ホリゾン側の門は閉ざされています。迂回してガレント側に来るにはこの雪でいくら奴等でもひと苦労でしょう。それにこの城壁、流石に空でも飛ばない限りは」


 一体何の話をしているのだろう?


 「どう言う事ゾナー?」

 「うむ、主よ。どうやらホリゾン帝国が動いているらしい。偵察部隊がこの近くにいるようだ」

 偵察部隊?
 ホリゾンがここを気にするのは当然だろう。
 しかしこの豪雪の中まで来るとはね。

 「まあ、あちらも偵察部隊くらいは送り込むかもしれないけど、わざわざこんな豪雪の中ご苦労様ね」

 「いや、主よ十分に注意してくれ。この偵察部隊にはダークエルフが含まれている。場合によっては既にこの町に潜り込んでいるかもしれない」


 「ダークエルフですってぇ!?」


 あたしやティアナが口を開く前にシェルが声を上げる。 
 見るとこちらにずかずか歩いてくる。

 「ダークエルフが何でこんな北にいるのよ!? あいつらは東のイージム大陸にいるんでしょう? それが何で??」

 「そうか、シェル殿は知らんか? ホリゾン帝国の暗部にはダークエルフの一族がいるんだよ」

 あたしもそれは初めて聞いた。
 ダークエルフは東の大陸、イージムに住んでいる。
 もともと女神戦争の時に暗黒の女神ディメルモ様にに従っていたと伝えられている。
 だから最後に女神戦争で暗黒の女神が倒れた土地、東のイージムに居着いたらしい。
 
 「そんな、あいつらがウェージムにいただなんて! 考えただけでも苛立たしい!!」

 「知識では知っていますが、何故エルフはそこまでダークエルフを嫌うのですの?」

 憤慨しているシェルに聞く。

 「あいつらはもともとエルフだったけど女神戦争の時に裏切ったのよ、あたしたちエルフを!!」

 シェルはそう言ってどういう事かを説明してくれた。


 もともとエルフとダークエルフは同じエルフだった。
 エルフ自体はどの女神様が作ったかは定かでは無いけど、精霊と樹木から作られたと言われている。
 そして女神戦の時にはエルフ自体はどの女神にも属さなかった、一部を除いては。

 その一部と言うのが今で言うダークエルフらしい。

 ダークエルフたちは暗黒の女神ディメルモ様に仕えた。
 ディメルモ様はダークエルフたちの命の木を別の場所に移した。
 その頃より彼らの肌は黒くなり、闇の森を愛するようになった。
 能力も闇に特化したものが強くなり恐怖をつかさどる精霊や暗闇に住まう小動物たちを使役できるようになったらしい。

 エルフたちにしてみると裏切り者、反逆者と判断されその性質も輪をかけて忌み嫌われるようになった。
 エルフとしてみればまだハーフエルフの方がましだとか。


 シェルの説明にあたしたちはしばし沈黙をしていた。
 問題はそんなダークエルフが北のホリゾン帝国にいたと言う事だ。

 「帝都でも一部の者しか知らん事だがな。暗部と言って表ざたに出来ないことを専門で処理する部隊だがその中にダークエルフの一族もいる。数自体はそれほど多くないがその能力を買われいろいろな所で活躍しているぞ」

 ゾナーはそう言って矢をあたしたちに見せる。

 「この矢はダークエルフ共が好んで使う毒が塗ってある。即死はしないが体がマヒするモノだ。軽い擦り傷でさえ痺れるほどだ。とにかく注意はしてくれ」

 あたしたちはそれを見ながらゾナーが心配する意味を理解した。
 毒薬まで使うとは流石に面倒な連中だ。

 「だからダークエルフは嫌われるのよ! あいつら陰険だし!!」

 まるで実害にでもあったかのようにシェルは言っている。
 実際昔何かあったのかな?

 「とにかく主たちよ、気を付けてくれ。勿論町の守りはさらに固めるがダークエルフは神出鬼没、用心に用心を重ねて損は無い」

 そう言いながらボナパルドたちと打ち合わせをしてくると言ってゾナーは行ってしまった。
 残されたあたしたちは除雪が終わったのでとりあえず一旦戻る事にした。


 * * * * *


 「ティアナにエルハイミ、あなたたちはあたしとなるべく一緒にいてね。もしダークエルフが近づくとすれば精霊力を使うはずだから。あたしがそばにいればすぐ気づくわ!」


 鼻息荒いシェル。
 気を使ってくれているのか、それとも単にダークエルフが嫌いで言っているのか?


 「シェルならわかるんだ?」

 「エルフは精霊に関してはエキスパートですものね、間違いは無いですわね?」

 「勿論よ! じゃあそう言う事で今晩からティアナたちの部屋で寝泊まりするからね!!」


 「「え”っ!!!?」」


 思わずあたしとティアナの声が重なる。
 ちょっとまて、シェルがあたしたちの部屋に寝泊まりする??
 じゃ、じゃあ夜のお楽しみは!!!?

 「大丈夫よ、ちゃんと風の精霊で音消すからあたしを気にせず二人はいつも通りにね!」

 そう言いながらもその眼はギラギラに輝いている。
 こいつのぞき見する気満々ね!?

 「エルハイミ、夜になったらこいつ追い出そう!」

 「そうですわね、私たちの平安の為に!!」

 あたしらは意気投合する。

 「なんでよぉ! 聞こえないからいいじゃないの!!」

 「のぞく気満々でしょうにっ! このエロフ!!」

 がるるるるぅ~!
 ふしゃー、ふしゃー!!
 
 ティアナとシェルがじゃれてる。

 
 と、そんなあたしたちの所に伝令が来る。

 
 「すみません、お取込み中の所! ティアナ様、ゾナー様がお呼びです! 緊急のようです!!」

 女性の騎士が呼びに来てくれた。



 あたしたちは顔を見合わせてから急ぎゾナーの所へ行くのだった。
      
 
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