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第八章

8-17収穫祭

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8-17収穫祭


 新しく出来た耕地は初めての収穫にその黄金色の穂を風に揺らめかせていた。


 「思ったより出来が良いな。これなら越冬用には十分足りそうだ」

 ゾナーは畑の小麦を見ながらそう言う。
 
 「エルハイミとシェルのおかげよ。蚕のさなぎや魚の要らない部分を乾燥させて砕き畑にまくと作物がよく育つなんて方法は今までの耕作では考えられなかったものね。初の収穫にしては十分に成果が出たわ!」

 この世界での農業はまだまだ自然任せが多い。

 品種改良とかの技術も確立していなく、イチロウさんも苦労して古代米をあの白くて美味しい白米にするのにかなりの時間がかかった。
 土地を豊かにするには今後酪農で発生するたい肥を畑にまき土地を耕さなければならない。
 あの冬場の寂しい食事を改善するためだ、あたしは最終目的のガラスハウスまでをひそかに目指している。


 「しかし余裕がでるなら今年は収穫祭を執り行うか? 我が主よ?」


 「収穫祭かぁ。いいわね、これから越冬をする前に景気付けにいいわね? やりましょう!」

 もともとこう言った催しは大好きなティアナ。
 お祭りとなればさらにテンションが上がる。
 
 美味しいお料理を沢山作って、ここの特産品で収穫の恵みを祝う。
 素朴なお祭りでもこう言った事は大事だ。
 人には潤いが必要なのだ。


 「しかしそうすると日時や内容を取り決めなければな。今後の事も有る、これを機に毎年行えるようにしたいものだな」


 ゾナーはそう言いながら口元をにやけさせる。
 もともと北国のホリゾンもこう言った催しものは少ないらしい。
 なのでゾナーもこう言った祭りは心が躍るようだ。

 「そうですわね、この町にも徐々にそう言った文化は必要ですわ。定期的にこう言った祭りや催し物を行い町の活性化にも取り組みましょうですわ!」

 あたしも勿論こう言ったお祭りは大好きだ。
 なので既にあたしもウキウキし始めている。


 「収穫祭って何よ? どうもヒュームのそう言った習慣はまだよくわからないのだけど?」

 「簡単に言うと何かをもとにお祝いの宴をするようなものですわ!!」

 首をかしげているシェルにあたしはびっと指を立てて説明をする。

 「宴ねぇ、それはいいわね、美味しいもの沢山食べれそうだし!」

 「よし、じゃあ収穫が終わる七日後位に収穫祭をやろう! ゾナー、いいわよね!?」

 「ああ、勿論だ主よ! うまい酒もたらふく飲ませてくれよ?」

 ティアナは「勿論!」と言って親指を立てる。
 七日後かぁ、楽しみだね!!


 ◇ ◇ ◇


 「ティアナねーちゃん、エルハイミねーちゃん、シェルねーちゃん! 収穫祭のイノシシ捕ってきたぞ!! 俺の村に伝わる特製丸焼きやろうぜ!! ハーブが効いててうまいぞ!!」

 ジルが収穫祭の為にと森でわざわざ大きなイノシシを狩ってきた。
 収穫祭だから本来は農産物をメインにするのだけど、新鮮なお肉が手に入ったのはうれしい。

 「またずいぶんと大きいのをしとめたわね!」

 ティアナがジルをほめている。

 「ジルはどんどん狩りの腕が上達しているのよ! これもあたしのおかげよ!!」

 自分の事のようにシェルがその薄い胸を張る。
 ティアナは「はいはい」とか言って軽くあしらっている。


 「それで、俺たちに何の用ですか?」

 今は冒険者ギルドに登録していた「風の剣」に直接依頼で砦に来てもらっている。
 彼らは結局このティナの町を拠点にいろいろと冒険者ギルドの仕事をこなしていた。
 後で知ったのだが西方では結構有名なパーティーだったらしい。

 「そうでした、すみませんライ殿。実はもうじきティナの町の収穫祭を行います。そこであなたたちに祭りの期間中に町中での不穏な動きや変な噂が流れ始めたらすぐに知らせてもらいたいのです」

 ティアナはそう言ってライさんたちを見る。
 
 実は祭りを開催するにあたって原則ティナの町に来てくれる人たちは検問はするものの出来るだけ多くの人に来てもらいたいのだ。

 これには観光誘致や特産物の売り込み、現状ホリゾンと対峙しているものの余裕がある事への宣伝を狙ったものだ。

 しかし全く警戒しないでいいと言う訳にはいかない。
 特にこう言った祭りに紛れて不穏分子などが町に入り込み事を起こしてからでは収穫祭の宣伝効果が逆効果になってしまう。

 なので衛兵たちとは別に協力者を必要としていたのだ。
 ただ、誰でもいいと言う訳にはいかない。
 そこそこ実績があり信頼度の高い人物たちでなければいけない。

 「そういう事ですか、なら任せてください! 俺らが町の様子や情報をしっかりとお伝えします!」

 ライさんはにこやかに承諾の返事をする。
 ティアナもニコリとほほ笑んでライさんに「これは前金です。無事終了したらまたお礼をします」と言って小さな革袋を渡す。
 ライさんはそれを受け取り中身を見て驚く。

 「殿下、こんなにいいんですか!?」

 「私たちや衛兵では目立ちます。この祭りはなんとしても成功させティナの町が安定していることを内外に広めねばなりません。期待してます」

 ライさんは立ち上がってお辞儀して「任せてください!」と言った。


 「それにしてもただ飲んで食べてだけじゃつまらないわよね? ティアナ、なんかもっと盛り上げる事しない?」

 シェルはファムさんと何やら話していたがこちらに戻ってきてそんな事を言う。

 「盛り上げるたって、何かいい案でもあるの?」

 「さっきファムから聞いたのだけど、ファーナ教でも収穫祭ってのがあって奉納の舞だっけ? なんか舞を踊るらしいわ! エルフの村でも宴には音楽や踊りは付き物だったわ! どうかしら?」

 ティアナはそう言えばとか言っている。
 あたしたちが以前エルフの村を訪れた時に確かに宴では音楽や舞があった。
 ただそれはエルフ独特の神秘さや美しさが有ったので見るものを引き付けたが、即興の舞では事足りないだろう。

 「音楽はまだいいとして、この町には舞を出来る人なんていないでしょう?」

 「ところがいるんだなぁ、ファムの話では仲間のレコナが出来るんだって! ファーナ教の奉納の踊りが!」

 そう言えば聞いた事がある。
 愛と豊作の女神ファーナ様は素晴らしい舞を人間に教えたと。
 それは豊作の喜びと愛の喜びを表現するものであり、人々に喜びと希望を与えると言われる舞だとか。

 
 「へえ、そうなの? それじゃあ、是非ともお願いしましょうかしら? よろしいですかライ殿?」


 ティアナにそう言われてライさんはレコナさんを見る。
 レコナさんは驚いていたが、顔を真っ赤にしてか細い声でこういう。

 「え、えっと、奉納の舞ですか? 確かに私も踊れますが、その、ほんとにやるんですか??」

 「ええ、収穫祭にはまさしくうってつけと思います。お願いできますか、レコナ殿?」

 ティアナにそう言われたレコナさんは慌てながらやはりか細い声で答える。

 「で、殿下のご所望とあれば仕方ありません。わかりました、恥ずかしいですがお引き受けいたします」

 そう言ってお辞儀する。
 ティアナはにこやかに「ではお願いします」と言って必要なものがあればこちらで準備するという事で話は決まった。

 いよいよ祭りらしくなってきた!
 飲んで食べてメインイベントである神官の奉納の舞。
 これは盛り上がりそうね!

 あたしたちは大いに期待をしていた。


 ◇ ◇ ◇


 ティナの町の収穫祭二日間執り行われる事となった。
 メイン会場はガレント側の砦前に出来ている広場になる。
 初日にティアナが人々にねぎらいの言葉をかけ、酒がふるまわれた。
 いよいよ祭りは盛大に開催された。
 
 メイン会場となるここの広場には奉納された農作物が積み上げられ、人々が和やかな雰囲気の中飲んで食べてと大騒ぎが始まった。
 どこからかやってきた露天商や屋台がこの広場の周りに店を構えそこもかなりにぎわっていた。
 
 「うむ、この酒は若いがうまいな! いい酒だ!」

 ゾナーはあの蒸留酒を飲んでいる。
 そしてお気に入りの魚の燻製をかじる。

 「確かにこの酒は美味い、ガレントにはこんな強い酒はめったにお目にかかれんからな!」

 エスティマ様もあの蒸留酒を飲みながら魚のフライ料理を食べている。

 今のあたしははっきり言ってあまりお酒が強くない。
 なので蒸留酒なんてとてもじゃないが飲めない。
 生前は焼酎とかストレートで飲めたんだけどなぁ。


 「エルハイミ殿も一杯どうですか?」

 エスティマ様があたしのお酒を進めてくる。
 お酒の弱いあたしを酔わせてどうするつもりよ!?

 「兄さま、エルハイミはお酒弱いのですからそんな強いお酒を進めないでください!」

 ティアナがエスティマ様の企みを阻止する。
 
 「せっかくの祭りだぞ? 大いに飲まんでどうする?」

 邪魔をされたエスティマ様がくいっと蒸留酒を流し込む。
 アコード様もそうだったけど、この人たちお酒強いなぁ。
 あ、ティアナは違うみたいだけど。


 「エルハイミはこっちよ! 見てみてやっと出来たの!!」


 そう言ってシェルは蜂蜜酒、ミードを持ってきた!?
 こいついつの間に?
 
 しかしミードは甘いのであたしでも飲めるお酒だ。
 シェルはあたしたちにミードを注いで乾杯をする。
 少しくらいなら平気か?
 そんな事を思いながら飲んでみるとすごくおいしい!?

 「シェル、このミードものすごく甘いですわ? それにこれは柑橘系の汁も入れているのですの? ものすごく香りもいいしさっぱりしていますわ!?」

 「すごいでしょ? マーヤに作り方教わっていたのだけど、ファムから更に出来上がった後には蜂蜜とレモン汁を入れるともっとおいしくなるって教わったんだ、これなら飲めるでしょ?」

 確かにこれは行けるかもしれない。
 あたしもティアナもそれを美味しく頂く。


 「大丈夫かよ、エルハイミねーちゃん? だいぶ顔が赤いぞ?」

 そう言いながらジルはこちらにやってきた。

 香ばしい好い匂いがする。

 ジルがとってきたイノシシの丸焼きが出来あがったのだ。
 香ばしいその香りは未だ表面をじゅうじゅう言わせ油がにじみ出てきている。


 「うわっ、美味しそう!!」

 「ほう、これはなかなか!」


 ティアナやゾナーはそれを見て喜んでいる。
 もちろんあたしもおいしそうなその香りに口の中によだれが出てくる。

 ジルはひょいひょいっとイノシシの丸焼きを切り分けてみんなに配り始める。
 あたしたちはそれを頂く。


 「美味しいですわっ!」


 思わずそう言ってしまった。
 獣の臭みが全くなく、岩塩のきいたその味は色々なハーブが絡まり、獣の油がそれらをうまくまとめている。
 じっくり焼いたせいか肉は柔らかく噛めば肉汁が染み出てくる。
   
 これはミードのが進んでしまいそうだ!!

 しばし美味しい料理とお酒に舌鼓をしていると太鼓の叩く音がしてきた。
 奉納の舞が始まる知らせだ!


 この広場の奉納された品々の前には白い舞台が出来ていた。
 レコナさんが奉納の舞をするための物だ。

 
 シャンシャンと鈴の音が鳴る中、神官服に身を包んだ四人の女性が中央のレコナさんをこの舞台へまで連れてくる!


 えっ!!!?

 
 あたしたちはレコナさんのその姿を見て驚く!
 レコナさんは純白のほとんど裸に近い下着のような衣服にきらびやかな装飾品を身に着けていた。
 手首や足首には鈴がついていて動くたびにシャンシャンと心地よい音色を立てる。

 やや赤くなったレコナさんの表情はそれでも真剣な顔つきで舞台に上がる。
 そして軽快に鈴の音を鳴らしながら舞を踊る。

 ある時は妖艶に、またある時は軽やかに、そしてまたある時は力強くそな舞は踊られる。

 それは見る者の目を引き付ける素晴らしい舞だった。
 レコナさんは見ているあたしたちが時間を忘れるほどの時を舞い終わり最後に鈴の音を鳴らしながら静かに跪づき動きを止める。


 わぁぁああああぁぁぁぁっっっ!!!!
 
 
 割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く!
 
 「すごい! なんて舞なの!?」
 
 「本当ですわ! すごかったですわ!!」

 「ヒュームの踊りもなかなかね!」

 あたしたちも絶賛する。

 
 祭りは心のうるおい。
 この舞も来年また見たいとあたしは思う。

 
 そしてこれがティナの町の毎年の行事になる事をあたしは心から望むのであった。

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