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第九章

9-19呪いの真相

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 9-19呪いの真相


 「まさかその様な事が黒龍様に起こっているのか!?」

 
 クロさんはあたしのその説明に驚きの色を隠せない。
 
 「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン、それは本当でいやがるのですか? 黒龍様がこのままではアンデットドラゴンなどと言う不浄の輩になってしまうのですか??」

 クロエさんも焦りの色を隠せいない。
 あたしは二人を真正面から見て言う。

 「以前エルフの村で秘密結社ジュメルの仕掛けた呪いが有りました。それも『命の木』の世界からの、別世界からの侵攻でしたわ。シェルの言う通りこの世界の肉体を束縛することは出来なくても精神世界、魂の束縛は進んでいるようですわ。そして魂と肉体の連結が断たれればその肉体は滅びる。しかし亡者の王リッチの事です、死したる肉体をアンデットとして不浄のモノにして蘇らせることは容易でしょうですわ。更にその魂を束縛して従属させているなら不浄のアンデットドラゴンでも生前の力そのままに、いえ、無理が出来るからそれ以上に猛威を振るう事が出来ますわ」

 あたしの説明にみんな言葉を失う。
 しかし同調して感知魔法でその様子を見る限りあたしの言っていることが事実起こりつつあるのだ。


 「ならばどうすれば黒龍様をお助けできる? エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン」


 苦渋の表情になっているクロさんは苦々しくあたしに聞いてくる。
 しかし状況は分かってもあたしにもどうしていいのか分からない。

 皆が押し黙ってしまう。


 しかしそんな中、シェルがポツリと言いだす。

 「もしだけど、その精神世界ってのに行って魂の呪いの束縛を解除出来たら黒龍様は助かるのかな?」

 精神世界へ行き魂の束縛を、呪いを解除する。
 確かに呪いの根源を解除すればこちらの世界の肉体的問題も解決できるだろう。

 しかし、それにはあの世界に行くためにシコちゃんが使ったあの魔法を使えないといけない。
 でもあたしにはその魔法が使えない。


 「あの、精神世界にお姉さまたちは行きたいのですか?」

 「そうですわ。そうすれば黒龍様の魂にかけられている呪いを解く事が出来るかもしれませんわ」
 
 あたしはイオマに答えながら何か方法はないか考えている。
 するとイオマは懐から一冊の本を取り出す。

 「お姉さま、召喚獣を呼び寄せる時に異空間を使いますが、契約はその魂と契約をします。契約時には異空間を通ってその魂にふれますから精神世界と異空間は似ているのではないでしょうか? 私は未熟なのでここに書かれている事が全部理解できないし使う事が出来ません。でもお姉さまならばもしかしたら‥‥‥」

 イオマに渡されたその本は召喚魔法についての魔導書だった。
 あたしはそれを受け取り急ぎその内容を読み取る。

 そして思う。

 なるほど、召喚魔法と言うものは非常に面白い。
 この原理であれば確かに召喚が出来る。
 それにこれを十分に理解できて準備や複雑な術式、相応の魔力を長々と込めれば異界人の召喚すら可能なのではないか?


 「イオマ、この召喚魔法の本は一体どこで手に入れたのですの?」

 「はい、あたしのお師匠様から餞別でもらいました。お師匠様はイージム大陸でも有名な召喚士だったんです」


 イオマは誇らし気にそう言う。

 確かにボヘーミャでは召喚魔法自体は原理だけで詳しい書籍とかあまりなかった。
 研究自体も魔法陣の作成など手間がかかりすぎるので人気が無く、知識として教えられる程度だった。


 ん?
 そうするとイオマって意外とそっちでは優秀なのかな?


 「そう言えばイオマは私たちがあの異空間から抜け出すきっかけになりましたわ。あの時イオマは召喚獣を呼んでいたのですわね?」

 「はい、あの時はこの杖に封じ込まれていた術式で魔法陣無しで召喚獣が呼べるはずだったのですがあたしが未熟過ぎてどの召喚獣も答えてくれなかったんです‥‥‥」

 がっくりと肩を落としそう言うイオマ。
 でも魔法陣無しで召喚獣を呼べるというのもすごい、たとえ術式が杖に封じ込まれていてもだ。


 「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンよ、そうすると黒龍様の魂をお助けする見込みが出てきたのか?」


 「時間はかかりますがこの原理を解読して魔法陣を作り上げ大量の魔力を注ぎ込めば出来ると思いますわ」

 あたしのその答えにクロさんとクロエさんが表情を明るくする。

 「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンよ我々に協力してもらえないだろうか?」

 「勿論ですわ。なんとしても黒龍様をお助けいたしましょうですわ!」

 あたしはさっそくその魔導書を読み漁るのであった。


 * * * * * 


 「必要なものはこれでいいのか? エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンよ」

 「はい、多分これでいいはずですわ。でも色々調べてわかりましたが黒龍様のこの結界は外部と遮断するだけではなく今なお送り込まれている呪いを遮断するのが目的のようですわ」


 非常に面倒な呪いのようで少しずつ染み込んでいきその効力を発揮するようにできているらしく、あまりにも薄いその呪いに気付くのが遅れてしまい気付いたときにはかなりが浸食されていたというものだった。
 ほんと、いやらしい呪いだ。


 あたしはこの一週間魔導書の原理をもとに黒龍様の横に大きな魔法陣を書いていた。
 しかもその魔法陣には多重の能力を持たせる必要があり媒介となる様々なものが必要だった。
 クロさんからお願いしていた塩やら魔晶石やら鏡やらと必要な媒介を魔法陣の各所に設置していく。
 
 そしていくつかの事を試しながらやっとの思いで魔法陣が完成した。


 「クロ様、やっと魔法陣が完成しましたわ」

 「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンよ、感謝する。では早速私とクロエの魂を黒龍様のもとへ送ってくれまいか?」

 「クロ様、それは出来ませんの。クロ様とクロエ様にはこちらの世界の要(かなめ)になっていただかなければなりませんわ」


 あたしのその言葉にクロさんは眉間にしわを寄せ聞いてくる。


 「それはどういう事だ、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンよ?」

 「クロ様とクロエ様はもともと黒龍様と同じ魂ですわ。もし今黒龍様のもとに行かれれば黒龍様と同質の魂であるクロ様とクロエ様はすぐにでも呪いに感染してしまいますわ。結果何もできずに束縛されてしまうでしょう」

 あたしはそこまで言って一旦クロさんとクロエさんを見る。

 「黒龍様とクロ様、クロエ様は魂の連結がなされていますわ。これはどうやっても切れるものではありませんわ。今回はそれを使わせていただき精神世界の黒龍様の魂近くまでの道を開きますわ。それと同時にクロ様たちにはこちらからあちらの世界に私の魂を送り込む手助けをお願いいたしますわ」

 「つまりは私たちに渡り橋になれとい言いやがるのですね、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン?」

 クロエさんは腕を組んで不服そうだ。
 しかし簡単に呪いに感染してしまう人たちを送り込んでも無駄死になってしまう。


 「わかった、それではエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンくれぐれも黒龍様を頼むぞ。魔力供給でも何でも我々に出来る事があれば言ってくれ」


 完全に納得している訳では無いだろうがそれでもクロさんはそう言ってくれる。
 あたしは魔法陣の場所を指定してクロさんとクロエさんに魔方陣の起動時に魔力供給とその後の維持について操作方法を教え準備に入る。


 「エルハイミ、まさか一人で行くつもりじゃないでしょうね?」

 「シェル?」

 「ショーゴやイオマは別としてあたしはついて行くわよ? あたしとあなたも魂の隷属でつながっている。何かの役に立つかもしれないわ」

 そう言ってシェルも魔法陣に入ってくる。
 心配そうに見ているイオマとショーゴさん。
 しかしここからの領分はあたしの専門だ。
 
 あたしはクロさんたちを見てから言う。


 「始めましょう、必ず黒龍様の魂をお助けしますわ!」



 そして魔法陣が起動するのであった。 
 
    
 
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