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第九章

9-21高貴なる魂を持つもの

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 9-21高貴なる魂を持つもの


 『ぐっ! くうぅぅっ!!』


 あたしたちの攻撃が触手や黒いスライムボディーを駆逐するたびに黒龍様が苦痛の声をあげる。
 しかし一刻も早くこの呪い自体を駆除しないとその呪いは黒龍様の魂全部を飲み込んでしまう。


 「シェル魔力を送ります! 頑張ってですわ!!」

 「くうっ! 精霊たちよもっとよ!!」


 シェルは精霊の軍団を更に呼び寄せ触手たちを攻撃する。

 あたしもあたしで本体のスライムボディーに【解除魔法】をどんどん当てていきその容積を減らしていく。
 しかし変色した部分はかなり多い。

 しばらくあたしたちはその攻防を繰り返す。


 『がはっ!』


 しかしスライムボディーの中心にいる黒龍様が吐血した!?

 と、その気が緩んだ瞬間に一本の触手があたしの足をからめとる。
 そしてその触手はものすごい力であたしを引っ張る!


 「うわっっきゃぁぁぁぁああああぁっっ!!」

 「エルハイミっ!? って、うわぁあぁぁぁっ!!」」


 あたしが引っ張られていくのを見たシェルも一瞬気が緩んだのその隙に別角度から襲ってきた触手にからめとられる!

 
 「うわぁつ! ぬるぬるして気持ち悪いっ!」

 「いやぁあああですわぁ! 変に絡み付かないでですわぁ!!」


 触手に捕まったあたしとシェルは次々に手や足、体を触手にからめとられていき自由を奪われる。


 ちょと、マジで気持ち悪い!
 それに何、この触手変な所に変に絡み付いてくる!?


 そして力強い触手たちにあたしもシェルも引っ張り上げられ宙に持ち上げられる。
 シェルはそれに抗いながら精霊たちを呼ぼうとしている。

 「もうやだぁ! 精霊たちよ助けて!!」

 すると炎の精霊サラマンダーたちが向かってくるが触手たちに阻まれここまでたどり着けない。
 シェルはさらに精霊を呼び出そうとしたその時だった、伸びて来た触手がシェルの口の中に入って精霊呪文を唱えさせないようにした!?


 「んぅっぐぅぅぅぅぅ!」


 あたしはぞっとした。
 やばい、これはやばいビジュアルだ!!
 
 シェルはその触手に口をふさがれもごもご言っているが呼吸が困難の為か顔が赤らんできている。
 しかも全身を触手でからめとられているので身動きが取れない。

 やばいよ、やばいよ、それ以上行っちゃったらいろいろやばいよ!
 あたしは何とかしようとその様子を見ている。


 『いつまで見てんのよ! このエロハイミ!! ものすごく危機を感じるから早く何とかしてよ!!』


 シェルが念話で叫んできた。
 と、あたしも気づく。


 あっ!


 そしてあたし自身も危険な状態になっているのに気付いた。
 シェル同様あの触手が絡み付きながらあたしの自由を奪い始めていたのだ!!


 「いっ、いやぁああああああぁぁぁっですわぁあぁぁぁ!」



 ぶちっ!



 あたしは何かが切れた感じがして魔力を放出する!
 するとあたしやシェルの体の表面を【絶対防壁】が薄い膜のように取り囲み少し離れた所に大量の【炎の矢】が現れる。


 「んぶぅぅううううっぅぅっ!!」


 シェルが何か叫んでいるけどあたしの心は拒絶でいっぱいで聞こえない。
 次の瞬間その【炎の矢】は一斉にあたしたちに向かって飛んできた!


 しゅぼぼぼぼぼぼっ!


 【炎の矢】は憎っくき触手を瞬時に焼き払いあたしたちを開放する。
 あたしは【重力魔法】を発動させ自由落下を制御する。
 そして地面に着いた感触が裸足の足から伝わって来てから何はともあれ【浄化魔法】をかけてあのぬめりをきれいに落とす。


 「よ、よくもやってくれましたわねぇ‥‥‥ 危うい所でしたわ、ゆ、許せませんわっ!!」


 あたしは既に怒り心頭、目の前のスライムを滅する事しか頭にない!


 「ぶはっ! エ、エルハイミぃ??」

 どうやら口の中のモノをやっと吐き出してこちらを見ているシェル、しかしあたしの怒気におびえて下がっていく。

 あたしは肉体が無い精神体なのになぜか同調しているけど、今は怒りで更にその奥の何かとつながったような気がする‥‥‥

 どういう事だろう?
 体全体に力がみなぎっている。
 しかもそれがどんどんあふれてくる感じがする。

 
 「エ、エルハイミぃ? あんた何しているの?? あんたの魂がどんどんふくれていく!?」


 またまたシェルが何か言っているようだけどあたしの耳には届いていない。
 あたしは目の前のスライムを睨む。

 スライムは触手を伸ばしあたしを攻撃してくる!

 しかしどんなに絡み付こうとしてもあたしの周りに張られた見えない防壁の壁に阻止される。
 そしてあたしはみなぎる力を片手に集中させ光る弾を作り出す。
 あたしは光る大きな弾をこのスライム向けて放とうとする。


 「エルハイミっ! だめっ、黒龍様が死んじゃう!!」

 
 カッ!


 その力を放つ寸前にシェルの悲鳴が聞こえた。
 あたしはハッとして慌ててその光の弾をずらすも今の一撃でスライムの半分以上が消し飛んでしまった!!


 「あっ、こ、黒龍様!!」


 我に戻ったあたしは慌てて黒龍様の魂、スライムに近づく。

 すでにスライム、いや、黒龍様の魂は今の力で半分以下に削られてしまい中心にいた黒龍様の意識ですら瀕死の状態になってしまった。


 『エ、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン、どうやら‥‥‥ 今ので魂の維持する力も‥‥‥ ほとんど失ってしまったようです。 正常な部分もだいぶ消し飛び‥‥‥ まだ呪いの部分もありますが‥‥‥ もう対抗するほどの力も残っていません‥‥‥ ここまで来てくれてありがとう‥‥‥ もう、意識も消えそうで‥‥‥ す‥‥‥』

 「黒龍様!」

 あたしは慌てて【回復魔法】や【治療魔法】をかけるが肉体ではない魂には効かない。
 魔力注入や他の考えられることをいろいろ試すもすべてうまく行かない。


 ど、どうしたらいいのよっ!

 
 するとシェルがあたしの肩をつかんで強く揺さぶる。

 「エルハイミ、落ち着いて聞いて。これは賭けよ。黒龍様の魂とあなたの魂をあたしと同じく一旦融合してその中から黒龍様の魂を拾い上げあたしと同じく隷属にするのよ。そうすればあなたの大きな魂によって黒龍様の失った魂の部分が補填されて黒龍様が生き延びられるかもしれない」

 シェルに両肩を押さえられあたしはシェルにそう言われポカーンとしてしまう。
 少し取り乱していたあたしだったが今のシェルの言葉でその可能性に光が見えだした。

 「た、確かに以前シェルと融合したときにはそれは出来ましたわ、でも太古の竜である黒龍様ほどの魂が私の魂で補えるのですの?」

 「何言っているのよ、まさか気付いていないの? 今の貴女の魂は何かとつながっていてものすごく大きな力があるじゃない!?」

 あたしは思わず自分の手のひらを見る。
 そう言えば先ほどの力って何だったんだろう?
 ほとんど無意識に使っていたけど、あの力って‥‥‥

 「とにかく時間がないわ、エルハイミ、あなたでなければできないわ!」

 シェルにそう言われあたしは小さく消えかかりそうな黒龍様の姿を見る。
 
 「でも、もしかしたらシェルにまで影響が出てしまうかもしれないですわ!」

 「その時はその時よ、どうせあたしたちは一蓮托生、やれる事はやるんでしょ、エルハイミ!」


 そのシェルの言葉があたしの背中を押す。
 あたしはもう一度黒龍様を見て立ち上がる。


 「シェル、やってみますわ」

 「頑張って、エルハイミ」


 まだあたしの魂は何かとつながっている。
 それはあふれんばかりの力をあたしに与えてくれている。

 あたしは意識を集中して手のひらを黒龍様の魂に、スライムにふれる。


 「黒龍様、あなたの魂と私の魂を融合しますわ! 絶対に助けますからあきらめないでですわ!!」

 『エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン‥‥‥』


 黒龍様はそれだけ言って首を静かに縦に振った。



 それを見たあたしは力を込め魂の融合を始めるのであった。
 

 
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