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第十二章

12-25盗賊

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 12-25盗賊


 「ヒャッハーっ! 上玉じゃねーか!! 大人しくしていれば命だけは‥‥‥」


 「ドラゴン百裂掌!!」


 
 どっかーんっ!!



 えーと、これで何回目だっけ?
 あたしはクロエさんに吹き飛ばされている盗賊どもを見ている。

 どう言う訳かここ数日しょっちゅう盗賊の群れにぶち当たって襲われている。
 勿論盗賊如きどうと言う事は無いのだけど多い時には日に三回も出くわしていた。


 「お姉さま、サージム大陸ってこんなに物騒だったのですね?」

 イオマがあたしの腕に抱き着きながら棒読みで「こわーい」とか言っている。
 まあ、やわらかいものが当たっているのであたしは何も言わないけどそん都度シェルやコクが騒ぐ。


 「しかし流石に多すぎね? どうなっているのよ?」


 シェルは襲い来る盗賊を矢で射止めてから頭の後ろをポリポリと掻いている。
 
 「暖かくなってきたので陽気に誘われて出てきたのかもしれませんわ?」

 あたしは【拘束魔法】で生き残った盗賊を亀甲縛り‥‥‥ もとい、動けない様に縛り上げる。
 そして木につるしてどう言う事かこいつらに訊いてみる。

 「あなたたちは一体なんなのですの? 最近やたらと盗賊に出会うのですわ」

 あたしが一人の縛り上げた盗賊に聞いてみるとそいつは唾をあたしに吐きかける。
 勿論予想していたので防壁魔法はあたしとそいつの間に貼ってあるので汚物があたしにつく事は無い。


 「てめぇ、姉御のお美しい顔に何しやがる!」

 「ひっ! ひぇぇええええぇぇっ!!」


 あ、いきなり現れたベルトバッツさんにこいつらは連れられて行って向こうで「至高の拷問」を受けている。


 あまり見たくない、いや、コクには見せられないような拷問を行っていて悲鳴がだんだんと怪しい声に変わっていく。


 「うわ~、あれは見たくないわ」

 「お、お姉さま、あ、あんな事まで!? は、入っちゃうものなんですね!」

 「うむ、相変わらず見事な手際です、ベルトバッツよ」


 シェルもイオマも拷問が始まると顔を赤らませて見入っている。
 あたしは慌ててコクを引き寄せそれが見え無い様に目隠しをする。

 「コ、コクは見てはいけませんわ! コクには早すぎますわぁ!!」


 * * *
 
 
 「それで、何がおこっているのですか、ベルトバッツよ?」

 「はっ、申し上げるでござります。近日この界隈の盗賊どもが一同に集まり大集会が行われるでござります」


 盗賊の大集会?
 なにそれ?


 あたしはベルトバッツさんの次の言葉を待つ。

 「どうやらこの一帯の縄張り分割をする為のようでござる」


 縄張り分割って、何よそれ?


 「あやつらが吐いた内容ですとこの一帯の盗賊たちが集まり奪った金品の多さでこの地域の縄張りを分割するとの事でござる。最近は行商人も護衛を付けているので力の弱い盗賊団は大きなところへと吸収合併するか縄張りを放棄して他所へ行くかをしているようでござるな」

 まあ盗賊には盗賊のやり方が有るのだろうけどだからと言って襲われたこっちはいい迷惑だ。


 ここから近くの町や村にこいつらを引き渡すのも面倒だし、だからと言って無抵抗になって捕まった者まで殺してしまうのも寝覚めが悪い。

 あたしはあきれて向こうで尻尾を振ってベルトバッツさんの前に伏せてマテをしている盗賊どもを見る。


 
 なんか色々と更生させるのは難しそうね‥‥‥

  
 「で、どうするのエルハイミ?」

 「どうするもこうするも、こう言った事は本来その国の問題ですわ。私たちがどうこうする必要は無いですし盗賊を近くの村や町に引き渡すのも時間がかかりますしですわ」

 あたしがそう言うとクロエさんが指をぽきぽきと鳴らして「殺りますでいやがりますか?」とか聞いてくる。


 それ怖いって、クロエさん!


 怯える盗賊どもにあたしは仕方なく【束縛魔法】ギアスをかける。 
 そしてショーゴさんに言ってこいつらの親指から血判を取る。

 「さあ、これであなたたちはもう悪いことできなくなりましたわ! 良いですわよ好きな所へ行っても!」

 そう言ってあたしはこいつらの拘束を解いた。


 「ちょ、エルハイミ! あいつら逃げていくわよ!?」

 「大丈夫ですわ、【束縛魔法】ギアスで契約をしたからもう悪事は働けませんわ!」


 あたしは【束縛魔法】ギアスの契約書をひらひらとシェルに見せる。

 「一体どんな契約取らせたのよ?」
 
 シェルはそう言ってあたしから契約書を受け取りその内容を読み始める。


 「なになに、『自分のやりたい事と真逆の事をせよ』ですって? エルハイミ、あんた最近本当に性格悪くなったんじゃないの? これって盗賊に死ねと言っているも同然じゃない?」


 悪人なので普通の更生は出来ないだろう。
 かと言っていちいちあれやこれや契約させるのも大変だ。
 なのでシンプルにああいう性格のねじ曲がっている連中にはしたい事の真逆をさせてれば大人しくなる。

 「他の人に迷惑にならなければいいでは無いですの? さ、先を急ぎましょうですわ」

 あたしはそう言って歩き出すのだった。


 * * * * *


 「ほほう、なかなかの上玉じゃないか? これはあたしが楽しまなきゃだね?」

 あたしたちの前にかなりきわどい服装のお姉さんが鞭をもって現れた。
 そしてその取り巻きも数百人はいるだろう大所帯。

 あたしは深いため息をついた。


 「なんだいなんだい、もうあきらめたかい? 大丈夫だよ、あんたみたいな上玉はあたしがたっぷりとかわいがってあげるからね。 おや? よくよく見ればそこの娘もなかなかじゃないかい? エルフまでいるのかい? メイドまで? これはみんな可愛いがりがあるね!? あらぁん、ゴスロリっ子まで! これは楽しみがいがあるわねぇ、ふっふっふっふっふっ‥‥‥」


 なんかやばそうなお姉さんね?
 あたしたち女性陣を見る目つきが違う。


 「姉御ぉ、少しはこっちにも回してくだせえよ。好い所全部取りしちまうんだから」

 そう言って盗賊部下その一は下品な笑いをする。

 「あたしが楽しんだ後に分けてやるよ、他の男どもは要らないから殺っておしまい!!」

 そう言うと一斉に盗賊どもが襲いかかってきた。
 しかしその瞬間にショーゴさんやクロさん、クロエさんが動く。

 それはほんのわずかな時間。
 動き出した盗賊どもは一瞬にしてこの三人に吹き飛ばされ動けなくなる。


 「へっ?」


 鞭を持ったお姉さん以外をあっさりと倒してあたしたちはそのお姉さんお前に立つ。

 「大人しく投降してくださいですわ。そうすれば命だけは助けますわ」

 あたしはにっこりと笑いそのお姉さんに言う。


 「くっ! 冗談じゃないよ! ここいら最大の盗賊団、『銀の女狐団』の頭がこんな小娘に投降なんて出来る訳無いじゃないか!! 死ねっ、小娘!!」


 そう言って懐からナイフをあたしに投げつけるけどそんなものは予想済み。
 あたしは防壁魔法を一瞬必要最低限だけ展開してそのナイフを弾く。

 しかし諦めないそのお姉さんは持っている鞭を振るってあたしに襲いかかる。
 あたしはため息をつきながら仕方なしに【地槍】アーススパイクでそのお姉さんの周りを囲む様にして身動きが取れないようにする。

 「なっ!? 何なんだいこの魔法は!? いくら優秀な魔法使いでもこれほどの魔法を一度に使えるなんて!!」


 「お姉さまにしてはずいぶんとお優しい扱いですね?」

 「そう言えばそうね? エルハイミらしくないわね?」


 イオマとシェルが変な事言っている。
 なんかいつものあたしはもっと酷くて容赦無いような言い方じゃないの?
 っと。


 「いけない、【束縛魔法】バインド!」


 【地槍】で囲んだ隙間から逃げ出そうとしているので【束縛魔法】で亀甲縛り‥‥‥ もとい、身動きできない様に水魚のポーズにして木からつるす。


 「さてと、ちょっと面倒ですが聞きたいことが一つありますわ。あなたたちの後ろには誰がいますの?」


 吊るされて縛られ身動きの取れないお姉さんはあたしのその言葉に一瞬ぎょっとする。
 そして視線をそらせた。

 「やはりそうですわね? 大人しく吐いた方が身のためですわよ?」

 あたしはにっこりとして彼女にそう言う。
 しかしお姉さんは目を逸らしたまま黙ってしまう。  

 「なんかエルハイミがどんどん性格悪くなっていくような気がする‥‥‥」

 「ああ、でもあのお姉さまの意地悪な所がまたそそられるんですよぉ~」

 後ろのシェルとイオマがなんかうるさいけどあたしはこれだけははっきりしておかないといけない。

 「いくら縄張り争いでも盗賊たちが集会で大人しく話し合いで決まりを守るとは思えませんわ。それにこの地域にだけこんなに盗賊が集まるのはおかしいですわ。交易路としても水上都市スィーフと精霊都市ユグリアの間、それほど盛んではないはずですわよね?」

 「ふ、ふん! 知るもんかい!!」

 あたしは大きくため息をつく。
 こんなのけしかけてもダメだってわかっているだろうに。
 よほど人材がいないのだろう。

 「主様、口を割らせるならお任せください! ベルトバッツよ、やれ!」

 「御意でござる。 姉御少々お待ちくだされでござる」

 そう言ってベルトバッツさんは吊るされたこのお姉さんに「至高の拷問」を始める。
 あたしは慌ててコクの目を手で隠しその場を離れる。

 後ろでイオマとシェルの「うわー! うわー!」とか「すごい! あんな事まで!?」とか聞こえるけどそんなのコクには見せられない!! 
   

 * * *


 「くふぅん、何でも言いますからぁ、もっとですぅ~♡」

 既に威厳も何も無くなってしまったお姉さんがそこにいた。
 あたしはこめかみに指を押し当てて聞きたい事だけ聞く。

 「では素直に言いなさいですわ。あなたたちの後ろには誰がいますの?」

 すると瞳がハートのお姉さんは色っぽくこう言った。

 「はぁい、あたしたちを取りまとめているのはぁボーンズって言う神父様ぁでぇすぅ~。集会も何も彼が発案でぇ、この界隈どころか他からも盗賊連中かき集めてぇますぅ~ん」

 
 「ちょっ、エルハイミ!?」

 「お姉さま、ボーンズ神父って!?」

 お姉さんの答えを聞いたシェルとイオマが驚いている。
 しかしあたしは予想通りだったのでショーゴさんにお願いしてこいつらに【束縛魔法】ギアスの血判を押させる。


 「どう考えても盗賊が多すぎますわよ、それに「迷いの森」には簡単にボーンズ神父たちは入れないでしょうですわ。向こうもだいぶ焦っているのでしょうですわ」


 あの神父、あたしたちを手に入れる為ならなんだってしてきそうだ。
 あたしはシェルやイオマにその事を言いこれから先も注意をするように言う。                                

 「ほんと、エルハイミっていろいろとモテモテよね?」

 「お姉さまですもの!」

 「出来ればそう言う所にはモテたく無いですわ‥‥‥」

 「どちらにせよ雑魚は俺たちで片づけるさ」

 「主様、必要ならベルトバッツたちを使って『至高の拷問』をしまくりますよ!」

 「主様は見境ないでいやがりますからね」

 「ふむ、次が来たようだ。黒龍様、主様しばしお待ちを。クロエ行くぞ!」

 最後にクロさんはそう言って次に現れた盗賊団をなぎ倒しに行った。



 あたしは吹き飛ばされる盗賊たちを見ながらこれがまたしばらく続くのかとまたため息をつくのだった。
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