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第十四章

14-23船

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 14-23船


 造船場ではあたしが中心になって大型船の改造作業と「潜水艇」の作成が行われていた。


 「エルハイミさん、本当にこんなので良いのですか? 鉄ですよ、鉄! こんなのでは船が沈んでしまいませんか?」

 オリバーさんはあたしが船の補強で外壁を鉄にしたことに驚きそして半信半疑で作業を進めている。
 この世界では水に鉄の船が浮くと言う事がまだ知られていない。
 しかし相手はジュメル。
 大型クラーケンの目撃もある。
 だから出来る限りの事はしておきたい。

 「エルハイミ、いくらなんでもこれってやり過ぎじゃない? 本当に水に浮くの?」

 シェルも鉄に変わった船底を手でたたきながら「うわ~」と言う顔をしている。
 あたしは仕方なしにその辺に転がっている鉄の欠片を【錬金魔法】を使って小さな船のかっこうにする。


 「安心してくださいですわ。オリバーさんちょっとこれ持っていてくださいですわ」

 オリバーさんに鉄の船の模型を渡して近くにあったタライに水生成魔法で水を張る。
 そして先ほどの船の模型を受け取ってタライの水の上に浮かべると‥‥‥


 「えっ!?」

 「ほ、本当だ! 鉄の船が水に浮いた!?」


 シェルもオリバーさんも驚いている。
 そんな様子に気付いたティアナや他の人達も寄って来た。


 「お母様、それは何かの魔法ですか? 鉄の船が水に浮かぶなどとは」

 「すっごーい! なにこれエルハイミ!?」

 「ティアナ将軍、これも魔法なのですか?」

 「見た事の無い魔法ね? とても興味深いわね」


 コクやマリアはその船をつつきながら見ている。
 つられて覗き込んだアラージュさんはティアナに質問しているけど魔術師のイパネマさんもそんな魔法は知らないはずだ。

 
 「エルハイミのやる事です、任せて大丈夫です。それとエルハイミ、これは魔法では無いのでしょう?」

 「ええ、ティアナの言う通りこれは魔法ではありませんわ。水の持つ力と比重の問題ですわね。この方法ですと上から大量の水をかけられるか穴が開かない限りそうそう沈むことは有りませんわ」


 「あら? 魔法じゃないの?」


 興味深くそれを見ていたイパネマさんはあたしに聞いて来た。

 「魔法ではありませんわ。物の理、物理ですわ」

 あたしは人差し指をぴんと立て説明をする。
 イパネマさんは「物理ねぇ‥‥‥」と言って考え込んでいるがシェルやマリア、アラージュさんは頭上にクエスチョンマークを浮かべている。

 「どちらにせよ主様のやる事でいやがります。常識外れはいつもの事でいやがります」


 どっ!


 なぜかみんな一斉に笑う。
 そしてシェルやマリア、アラージュさんもなぜかそれで納得してしまった。


 良いのかそんなので?

  
 まあ詳しく説明しろと言われてもあたしも知識として知っているだけで詳しくは説明できない。
 なのでここはこれ以上は何も言わずに黙っていよう。



 「ところで我が主よ、この『潜水艇』と言うものはこれで良いのか?」


 丸い球体に土台になる脚や丸い窓、上層部にはこの球体を引き上げる為のジョイントなどがついている。

 「そう言えば先ほど見みましたが何故下に穴が開いているのです? これでは水が中に入って来てしまいますよ?」

 カーミラさんが不思議そうにあたしに聞いてくるがあたしは人差し指を立てまたまた説明をする。

 「問題ありませんわ。お話を聞く限り『海底神殿』は深さ百メートルくらいの場所に有るらしいですわよね? だとするとかなりの水圧ですわ。出入り口はここだけにして形状を球体にして強度を保ちたいのですわ。それに下に穴が有っても他から空気が逃げ出さなければ水は中に入ってこないのですわ」

 カーミラさんは気首をかしげる。

 なので先程の鉄の船を今度は小さな潜水艇の形に錬成し直し今度は深めの樽に水を張って鎖をつなげてみんなの前で沈める。
 すると模型の潜水艇はするすると水の中にもぐっていく。

 「ほら、大丈夫でしょうですわ?」


 おお~っ


 周りから驚きの声が上がる。

 
 「下に穴が開いていても大丈夫なのか!! エルハイミさん、これはすごい!」

 オリバーさんはかなり驚いている様子。
 今までの常識が覆されるのだ、仕方ないか。


 「オリバーさん、すぐにでも出られますか?」

 「調整や何やらで後一週間は欲しいです」

 「駄目ですね」

 「そうよ、駄目よ! ティアナ様がおっしゃっているのですよ!!」

 ティアナの質問にオリバーさんは資料を読みながら答えるがティアナやセレに拒否される。


 「とは言われましても、これからその『潜水艇』とやらを取り付けるキャリアーなどを設置を‥‥‥」

 「こんな感じで良いですわよね?」


 あたしはオリバーさんたちが話している横で【錬成魔法】と【錬金魔法】を駆使して船の船尾にキャリアーを取り憑ける。


 オリバーさんは資料を落としてしまった。


 「私も出来る限り手伝いますわ」

 にっこりとほほ笑むあたしにオリバーさんは力なく笑うのであった。



 * * * * *



 「ふーん、鉄の船かぁ。こんなものよく水に浮くね?」


 あたしは今は一人で船の改造を手伝っていると夕方の黄昏頃にそんな声を聞き取った。
 どこかで聞いた事のあるような声だったけど、誰だっけ?


 『エルハイミっ! ま、まさかっ!!』


 一緒にいたシコちゃんが驚きの声をあげる。
 どうしたのよ?

 あたしは見ていた図面から顔をあげ周りをきょろきょろとみる。

 するとあたしのすぐ隣に年の頃十三、四歳くらいの銀髪短髪の女の子が立っていた。
 なんとなく彼女を見ると年の割にやたらと胸がでかい。


 「相変わらず君たちは面白い事をするよね?」


 その子はそう言ってあたしを見る。



 どきっ!?



 彼女の顔は何と表現したらいいのだろう。
 まさしく美少女なのだがその表情はいたずらっ子の様ににやにやとしている。


 『エ、エルハイミ!』


 なんかさっきからシコちゃんが言っているけど何だろね?


 「えーと、あなたはですわ?」

 「ん? 僕? 僕はアガシタ。天秤の女神アガシタって言うんだ」



 ぶぅ――――――っっ!!

 思わず吹いてしまう所だった。

 
 え?
 ええっ?

 アガシタ様ぁ!!!?



 『アガシタ様、なんでアガシタ様がこんなとこほっつき歩いてるんですか!?』

 「ああ、シコちゃんか。うん、レイムから連絡もらってね、エルハイミがこの辺にいるって聞いたから探しに来た。」


 アガシタ様はまるで近所を散歩して近隣の住人と世間話でもすているかのような雰囲気だった。


 「ア、アガシタ様なのですの?」
  
 「うん、そうだよ? しかし面白いこと思いつくね? 鉄が水に浮くなんて。これもあっちの世界の技術なのかな?」


 そう言って近くに有る椅子に座る。
 


 あたしは思わずアガシタ様の前に膝まづいて懇願する。


 「アガシタ様! お願いですわ、ティアナを、ティアナの体を治してくださいですわ!!」


 あたしはそのまま土下座するように額を地面にこすりつける。
 しかしアガシタ様はあたしの肩に手をついてあたしを引き起こす。

 「ティアナの事はだめなんだ。あの子は今の体と魂のつながりがどんどん弱くなっている。君たちで言う寿命ってやつだ。僕に出来る事はセミリア姉さまにお願いしてティアナの魂をまたこちらの世界に転生させてあげられる事くらいなんだ」


 「!?」


 あたしは息を飲む。
 分かってはいた、ティアナの命の炎が消えかかっている事は。
 
 それは肉体的に回復出来ていてもどうしようもなく魂と肉体の結びつきが弱くなっている現実。
 


 「僕たち女神でも出来無い事は有るんだ。それにガーベルのぼんくらのせいでちょっとね‥‥‥」


 そう言ってアガシタ様は視線を泳がす。


 え?
 何?
 どう言う事??


 「セミリア姉さまの所へティアナの転生についてライムがお願いに行ったんだがちょうどその時にガーベルのぼんくらがセミリア姉さまと良い中になっている事が発覚してね。今あっちは修羅場なんだ‥‥‥」


 「はいっ?」


 アガシタ様は頬に一筋の汗を流しながら続ける。

 「セミリア姉さまの事だから約束は守ってくれるだろうけど、追加のお願いは聞き届けてもらえそうにもないんだよ」


 アガシタ様はそう言って完全にあたしから顔をそらす。


 『アガシタ様、逃げてきましたね?』

 「ぎくっ! し、シコちゃん何を言うんだ、ぼくはそう、ほら、エルハイミが望んでいたあのお方の力との結びつきを強くしてあげる為にだなぁ~」


 おい、アガシタ様?
 一体どう言う事なのよ??
 あたしがジト目で見ているとアガシタ様は咳払いしてこちらを見る。


 「こほん。ま、まあエルハイミも寿命が有ってないようなもんだし、時間はたっぷりあるんだからこれくらいは良いだろう? あ、そうそう、あのお方の力は完全に異界から来ていて君の魂と融合するわけだが、その容量は枷がかかっていて勝手にそれ以上は大きく出来ないようだね? 僕がその枷を外してあげるよ。その代わりティアナの事は勘弁してくれ!!」

 そう言ってアガシタ様はあたしの中に手を突っ込んできた。


 「はぁえっ!?」


 すっとその手はあたしの胸の奥底に入り込みあたしの何かをつかむ。
 その瞬間体がしびれるよな衝撃を受ける。


 「はぁ、やっぱり君の魂は普通じゃないよ。構築自体がこっちの世界の者とは違う。よくこんなので今までやって来れたよね? ん? 予備容量? あれ? これって‥‥‥」


 アガシタ様はあたしの胸に片手を突っ込んだまま何やらぶつぶつと言っている。
 そしてアガシタ様があたしの何かを握るたびにあたしの体にびくびくと衝撃が伝わる。


 「そうか、君の魂はもともとあっちの世界の者だからか! この予備容量はギフトか!? 召喚だけでなく転生でもギフトがつくのか!! すごい! このギフトはあのお方の近くだったからバカでかいじゃないか!! 僕たち女神に匹敵する、いや、それ以上だ!! よし、これを開放するよ! 君は僕たち女神にだってなれる!! すごいぞ!!」

 そう言ってアガシタ様はあたしの何かを外した。



 ドクンっ!!

  

 心臓じゃない、もっと奥底の何かが脈打つ。
 それは魂の更に奥底。


 「うはぁっ! すごい、すごいっ! 君の魂は枷を解いただけで僕たち並にでかく成れるのか!? これならあのお方の力が流れ込んで来てもふくれて破裂する事は無い。って、おい、エルハイミ?」


 「あぁぁあああぁぁ、あぁ、ああぁ ぁ」


 あたしは頭では理解できない領域にいた。
 理解すること以上に理解できてしまうし少しでも考えたら途端に色々の事が分かってしまい大量の情報が流れ込む。
 人としての脳の容量をはるかに超える情報量。
 そんなものが処理できるはずはない。


 「あー、元は人間だからいきなりはムリかぁ。仕方ない、君には段階的に解除できるようにしておこう。でないと自我が保てなくなってしまいそうだ」


 そう言ってアガシタ様はあたしの魂に何かを付けた。 
 そしてあたしの胸から腕を引き抜く。

 途端にあたしの自我が戻って来る。


 「くはぁっ! ぜーぜー、あうっ、あああぁっ!!」

 「おや? もう大丈夫なはずだが? エルハイミ、僕の声が聞こえるかい?」

 『アガシタ様、本当に大丈夫なんですか? エルハイミを壊さないでくださいよね!?』

 シコちゃんも心配してくれている様だ。
 あたしは脂汗をかきながら息を整えまだ声が出ないので片腕をあげる。


 「今、君の魂の枷を解いた。しかしいきなりは厳しいから安全処置で慣れるまでは段階的にしかその枷は外せないようにしたよ。君はこれからその力を使い徐々に強くなっていく。君の力が強く成ればその枷は徐々に外れる様にした。全ての枷が外れれば君は女神以上の力を手に入れられるだろう」

 「わ、わた、くしが、はぁはぁ、私が女神様以上の‥‥‥ はぁはぁ、ちからを?」

 「そうだ、君はあのお方と魂でつながっている様だ。あのお方はこの世界の更に上に有る。僕らから見れば神様だからね」


 アガシタ様はそう楽しそうに言う。


 「これであの悪魔の王とか言う異界の者にだって十分に対抗できるだろう? 但し決して忘れるなよ? 君があのお方の力を使う時に自我を必ず保つ事だ。もし完全に飲み込まれたら君は君ではなくなってしまい、もうこの世界には帰ってこれなくなる。忘れるなよ?」


 アガシタ様はそう言って立ち上がった。

 「さて、僕の目的はこれで終わり。引き続き君たちの事は覗かせてもらうよ。君たちはとても面白いからね。それとティアナの事はごめん、彼女の転生先も記憶も保証は出来ない。セミリア姉さまは約束は守ってくれるから転生だけは確実にできると思うけどティアナの魂を持つ者はエルハイミ、君が見つけなければならない。まあ、君なら見つけられると思うけどね、時間もたっぷりある事だし」


 アガシタ様は体を光らせ始める。

 「さてと、僕はそろそろ行くよ。シコちゃん、引き続きエルハイミたちの面倒を見てやってくれ。それじゃ!」  
 
 アガシタ様は一瞬強い光を放って消えてしまった。


 天秤の女神アガシタ様。
 噂通り気まぐれな方だった。


 『まったく、嵐のような女神だわ。アガシタ様、またどっかに逃げたわね?』

 シコちゃんは誰となくそう言う。




 あたしはまだ肩で息をしながらその場で女の子座りをしたまましばし呆然とするのだった。

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