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第十五章

15-5ルブク奮闘

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15-5ルブク奮闘


 新しく出来たジルの村からあたしたちはティナの町に戻って来た。



 「戻ったか、我が主よ。丁度エスティマ様も昨日戻って来たところだ」

 執務室に戻るとゾナーが迎えてくれてエスティマ様も書類を見ながら難しい顔をしていた。
 エスティマ様はあたしたちに気付きこちらに顔を向けてティアナに話しかける。


 「なんだ、来ていたのかティアナ。今度は何だ?」

 「『ガーディアン計画』の『鋼鉄の鎧騎士』に使う源材の確保をしてまいりました」


 さらっとそう言うティアナをエスティマ様は驚き見る。
 しかしティアナはポーチからあの魔鉱石を取り出す。

 「ジルに案内された鉱山より出ているこの魔鉱石はミスリル合金を凌駕する素材が作れます。その名を『エルリウムγ』。従来の物より軽くそして強く、更に魔力伝達が三割ほどよくなるそうです」

 それを聞いたゾナーも思わずこちらを見る。


 「魔力伝達が三割も!? それは本当か我が主よ?」


 ティアナは首を縦に振る。
 そしてイオマが話しかけてくる。

 「エスティマ様、ゾナーさんお邪魔してます。ティアナさんが言っている事は本当で、お姉さまのおかげで新素材の開発が出来たんです。これで素体も作れます」

 「エルハイミ殿が‥‥‥」
 
 「相変わらずエルハイミ殿か。なら事実だな。しかしそうなるとすごいものだな?」


 なんかみんなあたしの名前が出ると納得するってどう言う事よ?
 
  
 ジルはにこにこしながらエスティマ様とゾナーに話す。

 「エスティマ様、ゾナー様。あの採掘場に俺の名前つけて『ジルの村』って事になったんだよ。ティアナねーちゃんからも言われたけどあそこは内緒の場所にしてガレントの為にあの魔鉱石を採掘してくれって。あそこもエルハイミねーちゃんのおかげで村になってずいぶんと住み心地もよくなったよ」

 「『ジルの村』? あの鉱山か? ティアナ、そんなにその魔鉱石とか言うのが出てくるのか?」

 「はい、すでに素体一体分は私たちが運んできました。この後もあそこでは魔鉱石の採掘を進めここティナの町で『エルリウムγ』を生産し、素体を生産していくつもりです」


 エスティマ様はティアナのその言葉を聞き唸る。


 「よくやってくれた。アテンザ姉さまとも話したのだが素体のメインフレームになるミスリル合金がやはり手に入らなくてな、困っていたのだ」

 「ではその分はこの新素材で行きましょう。よろしいですね?」

 エスティマ様は苦笑して「是も否も無い」と言う。
 そして早速ルブクさんを呼ぶ。
 いよいよ素体の生産に入るのだ。


 * * * * *


 「はぁ、やっぱりエルハイミさんが絡むと普通じゃなくなるよな?」

 「お姉さまですからね。ルブクさん、これからこの魔鉱石を使って『エルリウムγ』で素体のメインフレームを作っていきますよ。原則物理的な加工は不可能と思います。流石お姉さま、まさに魔道の技でのみ作り出せる究極の金属です!」


 イオマにそう言われますます嫌そうな顔をするルブクさん。
 ルブクさんはこっちを見る。


 「エルハイミさん、俺らは魔法が使えねえんだぞ? どうすんだよそんな金属作り上げて?」

 「えーと、作り方や形状の変化についてはイオマにやり方を教えていますわ」

 「それはイオマちゃんがいればの話だろ? 通常の整備とかどうするつもりだよ?」


 「うっ」


 そこまで言われたあたしは思わずう呻いてしまった。
 そう、フレームを作る事ばかり考えていて通常のメンテナンスや加工を全く考えていなかったのだ。
 
 『エルリウムγ』は基礎構造が鉱石と魔晶石の混ざったものが繊維状になっていてそれが包帯のようになって交互にクロスされるように巻き付き基本筒状のフレームを成形する。
 このクロスバンド構造は打撃や衝撃に強く更に魔鉱石の自己防衛の様な効果もあり非常に頑丈だ。
 反面、加工などがもの凄くし難く通常の物理的な加工を一切受け付けない。
 魔法によってのみその形状が変えられる。

 ルブクさんたちが通常の作業をするときは全て作業で魔法は使わない。
 
 となるとビス穴一つ追加するにも通常工具じゃどうにもできないとなると‥‥‥
 全て毎回【創作魔法】を使うしかない。


 「と、とりあえずメインフレームまでは私も手伝いますわ!」

 良い考えが浮かばないので取りあえずの対策を口にしてみる。
 するとルブクさんは更に難色を示す。


 「エルハイミさんがねぇ。余計に扱いにくくなりそうだ」


 「はぇ? どう言う事ですの??」



 あたしそんな変な事しないはずだけど?


 しかしルブクさんはため息をつきながら説明をしてくれる。

 「マシンドールもそうだがエルハイミさんの作るもんは精度が高すぎるんだよ。ビス穴だって遊びが一つもない。接続面なんか油塗ってくっつけたら最後、もともと一体だったんじゃないかってくらいぴったりとくっついて離れなくなっちまう。あまりにも完璧すぎるんだよ」


 ??
 どう言う事?
 精度って高い方が良いんじゃないの?


 理解出来てい無い様なあたしにルブクさんはもう一度溜息をついてから教えてくれた。


 「小さい物ではそれでも良いんだが大きなものでそれやられると、特に稼働軸なんかでそれやられた日にゃぁちょっとの傷で噛み込んで動かなくなっちまう。外装だってほんのわずかな歪みが出たら最後それが累積すればまっとうに装着できなくなっちまうんだよ。さらに追い打ちをかけて通常加工出来ないとなればお手上げだよ?」


 あたしはしばらくその意味を考えてみる。

 そう言えば生前カラーボックス作った時に微妙にずれが有ったけど最後には出来上がりで何とか格好になったっけ。
 もしそう言った遊びとか余裕が無ければ‥‥‥


 「あぁ~~~~」


 「どうやら理解できたみてーだな。重要な所は精度が必要かもしれねーが、それを全部でやっちまうととんでもねえ事になるって事だ」


 やっと理解できた。

 
 「そ、それでは ルブクさんの経験から遊びを指定してもらってその内容で【創作魔法】でメインフレームのパーツを作れば‥‥‥」

 「図面寸法どうりでモノが上がるのかい?」


 「うっ‥‥‥」


 間髪入れずに突っ込みを入れられるあたしは呻いてしまった。
 図面が有ればその通りに出来る自信はあるけどこの世界の製図技術だってそれほど高くない。
 指示された車輪どうりに作っても馬車に取り付けられないなんて日常茶飯事。
 そうすると現場でその都度微調整入れながらやるしかない。


 「『ガーディアン計画』自体は今後のガレントに要になります。エルハイミ、ルブクを手伝ってやってもらえませんか?」

 「お姉さまがいればメインフレームはすぐに出来そうですね!!」


 ティアナもイオマもそう言ってくるのだけど‥‥‥


 「お母様、すみません物を作るのはお手伝いが出来ません」

 「私も【創作魔法】は使えないしねぇ」

 「あたしはジルとあの村の往来ルートをもっと探ってみるわね」

 「主よ、見守る事しか出来なくて申し訳ない」


 コクもイパネマさんも手伝えないのは知っているしシェルには確かにあの村へのルートを新規開拓してもらいたい。
 ショーゴさんの頼もしい応援を受けながらあたしは肩を落としてあの工房に行かなければならなくなった。


 「うしっ、エルハイミさんがいるなら何とかなるか。とりあえず素体ってのを組み上げるか! 気合入れてあの歌うたいながらやるぞ!」


 あうっ!
 またあの歌聞かされながらやるの!?


 絶対頭の中で永遠にリピートされて当分離れなくなる!!


 あたしのそんな悩みは考慮される事は無くイオマとルブクさんに連れられてあたしはあの工房へと連れられて行くのだった。



 たんたかたんたん、ぃえーいぃ、いえーいぃ、いえぇぃ~い♪


 あうっ!
 既に脳内再生が始まったのであったのだった。  
   

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