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第二十章

20-3父の願い

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 20-3父の願い


 「よくぞ参った」


 「陛下におかれましてはお変わりなくご健勝のこととお慶び申し上げますわ」

 あたしは謁見の間でアコード陛下に膝をつき頭を下げ挨拶をする。

 周りにはあたしがいきなり来たので今いる大臣はそれほどいなかった。
 そしてここに努めている貴族もこの時間帯では少なく、やはりいきなり現れたあたしに面食らっている人物が多数だった。


 「エルハイミよ、話は色々聞いている。だがどうしても聞かねばならん。『エルハイミ教』なるモノが巷で噂されている。それは真か?」

 「はい、確かにそのような噂が広まっておりましょうですわ」


 あたしはその質問に素直にこたえる。


 ざわざわ‥‥‥


 途端に周りにざわめきが起こる。
 まあここまでは予定通り。


 「エルハイミよ、女神の名を騙りなんとする?」

 「恐れながら陛下、女神様より私は神託を受けましたのですわ。そしてお力を授かりましたのですわ!」


 さてここからが勝負かな?
 今後のあたしがティアナを探す為の枷を完全に外す為の!


 あたしはそう言いながら存在を開放する。
 ついでとばかりに背中に白い羽も生やしゆっくりと立ち上がる。

 途端に周りが驚きにざわめく。
 
 それもそのはず、あたしの体が光りだし周りにキラキラした光の粒子がばらまかれそして瞳の色を金色に輝かす。


 「エ、エルハイミ! 陛下の御前だぞ!?」


 パパンが焦ってそう言うけどそれも計算されての事。
 さてと、そろそろかな?


 周りが騒然となる中、それはやって来た。

 この王の謁見の間にいきなり光が集まりそこからピンク髪のメイド服を着た女性が現れたのだった。
 そう、天秤の女神アガシタ様の分身、ライム様だ。


 「マザーライム!」

 「おお、始祖母様!」


 アコード陛下の周りも更に騒然となる。
 そんな中ライム様はあたしのそばまでやって来る。


 「お待ちしておりましたわライム様」

 「ほんと、人使い荒いわね? まあいいわ」


 周りには聞こえないように小声でそう言ってライム様は周りの人に聞こえるように言う。



 「聞くが良い。天秤の女神アガシタ様は悪魔の神との戦いによりお力を使い眠りにつかれた。今この世の天秤は振れ続けている。それがバランスを崩す事をアガシタ様は杞憂されている。よってアガシタ様は眠りにつく間この者に代行を任せる! エルハイミよ、世の天秤を平定させて見せよ!」


 「承諾いたしましたわ、マザーライム」



 あたしはうやうやしくそう言って演技がかった動作をして頭を下げた。
 そして再び気配を押しとどめ背中の羽根もしまい込み瞳の色も元に戻して元のあたしに戻る。

 それを見届けてからライム様は小声で「じゃ、またね」とあたしにだけ聞こえるように言って虚空に消えた。


 静まり返った中、あたしは再び膝をつきアコード陛下に首を垂れる。


 「アコード陛下、私には天命が出来ましたわ。どうかご理解いただき女神様の使命を行わせていただきたいのですわ」


 ざわざわ。


 周りが騒いでいる。
 しかしアコード陛下は何も言わずただじっとあたしを見ている。
 そして手をあげ周りのざわめきを制する。


 「エルハイミよ、天秤の女神アガシタ様のご意思理解した。だが聞きたい、そなたは何者や?」

 「陛下、たとえ私は天秤の女神アガシタ様の使命をいただいてもエルハイミである事には変わりございません。我が最愛なるティアナの伴侶として」


 アコード陛下はそれを聞いて頷く。
 そして声高々に宣言する。



 「エルハイミよ、天秤の女神アガシタ様の使命、見事果たして見せよ! これよりエルハイミは女神アガシタ様の使命を果たす。我がガレント王国は女神アガシタ様のご意思に従う! 以降エルハイミの行動に皆の者も協力せよ!!」



 ははぁっ!


 この場にいる家臣たち貴族たちはいっせいにアコード陛下の命に低頭する。
 
 さて、これで予定通り。
 あたしはもう一度深く頭を下げ、そしてこの場を退出するのであった。


 * * * * *


 こんこん。


 あたしは扉をノックする。

 
 がちゃっ。


 「ん、来たわね?」

 そう言って彼女はあたしとパパンを部屋に入れる。
 ここはアコード陛下の書斎。
 机にはアコード陛下が座っている。


 「来たか、エルハイミよ。そう言えばセキは今回いないのだな?」

 「私の実家におりますわ」

 「陛下、すみません気が付きませんで」


 パパンはアコード陛下に頭を下げる。
 しかしアコード陛下は気にした様子もなく杯を引っ張り出す。

 「既に始まっている。まあ、ここは今は誰も入って来れんし外に音も漏れぬようになっている」

 「私が対処しているわ。問題はないわ」

 そう言ってライム様はくいっとお酒を飲む。
 
 パパンは渡された杯を持って初めて緊張が解けたかのように大きくため息をついた。

 「全く、わざわざあそこまで大げさにやる必要があったのですか陛下?」

 「流石に『エルハイミ教』がここまで広まってしまってはこうにでもせんとホーネスの立場も悪くなるだろう? それに嫁に対してもこういった免罪符が無ければティアナも戻って来た時に何を言うやら」

 そう言ってアコード陛下は屈託なく笑う。


 実は謁見の間でのあれは全てお芝居。

 元々アコード陛下の手紙にあったようになるべく目立たず城に来て先にアコード陛下に会っていたのだった。

 勿論その間あたしはもう一人のあたしからマリア経由でライム様を呼びつけてそしてここでの一連のお芝居をしてもらったのだが。

 「まったく、この国も面倒になったものね? でもまあ仕方ないか?」

 「マザーライム、仕方ありません。今の世は色々としがらみがありますゆえ」

 ライム様はそう言って手酌でお酒を杯に入れてからアコード陛下にもお酒を注ぐ。
 あたしはそれを見て手を振ってこの場に料理を出す。
 そして北の強いお酒も。

 「ほほう、これは馳走だな。ティナの町の特産か?」

 「気が利くわね! あ、でもこれってエルハイミが作ったもの?」

 「いいえ、正真正銘ティナの町の物ですわ。魚の燻製もお酒も全て本物ですわよ」

 アコード陛下は嬉しそうに魚の燻製を素手で取る。
 ライム様も早速あの強いお酒を杯に注ぐ。

 先程の慰労会ではないが久しぶりに羽目を外して飲み食いできると言う事でアコード陛下もライム様もご機嫌のようだった。


 「それでエルハイミよ、ティアナの居場所は見つかったのか?」

 「それが十二使徒の口を割らせ分かったのが三十の施設、それも古い情報でしたわ」

 「ん~、さっき聞いた場所だと私が知っているのはあと六つ、そうすると全部で三十六ね?」

 ジュメルの「テグの飼育場」と呼ばれる施設は全部で三十六か所。
 ここを一つ一つ回ってティアナを探してかなければならない。
 既に陛下にも話はしてあるけど今のあたしは三人に分かれている。
 なので一度に三か所ずつ調べに行ける。


 「いよいよこれでティアナも見つかりそうね?」

 「しかしエリリアさんの言っていた『魔王』が気になりますわ。私がティアナに近づけば近づくほど障害になりそうだと」
 
 あたしがそうライム様に答えた時だった。
 アコード陛下は杯を置きあたしに話しかけてくる。

 「エルハイミよ、一人の父親として頼む。ティアナを見つけ出してやってくれ」

 「はい、勿論ですわアコード陛下!」

 あたしはそう言ってにっこりと笑い「必ず見つけ出しますわ!」と言いながら義理の父親になるアコード陛下にお酒をお酌するのであった。














 ごとっ!

 んごぉぉおおおぉぉぉ~。

 あ、うちのパパンはティナの町のお酒に酔いつぶれちゃった。
 仕方ない、この人を連れてあたしたちは一旦ユーベルトに戻りましょうか。
 
 「昼酒は飲んでも飲まれるな」かな?  
  
  
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