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第二十章

20-5セレとミアムの話

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 20-5セレとミアムの話


 分かってはいるけど聞かない訳にはいかない。
 あたしはもう一度セレとミアムに向かって話す。


 「ティアナを見つける為ですわ。ミハイン王国の事を教えてくださいですわ」

 
 「正妻‥‥‥」
 
 「エルハイミさん‥‥‥」


 二人はそれだけ言ってからミアムは静かに語りだした。


 * * *


 ミアムはミハイン王国の貴族の令嬢だった。

 しかしミアムの父はジュリ教を語るジュメルに徐々に取り込まれ、気付いたときには完全に狂信者になっていた。
 何をとち狂ったのか家の財産を全て献上し、そして教団に入り家族もろともジュリ教の信者になった。

 その頃ミアムは十三歳。
 まだ成人もしていない彼女は甲斐甲斐しくも教団での生活になじもうとしてたが十四歳になる頃にはその生活に狂いが生じて来た。

 父親は発狂し、母親は病死した。

 いくら教団にいても狂った父親の為には金がかかりそしてジュリ教の勧めでその身を奴隷として身売りされた。
 そしてジュメルの「テグ」にされ様々な男たちの慰み者にまで身を落とし、連合軍のティアナに出会うまでどん底の生活をしていた。


 ティアナに救われたミアムは最初ティアナを信じていなかった。

 だが全ての諸悪の根源である秘密結社ジュメルについて教えられると今までの事も何も全てジュメルのせいと思いティアナに協力して徐々に王家にまで浸透を始めていたジュメルの悪事を暴露し、ジュメルの本拠地である地下大神殿にまで攻め込んだ。


 そしてあの儀式でセレに出会う。


 セレもミアム同様没落貴族の令嬢。
 しかしその身をジュメルは色欲の神にささげ降臨させることで王家を取り込む道具にしようとしたところをティアナに助け出される。

 その後何だかんだとあって十二使徒の二人とティアナは戦い、呪いをその身に受けながらも撃退。
 ミハイン王国はその時点でジュメルの毒牙から救われた。


 ただ、問題は根深くありミハイン王国には未だにジュリ教が根強く浸透している。


 「もともとミハイン王国はホリゾン帝国の分家の様な者です。王族の中にはホリゾン帝国のゆかりの者もいましたからね。だから必然と女神ジュリ様を崇拝していました」

 ミアムはそう言って忌々し気に唇を噛む。
 セレも青ざめてはいたがミアムに寄り添いその手を取る。


 「だからミハイン王国には『テグの飼育場』も他と違って特殊なのでしょう。私が入れらたテグの施設はほとんどが私の様な没落貴族や元信者でした。娼婦をさせるための」


 話には聞いていた。
 ミアムがテグとして娼婦をしていたことは。


 「ミハイン王国のテグは大きく分けて二つ、私たちの様な娼婦にされ各国の貴族たちにあてがわれる者とセレのように儀式に使われる者です」


 あたしはそこまで聞いてからふと気づく。

 「テグの飼育場」はジュメルが必要とする人体素材の財源では無いのか?
 なのにミハイン王国ではそれらしい施設が無いのか?


 「そうしますと『テグの飼育場』は無いのですの?」

 「いえ、もっと忌々しいものが飼育場としてあります。そう、不要な子供たちが入れられる『飼育場』です」

 「不要な子供たちですの?」

 あたしが聞き直すとミアムは更に青い顔をして心底嫌そうに話し始める。



 「貴族や重要人物の子供を身籠った女たちの産み落とした子供たちです」



 「!?」


 今まで黙って話を聞いていたイオマが思わず絶句する。
 しかしそれは有り得る話だ。

 奴隷層テグを使い貴族や有力者にジュメルの勢力を伸ばす。
 当然その中では望まれない子供も生まれる。
 しかし貴族や有力者の血を引く者をそうそう始末も出来ない。
 だから一所に集める。

 そしてその子らをまたジュメルは利用して使うのだ。


 「そんな‥‥‥」

 イオマはわなわなとしながらそれだけ言う。
 ミアムはそんなイオマを見てため息をつく。

 「ミハイン王国のテグで娼婦はその体にこういった入れ墨をされるの。そして様々な男を喜ばせる技を仕込まれ各国へと送り込まれるの。そしてその国に深く深く入り込ませるのよ」

 ミアムはそう言いながら腕をまくりその入れ墨を見せる。

 それはセレにもある入れ墨。
 ジュメルの最下層「テグ」である証。


 「ティアナ様に救われたミハイン王国でもあの国を本当の意味で支えているのは私たちの様な娼婦なのよ。しかも元貴族令嬢やジュリ教の信者。ただの娼婦ではなく貴族や有力者が好む娼婦なのよ」

 「だからあたしたちはあんな国が嫌い。いっそ滅んでしまえばいいのよ!」


 ミアムの話を引き継ぎセレは叫ぶように言い切る。
 しかしあたしは努めて静かに聞く。


 「ではミハイン王国には未だジュリ教が裏で支配する『テグの飼育場』が有ると言うのですわね?」


 「ええ、多分まだあるでしょう。王国としてはジュリ教の裏の顔を見て見ぬふりしか出来ないわ。どうせ自分たちの要らない子供の処理をさせるにはうってつけの組織だもの」

 忌々しげにそう言うミアム。
 そうするとミハイン王国の「テグの飼育場」は未だ稼働していると言う事になる。

 あたしはミアムに聞く。


 「それでその施設は何処に有るか分かりますの?」

 「残念ながらどこにあるかは分からないわ。ただ、複数あるらしいの。それも将来娼婦として使うために教育をするような場所らしいわ」


 あたしはそれを聞いて嫌になって来る。
 複数あるそれらの施設はきっと今までの様な物とは違うだろう。
 しかし根源は胸糞悪い性奴隷の飼育場。
 それも貴族や有力者向けのもの。

 小さな頃から将来娼婦や慰み者になる為の施設。


 「お姉さま! そんなのダメです!!」

 「ティアナが苦労するはずですわ。これは国の根底からの問題ですもの」


 腐った国だ。
 いくら存続の為とは言え国が裏で協力をする国。
 その闇は深い。



 あたしはユーベルトにいるあたしとエリモアのあたしの二人でミハイン王国に向かう事にするのだった。
 
 
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