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第五章:足止め

5-15ジーグの民

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「ふえぇえええええぇぇぇえぇぇん! お姉ちゃぁーん!!」

「うわっ! ル、ルラ、分かったから落ち着いて!!」


 どろどろの恰好で腐臭をまき散らすルラ。
 いくら可愛い妹とは言え、これは流石にきつすぎる。

「と、とにかく【水生成魔法】で水作るからちょっと待って!」

 この悪臭を何とか拭い去らなければどうしようもない。
 私は慌ててポーチから一番大きな鍋を取り出し、それに水生成魔法で水をどんどん作る。
 そしてまずは一杯目をルラにかぶせる。


 ばしゃーっ!


「うわっ、うううぅ、まだまだ全然取れないよぉ~」

「分かってる、はい次の水!」


 私が水生成魔法を使って鍋に水を溜める頃にはカリナさんもトーイさんもザラスさんも水を魔法で作るのを手伝ってくれる。
 ソルスタさんたちも何処からか水を葉っぱの上に溜めて持って来てくれている。


「退いてください。ルラ、水の壁を作りますからそこへ入って流してください」

 何度かカリナさんたちの手伝いでルラに水をかけているけどまだまだ取れない。
 するとネッドさんが呪文を唱えながらルラの前に出て来る。


「【水壁】ウォーターウォール!」


 ネッドさんはルラの前に水の壁を作り出す。
 そしてルラに言う。

「ゆっくり流れに逆らわず入ってください。この魔法は水の壁なので下から上へ水が常に流れています。無理に逆らうと弾き飛ばされますからね」

「ううぅ、わかったぁ」

 ネッドさんに言われてルラはまだまだ体中に汚れをつけたまま水の壁に手をゆっくりと入れる。
両手片足とゆっくりと入れると確かに下から上に水流が流されている様だ。
 ルラは体の一部を入れては出してを繰り返し水の壁で体を洗うけどなかなか落ちない。
 そんな事をやっていたら水の壁の持続時間が切れたようでその場から消えてしまった。


「ううううぅ、まだまだ体中についてるよぉ~。お姉ちゃんこれ消し去れないの?」

「あっ、そっか! 私のスキルでルラの身体についている汚れを消し去ればいいんだ!」


 ルラに言われて私のチートスキル「消し去る」の応用方法に気付く。
 毒とかと同じで対象を絞ればルラの身体についた汚れも消し去れる。

「ちょっと待って、すぐにやるから!」

 私はそう言ってルラの身体についている汚れを効果対象に設定する。
 すぐに頭の中に実行の有無が浮かんでくる。


「行くよルラ、汚れを『消し去る』!」


 手をかざしルラの身体の汚れを消し去る為にスキルを発動させる。

 なんだ、最初からこうやってすれば簡単だったんだ。
 ごめんね、ルラ。
 でもこれで奇麗にぃ……


 しゅんっ!


「あれ?」

「え”っ!?」


「あらまぁ」

「うわっ!」

「おおいっ!」

「ちょ、ちょっとこれはっ!」


 ルラの身体にまとわりついた汚れは何とルラの服ごと一緒に消えてなくなった。
 まさか汚れた服も汚れ対象に含まれたぁ!?


「むっ!? これは現身の術でござるか!?」

「いや、しかし本来は衣服を脱ぎ去り当人がその場から消える技でござるよ?」

「むう、ではルラ殿の衣服はいずこへでござる?」


 ソルスタさん違うってばっ!!
 と言うか、何しっかりルラの裸見てんのよ!?


「え、えーと、なんであたし裸なの?」

「うわぁああああぁぁぁぁぁっ! ルラ、隠して、前、前ぇっ!!!!」


 きょとんとしているルラは全く動じず私よりちょっとだけ大きい胸も何も丸出しでいる。

 私は慌ててポーチから毛布を取り出しルラにかぶせる。
 そして男性陣を見るとバツの悪そうな顔をしてちらちらとこちらを見ている。
 カリナさんはケタケタ笑っているだけだけど、女の子が裸を男の人に見せるなんて言語ごんご道断どうだん


「ごめんルラ! ああ、私はなんて事をっ!」


「すんすん、お姉ちゃんあの臭いの無くなった! それにお風呂に入ったみたいに体がさっぱりしている!」

「へっ?」

 ルラを抱きしめて平謝りする私にルラはきょとんとして自分の腕の匂いを嗅いでいる。
 そして屈託なく笑っている。

「あ、あの、裸にして皆さんに見られちゃったのよ?」

「ん? 別に裸見られたって困る事無いでしょ? 村ではみんなで泉のお風呂入ってたし」

 あっけらかんとそう言うルラにとうとうカリナさんは大爆笑をした。


「あーははははははっ! こんな子供のは裸見てうれしがる変態なんていないわよ! ねえトーイ、ザラス、ネッド」


 そりゃぁカリナさんからしたら私らは人間でいう三歳児のお子様かもしれないけど。
 体はもう十五歳くらいになっているのだもの、ちゃんと下だって薄っすらと生えて来てるもん!!

 私がそう思っていると笑ってたカリナさんが固まっている。


「トーイ、ザラス、ネッドあんたたちなんで前かがみなの……」


「いや、これは……」

「そのぉ~」

「か、カリナこれは違うんです! 私はカリナ一筋なんです、これは男性のしがない生理現象なんです!!」


 三人とも前かがみで慌ててカリナさんに弁明をしている。
 思わず私は三人をジト目で見てしまう。

 やっぱり男どもって……


「まったく、こんな子供の裸見て何が楽しいのよ? あんたらまさかロリコン?」


「「「違う(います)!!」」」


 思い切り不機嫌になるカリナさん。
 しかしここでソルスタさんたちがポツリと言う。


「しかし、こんな所にアンデッドドラゴンがいるとはでござるな」

「小竜とは言えあのような危険なモノがこんな森にいるとはでござる」

「しかもアンデッド化しているとはでござるな」


 それを聞いたカリナさんはこちらを見て顎に手を当て考える。

「確かにおかしいわ。小竜は本能のまま行動はしていてもそうそう簡単に死ぬ事は無い。しかもアンデッド化するなんて稀も稀ね。闇の精霊はいても死霊がいるわけでもないのに……」

「アンデッド化するのには条件がそろってませんね。死んで死霊に取り憑かれるか誰かに殺されてアンデッドにでもされない限り」

 カリナさんのつぶやきにネッドさんもそう言う。
 それを聞いた私はある事を思い出す。


「あの、コクさんにかけられた呪いってどうなっちゃう呪いだったのでしょうか?」

 それを聞いてカリナさんはハッとする。

「もしかしてさっきのアンデッドドラゴンって……」

 何かに気付いたカリナさんにネッドさんも言う。

「ですね、もしその呪いを試したのが先ほどの小竜であればこれは間違いなくジーグの民の仕業ですね」

「だとすりゃ、黒龍様ヤバいんじゃないのか?」

「そうだな、リルもいないのに乗り込むなんてな」

 私たちは顔を見合わす。


「だとしたら急がなきゃ!」



 カリナさんのその言葉に私たちは急ぎ森の更に奥深くへと向かうのだった。

 
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