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第十六章:破滅の妖精たち

16-6馬車

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 アプトムさんが用意した馬車に乗る。


 ここガルザイルの街は大騒ぎだった。
 ここから見て街の中央にある「落ちてきた都市」を囲む壁の反対側では王城は残ったものの、古代魔法王国のガーディアンたちや魔生成物が出て来てまだ騎士団たちはその対応に追われているらしい。
 
 私たちの襲撃で近くの住民にも被害が出ていたが、それ以上にガレント軍に被害は大きい。
 ほとんどの「鋼鉄の鎧騎士」が破壊され、そして壁の修復も思うように言ってないとか。


「流石に衛星都市に逃げようとする連中も出てきたわね」

「知ってる人はいきなりヤツメウナギ女やオーガ、サイクロプスが襲って来たので驚いているでしょうねぇ~。貿易都市サフェリナの件もありますからねぇ」

 アリーリヤとイリカはそんな事を話しながら外を見ている。
 郊外のアジトに転移して馬車に乗ったけど、同じくガルザイルから逃げ出す馬車はいくつもいた。
 街中に、しかもお城の目の前にあれほどの化け物たちが出れば民衆は大慌てになる。
 つてがあればいち早く安全な場所に逃げたいのは道理だろう。

 逃げ出す馬車はそこそこ装飾の良い物が多い。
 つまり貴族たちと言う事だ。

「ふん、所詮連中はあんなものよ。分が悪く成ればすぐに逃げ出す。腐った連中よ」

 アリーリヤはそう言って鼻で連中を笑う。
 そして私に向かって言う。

「ああ言う連中が国の上にいれば何時まで経っても努力した人間はのし上がれないわ。だから我々ジュメルはああいった連中も潰す。ふふふふ、郊外に出たらイリカ、分かるわね?」

「う~ん、あの程度ならオーガとサイクロプスで十分よねぇ? それじゃぁ街道に出たら潰しちゃいましょう♪」

 そう言って封印のひょうたんと「賢者の石」がついた指輪を準備する。

「あの…… なにも殺さなくても」

「分かってないわね、リル? これは見せしめよ。ああいった汚い連中がどうなるかのね」

 
 そしてその狂気は起こる。
 街を出てしばらくするとイリカの操るサイクロプスとオーガの皆さんが集中的に貴族らしい馬車を襲う。
 まさしく阿鼻叫喚の風景を私は何故か冷めた目で見ていた。

 本当はやめさせたい。
 でもこう言う連中もこの世界の弊害で、これは必要悪なんだと頭では理解をしている。

「ふふふふふ、いい気味だわ。さあ、そろそろ私たちも行きましょうかしら。聖地ユーベルトに向けてね」


 アリーリヤはことさら上機嫌になるのだった。


 ◇ ◇ ◇


 馬車に揺られる事二日目にして神殿があった。
 古い神殿で、今は女神を祀っているらしい。


「目障りね…… 女神を信仰する神殿なんて。リル、ちょっとアレ消し去ってくれない?」

「あの神殿を? まあエルハイミさんに関わっているみたいだし……」

 私はアリーリヤが外を見ていてその神殿に祀られているのが女神であるエルハイミさんと気付くと不機嫌そうに私にそう言ってくる。
 確かにあれはこれからの事を考えると消し去った方がいい。

 だから私はためらいもなく手を掲げチートスキルを使う。


「あの神殿を『消し去る』!」


 途端に古い神殿は跡形もなく消え去る。
 但し、そこの神官らしい人たちは残ったままだった。

 彼ら彼女らはいきなり神殿が消えさり大慌てをしている。


「リル、なんで信者も消し去らなかったの?」

「え? 別に中の人まで消し去る必要はないじゃない?」

 神殿は奇麗さっぱり消えて私はやる事をやった気持でいたけど、アリーリヤは違った。

「あいつらも消さなきゃ意味が無いじゃない? あいつらは女神を崇拝しているのよ?」

「だからって無暗に殺生する必要はないじゃない。神殿が無くなればそうそう活動だって出来なくなるでしょ?」

「甘いわね、女神を信じているうちは矛盾は無くならないわ。【炎の矢】!!」

 アリーリヤはそう言いながら右手の中指の「賢者の石」の指輪を光らせる。
 そして呪文を唱え、力ある言葉が発せられた瞬間、何十本もの【炎の矢】が発生して信者の人たちを襲う。


「ちょっ!」


 私が短い叫び声を上げた瞬間彼らにその【炎の矢】が突き刺さり燃え上がる。


「ははははははっ! 女神の信者も私たちの敵よ!! リルよく見ておきなさい、私たちの聖戦の証を!!」

「アリーリヤ!! わざわざ殺さなくても!!」

「甘いって言ってるでしょリル! あいつらは私たちの敵、敵なのよ!」


 じゃらっ!


 そう言いながらアリーリヤは私の首輪の鎖を握る。
 その瞬間身体の動きが制限されてアリーリヤの顔が近づく。

「わかって愛結葉。私たちがしようとしている事は非道でもそれは必要悪。この世界を正常にするための必要なモノよ? だから私の言う事を聞いて……」


 ちゅっ
  
 
 そう言いながらアリーリヤ、いや静香は私に口づけをする。

 
「変えるのよ、世界を」

「せ……かい……をかえ……る……」


 口づけされたことに驚きながらも動かない体はアリーリヤの言葉だけ聞いている。
 そして私の心の奥底にもそれで良いのだと暗い淀みが溜まるのだった。
 

 * * * * *


「もうじきユーベルトに着くわね」


 アリーリヤは馬車の窓の外を見ながらそう言う。
 約二日の道のりだったけどとうとう衛星都市ユーベルトに着いた。

 
 ここはエルハイミさんの生まれた聖地とされているらしい。

 そう、もともとはここの領主の娘でしかなかったエルハイミさん。
 普通の人間だったエルハイミさん。
 それが力を手に入れ女神になった。

 私たちと同じ異世界からの転生者。


 普通の人だから、異世界からの転生者だからこの世界を変える力を手に入れて我が儘になったんだ。

 だから、そんな始まりの街は壊す。
 そして私たちジュメルが世界を正常にするんだ。



 私の心の奥底から沸いてくる黒い淀みはそう私に告げるのだった。
 
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