テグ戦記

さいとう みさき

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第十六章

第85話第十五最終章16-2赤い鋼鉄の鎧騎士

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16-2赤い鋼鉄の鎧騎士


 ―― ヨコセ、キサマノタマシイスベテヲヨコセ! ――


 体中を蝕むそれに抗う俺だが、俺の深く深い所から魂を吸い出すように何かがうごめく。
 残った意識でシャルやボヘーミャの街に影響が出ない様に離れるが思うように動けない。


 「アイン! アインっ!!」


 シャルがわめいている様だが今の俺には彼女を巻き込まないようにするのが精いっぱいだ。


 『は、離れろ…… こいつが…… 『魔人』が俺を取り込もうとして…… いる!』

 「アインっ! す、すぐに学園長たちを呼んでくる! 学園長は昔『魔人』を倒した英雄、きっと何とかしてくれるはずよ!!」


 いいながらシャルは慌てて走り去る。
 とりあえずはこれで彼女を巻き込まずに済みそうだ。

 問題は今の俺の自我が何処までもつかだ。
 さっきからあの声は俺の頭の中で響いている。


 「畜生、こんな事で、せっかくアルファードの奴を倒したってのに!!」

 ―― ヨコセ、キサマノタマシイスベテヲヨコセ!! ――


 「魔人」だか何だか知らないが誰が貴様に魂をくれてやるもんか!!



 「うるせぇっ! 俺から離れやがれぇっ!!」



 俺は最後の力を振り絞ってそう大きく叫ぶのだった。


 * * * * *


 この世界は魔素と魔力であふれていた。

 俺が生前いた世界は魂の中に魔素を内包はしていたが、世界にそれは乏しく奇跡の力を起こす事は出来なかった。
 だから人々はいるかいないかもわからない「神」にすがった。

 人をはるかに超える力を持ち、奇跡を起こせるその存在に。

 しかしその世界で「神」は人々に試練だけを与えた。
 そして上手くいかないのは信仰が不足しているからだとか、それが「神」の試練だからと皆言っていた。

 俺はその頃それを信じ「神」の名の下、引き金を引いていた。
 そして沢山の命を「神」のもとへ送り浄化してもらい「神」の教えを受ける事こそが正しいと教えられた。

 勿論そんな事は真っ赤な嘘だった。

 俺は「神」の敵と称する連中の大使館を俺自らの自爆で葬り去るはずだったがそいつらに捕まり真実を教えられ、そして絶望をした。
 それだけでは無く、俺に「神」の教えをしていた人物がただの人々の命を脅かす狂気の人物だと知った。

 だから奴を粛清しなければならなかった。

 そいつらに協力をして「神」の教えで少年たちを使い人々を脅かしてきた奴を後一歩のところまで追い詰めたが、その瞬間に俺は一番仲の良かった同志に殺され、そしてこの世界に来た。



 この世界での俺は最低だった。

 テグと呼ばれる最下層の奴隷として生まれ、そして飼育場という場所で何も知らず生きる為だけに他人の物を奪い取り喰いそして生き延びてきた。

 しかしホリゾン公国という連中にその飼育場は解放され、ただの奴隷から奴隷戦士になった。
 
 戦い生き残れば飯が食える。
 功績をあげれば褒美も与えられる。

 ただのテグだった事に比べれば格段と良い状況だった。

 だから俺は戦い続けた。
 生きる為に。
 欲しいものを手に入れる為に。
 そして俺の女たちと、仲間たちと生きていくために戦った。  


 
 そう、「神」が作ったこの理不尽な世界と!!



 * * * * *


 目の前に学園長がいた。
 いや、シャルもいる。
 そして他にもたくさんの剣や弓を向けた連中も。

 周りには燃え盛る瓦礫の山が有り、よく見れば何人もの人間が死んでいた。


 連中は矢を放ち、魔法を発動させ俺に攻撃をしてくる。
 時たま学園長も強力な攻撃をしてくるが致命傷にはならない。
 それに核となっているオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」を切り刻む事は出来ない。

 なんか滑稽だ。
 「神」の秩序を守って来た連中は非力すぎる。
 俺のように悪魔であるアガシタと契約した方がずっと強く成れる。

 所詮「神」なんて救いの手を伸ばしてなんかくれない。
 いつも試練とか信仰が足らないと言って俺たちを救ってなぞくれない。


 ああ、そう言えば前世の世界でも十字路で悪魔に出会い、魂と交換に今まで世に無かった音楽を教えてもらったと言う音楽家の話を聞いたっけ?

 それは魂の叫びをしながら爆音と共に骨まで響く音楽。
 生前俺も大好きだったすべてを破壊できそうなその音楽は確か「ロック」とか言ったっけ?

 また聞いてみたいな。
 あの全てを破壊するほどの大音量と骨まで響く魂の叫び声。


 そうだよ、「神」なんか信じずに「悪魔」の方を信じればいいんだよ。


 「悪魔」は代価の魂を受け取ればちゃんと望みをかなえてくれる。
 死んだ後なんかどうなるか知らねえぇが、天国だか何だか訳の分からない所なんぞ行く気も無い。

 力が有れば何でもできる。
 この理不尽な世界だって覆す事が出来るんだ!!


 「アインっ! お願いアイン、もう止めてぇっ! 帰って来て私の所へ、もう、止めてぇっ!!」


 びくっ!

 
 何故かシャルのその叫び声が聞こえた。
 もう一度シャルを見ると涙を流しながら俺を見ている。
 エリリアに押さえられながら後ろの方で泣いている?

 なんでだ?
 俺は悪魔の力を手に入れなんだってできるんだぞ?

 もうお前を脅かす連中など排除できるんだぞ?

 アーシャやザシャの時とは違って今度こそは守ってやれるんだぞ?



 「アイン! 正気に戻りなさい!! 気を確かに持つのです!! 【流星召喚】、メテオストライク!!」


 学園長がそう叫び周りのマナから魔力を掻き集め練り上げて行く。
 それを錬成して天空高くに存在するはずの岩の塊を空間を開き呼び寄せ高速で俺にぶつけようとする。

 ああ、確か大魔術でそんなのが有ったな?

 しかし、いくらそんな大魔術でも今の俺には効かないぞ?



 ごごごごぉ!!

 どがぁああああああぁぁぁぁんッっ!!!!


 びたっ!
 ぱぁぁあああぁぁぁあぁぁぁぁぁ……


 隕石が俺にぶつかるがその前にマナと魔力の流れの悪い所に手を差し伸べ崩してやると隕石は青い光の粒子になってバラバラになって行く。
 所詮魔法で呼び出したかりそめの岩。
 魔法の流れを断ち切って魔力の練られたものを崩せばこうなる。

 俺はその岩を全て光の粒子に変えて消し去る。


 「くっ! 意識が有るのですかアイン!!!?」


 学園長って何か気に入らないな。
 偉そうにしやがって。
 シャルだって今の見ただろう?

 俺は強いんだ。

 だから学園長を殺す所を見せてやるよ、邪魔するやつはみんな殺してやるよ!!


 俺がそう思い手を振り上げたその時だった。



 キィイイイイイィィィィン……



 何の音だ?
 まるで生前の世界の戦闘機のようなこの音は?

 まあいい、先ずは目の前の学園長を殺すとしよう!



 どがぁあああああぁぁぁん!!



 なんだ?

 俺が学園長を殺そうとするとその目の前に空から何かが降って来た?
 もうもうと土煙をあげてそれは俺の目の前でゆっくりと立ち上がる。

 そしてその姿に俺は驚く。

 似ているが少し形も違うし、そもそも色が違っていた。
 真っ赤に輝く外装に背中にマントのような何かを背負っている。
 俺と同じくらいのその巨体は間違いなく「鋼鉄の鎧騎士」だった。



 そう、赤い「鋼鉄の鎧騎士」だったのだ。
 
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