テグ戦記

さいとう みさき

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第十六章

第88話第十六最終章16-5最終話 望むモノ

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16-5最終話 望むモノ


 『あなたは何を望みますの?』

 
 女神は俺にそう問いただす。
 この女神、俺の望みだと?
 もう死んでしまった俺に望みなど……


 そう思った瞬間だった。


 俺は今までの人生が走馬灯のように蘇る。
 それは向こうの世界の事も含め、俺が俺であった歴史。

 はたから見ても滑稽な人生だった。

 前世でもこの世界でもただ戦う日々だった。


 何故人は争う?
 何故俺は戦わなければならなかった?


 初めてアーシャに会った時だってその腕前を見る為に剣を交わした。

 ザシャだって元々はホリゾンに与する敵だった。

 そしてシャルもアルファードの野郎を手助けする精霊使いだった。


 それでも俺たちは分かり合えた。
 愛し合えた。


 そしていつも俺の手の中から消え去った。
 争いが、戦いが、そしてそんな世界がいつも俺から大切なものを奪い去った。



 そして「神」を名乗る連中は何時もそれを傍観していた。




 ……分かってはいる。

 それは俺の八つ当たりだ。
 もともと俺は「神」なんて信じていないし、それにすがるつもりもない。
 全て俺が引き起こした結果だ。


 何故そうなる?
 何故俺の心はいつもこうも乾いている?



 ―― 俺は、俺は…… ――



 言葉にしようとしてもなかなか出てこない。
 いや、そんな事がこの俺に許されるのか?

 俺だって人の命を沢山奪って来た。
 それこそ数えきれないほど。

 それが戦争だからと言って、そして生き延びる為だからと言っても結局はそれは俺が今まで受けて来た事を他の奴等にしている。


 救いは無い。


 人間なんて存在は結局争いをやめられない愚かな存在だ。
 だから俺が死んでその愚かな罪の贖罪をするするのは当然だ。


 当然なんだ……



 ―― 俺は、今までにたくさんの罪を犯した。 盗み、犯し、そして人の命を奪った。この死は当然の報いだ。そんな俺に望み? ――


 『そうです、あなたは何を望むのですの?』



 その声に何時しか俺は涙を流していたらしい。
 既に無くなった肉体のはずなのに涙を流していると実感できる。




 ―― 俺は、俺はただ、生きていたかった。普通に平穏に。アーシャやザシャ、シャルと普通の暮らしをしたかった。もう、人を殺す事なんかしたくなかった。ただ、ただ普通の暮らしをしたかったんだ!! ――




 自分でも驚いた。
 言葉にして初めて理解した。

 俺は生きる為に戦っていたのか?
 いや違う、俺は単に平穏に普通に生活をしたかったんだ。

 みんなと普通に、殺し合いの無い場所で静かにそして仲良く平穏に、平和に、そして愛する者と静かに生活をしていたかっただけなんだ。



 『あなたならそう言うと思いましたわ。それが私の望む世界。私はたったそれだけの為にこの世界を維持してきたのですわ。私の愛する者の為に平穏で静かで温和な世界で生活する為に』



 何故だろう、その言葉に救われた気がした。

 この女神、何故?

 そう言えばこの女神も元は俺と同じ世界の人間がこちらの世界に転生して来たとか……


 ―― しかし俺は断罪されるべき罪を背負って来た…… ――


 『それは皆同じですわ。この世界もあの世界も生きると言う事は確かに戦いなのでしょうね。いくら平穏な世界を望んでも人は生きる為に他の物の命を奪い、そしてその血肉を喰らいその命をつなぎとめる。自然の摂理ではあるモノのそれは必要不可欠の事。その中で人は全ての生物の頂点に立った。だからこそその人が世界の理を知り、その世界を温和で優しい世界に導かなくてはならないのです。そう、魂の輪廻転生を行うものがこの世界を導かなければならないのですわ!!』


 ―― 世界を…… 導くだと……? ――


 『そう、きっとそれこそがあなたがこの世界に転生してきた真の理由ですわ。あなたのその魂、無駄にして良いのですの? あなたがこの世界を、人々を導けばきっと望んだ世界になるはずですわ!!』



 ぶわっ!!



 それは春風のようだった。
 そんな青臭い言葉に、それでも俺は救われた気がした。

 自然と笑いがこみ上げてくる。


 「神」に裏切られ続けたこの俺が。

 「神」を恨み続けたこの俺が。

 「神」になど到底及びもしないこの俺が。


 
 ―― ははははは…… そうか、俺は俺の望んだ事をまだ何もしていなかったんだな…… 俺に何が出来る? ――


 『あなたをこの世界の異様な力を持つ者たちの村へ転生させますわ。その村は私に関わる者、この世で力ある者の転生者が生まれる場所。そこには元英雄や高貴な魂を持つ者、力ある魂を持つ者が集まる場所ですわ。あなたはそこへ転生して彼らを導いてほしいのですわ。決してその大きな力を間違った方向へと向けさせないために。そしてあなたが何度もその村に転生するごとにまた彼らの転生者の魂も私とあなたが望む世界へと導いてほしいのですわ。そうすればきっと、あなたの望みも叶うのですわ。そして私の望みも……』


 女神のその言葉は何故か本心に聞こえた。

 俺を利用してまた何か企んでいるのではないかと悪い癖が一瞬出たが、それでも俺はその言葉を信じてしまった。


 ―― 俺に出来るだろうか? ――

 『出来ますわ。これから生まれ出る転生者たちを温和に、優しく育てて行けばきっと私たちの望む平穏な世界が作れますわ!』


 女神がそう言った瞬間だった。
 俺の目の前に彼女が現れる。

 金髪碧眼のその少女はとても美しかった。

 そしてとても暖かかった。
 小さな魂の玉になって俺は彼女のその手に抱きしめられ、そしてその胸に引きよされる。


 ああぁ、なんて心地いのだろうか?
 俺の心が落ち着いて行く。


 俺は彼女を見上げいう。


 ―― その、一度しか言わん。……感謝する ――


 初めてだった。
 前世でもこの世界でも本気で「神」になど一度も感謝した事は無かった。

 だが今俺はまっさらな気持ちでそう言う。

 すると女神は驚いたような顔をしてから優しい笑顔になる。


 『はい、ですわ』




 そして俺は女神に抱きしめられながら深い深い眠りへとつくのだった。   

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