アザリスタ‐婚約破棄された姫様の処世術-

さいとう みさき

文字の大きさ
14 / 22
第二章祖国を守る為に

第十三話:再進撃準備

しおりを挟む

 キアマート帝国がカーム王国に侵攻をし、問題発生して一時引いてから早ひと月が過ぎていた。
 小さな小競り合いはあったものの、おおむねその侵攻は止められ、キアマート帝国の軍隊はカーム王国の西にある侵略された旧ボジスト王国にその本陣を置いた状態だった。


「ロメル陛下、魔物たちがまた我が軍の兵に襲いかかったとの事です」

 宮廷魔術師であるソームは皇帝ロメルの前に出てそう報告をする。
 それを聞き皇帝ロメルは宰相であるラメリヤに聞く。

「ラメリヤ、本国からの補給物資はどうなっている?」

「それが、従来魔物たちの食料は現地調達を基軸とする為、補給物資自体が不足しております。また我が軍の優秀な侵攻速度があだとなり、補給線自体が追い付いていないのが現状です。補給線を伸ばすにはあと半月は必要となります」

 宰相のラメリヤはそう言って手元の資料を確認する。

 キアマート帝国は闇の森の住人を従え各国を侵略し、その場で略奪を繰り返して来た。
 しかし闇の森の住人である魔物たちは本来人とは相容れぬ存在。
 いくら英雄である皇帝ロメルでも完全に彼らを制する事は出来ない。

 彼らを従える方法は侵略した国々で略奪をし、弱き者をその餌とすることで成り立っていた。
 しかし進軍が止まり、腹をすかせた魔物たちを従えるには犠牲が必要となる。
 現地で捕らえた問題のある者たちだけでは大軍である魔物の群れは空腹を補えない。


「カーム王国への侵攻準備はどうなっている?」

「それが、カーム王国は着々と守りを固めると同時にどう言う訳か海の悪魔どもが手を貸す事態に有りまして、淫魔共が先導を切って守りについております」


 北側からカーム王国を襲う事も、本陣を進めるのも共に困難な状態へとなりつつある。
 皇帝ロメルは地図を見ながらしばし沈黙をし、カーム王国の西の町、一夜城が出来あがった町を指さす。


「一点集中による突破を行う。あの町を蹂躙せよ。全戦力をここへ集結させるのだ!!」


 このままではキアマート軍は内部から魔物たちの暴走により瓦解する恐れが出て来た。

 北の元アルニヤ王国との同時侵攻は事実上できなくなっていた。
 あちらもあちらで王都に軍が籠城する事態になりつつある。
 それは元アルニヤ王国の貴族たちが進軍してきたベトラクス王国軍へと合流を始め、反旗を翻していたからだ。


「陛下、その前にご報告があります。これをご覧ください」

 そう言ってソーム宮廷魔術師は小さな箱を持って来た。
 それはそれは厳重に封がされていたが、ソームが解除の魔法を唱えると鍵が外れ、ひとりでに蓋が開く。
 そしてその中にあったのは干からびたナマコだった。

「これはなんだ?」

「はい、これは海の悪魔の干物にございます」


「ソーム! 陛下の御前にそのような危険なモノを!!」

「どう言うつもりだ、ソーム!?」


 すぐさま皇帝ロメルと宮廷魔術師ソームの間に宰相のラメリアと将軍ランベルが割って入り、ロメルをかばう。

「まぁまぁ、お二方も落ち着かれよ。この悪魔は既に事切れております。それにこれは海の悪魔の下僕、力も何も無くどうやら淫魔たちの指示によりあ奴等はこれを食し魔力を増幅させていると聞き及んでおります」

 ソームはそう言って箱の中の乾燥されたナマコをつまみ上げる。
 途端にラメリアあたりは小さな悲鳴を上げる。

「ひっ!」

「ソ、ソーム本当に大丈夫なのであろうな?」

 頬に一筋の汗を流しながらランベルも注意深くその様子を見る。
 しかしソームは笑いながら言う。

「ご安心を。いくら海の悪魔と言えど死んでしまえばこれこの通り。それより興味深いのはこれを食すると魔力が増幅し体力も回復すると言う事でしょうな。我らもこれを利用する手はないと思いますがいかがでしょうか?」

 ソームはそう言っていやらしい笑をする。
 それを見てラメリヤもランベルも心底嫌そうな顔をする。

「ソーム、まさかそれを皇帝陛下に食べさせるつもりではないでしょうね? そのような事はこのラメリヤが許しませんよ!」

「落ち着いてください、陛下にこの様な下賤なものをお出しするはずがありませんでしょうに。これを我が闇の森の者たちに喰わせるのです。情報ではカーム王国の補給部隊が二日後に海よりあの西の町に到着するそうです。そこを我らの軍で押さえれば闇の森の者たちの食料となりましょう。そして魔力と体力を回復した暁には一気に町に攻め入り蹂躙するのです!」

 そう言い放ちソームは恍惚とした表情を浮かべる。
 彼は人々が苦しみ死んでゆく姿がたまらなく好きなのだ。


「是非も無いか。よい、軍の者たちを補給物資略奪に回すがよい。特に飢えた魔獣どもを差し向けるがいいだろう。成功と同時に本陣も西の町へ攻め入るぞ!」


 皇帝ロメルがそう言うとラメリアもランベルもソームも頭を下げその命を受ける。



「さあ、そこにいるのだろう魔女アザリスタよ。貴様に会うのが楽しみだ」


 皇帝ロメルはそう言って地図上にある西の町へ短剣を投げつけ突き刺すのだった。


 * * * * *


「これが例の物ですの? やたらと香ばしくおいしそうな匂いがしますわね?」

『だろ? 実際毒の無い部分は野菜と一緒に煮込んで食うとうまいんだよ』


 目の前にこんがりと焼かれたフグがいた。
 しかも毒性の高い種類だった。
 更に下手に食べれば下痢を確実に起こすと言う脂の強い魚などもいた。

 それらを香草とニンニク、スパイスを使って焼き上げるとなんとも旨そうな香りが漂ってくる。
 天馬はカーム王国の海に近い村でそれら毒性の高い魚や魚介類を掻き集めさせある程度保存がきくような料理を大量にさせて荷馬車に積み込ませていた。


『自分たちが喰う毒の無いものと間違えて一緒にだけはしないでくれよ? 毒の強いモノだと食って三十分くらいで反応が出始める。嘔吐、下痢、頭痛、腹痛、脱力感などまっとうに立てる状態じゃなくなるからな。特に神経系の毒は体が痺れて動けなくなるから要注意だ』

「そ、それは海の悪魔の呪いでは無いのですの?」

『呪いではない。はっきり言って毒だよ。地上にだって舐めただけで場合によっては死んでしまう毒草だってあるだろう? それと同じだよ』

 アザリスタのその心配に雷天馬は真面目に説明をする。
 そして準備が出来た馬車を次々と出発させる。


『で、どうなんだい? あちらさんはこの補給部隊の事がちゃんと伝わっているんかい?』

「そこは抜かり在りませんわ。わざと情報が流れるようにしてありますわ。しかし、やはり海の悪魔たちは危険ですのね……」

『知っていて毒のある場所さえ回避できれば問題はない。それに食えるところは料理次第ですっげー美味い物になるからな。そうそう牛乳とエビや貝を煮込んでだなぁ~』



 天馬のその説明にアザリスタは早速料理人を呼ぶのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄のお相手は

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、ギリアム王子が平民の婚約者に婚約破棄を宣言した。 幼い頃に「聖女では」とギリアムの婚約者として引き取られたものの、神聖力が発現しなかったロッティナ。皆は婚約破棄されるのも当然だと思っていたが……。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

処理中です...