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彼女、岸川玲は、頭のいかれた生徒だった。自らストーカーである事を暴露し、開き直り、僕に迷惑をかけていることも知らない。

いや、知っている上で僕に関わっているのだろう。自分で言うのもなんだが、好かれるというのはこうも苦痛なものだっただろうか。

いつも通り、今日も僕は学校を休んでいる。親が昼間に帰ってきてもバレないように、靴も制服も全てバックの中に入れ、普段親が見ない戸棚の中に詰め込んだ。

そして、僕は、飲み物、弁当、スマホと共に押し入れの中に潜んでいる。

真っ暗な空間に、スマホから放たれる光。僕は、その画面をじっと見つめる。

時々、LINEがくる。

〉学校こいよー
〉留年おつー
〉お前なにしてんの?

通知をオフにすればいいだけだけど、あいつらがなんて言ってるのかが気になるので、そのままにしている。

そんなのを見てたまに思うことがある。

本当に僕の事を心配してそんな事を言っているのかということ。

正直、クラスの連中のことを友達や仲間などと思った事は一度もない。
一緒にいて、楽しかったことや、面白かった事はあるかも知れない。
だけど、その後にふと気付く。
こいつら、僕わオモチャにして遊んでるだけなんじゃないかと。
茶化される。
理不尽ないじり。
ふざけた小さな暴力。
他人との扱い差。

そんなものが本当の友人と言えるのだろうか。僕は耐えられなかった。いじられることに不満があるわけじゃない。僕の事を、本当に友達と思ってるのかと。そういうことだ。

直接言え。誰かはそういうのかもしれないけど、あいつらのことを考えると、僕の口にはきっと耳を貸してくれないだろう。そんな奴ばかりだ。そんなクソばかりだ。

そんな時、携帯から着信音が鳴った。
画面を見ると、そこには岸川という文字が写っている。
2秒くらいで切ってしまった。
が、それからまたすぐにプルプルと着信音が鳴り始めた。

「うるせぇな」

「あれ、でてくれたんだ。」

「うるさいから」

何故だろう。僕は電話に出ていた。彼女を無視していた事からの罪悪感からだろうか。分からないけど、手が勝手に動いた、そんな感覚だった。

「ねぇ、ちょっとでいいから学校に来てよ」

「なんで」

「それはこっちのセリフなんですけど」

「ていうか今授業中だろ、なにしてんの」

「トイレで電話してる」

「怒られるぞ」

「アンタに言われたくない。」

というか、彼女はそれをいうためだけに電話してきたのだろうか。暇つぶし?面倒くさい事はやめてほしい。

「あ、実は伝えたいことがあってね」

彼女がそう言葉を放った瞬間、何故か背筋に寒気がした気がした。それはかんのようなものなのかもしれない。

「先生が、家庭訪問に行くかもだって」

その瞬間、焦って言葉が出なくなった。

どうしたらいいだろう。今からでも登校すれば、教師が家に来る事はないだろうか。

もし親が学校を休んでることを知れば、
家は大荒れだ。前みたいに、父は怒鳴り散らかして、母は怒りで泣き狂うかも知れない。あんな惨事には2度となりたくない。

それは僕が最初から学校に行けばいい話かも知れないが。

「なぁ、それっていつの話だ?」

「今日、先生同士が話してるの聞いたの」

「今日、行くって?」

「それは聞いてないけど、」

僕は、数秒黙ると、大きなため息をついて言った。

「学校、今から来るよ」

「本当!?やったぁ!」

電話の向こうでは彼女が嬉しそうに叫んでいる。授業中なのに、そんなに大声出してバレないだろうか。
といらない心配をしながらも、僕は学校に向かう準備をしていた。

しょうがないことだ。
先生が家に来る事は避けたい。
それは、僕が今一番恐れている事だ。
普通、今までもあり得たのだが、まず僕は、毎日欠席なわけではない。
一週間に3日くらいはしっかりと学校に行って授業をいけているのだ。そのため、先生が家庭訪問をする確率は低かった。

しかし、さすがに先生も痺れを切らしたのだろう。何度注意しても治らないサボり癖にイライラしているに違いない。

だけど幸いなことに、うちの担任の先生は根が優しい人で、しょうがない事情や説得などをするとコロって落ちてくれる。

きっと今回も、それで何とかなるはずだ。

「ねぇ、まだ?」

「今から家出るところだから、切るね」

「うん、待ってる」

「気持ち悪いよ」

「はぁ!?誰がきもちぃーーー」

そこで電話は途切れた。いや、切った。

とてもだるいが、今から学校に行かないといけない。僕は、玄関をでて、鍵を閉めると、まだ午前中の太陽に目を細めながら、歩みを始めた。
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