未だ飛べない鳥

ジルノ

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6話

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お昼休みになり、昼ご飯を食べるために、私は蕪木さんと屋上へと向かっていた。
いつの間にだろうか。蕪木さんとこうやって普通に友達のようなことをしているのは。どちらからということもなく、いつの間にか2人でいるようになったのは。
お互い必要以上の会話などしない。
けれど、私達はお互いの性格をわかっている気がした。
そう思うと、私は少し学校に行くことが楽しみにもなっていた。友達、いや違う、蕪木さんと会える楽しみを見つけてしまったのだから。
友達とはまだ素直にうまく言えなかった。
「はぁ~~空気こっちの方がいい~~」
屋上に着くと、蕪木さんは大きく伸びをしてそう言った。私も少し遠慮がちに、隣りでマネして伸びをする。
本当に空気が綺麗な気がした。クラスには人がいるせいか、当たり前なのだろうが、もわっと二酸化炭素が充満している気がする。
「あっちに行こ」
そう言って蕪木さんは奥を指す。
弁当箱の入った袋を両手で持ちながら、蕪木さんについて行く。蕪木さんはと言うと、片方の手の指2本でパンを2つ持っている。その姿はなんだか、男の子みたいとつい言いたくなる様だった。
「うわっ最悪」
蕪木さんに素直に後ろからついて行っていると、蕪木さんがいきなりそう言葉を発した。
後ろから見てみると、碧と友達らしき男の子達がそこに座っていた。屋上の奥でまさか碧達と出くわすと思わなかった私は、ふいをつかれ、びっくりして固まってしまった。
「うわっ最悪って失礼じゃない?仮にも僕達上級生だよ?(笑)」
碧はそう言って半分笑ってはいるが、蕪木さんのことを少し悲しそうな目で見ている。
「佐伯さん、場所変えようか?最悪」
「あれ僕のこと無視?てか、最悪ってまた言ったね」
やばい。面白い。
私は2人のうまく意思疎通の図れないやりとりを見て、ついニヤニヤと笑ってしまった。少しコントみたいだとも思ってしまうやりとりだった。
「カルホ~ちょっとこの人何~?」
碧がそう言った途端、私は1人でハッとする。1人で笑っていることが急に悪いことのように感じたからだった。
やはり人前で笑うのは慣れないな。
でも、様子をちゃんと見ると、碧は蕪木さんの返しに参っているだけで、2人とも何も感じてないようだった。その様子に安心した私は、心に冷静さを取り戻す。
「佐伯さん」
蕪木さんは私の名前を言いながら、私の左手を掴んだ。そして、屋上から出るためか、出口に向かおうとして、掴んだ私の左手をぎゅっとひっぱる。
半ば強引ではあるが、それが不思議と痛くはなくて、私は内心嬉しく感じた。
友達でもいいのかな?もう私達。
私は1人でそう勝手に舞い上がっていた。だって、こんなこと初めてだったから、本当は声に出したいくらい嬉しかったのだ。でも、そんな私達2人に急に邪魔が入る。
「はーい。エーンガチョッ!」
!?
そう言って、碧が急に私と蕪木さんの繋がっている手にエンガチョをしてきた。エンガチョというより、チョップに近かったけれども。
「は?」
そう言葉を発した蕪木さんは怒っている。その一言で、私はすぐにわかった。
碧がいつもふざけているのが気に食わないのだろう。でも、彼からしたらふざけているのではなくて、本気でやっているというのはきっと蕪木さんにはわからないことなのかもしれないと思った。
蕪木さんは今にも食って掛かりそうな目で、碧のことをすごい目で睨んでいる。
相変わらず私はその2人を見ているだけしか出来なくて、どうすればとただあたふたしているだけだった。
「せっかく来たんなら、一緒に食べようよー」
碧はなだめるかのように、そう蕪木さんと私に言うと、蕪木さんは分かりやすくため息を吐いた。
「佐伯さんはどうしたい?」
そして、蕪木さんは私にそう聞いた。
どうしたいかというと、蕪木さんのためには早くここから立ち去りたい。でも、碧の声を聞いたら、碧と少し一緒にいたい気もする。
まるで気持ちがまだらになったような気分だ。こんなのはあまり経験したことがなかった。
私が考えながら黙っていると、蕪木さんは気を利かせてポケットから小さいメモ紙を出した。
「ペン持ってる?持ってるなら、ここに佐伯さんの意見を書いて」
ペンは持っていた。蕪木さんと初めてノートとペンでやりとりした日から、ポケットに常備するようになっていた。
けれど、私は首を横に振った。
ペンも持っていて、嘘をついたけれど、自分の意見がまとまらなくて、そうするしかなかった。
「まぁまぁそんな真剣に考えなくてよくない?お昼一緒に食べたところで、何も減らないよ」
碧がへらへらした口調で割って入る。きっと蕪木さんの逆鱗に触れると瞬時にわかった。
「私の神経がすり減るから大問題ですけど」
やはり蕪木さんはそう言って、怒った。
腕を組み、碧の方を睨んでいる。そして、組んだ片方の手の人差し指を小刻みに動かして、いかにもイライラしてますアピールをしている。
これ以上2人の状況が悪化して喧嘩になってしまえば、それこそ危ういと思った。
だから、私は慣れない行動ではあるが、蕪木さんの片方の手をぎゅっと握ってひっぱって出口から出て行った。何も伝えずに。
きっと蕪木さんは驚いただろう。碧も見ていて驚いただろう。けれど、自分でやっていて、それが似つかわしくなくて、自分が1番驚いていた。
「佐伯さんも嫌だったんだね、あの人のこと」
屋上に繋がる階段の途中で、蕪木さんがそう言葉をぽつりと放つ。
え?違う……私は……。
急に放たれた蕪木さんの言葉は胸にチクリときた。そして、私は勘違いをさせてしまったのだと感じた。
慣れないことはするものではない。
自分の勇気が空回りしたのだと思った。碧のことは避けていたけれども、嫌いにはなっていなかった。そのことは蕪木さんにちゃんと訂正しなくてはと思っていたけれども、蕪木さんを見ると、すっきりしたような顔でこっちを見ていた。
なんかこれだとすごく言いづらい。
そう思った私は本音をここでは言えなかった。嘘をついてしまった。
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