悪魔の誓い

遠月 詩葉

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カネール

39(side.ディル)

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「…分かりました、お見せします。」
「め、メノウ…?」

隣に立つセインが戸惑いの声をあげる。それはそうだ、メノウは派生魔法など習得していないのだから。でも、

「それでは、まず…この椅子を鑑定します。」

目の色に気づかれぬよう顔を伏せながら、近くにあった手頃な椅子に手のひらを向ける。

「インベスティゲイション」

それと同時に僕の手と椅子の周りに魔法陣が浮かび上がり、何の変哲もない椅子の事細かな情報が脳内に駆け巡ってくる。

「…オーク木材を使った、ベルガンド職人製。製作日は七年前。値段は六千シルドで取引。」
「お、おお…!?おい、早く資料を持ってこい!」
「は、はい!」

バタバタと駆けていく女性の気配を感じながら、頭の中で思考する。
この魔法は、昨日話をした直後から僕が脳内で組み上げたものだ。つい先程理論の構築が終わったから、間に合ってホッとした。細部に渡る情報まで読み取れる反面、そこに付随する情報の詳細は調べられない。例えばこの椅子で言うと、ベルガンド職人製ということは分かっても、そのベルガンド職人とは誰か、何処にあるかなどはわからない。

「あ、ありました!」
「でかした!貸せ!」

女性が持ってきた資料をひったくり、ベルツと名乗った男性が椅子に関する資料を探す。そして、あるページでその動きがピタッと止まった。

「…全部、合ってる。」

呆然と呟くベルツと口を半開きにしている女性にセイン。言っちゃ悪いがちょっと間抜け面で面白い。

「…信じる。信じるよ。この派生魔法は本物だ。」
「ありがとうございます。」

慣れない敬語を吐きつつ、僕は自身の内にいるメノウに話しかける。

(これで動いてくれるはずだよ。)
(うん、ありがとう…正直言ってかなりピンチだったから助かった。)
(多分、この魔法はメノウも練習すれば使えるはずだから、暇があればやってみれば?)
(ほんと!?やるやる!)
(じゃ、後は任せるよ。交代ね。)

集中し、メノウと僕の意識を入れ替える。これで目の色も元に戻ったはずだし、安心だろう。それにしても…。
こんな、忌まわしいとしか思えなかった能力が役に立つなんてね。
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