悪魔の誓い

遠月 詩葉

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カネール

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あれからベルツさん達の行動は早かった。街の水の使用を控えるように呼びかけ、水質調査を依頼。夕方頃には既に街全体に浸透していた。

「良かった…。」
「ええ…。いきなりメノウが魔法を使ったのは驚きましたが。」
「あの時は本当に焦ったよ。ディルがいなかったら絶対に乗り切れなかった。」
「……本当に、信頼し合ってるんですね。」

セインが歩みを止める。それに倣って私も足を止めた。

「俺は、悪魔が絶対悪とまでは行かなくとも、人間とは相容れない存在とばかり思っていました。だから、ディルの存在を知った時…正直、危険だと思った。」

いつの間にかディルに対する「さん」が抜けている。それは、少しは心の距離が縮まったと思って良いのだろうか。

「でも、間違いでした。メノウとディルは、種族を超えた絆で繋がってる。そう思わざるを得ない程、ディルはメノウを守り、メノウは彼に感謝している。」

そして、セインは私に向かって頭を下げた。

「改めて、すみませんでした。俺は、ディルの存在を認めます。」

そう言ってくれた。目と胸に熱いものが込み上げてくる。彼の真摯な姿は、真面目なセインらしい誠実さの現れだった。でも…まだ私は、誰にも過去の話をしていない。本当にこのままで良いのだろうか。ディルを信じてくれている人達の気持ちを、踏み躙っているのではないか。でも、話したら彼は離れてしまうのでは…そこまで考えて、心の中で頭を振る。
彼は、そんな人ではない。まだ怖いけど、恐れはあるけど…一歩を踏み出してみよう。そうじゃないと、本当の意味でリュセを迎えには行けない気がする。

「セイン、頭を上げて。ありがとう…ディルを信じてくれて。だからこそ……。」
「…?メノウ?」
「セイン、宿屋に行こう。……話があるの。」

私の真剣な表情から何かを感じ取ったのか、真面目な顔で頷き返すセイン。
きっと大丈夫。暴れる心臓の音がいやにうるさい。大丈夫、大丈夫と自己暗示の様に繰り返す。

『…無理はしないでよ。』
(うん、ありがとう。)
『別に…。僕のせいだしね…。』

ああ、彼も責任を感じているのだ。悪魔は喜怒哀楽のうち哀がないと言われているが、そんなの絶対に嘘だ。少なくとも、ディルにはちゃんと哀しいという感情がある。そんな気がした。

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