悪魔の誓い

遠月 詩葉

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カネール

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もしも近いうちに何者かに襲撃されるとしたら、この件は依頼所のベルツさん達に任せるべきだろう。しかし、根拠も証拠もない現状では、いくら派生魔法の件で信用を勝ち取っているとはいえ眉唾ものだろう。
つまり、今の所は自分達でやるしかないのだ。元々私の目的はリュセを探す事。それに悪魔が関わっているかもしれないとなれば、否応にも衝突する事になる。覚悟を決めるしかないのだ。

「…それじゃあ、僕が麻痺と意識を一時的に阻害する魔法をこの粉に込めれば良いんだね?」
『うん。ディランの得意属性の一つは雷だからね。そこに創属性の「ギフト」を組み合わせれば出来るはずだよ。』

私が心の中で決意を新たにしている間にも、準備は進んでいく。どうやらギフトはエンチャントと似たような魔法らしいが、決定的に違うのは、“魔法そのものを物に付与できる”点だ。エンチャントはあくまで装備などに属性を入れるイメージで、その属性の特性を一時的に借りるに過ぎない。そう考えると、ギフトという魔法が如何に優れているかが分かるだろう。
ディランが目の前に置かれた袋の中に詰め込まれた粉末に次々とギフトをかけていく。真剣に精神を集中している姿は、可愛いような、それでいてカッコイイような、絶妙なバランスを保っている。
それにしても…。

「なんか…頑張ってくれてるディラン君には申し訳ないんだけど…イケナイ事してる気がしてくる光景だね…。」

そう…粉自体は何の害もない、何なら一般家庭のキッチンに普通に置いてある小麦粉だ。しかし、こんな怪しい作業をしているのを見てしまえば、分かってはいても一瞬の幸せを得るモノに見えてしまう。もしも誰かにこの現場を目撃されてしまえば…そこまで考えたところで私は思考を放棄した。最悪な可能性の未来を想像しかけて、背中に悪寒が走る。

『大丈夫。念には念を入れて、メノウがここら辺に認識阻害魔法かけたでしょ?』
「まあ、そうなんだけどね…。」

ディラン君が今付与している雷属性の認識阻害魔法は、相手の身体に微弱な電気を送り、一時的に脳の意識レベルを少し下げるというものだ。対して私が今使ったのは、闇属性の“インセンス”という魔法。外部から認識されづらくなる結界を周囲に張る事が出来るが、展開場所を固定しなくてはならない為、移動する時には使えない。あくまで今の様な、誰にも見られたくない事を行っている時くらいにしか使えない。後は…潜伏する時とかだろうか。

(まあ、相手がサーチを使えて、尚且つこっちより魔術に秀でているなら意味を成さないんだけど。)

しかしどうやら、サーチもインセンスも、一般的には余り知られていない様だった。こないだディルに教わった事なのだが、隠密等に重宝する魔法は高貴なお方に関わる重要な仕事をこなす人材くらいにしか伝わっていないらしい。
考えてみれば、私が使っている魔法の殆どはディルに教わったものなので、そう説明されて納得した。
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