反逆の銃口と、侵食の茨

遠月 詩葉

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試験

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「では、次にイーヴァさん。こちらへ。」
「はい。」

とうとう試験当日。あれから結局、アムとは会えていない。

(約束、したのにな…。)

萎む気持ちを叱咤して、先生の待つ部屋に向かう。
今回の試験は、一人ずつ呼ばれ、順にこなしていく。帰ってくる仲間たちは皆、今回は自信あるとかちょっと難しかっただとか話している。
しかし、その誰もが顔に、達成感を浮かべていた。

(どういう試験なんだろう?)

首を傾げつつ、扉をノックする。

「イーヴァです。」
「入りなさい。」
「失礼します…え?」

ガチャッ。開けた先には、
言わずもがな、ずっと世話をしていたあの黒猫である。

「あなたはとても優秀だから、すぐに終わりそうね。」
「えっと…?」
「今回の試験は、この黒猫を浄化することよ。」
「浄化…?」

どういうことなのだろう。浄化とは、悪しき存在を神の御許に還し、穢れてしまった魂を正常に戻すことだ。
でも、タコはイーヴァの家族同然の存在。悪しき存在なんかじゃ、決してない。

「フシャーッ!」
「あらやだ。私に向かって威嚇し始めたわ。さすが、黒なだけあるわね。魂まで真っ黒に違いないわ。」

それを聞いて、ようやく思い出した。遠い昔に習ったことを。なぜ、隠れてタコを世話していたのかを。

(そうだ…黒は反逆の色。地へと堕ち、穢れた者の色。)

まだ第二層にいた頃、絵本の読み聞かせで学んだ話。当時のイーヴァはまだその意味をよく理解出来ておらず、ただ『黒は避けなきゃいけない』という認識だけが生まれていた。

(だから…?毛が黒色だから、ご飯も貰えなかったの?)

そういえば、アムも黒髪だった。ならばもしかして、彼女もまたタコのように、存在なのだろうか?

「どうしたの?あなたなら簡単でしょう?うるさくて敵わないから、早くして欲しいのだけど。」

よく見れば、先生の後ろには大きなカゴが二つあった。
片方には、大きい南京錠がかけられ、鉄格子の向こうに見えるタコと同じ黒猫たち。怯えていて、なるべく奥の方へと身体を縮こまらせている。
そしてもう片方には…ピクリとも動かないたくさんの亡骸が無造作に捨てられていた。濡れていたり、焦げていたり、中には元の形が分からないものまで…。

『今回は自信ある!昇格も夢じゃないぜ!』
『私はなかなか当てられなくて、ちょっと難しかったなぁ。』
『イーヴァちゃんなら大丈夫!結構簡単だったし、サービス試験だよ!』

達成感に満ちた、ひとつの悪を討ち滅ぼした天使の笑顔。一点のシミすら許さない、純度100%の笑み。

「フギャーッ!」
「静かにしなさい!」
「ギャンッ!」

タコの頭を思い切り殴る。平然と。それを見て、イーヴァの限界は最高潮を迎えた。

(これが…“徳を積む”ですって…?)

ただ、黒色を持って生まれただけで。それが大罪だと言うのか。生まれたことそのものが、間違いだったとでも言うのか。
ーー笑わせるな。

「…イーヴァさん?」

かつてない感情のうねり。己を支配し、衝動的に突き動かさんとする荒波。頭の中も心臓も。髪の毛一本に至るまで逆立ち、茹だるような高熱。

「ふざけないで……。」
「え?」

ーー怒りが、イーヴァの全てを乗っ取った。

「ふざけないでっ!!」

パァンッ!イーヴァが優等生である理由のひとつ。類まれなる量の魔力が、一瞬にして臨界点を突破する。

「この子は…みんなは…っ、あなたたちのっ!おもちゃじゃない!!」

その瞬間。眩い白一色が部屋中を満たした。
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