有り触れた悲劇に終止符を 1

遠月 詩葉

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4.召喚

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「成功したぞ!」

喜色満面の歓声に包まれ、目を開けた。どう見ても怪しさ百点満点の黒フード達。

「呼び掛けに応じてくれて感謝します、聖女様。」

ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべた、濃灰色の髪をした怪しいヤツAがサキに話しかける。青年と少年の中間くらいの年齢に見えた。目の色は…瞑っているのでわからない。
 
「えと、聖女…?」
「あぁ、心配なさらずとも説明はちゃんと致しますので。まずはこちらに。」

横から、ヘラヘラとゴマすりポーズをした怪しいヤツBが手招きする。今度は30代くらい。

「いやぁ、本当に成功して良かった!また媒介を無駄にするのかとヒヤヒヤしましたよ!」

後ろから、若干メタボなCが脂汗を袖で拭う。酷く汗っかきなようだ。そのせいか後頭部も必要以上にペカペカしていた。

「まずは陛下に挨拶して頂きます。もちろん、まだ何もこの世界のことを知らないのは承知しておりますので、ご安心を。ささ、まずは身支度から!」

何が何だか分からないまま、丁重にもてなされ、メイド服を纏った女性たちに目にも止まらぬ早業でマッパにされる。追い剥ぎかと目を剥いたのは、サキだけの秘密だ。

「…っ!?」
「?えっと…なにか?」

背後で息をのむ音が聞こえ、振り向きながら疑問を投げかける。

「…いえ、失礼いたしました。こちらへ。」
「あ、はい…。」

しかし、流石はプロ。一瞬で表情を無にし、せっせと身支度を整えていく。

(まあ、みんな背も小さくて、出るところは出てるもんね…。)

自分の胸を見下ろして、サキは悲しくなった。

「うわ、泡が…!」

(こんな贅沢に浴槽に泡を…!ブクブクが口に…!)

よく分からないが、これが終わるまで口を開けない事を誓った。口にイマジナリーチャックを装着。

「う~ん…どれもサイズが合わないわね…。」
「なんかすみません…。」

般若の女性も言っていたが、サキは自他ともに認める高身長だ。そしてすれ違う女性や今世話をしてくれている侍女も全員、小柄だった。なんなら男性でも、見下ろす形になる方もチラホラいらっしゃる。不躾にならない程度に横見した。

「仕方ない…神官服を借りましょう。聖女様は教会の預かりとなるのだし。」
「そうね…女性だけど、聖女だものね。」
「んん?女性だけどって…どういうことですか?」
「どういうことって、何がです?」

初っ端からすれ違いを起こしている。お互いを見合った後、サキはポンと脳内で手を叩いた。

「あ、もしかして教会?って所は男性しか入れないとか?」
「え、聖女様の世界では違うんですか?女性は定期的に穢れが付き纏うので、神聖さを求められる職や場所には入れないのですけど…。」

(穢れって何…。)

本人は自覚が芽生えてないが、特殊な家庭環境で育ったサキはそういう観念がまるで抜けていた。日本における宗教でも、古来から月のさわりが来た女性は鳥居をくぐってはいけないなどの慣習がある。今となっては気にする人はあまりいないが。
しかし、そもそもとして。そんな概念を知らずに大人になったサキは、“穢れ”という言葉そのものに不快感を覚えた。男性なら清らかなのか。絶対にそんなことは無い。実際、母親の不倫相手達は揃いも揃ってただれていたからだ。
現代における、単純な単語の意味でしか捉えられないサキは、一気に神殿に対する心象がマイナスまで下落した。

「し、神官様から借りてきました~!」
「ありがとう。ささ、聖女様。こちらに着替えましょう。」
「あ、はい。」

目がチカチカする程に白一色。これを着るのは抵抗があるものの、仕方ない。言うことを聞いておこう。えいっと推進力をかけて袖を通す。
スカート状のローブになっていて、意外と動きやすい。見た目はキツイが。

「終わりました。あとはよろしくお願いします。」
「はい。聖女様、こちらへ。」

侍女が手早く扉を開け、ずっと待っていたのか先程のA君…濃灰色の少年?に従って長い廊下を歩く。彼の瞳は紫色らしい。

「…歩くの、早いですね。」
「ええ、まぁ。背が高いからですかね…。」

ピクッとこめかみが若干浮く。実際、彼はサキよりも若干、背が小さい。しかし平常心を保って、少年は受け流した。
が、彼女の足の速さは身長より、高い身体能力と丈夫さから来ている。本人に自覚は無いが。
結果、案内役のはずの彼より、サキの方が前に出てしまう。しかし道が分からないので、チラチラ斜め後ろを確認しながら進む。言外に『背が小さい』と言われてる気がした彼は、実際にそれを証明されてるような心境に陥った。知らぬうちに、彼女への第一印象は『さり気ない毒女』に決定してしまう。
そんな事もつゆ知らない、斜め前を歩くサキは、気まずさから口を開いた。

「えっと、あなたのお名前はなんて言うの…?」

まるで子供に聞くような声音になってしまった。しかし向こうも仕事だからか、一瞬口角がピキッとひくついたものの、朗らかに答える。

「ロキート・ヴァーマリーと申します。宮廷黒魔術師として勤めております。」
「ロキート君か。私は本馬 咲。よろしくね。」

見た目が年下にしか見えないからか、無意識で後輩に接するような態度になっている。ロキートのストレス値が5上がった。

「ホンマ、さん?それが名前ですか?」
「本馬は苗字だね。名前はサキの方だよ。」

姓が先に来るなんて、不思議な世界だ。もしかしたら彼女はさっき、自分の名を姓だと勘違いしたのかもしれない。
そう思い直し、親切心で補足を入れた。

「あぁ、逆なんですね。こっちでは名前が最初に来るんです。」
「それは何となく分かってる。私の世界でも、他国ではそういう形のとこあるから。」

訂正。完全に素で名前呼びされていた。
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