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5.薄めて薄めて薄めます
しおりを挟む「この先で、国王陛下がお待ちです。俺の動作を見よう見まねで、聞かれたことに答えるだけで良いですからね。」
「う、うん。ロキート君が頼みの綱!よろしくお願いします!」
召喚されてからずっと周りが見えていないサキは、ロキートの顔がピクピクしてる事に気づかない。この場には、サキを知るものは一人もいないのだ。いつもならピシッとした雰囲気に力強い眼差しをしている彼女の目は、どこかホワホワとしていて虚ろだった。
ーーここに、誰か一人でも知り合いが居れば、即座に違いに気付く程度には、様子がおかしかった。
「陛下、聖女様をお連れ致しました。」
「入れ。」
「はっ!」
先程までとは打って変わり、キリッとした表情と動きになる。
私も、会社の社長にいきなり会ったらこんな感じになるかもしれない。
そんな風に思っていた。
「お主が聖女か?」
「…ホンマさん。」
「え、あ、はい。多分…?」
そんなこと聞かれても、まだ何も説明されていないのだから分からない。そんな戸惑いから来る歯切れの悪さだったが、四十路を越していそうな国王は、元からあるシワを更に深くさせた。
「では、お主の力を見せてみよ。」
「え…。どうやって…?」
本当に、どうやって?としか言えない。助けを求めるようにロキートに視線をやるものの、頼みの彼は手を額に当て、空を仰いでいた。
「貴様、ふざけておるのか!?」
「ひっ…!」
声を荒げ立ち上がる国王に対して、一気に恐怖心と、置き去りにされていた現実感が込み上げてきた。
絵本を読んでいるような感覚が遠ざかり、代わりにやってきたのは皮膚がひりつく緊張感。
ずっと起きていたはずなのに、たった今夢から覚めたような心地だった。
「…あ。」
(何してんのよ私はぁ~!!?)
怒られるに決まっているではないか。相手は国王なのだ。イメージはしづらいが、多分総理大臣と直に話すみたいな感じ。
しかも、王政には良い印象がまるでない。この国がどんなシステムなのかは知らないが、最悪この男性の一声で首が飛ぶ可能性すらあった。
あんなホワンとした態度、自分から崖を飛び降りるようなもの。
そこまでが一瞬で脳内を駆け巡り、一気に現実が押し寄せた。
(そうだ、これは現実。夢じゃないんだ。)
パンッ!サキは自分の両頬を力いっぱい叩いた。その音に、ほとんど全員が肩を揺らし、衛兵達は警戒して剣に手を添える。
「申し訳ありません!なにぶん、いきなりこちらにワープ…転移?したものでして…。まだ何の説明もされておらず…。
失礼は重々承知の上ではありますが、正直なところ、国王陛下様のお言葉の意味を未だによく飲み込めておりません。
確かに召喚される際、何者かの声が私めに『力と使命を授ける』と仰ってはおりましたが…。その力というものの中身も、使命も、何一つ聞かされていないのです。
こちらの常識にも疎く、先程も大変失礼な態度を取ってしまったこと、重ねてお詫び申し上げます。一般市民の私が国王陛下という国の象徴に謁見するという、今の状況そのものが、凡人の私の理解が及ばぬ所でして…。」
今まで培ってきた、怒りを回避する3ヶ条を発動した。
一つ、とにかく丁寧に下から攻める。
一つ、過ちを認め謝罪しつつ、反論があれば長ったらしく物量で攻める。
一つ、ただし話が通じないタイプには最低限の対応だけでやり過ごすべし。
これはサキ本人が勝手に抱いている持論だが、実際それで今まで乗り越えてきた…と本人は思っているので、ずっとこれを実践している。
「あ、あぁ…。そうで、あったか…。」
先程とはまるで別人のようにハキハキと懇切丁寧に喋る、サキの勢いと物量に若干引き気味になっている国王。今回に関しては、見事に彼女の狙いドストライクの反応を見せた。
「…待て。今、一般市民と申したか。」
「…?はい。何か、問題がありましたでしょうか?」
「ということは、お主は平民であると?」
「平民…。申し訳ありません、私の世界では、平民という階級は何百年も前に廃止されておりまして…。この世界での平民が、政治と無関係な国民、という意味で使われているのでしたら、その通りでございます。」
これでも一応、営業成績はトップクラスだったサキ。認識に齟齬が起きそうな部分の照らし合わせも忘れない。
「なんという事だ…。いや、すまない。聖女召喚と言うからには、てっきり上級貴族くらいの地位にはいると思い込んでおった。
平民という身分が廃止されている…となると、もしやそなたの世界には貴族や王族がいないのか?」
「いえ、そう思うのも無理はありません。お気になさらないでください。
そして王侯貴族に関しては、昔はそういう存在がいた、という知識自体は歴史で学んでおります。しかし、少なくとも私が住んでいた国では、貴族はおりません。国王のような方もいるにはいますが、国を動かす実権を持っている訳では無いのです。
ここにいる御方達のような存在は…気分を害したら申し訳ありませんが、物語の中でしか見たことがありません。」
印象を悪化させないためには、とにかく不快感を与えないこと。
グレーゾーンの内容を話さなければいけない時は、とにかく物量で薄める。これが、サキ流の処世術だ。
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