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※10.いちゃもんは困ります
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「おいおい、冒険者を舐めてるのか?」
「いえ、そういう訳ではなく…。」
カウンターを前にするサキの目に、おさまりきらない面積の筋肉。圧迫面接さながらの受付に、手続きを妨害されていた。
「冒険者ってのは、危険と隣り合わせだ。その対価として、ギルド経由で高い金を払う。テキトーな仕事されちゃ困るんだよ。冒険者とギルドは信用で成り立ってる。依頼人とギルドもまた然りだ。見るからに鍛えてなさそうな身体付きの甘ちゃんにゃ務まらねえよ。」
事実、目の前の筋肉さん(仮名)が言っていることは正しい。それはサキ自身が一番理解出来ていた。とはいえ、このまま引き下がれない事情があるのは変わらない。
改めて、キッと力を入れて前を向き、筋肉さんに噛み付いた。
「仰ることは理解できますが、こちらも死活問題なんです!中途半端な仕事は決してしないと約束します!だからどうか…!」
「ダメだ!雑用もあるにはあるが、お前には任せられん!」
「そんな、どうして!?」
「理由はお前さんが一番、分かってるんじゃねぇのかい?」
分からない。分からないから困っているのではないか。きょとんとしながら首を傾げると、筋肉さんは呆れたようにため息を零す。
「あのな、坊主。」
(ん、坊主?)
そこでようやく、今回もすれ違いが発生していた事に気づいたサキ。訂正しようと口を開いたが、それより先に横やりが入った。
「おいおい、甘々な坊ちゃんは脳みそまで砂糖で出来てるんでちゅか~?」
「ギャハハ!いいぞ~もっと言ってやれー!」
「こらお前たち!やめやがれ!」
謎の煽りを受けたサキは、咄嗟のことに反応出来ず、目を丸くするばかり。先程までサキの登録を弾きまくっていた筋肉さんが、代わりに待ったをかける。
「え~?でもよ、俺らは散々コイツらのせいで泥水すすって生きてきたんだぜ?」
「マスターだってそうだろ?」
「それとこれとは話が別だろうがっ!公私混同するんじゃねぇ!」
(え、なに、どういうこと?)
コイツらと言われても、私は1人しかいませんけど?そんな気持ちでいっぱいになる。
ここで一つ、客観的な意見を述べよう。身一つで放り出されたとはいえ、サキが身にまとっている衣服は全て上等な素材。どう見ても貴族か、どんなに低く見積もっても金持ちの商家にしか見えないのである。
が、本人はまだそれに気が付かない。
「ったくよぉ、こーんなヒョロガリのボンボンが、俺たちと同じ冒険者になるだぁ?馬鹿も休み休みに言えよ!」
「ママと喧嘩でもしたんでちゅか~?痛い目見ないうちにさっさと帰って慰めてもらいまちょうね~!」
ギャハハハッ!場に下劣な笑い声が満ちる。だがそんなものよりも。暴れ始めた心の奥底に眠ったトラウマを鎮めるのに必死だった。
(大丈夫、ここにお母さんはいない。大丈夫、大丈夫、大丈夫…!)
そう言い聞かせるものの、サキの奥底に積もり続けた闇が次々と手を伸ばしてくる。意識が。感情が。外界と乖離する。
『なんで私の前に現れるのよ!!あんたのせいでっ!彼に疑われたじゃない!!』
今や懐かしい、排気ガスの臭いとアスファルト。目の前にいる女性と、低い自分の目線。
(あぁ、駄目…。)
思い出してはいけないのに。ストップをかける大人の自分の声は、再生された映像には届かない。
一度だけ、遠目だけでも良いから会いたい。そう願っていた幼い子供の前に、偶然チラついた面影。
神の悪戯か、それは彼女の母親本人であった。
度重なる父親の暴力と暴言に、疲弊しきっていたのだろう。まだ歳若い男性と腕を組んで、楽しそうに歩いている母親に駆け寄って、思わず叫んでしまった。
『ママ!』と。
当然、無理な若作りをして不特定多数と関係を持っている女にとって、子持ちというのはマイナスステータスでしかない。
サキは知る由もない事だが、当時熱をあげてのめり込んでいた“本命”には尚更、バレたくない存在だろう。
『せっかく捨てられたのに!なんで今更出しゃばってきて私の邪魔するのよぉっ!!なんで!なんでっ!?』
『ママ…。』
『ママって呼ぶなっ!!あんたが勝手に出来たせいで、私の人生滅茶苦茶じゃない!!あんな冴えない男と結婚までして未来を棒に振って!やっと解放されたと思ったのに!なんであんたなんか生まれてきたのよ!?』
ショックで固まるサキの姿に、女性ははたと思い至る。ヒステリックに叫んでいたのが、突然嘲りに満ちた意地の悪い笑みに変わった。
(ダメ、思い出しちゃダメ…!)
『あぁ、もしかして。自分が少しでも望まれて生まれた存在だとでも思ってた?残念ね。誰一人としてあんたの事愛してなんかないのよっ!さっさと流れてくれればこんな苦労しなくて済んだのに!あんたったらしぶとく生き残りやがって!』
(ダメ…ダメ…お母さんはここにいないのに…!もう関係ないのに…!)
理性と感情は別物。どんなに制御しようとした所で、心傷が治るわけではない。ある意味それは、“発作”のようなものだった。
サキが自分の世界に入っている間も何か言い募っていた輩たち。マスターと呼ばれた男も。明らかに様子がおかしい事に気づき始めていた。
「いえ、そういう訳ではなく…。」
カウンターを前にするサキの目に、おさまりきらない面積の筋肉。圧迫面接さながらの受付に、手続きを妨害されていた。
「冒険者ってのは、危険と隣り合わせだ。その対価として、ギルド経由で高い金を払う。テキトーな仕事されちゃ困るんだよ。冒険者とギルドは信用で成り立ってる。依頼人とギルドもまた然りだ。見るからに鍛えてなさそうな身体付きの甘ちゃんにゃ務まらねえよ。」
事実、目の前の筋肉さん(仮名)が言っていることは正しい。それはサキ自身が一番理解出来ていた。とはいえ、このまま引き下がれない事情があるのは変わらない。
改めて、キッと力を入れて前を向き、筋肉さんに噛み付いた。
「仰ることは理解できますが、こちらも死活問題なんです!中途半端な仕事は決してしないと約束します!だからどうか…!」
「ダメだ!雑用もあるにはあるが、お前には任せられん!」
「そんな、どうして!?」
「理由はお前さんが一番、分かってるんじゃねぇのかい?」
分からない。分からないから困っているのではないか。きょとんとしながら首を傾げると、筋肉さんは呆れたようにため息を零す。
「あのな、坊主。」
(ん、坊主?)
そこでようやく、今回もすれ違いが発生していた事に気づいたサキ。訂正しようと口を開いたが、それより先に横やりが入った。
「おいおい、甘々な坊ちゃんは脳みそまで砂糖で出来てるんでちゅか~?」
「ギャハハ!いいぞ~もっと言ってやれー!」
「こらお前たち!やめやがれ!」
謎の煽りを受けたサキは、咄嗟のことに反応出来ず、目を丸くするばかり。先程までサキの登録を弾きまくっていた筋肉さんが、代わりに待ったをかける。
「え~?でもよ、俺らは散々コイツらのせいで泥水すすって生きてきたんだぜ?」
「マスターだってそうだろ?」
「それとこれとは話が別だろうがっ!公私混同するんじゃねぇ!」
(え、なに、どういうこと?)
コイツらと言われても、私は1人しかいませんけど?そんな気持ちでいっぱいになる。
ここで一つ、客観的な意見を述べよう。身一つで放り出されたとはいえ、サキが身にまとっている衣服は全て上等な素材。どう見ても貴族か、どんなに低く見積もっても金持ちの商家にしか見えないのである。
が、本人はまだそれに気が付かない。
「ったくよぉ、こーんなヒョロガリのボンボンが、俺たちと同じ冒険者になるだぁ?馬鹿も休み休みに言えよ!」
「ママと喧嘩でもしたんでちゅか~?痛い目見ないうちにさっさと帰って慰めてもらいまちょうね~!」
ギャハハハッ!場に下劣な笑い声が満ちる。だがそんなものよりも。暴れ始めた心の奥底に眠ったトラウマを鎮めるのに必死だった。
(大丈夫、ここにお母さんはいない。大丈夫、大丈夫、大丈夫…!)
そう言い聞かせるものの、サキの奥底に積もり続けた闇が次々と手を伸ばしてくる。意識が。感情が。外界と乖離する。
『なんで私の前に現れるのよ!!あんたのせいでっ!彼に疑われたじゃない!!』
今や懐かしい、排気ガスの臭いとアスファルト。目の前にいる女性と、低い自分の目線。
(あぁ、駄目…。)
思い出してはいけないのに。ストップをかける大人の自分の声は、再生された映像には届かない。
一度だけ、遠目だけでも良いから会いたい。そう願っていた幼い子供の前に、偶然チラついた面影。
神の悪戯か、それは彼女の母親本人であった。
度重なる父親の暴力と暴言に、疲弊しきっていたのだろう。まだ歳若い男性と腕を組んで、楽しそうに歩いている母親に駆け寄って、思わず叫んでしまった。
『ママ!』と。
当然、無理な若作りをして不特定多数と関係を持っている女にとって、子持ちというのはマイナスステータスでしかない。
サキは知る由もない事だが、当時熱をあげてのめり込んでいた“本命”には尚更、バレたくない存在だろう。
『せっかく捨てられたのに!なんで今更出しゃばってきて私の邪魔するのよぉっ!!なんで!なんでっ!?』
『ママ…。』
『ママって呼ぶなっ!!あんたが勝手に出来たせいで、私の人生滅茶苦茶じゃない!!あんな冴えない男と結婚までして未来を棒に振って!やっと解放されたと思ったのに!なんであんたなんか生まれてきたのよ!?』
ショックで固まるサキの姿に、女性ははたと思い至る。ヒステリックに叫んでいたのが、突然嘲りに満ちた意地の悪い笑みに変わった。
(ダメ、思い出しちゃダメ…!)
『あぁ、もしかして。自分が少しでも望まれて生まれた存在だとでも思ってた?残念ね。誰一人としてあんたの事愛してなんかないのよっ!さっさと流れてくれればこんな苦労しなくて済んだのに!あんたったらしぶとく生き残りやがって!』
(ダメ…ダメ…お母さんはここにいないのに…!もう関係ないのに…!)
理性と感情は別物。どんなに制御しようとした所で、心傷が治るわけではない。ある意味それは、“発作”のようなものだった。
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