有り触れた悲劇に終止符を 1

遠月 詩葉

文字の大きさ
28 / 31

28.好き

しおりを挟む
「最初に断っておくが、今から言うのは万人に抱くような感情じゃないからな。」
「お、押忍!」

また不思議な単語を…と勢いを削がれそうになったが、堪える。本人は真剣なのだろう。

「俺がお前を助けたいって思うのは、ある意味当然なんだよ。」
「うん…?」

やけに勿体ぶるな、なんて絶対口にしてはいけない。多分。サキはお口チャックモード。

「俺は、お前を…その…。」

ロキートが照れている。顔を赤らめて口ごもっている。初めて見る表情にサキは内心面食らった。

「…ダァーッ!!マジで鈍感だなお前!?」
「唐突な罵倒!?」
「俺は!お前のことが好きだから!守りたいって思うたった一人の女だから!ここまでしてんだよっ!!」

半ば逆ギレ気味に、一息に言い切る。

(好き?すき、スキ…空き……好き?)

「スキー!?」

雪国で有名なスポーツっぽい発音になっているが、もちろんそっちではない事はサキも分かっていた。

「え、あ、う…え?」
「はぁ…本当は、もっと後になって言うつもりだったんだ。お前、俺のこと意識したことねぇだろ。」
「あ、えと、あはは…。」

図星。へにゃりと笑って誤魔化すが、バレバレである。ロキートにジト目で見られ、早々に白旗をあげた。

「スミマセン。」
「で、だ。お前は本来、高位貴族の名誉夫人となってその身を保証されるはず…だった。」
「たんま。何それ聞いてないんですけど。」
「は?」
「え?」

とても。果てしない沈黙の時間。お互いじっくりと見つめ合い、同時に言葉を発した。

「「はぁーー!?」」

息ぴったり。しかも相手を指さして立ち上がるところまで同じである。

「おま、え、召喚された当日もろもろ説明受けてたはずじゃ…。」
「んなわけあるかー!あの時、一日限りの教育係は確かに付けられたけど!地理と邪気についてと雑な歴史の本だけ渡してきて、当の本人は『これ読んどいてね、時間になったら起こして』って勤務時間中ずーっと爆睡かましてたのよ!?」

酷い。あまりに酷すぎる。大の大人が、自分の仕事に責任を持たず寝るなんて。サキは信じられないものを見る目で教育係を眺めていたが、自身の立場すらもよく分かってない状況で何か物申すことも出来ず。一人で黙々と本の知識を叩き込んだのである。

(召喚の特権で字や言葉が理解できたから良いものの、それがなかったら詰んでたもん!)

憤慨。今思い出しても腹が立つ。

「…その教育係って、誰だった?」
「え?えーっと…アンポンタン侯爵?みたいな名前だったよーな…。」
「いや絶対違うだろ。まぁ、予想はつくから良いけど…。アンフォンダン侯爵だろ?」
「そうそう!多分その人!」

2年前に抱いた違和感が、ここに来て蘇る。彼は勤勉で、むしろ仕事熱心な人だ。誰に対しても丁寧な態度を崩さず、お人好しな一面もある故に他人の仕事を押し付けられる事もしばしば。

(そんな人が、職務放棄だと…?)

おかしい。サキが異世界人で、平民であったとしても。その力を必要とし呼んだのはこちらの都合だ。尊重はすれど、蔑ろにする意味も理由もないはず。
何か、とんでもない事が起きている予感がした。薄ら寒い背を伸ばしながら、一旦話を戻す。

「まぁ、その、なんだ。聖女召喚っていうのは、一度呼び出せば元の世界に還す方法はない。だからこそ、生涯なに不自由ない生活を保障するために設けられてるのが、名誉夫人って制度だ。」

歳の近い高位貴族と形だけ籍を入れること。
妻としての務めや責任は発生しないこと。
そして、本来サキはアレクトル王の名誉夫人となるのが順当だったこと。
その全てを聞いて、サキの目は虚無に包まれた。

「え…やだ。」
「まぁ、気持ちは分からんでもない…。」

というか分からない部分がない。誰だってあんな手酷い仕打ちをしてきた輩と一緒になるなんて嫌だろう。
そう思っての同意だったが、サキは別の理由を口にした。

「もちろん、人間性的な意味もだけど…。それってつまり、相手の裁量で全部私の人生決められちゃうって事じゃない…。」
「まぁ、本来なら聖女には苦労させないよう法が定められているから、そんな悪いことにはならない…本来なら。」

大事なことなので二度言う。

「私、自分の足で立ちたいの。じゃないと…いつ崩れるか分からないから…。」
「……。さっきの続きだが。俺はお前のことが好きだから助けるし、妻にしたいとも思う。けどそれには、お前自身の気持ちがないと話になんねぇし、知らなきゃいけないことだって沢山ある。」

あんなに口ごもっていた割に、今度はサラリと願望を発する。一度伝えたことで肝が据わったのかもしれない。

「聞かせろ。お前に何があったのか。」

そこは命令形なんだ、なんて思ったりしてはいけない。もう理解している、彼はそういう人間なのだと。
不器用で、性格悪いとこもあって、腹黒だったりするけど、根は優しい。まるで本音と建前をひっくり返したような人。

「…あんま、気持ちいい話じゃないけど。」
「くだんねぇ事気にしてないで、はよ言え。」

ん、と着席を促す。これはもう逃れられない。

「…分かった。」

サキは覚悟を決めた。ロキートも想いを打ち明けてくれたのだ。自分が逃げてどうする。

「あのねーー」

彼女が語り始めたその過去に、ロキートは戦慄した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

どちらの王妃でも問題ありません【完】

mako
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。 そんな中、巨大化し過ぎた帝国は 王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。 争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。 両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。 しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。 長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。 兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな
恋愛
 学校帰りにいきなり眩い光に包まれて連れて来られたのは異世界でした。  王子はこんなちんちくりんは聖女ではないと言い放ち、私を王宮から追い出しました。  元の世界に帰る方法は、魔王の持つ帰還の指輪が必要と言われ、途方にくれた私の前に現れたのは、美形の魔王でした。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】

日下奈緒
恋愛
後宮に入り、妃となって二年。 それなのに一度も皇帝に抱かれぬまま、沈翠蘭は“お飾りの妃”としてひっそりと日々を過ごしていた。 ある日、文部大臣の周景文が現れ、こう告げる。 「このままでは、あなたは後宮から追い出される」 実家に帰れば、出世を望む幼い弟たちに顔向けできない――。 迷いの中で手を差し伸べた彼にすがるように身を預けた翠蘭。 けれど、彼には誰も知らない秘密があった。 冷たい後宮から始まる、甘くて熱い溺愛の物語。

処理中です...