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28.好き
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「最初に断っておくが、今から言うのは万人に抱くような感情じゃないからな。」
「お、押忍!」
また不思議な単語を…と勢いを削がれそうになったが、堪える。本人は真剣なのだろう。
「俺がお前を助けたいって思うのは、ある意味当然なんだよ。」
「うん…?」
やけに勿体ぶるな、なんて絶対口にしてはいけない。多分。サキはお口チャックモード。
「俺は、お前を…その…。」
ロキートが照れている。顔を赤らめて口ごもっている。初めて見る表情にサキは内心面食らった。
「…ダァーッ!!マジで鈍感だなお前!?」
「唐突な罵倒!?」
「俺は!お前のことが好きだから!守りたいって思うたった一人の女だから!ここまでしてんだよっ!!」
半ば逆ギレ気味に、一息に言い切る。
(好き?すき、スキ…空き……好き?)
「スキー!?」
雪国で有名なスポーツっぽい発音になっているが、もちろんそっちではない事はサキも分かっていた。
「え、あ、う…え?」
「はぁ…本当は、もっと後になって言うつもりだったんだ。お前、俺のこと意識したことねぇだろ。」
「あ、えと、あはは…。」
図星。へにゃりと笑って誤魔化すが、バレバレである。ロキートにジト目で見られ、早々に白旗をあげた。
「スミマセン。」
「で、だ。お前は本来、高位貴族の名誉夫人となってその身を保証されるはず…だった。」
「たんま。何それ聞いてないんですけど。」
「は?」
「え?」
とても。果てしない沈黙の時間。お互いじっくりと見つめ合い、同時に言葉を発した。
「「はぁーー!?」」
息ぴったり。しかも相手を指さして立ち上がるところまで同じである。
「おま、え、召喚された当日もろもろ説明受けてたはずじゃ…。」
「んなわけあるかー!あの時、一日限りの教育係は確かに付けられたけど!地理と邪気についてと雑な歴史の本だけ渡してきて、当の本人は『これ読んどいてね、時間になったら起こして』って勤務時間中ずーっと爆睡かましてたのよ!?」
酷い。あまりに酷すぎる。大の大人が、自分の仕事に責任を持たず寝るなんて。サキは信じられないものを見る目で教育係を眺めていたが、自身の立場すらもよく分かってない状況で何か物申すことも出来ず。一人で黙々と本の知識を叩き込んだのである。
(召喚の特権で字や言葉が理解できたから良いものの、それがなかったら詰んでたもん!)
憤慨。今思い出しても腹が立つ。
「…その教育係って、誰だった?」
「え?えーっと…アンポンタン侯爵?みたいな名前だったよーな…。」
「いや絶対違うだろ。まぁ、予想はつくから良いけど…。アンフォンダン侯爵だろ?」
「そうそう!多分その人!」
2年前に抱いた違和感が、ここに来て蘇る。彼は勤勉で、むしろ仕事熱心な人だ。誰に対しても丁寧な態度を崩さず、お人好しな一面もある故に他人の仕事を押し付けられる事もしばしば。
(そんな人が、職務放棄だと…?)
おかしい。サキが異世界人で、平民であったとしても。その力を必要とし呼んだのはこちらの都合だ。尊重はすれど、蔑ろにする意味も理由もないはず。
何か、とんでもない事が起きている予感がした。薄ら寒い背を伸ばしながら、一旦話を戻す。
「まぁ、その、なんだ。聖女召喚っていうのは、一度呼び出せば元の世界に還す方法はない。だからこそ、生涯なに不自由ない生活を保障するために設けられてるのが、名誉夫人って制度だ。」
歳の近い高位貴族と形だけ籍を入れること。
妻としての務めや責任は発生しないこと。
そして、本来サキはアレクトル王の名誉夫人となるのが順当だったこと。
その全てを聞いて、サキの目は虚無に包まれた。
「え…やだ。」
「まぁ、気持ちは分からんでもない…。」
というか分からない部分がない。誰だってあんな手酷い仕打ちをしてきた輩と一緒になるなんて嫌だろう。
そう思っての同意だったが、サキは別の理由を口にした。
「もちろん、人間性的な意味もだけど…。それってつまり、相手の裁量で全部私の人生決められちゃうって事じゃない…。」
「まぁ、本来なら聖女には苦労させないよう法が定められているから、そんな悪いことにはならない…本来なら。」
大事なことなので二度言う。
「私、自分の足で立ちたいの。じゃないと…いつ崩れるか分からないから…。」
「……。さっきの続きだが。俺はお前のことが好きだから助けるし、妻にしたいとも思う。けどそれには、お前自身の気持ちがないと話になんねぇし、知らなきゃいけないことだって沢山ある。」
あんなに口ごもっていた割に、今度はサラリと願望を発する。一度伝えたことで肝が据わったのかもしれない。
「聞かせろ。お前に何があったのか。」
そこは命令形なんだ、なんて思ったりしてはいけない。もう理解している、彼はそういう人間なのだと。
不器用で、性格悪いとこもあって、腹黒だったりするけど、根は優しい。まるで本音と建前をひっくり返したような人。
「…あんま、気持ちいい話じゃないけど。」
「くだんねぇ事気にしてないで、はよ言え。」
ん、と着席を促す。これはもう逃れられない。
「…分かった。」
サキは覚悟を決めた。ロキートも想いを打ち明けてくれたのだ。自分が逃げてどうする。
「あのねーー」
彼女が語り始めたその過去に、ロキートは戦慄した。
「お、押忍!」
また不思議な単語を…と勢いを削がれそうになったが、堪える。本人は真剣なのだろう。
「俺がお前を助けたいって思うのは、ある意味当然なんだよ。」
「うん…?」
やけに勿体ぶるな、なんて絶対口にしてはいけない。多分。サキはお口チャックモード。
「俺は、お前を…その…。」
ロキートが照れている。顔を赤らめて口ごもっている。初めて見る表情にサキは内心面食らった。
「…ダァーッ!!マジで鈍感だなお前!?」
「唐突な罵倒!?」
「俺は!お前のことが好きだから!守りたいって思うたった一人の女だから!ここまでしてんだよっ!!」
半ば逆ギレ気味に、一息に言い切る。
(好き?すき、スキ…空き……好き?)
「スキー!?」
雪国で有名なスポーツっぽい発音になっているが、もちろんそっちではない事はサキも分かっていた。
「え、あ、う…え?」
「はぁ…本当は、もっと後になって言うつもりだったんだ。お前、俺のこと意識したことねぇだろ。」
「あ、えと、あはは…。」
図星。へにゃりと笑って誤魔化すが、バレバレである。ロキートにジト目で見られ、早々に白旗をあげた。
「スミマセン。」
「で、だ。お前は本来、高位貴族の名誉夫人となってその身を保証されるはず…だった。」
「たんま。何それ聞いてないんですけど。」
「は?」
「え?」
とても。果てしない沈黙の時間。お互いじっくりと見つめ合い、同時に言葉を発した。
「「はぁーー!?」」
息ぴったり。しかも相手を指さして立ち上がるところまで同じである。
「おま、え、召喚された当日もろもろ説明受けてたはずじゃ…。」
「んなわけあるかー!あの時、一日限りの教育係は確かに付けられたけど!地理と邪気についてと雑な歴史の本だけ渡してきて、当の本人は『これ読んどいてね、時間になったら起こして』って勤務時間中ずーっと爆睡かましてたのよ!?」
酷い。あまりに酷すぎる。大の大人が、自分の仕事に責任を持たず寝るなんて。サキは信じられないものを見る目で教育係を眺めていたが、自身の立場すらもよく分かってない状況で何か物申すことも出来ず。一人で黙々と本の知識を叩き込んだのである。
(召喚の特権で字や言葉が理解できたから良いものの、それがなかったら詰んでたもん!)
憤慨。今思い出しても腹が立つ。
「…その教育係って、誰だった?」
「え?えーっと…アンポンタン侯爵?みたいな名前だったよーな…。」
「いや絶対違うだろ。まぁ、予想はつくから良いけど…。アンフォンダン侯爵だろ?」
「そうそう!多分その人!」
2年前に抱いた違和感が、ここに来て蘇る。彼は勤勉で、むしろ仕事熱心な人だ。誰に対しても丁寧な態度を崩さず、お人好しな一面もある故に他人の仕事を押し付けられる事もしばしば。
(そんな人が、職務放棄だと…?)
おかしい。サキが異世界人で、平民であったとしても。その力を必要とし呼んだのはこちらの都合だ。尊重はすれど、蔑ろにする意味も理由もないはず。
何か、とんでもない事が起きている予感がした。薄ら寒い背を伸ばしながら、一旦話を戻す。
「まぁ、その、なんだ。聖女召喚っていうのは、一度呼び出せば元の世界に還す方法はない。だからこそ、生涯なに不自由ない生活を保障するために設けられてるのが、名誉夫人って制度だ。」
歳の近い高位貴族と形だけ籍を入れること。
妻としての務めや責任は発生しないこと。
そして、本来サキはアレクトル王の名誉夫人となるのが順当だったこと。
その全てを聞いて、サキの目は虚無に包まれた。
「え…やだ。」
「まぁ、気持ちは分からんでもない…。」
というか分からない部分がない。誰だってあんな手酷い仕打ちをしてきた輩と一緒になるなんて嫌だろう。
そう思っての同意だったが、サキは別の理由を口にした。
「もちろん、人間性的な意味もだけど…。それってつまり、相手の裁量で全部私の人生決められちゃうって事じゃない…。」
「まぁ、本来なら聖女には苦労させないよう法が定められているから、そんな悪いことにはならない…本来なら。」
大事なことなので二度言う。
「私、自分の足で立ちたいの。じゃないと…いつ崩れるか分からないから…。」
「……。さっきの続きだが。俺はお前のことが好きだから助けるし、妻にしたいとも思う。けどそれには、お前自身の気持ちがないと話になんねぇし、知らなきゃいけないことだって沢山ある。」
あんなに口ごもっていた割に、今度はサラリと願望を発する。一度伝えたことで肝が据わったのかもしれない。
「聞かせろ。お前に何があったのか。」
そこは命令形なんだ、なんて思ったりしてはいけない。もう理解している、彼はそういう人間なのだと。
不器用で、性格悪いとこもあって、腹黒だったりするけど、根は優しい。まるで本音と建前をひっくり返したような人。
「…あんま、気持ちいい話じゃないけど。」
「くだんねぇ事気にしてないで、はよ言え。」
ん、と着席を促す。これはもう逃れられない。
「…分かった。」
サキは覚悟を決めた。ロキートも想いを打ち明けてくれたのだ。自分が逃げてどうする。
「あのねーー」
彼女が語り始めたその過去に、ロキートは戦慄した。
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