恋はいかに盲目か

竜泉寺成田

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恋はいかに盲目か

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恋はいかに盲目か。
これは実際にあったことなんだけれども、できればまあ、たとえ話とでも思って話半分に聞いてくれたまえ。
こないだ、おれは電車に乗ったんだよ。ああ、失敬、乗ろうとしたんだ。まだ、乗ってない。それで、電車が、こう、来るだろ。ちんちんと。いや、地下鉄なんだけどもね。決して路面なんて洒落たもんじゃなくて、あの現代の労働の象徴、サブウェイだよ。地下鉄よりしっくりくるな。よし、これからはサブウェイと言おう。産業革命の産物だからね!イギリスの言葉のほうがいいニュアンスかと。まあ、それはいいんだよ、ホントどうでも。何でこんな話を。ああ、そうだ、おれの陰鬱な気分を説明したかったんだ。おれはいつも駅のホームに着くと何だか気詰まりしてしまってね。というのも、さっきも言ったけどあそこはまさに労働のために造られた場所だろ?なんというか、いまのこの暴力的な時計仕掛けの労働の、犠牲になっている会社の家畜らの怨念が凝縮しているように感じてね。毎日立つ訳だけども、ホントどうしようもないくらい憂鬱になるよ。おれは学がないから、由来なんて知らないけども、ホームなんて、よくつけられたもんだよ。ちっともくつろげやしない。うーん、この。いや、待てよ。地下鉄、あ、サブウェイは労働の言わば中枢なわけだから、労働の奴隷に甘んじるものにとっては、ひょっとすると、確かにホームなのかもしれない。ならば、こんなに労働労働労働なのだから、いっそオフィスでも名付ければよかったのに。まあ、そんなことは本当にどうでもいいんだ。いいんだ。おれはどうも、こう、話が長くなってしまってダメなんだよ。こないだも、九十分の講義を頼まれて色々と長々と話していたんだけど、最初のつかみを話していたつもりでね、どんどん話して言ったら、ポンと肩を叩かれてこういうんだ。「次の授業が始まります」ってねえ。それから、、えっ、ああ、申し訳ないまた話が長くなるところだった。それで、えーと、何だっけかな、ああ、そうだ!恋はいかに盲目かという話だったね。そう、まあ、今まで言ってきたように、普段からおれは地下鉄、ああ、サブウェイというものに乗るときにはただでさえ憂鬱なんだよ。これをおさえておくれ。そんな中で、そんな中でだ。電車がキーと目の前に入ってくるだろ。自然と何も考えず窓のさきの乗客を見るだろ!当たり前じゃあ無いか!ああ、すまん取り乱したね。とりあえず、窓から乗客を眺めたんだよ。もちろん、ぼーっと。そしたら!あいつらときたら!ブスのくせに、ブサイクのくせに!あたかもおれが羨望の目で見てると思ってやがるんだ!ああ、いや、カップルがいたんだよ。見るにも耐えないような、内面の気持ちの悪さが身体全身に現れているような。男も女もだよ。やつら、おれを哀れんでやがるんだ!見すぼらしい恰好をしたこのおれを!どうせ独り身だろうと決めつけて!おれは無性に憎悪が沸き立ってきて、くると踵を返して改札を出てやった。宿などないから野宿をして一夜を過ごすハメになったが!野宿をしながら、ふと思ったよ。やつらに今いくら憎悪の眼を向けても、全て羨望の眼差しに変換されて、決してその憎悪はやつらには届かないんじゃないか、と。恋愛はいかに盲目か!ああ、シンデレラめ!主人公気取ってるんじゃないよ!気色悪い!気色悪い!気色悪い!
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