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敵の中の味方

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『若。』
「おぉ!セインか!」
 遠話水晶から声が聞こえてくる。
 こちらはいまだ戦闘中である。
『目的は達成し、現在は当初の予定通り離脱中です。』
「了解した!後は手筈通りにな。」
 いつもならここで了解の返答が来るのだが、沈黙が返ってくる。
「どうした?」
『実は……。』
 セインは宝物庫内での出来事を説明してきた。
「そうか、セイルズが……。」
『今はどこにいるか分かりません、気を付けてください。』
 セイルズが生きていたことは最大の誤算である。
 あいつは自分に軍略を教えた以上、こちらの取る行動を予測される可能性がある。
 何より、彼の軍略は最大の敵である。
 しかし、セイルズがここに出てくるとは考えにくい。
 もう既にかなり川を下っているからである。
「アルフレッド!」
 橋の上から聞き覚えのある声が聞こえた。
「っ!舟を止めろ!」
 指示を出し舟を止める。
 これからくぐる橋の上に見覚えのある顔があったからである。
「フレク叔父上!お久しぶりです!」
 このような状況だが、素直に再会を喜ぶ。
「久しぶりだな!本当にお前だとはな……。どうか矛を収めてはくれないだろうか!お前と戦いたくはない!」
 フレク叔父上は帝国の皇族の中で唯一面識のある親族である。
 母上の実の弟であり、とても仲が良かったようである。
 王国によく顔を出してくれており、自分の面倒もよく見てくれていた。
「セラ!攻撃しないでくれ!」
「はっ!」
 セラが隙あらば攻撃しようと身構えているのに気づき命令を出す。
「セラも久しぶりだな!」
「お久しぶりです。団長。」
 フレク叔父上は帝国の竜騎兵団の団長を務めていた。
 セラと面識があるのも納得である。
「話を聞いてくれて感謝する!何故帝国に弓を引く!確かに王国とは戦争状態にあるが、あの父親に義理立てする必要もないだろう!」
 フレク叔父上は自分とアロン王の不仲を知っている。
 よくかばってくれていたものだ。
 そして姉弟仲の良かった叔父上が俺がなぜ帝国に弓を引いたのかわからないということは恐らく母上の死を知らないのだろう。
「……叔父上、帝国の隠密部隊によって母上が殺されました。私が王国で謀反の疑いをかけられ逃亡生活をしている最中のことです。」
 俺の言葉を聞き、フレク叔父上は驚きを隠せない様子である。
「姉上が……。いや、そんなはずは無い!兄上の報告では確かに生存が確認できたと!」
 恐らく先程の皇帝とのやり取りを見てもあの第一皇子が裏で糸を引いているのだろう。
「団長。フレン様は私を庇ってお亡くなりになられました。私の目の前で……。」
「叔父上。信じて下さい。」
 しばらく考え込む。
「わかった。父上と兄上に伝えてみよう。本物のアルフレッドがフレン姉上が殺されたと言っていたと。」
「ありがとうございます。」
 フレク叔父上は踵を返すと後ろで控えていた兵達に指示を飛ばした。
「ここにいるのは正真正銘!皇帝陛下の孫である!皇族に対し弓を引けばどうなるか諸君らも分かるだろう!しかし、諸君らはもう既に彼らを攻撃している!しかし、彼らが皇帝陛下に弓を引いたのも事実!この国にはいられないだろう!よって彼らは国外追放処分もし、我々は国境まで連行する!」
 連行とは言うが、他の帝国の部隊に狙われないようにするための護衛も兼ねているのだろう。
「感謝します。叔父上。」
 フレクはこちらに目線を向ける。
「これでお前達に危険は及ばないだろう。私がお前達の無実を証明して見せる。どうやらまだまだ聞かねばならぬこともありそうだしな。真実を明らかにし、首謀者の首を姉上の墓前に供えよう。私はこのことを伝えに父上の元へ戻るが、後のことは副将のオルフェンに聞くと良い!」
 フレク叔父上は竜にのり、空へ羽ばたく。
「セラ殿!お久しぶりです!あの頃はお世話になりました!」
「……あ、どうも。」
「ねぇ、セラ。ちょっと冷たすぎじゃない?」
 どうやらオルフェンとセラは面識があるようだがセラは苦手なようだ。
 イリスさんが流石にツッコむ。
 まぁ、何はともあれ、取り敢えずはなんとかなりそうだがセイルズのこともある。
 不安要素は絶えないな。
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