王国再興物語 〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

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アイフィス決戦 夜襲

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「敵襲!敵が来たぞ!」
「陛下をお守りしろ!」
 その夜、帝国軍による夜襲が始まった。
 神聖帝国軍は防衛に徹することを決めており、準備をしていたのでさほどの混乱には陥らなかった。
 が、夜襲を予想していた訳では無かったので、劣勢であることに変わりは無い。
「怯むな!敵は少数!連携して迎撃しろ!」
 真夜中に大軍を動かせば嫌でも気づかれてしまう。
 見張りが気づかなかったと言うことは敵は少数精鋭ということだ。
「フレク様!お久しぶりですな!」
「……オルフェンか!」
 声のする方を見ると竜に乗り、空からこちらを見下ろすオルフェンの姿がそこにはあった。
 オルフェンに対し剣を向ける。
 この前まで戦ってはいたが直接姿を見るのは久しぶりである。
「貴様!卑怯な戦い方をするようになったな!」
「勝てば良いのです!勝てばそれが正義になる!敗者は後の世の研究者に愚者として記録されるのみ!」
 オルフェンは槍を向け、続ける。
「そして、あなたはその愚者となるのです!」
 耳をすますと遠くから竜の羽ばたく音が聞こえる。
 恐らく敵の竜騎兵の増援が来たのだろう。
 奴等は始めに我が軍の竜の待機場所を襲撃した。
 これで我々は奴等に空を奪われた。
 既に敗色濃厚である。
「……降りてこい!一騎討ちで勝負をつけてやる!もし、俺が負ければこの戦我が軍は帝国側へとつこう。ただ、俺が勝てばこの場は引け。後々野戦にて決着をつけるとしよう。それでどうだ?」
 純粋な武力で言えば向こうが上だ。
 だが、この条件ならば我が軍の将兵の命は助かる。
 今はこの夜襲を収めることが先決だ。
「……馬鹿か?」
「何?」
 オルフェンは声高らかに笑う。
「あんたの狙いは分かってるんだよ!自分の命と引き換えに部下の命は救おうって寸法だろ!?嫌だね!今日、この場所でお前達は死ぬんだよ!」
 オルフェンが急降下で俺をねらって突っ込んで来た。
 槍が目の前まで迫る。
「くっ!」
「……あ?」
 しかし、その槍が届く事はなかった。
「無事ですか?フレク様。」
「……セラ!?」
 竜にのったセラがオルフェンの竜を刺し殺していたのだ。
 セラは重傷を負ったので今回の戦には来ないときいていたがどう言うことだろうか。
 オルフェンも竜から飛び降り、槍を構えている。
「セラ様?何をしているのですか?私はあなたを迎えるために……。あぁ、そうですか。あのアルフレッドとか言うやつに洗脳とかされてるんですよね。そうでなくっちゃおかしいもんな。うん。セラ様が俺に槍を向けてくるとかあり得ないしな。うん、そうに違いない。」
「オルフェン。」
 セラも竜から降り、オルフェンと対峙する。
「あなたがそこまで歪んでしまったのは私にも責任があります。さぁかかってきなさい。私が終わらせてあげる。」
「今、目を覚まさせてあげますからね!」

 数日前。
「これは?」
 セラはレノン王と共にアナテル国にて休養していた。
 が、アルフレッドが出発してから数日後、意識を取り戻したレノン王から1つの薬を渡された。
「これは自然治癒能力を高める薬だ。それを飲んでおけば大陸への船旅の途中で傷は回復するだろう。」
「で、ではこれは陛下がお使い下さい!私よりも陛下が!」
 自分よりも腕が無かったりするレノン王の方が使うべきであろう。
「いや、これは失ったものは治らないんだ。だからこれを使って、あいつらの手助けをしてやってくれ。私はここでゆっくり休んでおく。」
 薬を受け取り、頷く。
「畏まりました。お任せください。」
「あぁ。恐らくアイフィス平野辺りで決戦になるだろうからそこにいくといい。手練れの者を数名つけておく。既に船も手配してある。では、よろしく頼んだぞ。」
 私は言われた通り薬を飲み、すぐさま船へと乗った。
 竜も既に用意されており、準備は万端であった。
 この薬も魔道具や神具の類いなのか気になるところだが、今は一刻も速く向かわなければ。

「やっぱり来たな。」 
「……この老いぼれももう必要なくなって来たかもしれませんな。」
 ヤンは少し落ち込んでいる。
 敵はやはり予想通り夜襲を仕掛けてきた。
 しかし、こちらは準備万端で迎え撃つことが出来たので、被害は最小だ。
 だが、敵はこの主力を潰すつもりできているのか攻撃はかなり激しい。
「騎馬が行ったぞ!」
「弓隊なにやってんだ!」
「こんなに暗かったら当たる物もあたらねぇよ!」
 敵の夜襲を誘うため松明の火を少なくし、奇襲を仕掛け易い状況を作ったのが災いしてしまったようだ。
「敵総大将だ!」
「よっしゃ取った!」
 敵騎馬が2人突っ込んでくる。
 しかし、俺は構えなかった。
 なぜならその2人の首がすぐに地面に転がる事が分かっていたからだ。
「はぁ、やはり歳ですな。腰が痛くてかないません。」
「何を言うか。余裕そうではないか。」
 ヤンはこう言ってはいるが、その剣の腕は衰えるどころかますます磨きがかかっている。
 本当に頼りになる。
 他の将達も既に敵の撃退を続けている。
 この夜襲は失敗に終わったようだ。
 しかし、敵将が誰も出てきてないのは少し違和感を感じるが、これで良しとしよう。

「どうやら敵軍は向こうに仕掛けたようですな。」
「あぁ、こっちには来なかったな。」
 エルドニア軍側に攻めてくるようならば帝都へと通じる箇所を塞いでいる部隊を終結させて包囲殲滅するつもりだったか、こちらに来ないと言うことは我々は何もしない。
 いや、出来ない。
 この作戦は敵が攻めてきて初めて意味をなす作戦だ。
 そして、敵もそれを理解しているが故に容易に攻めてくることはしない。
 敵を足止めする。
 というのがこの作戦である。
「アーロン様。我々も動きますか?」
「いや、援軍に行きたいのは確かだが、そのせいで敵が帝都へ向かっては元も子も無い。今は耐えろ。」
 追撃したがる側近を諭す。
「耐えることこそが勝利に最も近いんだ。各部隊に警戒を厳にするように伝えろ。」
「はっ!」
 側近は走り去っていった。
 この夜襲自体が陽動の可能性がある。
 それに注意を引かせてその内に帝都へと脱出する。
 可能性は低いが警戒しておくに越したことはない。
 帝都へと通ずる道や峠も全て抑えている。
 もはやこの戦勝ったな。

 翌日。
 夜が明けるとそこには驚きの光景が待っていた。
 エルドニア軍正面、その距離は1kmも無いすぐそこに敵のほぼ全軍がいたのだ。
 煌々と明かりが輝いていた敵本陣はすでにもぬけの殻で夜闇に紛れて全軍でここまで来ていたのだ。
 夜襲を仕掛けられた各方面軍もまだ戦いは続いている。
 援軍は期待できない。
 更にこちらは警戒を厳にしたことにより兵力の疲弊が激しい。
 ここに来るまでかなりの強行軍であったし、既に限界は近かったのだ。
「くそっ!要所を抑えている部隊を呼び戻せ!」
「伝令!各要所にて火の手が上がりました!敵の襲撃です!」
 やられた。
 敵はこちらの動きを見て作戦を読み、各所に散っている部隊を同時に襲撃したのだ。
 物量に物を言わせた多方面作戦。
 してやられた。
 椅子に座り込む。
「……やられたな。」
「いかがなさいますか?」
 正直お手上げである。
 敵ほぼ全軍をこの軍だけで抑えられるとは思えない。
「全てが手のひらの上だったということか……。」
 しかし、最善を尽くすとしよう。
「全軍奮起せよ!」
 椅子から立ち上がり激を飛ばす。
「そなた等の父祖の命を奪った帝国は目の前だ!このまま犬死にしては天国で父祖に顔向け出来んぞ!」
 士気が落ちていたエルドニア軍だったがなんとか士気を取り戻した。
 なんとか時間さえ稼げれば友軍が来てくれるかもしれない。
 さぁ、帝国に恐怖を味あわせてやろう。
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