王国再興物語 〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

文字の大きさ
90 / 93

母との再会

しおりを挟む
「ここに来るのも久しぶりだな。」
「ええ、そうですね。」
 俺達は今、母上を生き返らせるために元俺の城に来ていた。
 墓守達に母上の遺体をここまで持ってくるように指示したのだ。
 俺達がエルドニアから脱出してからはこの城は廃墟となっており、野盗などが入り込んでいたようで城の周りや城内までもが荒れ放題であった。
 元々辺境の領地で、国の指示で移住してきた者がほとんどだったので、戦で避難民となった領民は皆、近くの領地へ移住したらしい。
 城に入ると墓守の一人が出迎えてくれた。
「お久しぶりです。フレン様はアルフレッド様の部屋に。」
「そうか、今までご苦労だった。」
 かなりの間あんな寒い所で使命を全うしてくれたのだ。
 感謝しなければ。
「いえ、私は当然の事をしたまでです。」
「そう言ってくれるとありがたい。では行こうか。」
 俺はセインとセラと共に自分の部屋へと向かった。
 城内は荒れてはいたものの俺が来るまでの間に最低限片付けてくれていたようで、俺の部屋へと至る道はある程度綺麗だった。
 俺の部屋の扉の前まで行き、少し深呼吸をしてから扉を開ける。
 部屋はまるであのときのままのように綺麗で、俺のベッドに、母上が寝かされていた。
 母上はあのときのままの綺麗な姿で寝ている。
「フレン様……。」
「若。これを。」
 思わず涙を流しているセラを横目にセインが俺に小瓶を渡してくる。
「神樹の雫か。」
「はい。若の手でお願いします。」
 まあ、元々そうするつもりだったのだが。
 レインやイリスさんも来れれば良かったのだが、向こうも向こうで用事があるのだ。
 かくいう俺も王の仕事を放り出しているので何も言えないが。
「分かった。」
 俺はベッドで寝ている母上の元へ行き、小瓶の蓋を開ける。
「では、行くぞ。」
 2人は固唾を飲んで見守っている。
 墓守達は空気を読んで部屋を出ていったようだ。
 小瓶を傾け、中身を母上に飲ませる。
 飲ませるといっても口の中に小瓶の中身を垂らしたようなものだ。
 そもそも、小さな水滴が垂れる程度である。
 口の中でなくても良かったのだが、なんとなく母上に見映えが悪い気がした。
「成功……したのですか?」
「……若?」
 母上の様子は特に変わりはない。
 とは言っても母上は綺麗な状態で保存されていたので、見た目は生きているときと変わらない。
「……ああ、成功したみたいだ。」
 微かにだが、胸が上下しているのが分かる。
 呼吸をしている。
 すると、母上がゆっくりと目を開けた。
「ん……?ここは……?」
「……フレン様!」
 すると、セラが我慢できずに母上へと抱きついた。
「痛っ!え!?セラ!?それにアルにセインも?一体何が……。はっ!まさか皆も死んじゃったの!?いや、でも……?」
 どうやら少し混乱しているようだ。
 頭から?マークが浮かんでいるのが見えるようだ。
「フレン様。お久しぶりです。」
「母上。取り敢えず落ち着いてください。今、全てをお話しますから。」

「なるほどね、なら取り敢えず、久しぶりね。皆。」
 その後、俺は母上に全てを話した。
 母上と別れてから起こった出来事を全て。
 そして、俺が転生者で、今ここにいるのは本来の母上の息子では無いということを。
 母上を幻滅させるかも知れないと思ったが、帰ってきたのは意外な反応であった。
「あら、そんなこと?わかってたわよ。」
「え?」
 当たり前でしょ、とでもいいそうな顔である。
 これにはさすがのセラとセインも驚いている。
「母上。それはどういう?」
「私はアルの母親だからね!それぐらい最初から気づいていたわよ!まぁ、転生とかはよくわからなかったけど……。アルであることには間違い無いからね!」
 フフンと胸を張る。
 まだ、ベッドから出ることは出来ないようだが体を起こせるくらいには回復したようだ。
 やはり、あの量では生き返る事しか出来ないようで、体力なんかは戻らないようだ。
 まぁ、しばらくの間眠っていたので、仕方ない。
「流石はフレン様です!」
「あら、そういえばセラとアルは互いに好きだって事になったんでしょ?だったら一刻も早く結婚式をしなくちゃね!」
 そうだ。
 それがあったのだ。
 まあ、忘れていた訳ではないがそれについても考える必要がある。
「それについては先程も言ったように自分は王になってしまったから軽率には……。」
「大丈夫!私は皇帝の娘!私が一言言えば皆納得するわ!」
 確かに母上は帝国でも人気のある存在だ。
 まだ帝国の国民の前で帝王の宣言をしていないのでその際に母上に出てもらって俺の血筋の証明をしてもらう事も出来るかも知れない。
 ……いや、母上にはゆっくりとしていてもらおう。
 それが、俺が出来る親孝行だと思う。
「……取り敢えず今はゆっくりしていて下さい。体がまだ完全に回復したわけでは無いんですから。」
「……そうね。そうさせてもらうわ。取り敢えずセイン、水か何か飲み物を持ってきてもらえるかしら?」
 これは気が利かなかったな。
 母上に美味しい物でも食べてもらうのが先決だったか。
「畏まりました。直ぐに。」
 セインはすぐさま部屋を出ていった。
「母上。自分達は数日後に帝国国民に対して皇帝の就任と帝王の宣言をします。ですのであと数日でここを発つのですが、セラをつけるので何かあったらセラに言って下さい。」
 母上には申し訳無いが、とにかく急いでこちらに来たので色々とやることが残っているのだ。
「え!?私は式には出られないのですか!?いや、でもフレン様の元へ居られるのならそれでも……。でも、私はアルフレッド様の……。」
「セラ。」
 すると、母上がセラの肩に手を置き、何か耳打ちをしている。
 そして、セラもそれに答えるようにひそひそ話を始めた。
「……よ……に……を……。」
「……るほど……なら……。」
 何やら俺には話せない事らしい。
 この主従はくっ付けたら駄目かもしれない。
 すると2人はにやけながらこちらを見る。
 その目はまるで獲物を見る目である。
「……え?」
「フレン様、お水と軽い食べ物をお持ちしま……。」
 するとセインが扉を開け戻ってくる。
 水だけではなく食べ物まで持ってくるとは流石はセインである。
 そして、何か様子がおかしい事を察する。
「一体、何が?」
「俺にもわからん。」
 2人はこちらを見ながら相変わらず笑っている。
 何か企んでいるのだろうが、敵意や悪意といったものは感じない。
 まあ、そこまで心配しなくても良いだろう。
 取り敢えず数日後の皇帝就任と帝王の宣言をする式に備えておこう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ハイエルフ少女と三十路弱者男の冒険者ワークライフ ~最初は弱いが、努力ガチャを引くたびに強くなる~

スィグトーネ
ファンタジー
 年収が低く、非正規として働いているため、決してモテない男。  それが、この物語の主人公である【東龍之介】だ。  そんな30歳の弱者男は、飲み会の帰りに偶然立ち寄った神社で、異世界へと移動することになってしまう。  異世界へ行った男が、まず出逢ったのは、美しい紫髪のエルフ少女だった。  彼女はエルフの中でも珍しい、2柱以上の精霊から加護を受けるハイエルフだ。  どうして、それほどの人物が単独で旅をしているのか。彼女の口から秘密が明かされることで、2人のワークライフがはじまろうとしている。 ※この物語で使用しているイラストは、AIイラストさんのものを使用しています。 ※なかには過激なシーンもありますので、外出先等でご覧になる場合は、くれぐれもご注意ください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...