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母との再会

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「ここに来るのも久しぶりだな。」
「ええ、そうですね。」
 俺達は今、母上を生き返らせるために元俺の城に来ていた。
 墓守達に母上の遺体をここまで持ってくるように指示したのだ。
 俺達がエルドニアから脱出してからはこの城は廃墟となっており、野盗などが入り込んでいたようで城の周りや城内までもが荒れ放題であった。
 元々辺境の領地で、国の指示で移住してきた者がほとんどだったので、戦で避難民となった領民は皆、近くの領地へ移住したらしい。
 城に入ると墓守の一人が出迎えてくれた。
「お久しぶりです。フレン様はアルフレッド様の部屋に。」
「そうか、今までご苦労だった。」
 かなりの間あんな寒い所で使命を全うしてくれたのだ。
 感謝しなければ。
「いえ、私は当然の事をしたまでです。」
「そう言ってくれるとありがたい。では行こうか。」
 俺はセインとセラと共に自分の部屋へと向かった。
 城内は荒れてはいたものの俺が来るまでの間に最低限片付けてくれていたようで、俺の部屋へと至る道はある程度綺麗だった。
 俺の部屋の扉の前まで行き、少し深呼吸をしてから扉を開ける。
 部屋はまるであのときのままのように綺麗で、俺のベッドに、母上が寝かされていた。
 母上はあのときのままの綺麗な姿で寝ている。
「フレン様……。」
「若。これを。」
 思わず涙を流しているセラを横目にセインが俺に小瓶を渡してくる。
「神樹の雫か。」
「はい。若の手でお願いします。」
 まあ、元々そうするつもりだったのだが。
 レインやイリスさんも来れれば良かったのだが、向こうも向こうで用事があるのだ。
 かくいう俺も王の仕事を放り出しているので何も言えないが。
「分かった。」
 俺はベッドで寝ている母上の元へ行き、小瓶の蓋を開ける。
「では、行くぞ。」
 2人は固唾を飲んで見守っている。
 墓守達は空気を読んで部屋を出ていったようだ。
 小瓶を傾け、中身を母上に飲ませる。
 飲ませるといっても口の中に小瓶の中身を垂らしたようなものだ。
 そもそも、小さな水滴が垂れる程度である。
 口の中でなくても良かったのだが、なんとなく母上に見映えが悪い気がした。
「成功……したのですか?」
「……若?」
 母上の様子は特に変わりはない。
 とは言っても母上は綺麗な状態で保存されていたので、見た目は生きているときと変わらない。
「……ああ、成功したみたいだ。」
 微かにだが、胸が上下しているのが分かる。
 呼吸をしている。
 すると、母上がゆっくりと目を開けた。
「ん……?ここは……?」
「……フレン様!」
 すると、セラが我慢できずに母上へと抱きついた。
「痛っ!え!?セラ!?それにアルにセインも?一体何が……。はっ!まさか皆も死んじゃったの!?いや、でも……?」
 どうやら少し混乱しているようだ。
 頭から?マークが浮かんでいるのが見えるようだ。
「フレン様。お久しぶりです。」
「母上。取り敢えず落ち着いてください。今、全てをお話しますから。」

「なるほどね、なら取り敢えず、久しぶりね。皆。」
 その後、俺は母上に全てを話した。
 母上と別れてから起こった出来事を全て。
 そして、俺が転生者で、今ここにいるのは本来の母上の息子では無いということを。
 母上を幻滅させるかも知れないと思ったが、帰ってきたのは意外な反応であった。
「あら、そんなこと?わかってたわよ。」
「え?」
 当たり前でしょ、とでもいいそうな顔である。
 これにはさすがのセラとセインも驚いている。
「母上。それはどういう?」
「私はアルの母親だからね!それぐらい最初から気づいていたわよ!まぁ、転生とかはよくわからなかったけど……。アルであることには間違い無いからね!」
 フフンと胸を張る。
 まだ、ベッドから出ることは出来ないようだが体を起こせるくらいには回復したようだ。
 やはり、あの量では生き返る事しか出来ないようで、体力なんかは戻らないようだ。
 まぁ、しばらくの間眠っていたので、仕方ない。
「流石はフレン様です!」
「あら、そういえばセラとアルは互いに好きだって事になったんでしょ?だったら一刻も早く結婚式をしなくちゃね!」
 そうだ。
 それがあったのだ。
 まあ、忘れていた訳ではないがそれについても考える必要がある。
「それについては先程も言ったように自分は王になってしまったから軽率には……。」
「大丈夫!私は皇帝の娘!私が一言言えば皆納得するわ!」
 確かに母上は帝国でも人気のある存在だ。
 まだ帝国の国民の前で帝王の宣言をしていないのでその際に母上に出てもらって俺の血筋の証明をしてもらう事も出来るかも知れない。
 ……いや、母上にはゆっくりとしていてもらおう。
 それが、俺が出来る親孝行だと思う。
「……取り敢えず今はゆっくりしていて下さい。体がまだ完全に回復したわけでは無いんですから。」
「……そうね。そうさせてもらうわ。取り敢えずセイン、水か何か飲み物を持ってきてもらえるかしら?」
 これは気が利かなかったな。
 母上に美味しい物でも食べてもらうのが先決だったか。
「畏まりました。直ぐに。」
 セインはすぐさま部屋を出ていった。
「母上。自分達は数日後に帝国国民に対して皇帝の就任と帝王の宣言をします。ですのであと数日でここを発つのですが、セラをつけるので何かあったらセラに言って下さい。」
 母上には申し訳無いが、とにかく急いでこちらに来たので色々とやることが残っているのだ。
「え!?私は式には出られないのですか!?いや、でもフレン様の元へ居られるのならそれでも……。でも、私はアルフレッド様の……。」
「セラ。」
 すると、母上がセラの肩に手を置き、何か耳打ちをしている。
 そして、セラもそれに答えるようにひそひそ話を始めた。
「……よ……に……を……。」
「……るほど……なら……。」
 何やら俺には話せない事らしい。
 この主従はくっ付けたら駄目かもしれない。
 すると2人はにやけながらこちらを見る。
 その目はまるで獲物を見る目である。
「……え?」
「フレン様、お水と軽い食べ物をお持ちしま……。」
 するとセインが扉を開け戻ってくる。
 水だけではなく食べ物まで持ってくるとは流石はセインである。
 そして、何か様子がおかしい事を察する。
「一体、何が?」
「俺にもわからん。」
 2人はこちらを見ながら相変わらず笑っている。
 何か企んでいるのだろうが、敵意や悪意といったものは感じない。
 まあ、そこまで心配しなくても良いだろう。
 取り敢えず数日後の皇帝就任と帝王の宣言をする式に備えておこう。
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